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2012年2月9日(木)付

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TPP事前協議―一元的な態勢をつくれ

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加に向けた事前協議が佳境を迎え、焦点である米国との協議が始まった。日本が本交渉に加わるには、参加9カ国のすべてから同意を取り付ける[記事全文]

防衛産業不正―罪深さ、根深さ、解明を

宇宙産業で国内首位の三菱電機が、防衛省や内閣衛星情報センターなど3機関の防衛・宇宙関連事業で、過大請求をしていたことが明るみに出た。不正額はまだ調査中だが、水増し請求が[記事全文]

TPP事前協議―一元的な態勢をつくれ

 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加に向けた事前協議が佳境を迎え、焦点である米国との協議が始まった。

 日本が本交渉に加わるには、参加9カ国のすべてから同意を取り付けることが必要だ。すでに事前協議を終えたベトナム、ブルネイ、ペルー、チリの4カ国は日本の参加を歓迎し、特に条件はつけなかった。

 米国とは、こうはいかない。通商交渉に強い影響力を持つ米議会には対日強硬派が少なくない。輸出倍増や製造業重視を掲げるオバマ政権も、大統領選を控え、具体的な成果を求めてくるのは間違いない。

 米通商代表部(USTR)は事前協議で、自動車や保険、農畜産物市場について、日本側の一層の開放や平等な競争の確保を求める姿勢を見せた。米国の関係業界が事前にUSTRに出した意見に沿っている。

 今後も厳しいやりとりが続くだろう。日本にメリットがある改革は実行しつつ、根拠のない指摘には反論すべきだ。

 同時に、要求に過剰に反応することも慎みたい。たぶんに駆け引きの要素があるからだ。最も強硬と見られ、日本の交渉参加に反対している米自動車業界の動きが一例だろう。USTRへの意見書では軽自動車への優遇措置をなくすよう求めていたが、このほど撤回した。

 TPPの交渉分野はモノの貿易だけでなく、投資や知的財産保護など20を超え、日本の利害は複雑に絡みあう。推進派と反対派の対立ばかりが目につき、中身がまだよくわからないという国民が多いのではないか。

 各国が日本に何を要求しているのか。日本政府はどう考え、どう主張したのか。事前協議に関する情報は可能な限り公開すべきだ。それが、事実に基づいて参加の是非を冷静に議論できる環境にもつながる。

 心配なのは、政府の態勢づくりが遅れていることだ。

 内閣官房に事務局を置き、外務、経済産業、農林水産など関係省庁が一体となって取り組む仕組みはつくった。ただ、実態は各省の担当者を兼務させただけで、全体を束ねる政府代表は空席のままだ。

 官僚以上に重要なのは政治の構えである。国家戦略相を議長とする関係閣僚会合はできたものの、誰が一元的に責任を持つのか、はっきりしない。

 社会保障と税の一体改革では、岡田克也氏が副総理として各省より一段高い立場から担当することになった。省庁間の縦割りをなくすには、同様の態勢がTPPでも必要だ。

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防衛産業不正―罪深さ、根深さ、解明を

 宇宙産業で国内首位の三菱電機が、防衛省や内閣衛星情報センターなど3機関の防衛・宇宙関連事業で、過大請求をしていたことが明るみに出た。

 不正額はまだ調査中だが、水増し請求が見つかった事業の契約総額は、現時点で約2700億円にのぼる。

 野田政権が推進する「宇宙開発」でのトップ企業の不正は、日本の宇宙産業そのものの問題点をあぶり出している。

 内部告発をきっかけに、防衛省が調べたところ、三菱電機は自衛隊の防空システムの設計や情報収集衛星の製造事業に、別の民間事業の人件費などを組み入れていた。その多くが民間衛星の製造関連だったという。

 請求用の専用システムに実態と違う数値を入力するなど、組織的な不正をうかがわせる。

 三菱電機は2010年度に、航空機の電子部品、ミサイルやレーダーの開発・製造などで、ざっと1千億円を受注した。防衛分野では、三菱重工業に次ぐ国内2位だ。宇宙関連では人工衛星を主力に、通信衛星の海外受注にも力を入れている。

 そんなトップ企業が、なぜ不正に走ったのか。

 考えられる理由の一つは、米国企業が独占する日本の衛星事業に突破口を開くためだった可能性だ。

 米国との貿易摩擦を背景に、日本は1990年、研究開発以外の実用衛星は国際競争入札で調達することで、米国と合意した。その後は米国製の低価格で性能が優れた人工衛星に、日本勢は太刀打ちできずにきた。

 この事態を打開しようと、同社は民間衛星を大幅に値引きする穴埋めとして、官需部門で過大請求したのではないか。

 民主党は野党時代から、宇宙基本法づくりを唱えて、国産衛星・ロケットの使用を促してきた。野田政権になって宇宙戦略を加速させている。

 だが、政治が国策として推す衛星ビジネスに、そもそも無理はないのか。こうした観点からの検証も必要だろう。

 防衛産業での過大請求は、98年の旧防衛庁調達実施本部の巨額背任事件で発覚して以来、今回が20社目になる。不正額の2倍の罰金を取る制度や、抜き打ち調査も導入したにもかかわらず、根絶できない。

 市場で価格が決まる製品ではないだけに、罰則や監視のあり方のさらなる厳格化で、業界の自省を促すしかない。

 こんな現実を踏まえ、野田政権は徹底的に全容を解明し、すみやかに厳正な処分をしなければならない。

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