日能研教務部算数科 真藤 啓
本稿は、次のそれぞれの算数エッセーのうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことを補足するために、開設しています。タイトルは『進学レーダー』のものとそろえ、WEB掲載のタイミングも『進学レーダー』の発行日に連動して毎月15日に行います。
けれども、毎月それらの文を読まなくても本稿が読めるようにも心がけています。受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いています。
『進学レーダー』3月号(みくに出版) 算数エッセー「算数好きになるくすり 白いチョコレート」
『キッズレーダー』3月号(日能研) 算数エッセー「おいしい算数 科学天使」
『学校選択』3月号(全国中学入試センター) 算数エッセー「算数好きのきっかけをもとめて かけ算をたし算でする」
大人気の数学小説『博士の愛した数式』で作者の小川洋子さんは「博士」を通じて、「数学は神様の手帳に記された真理を書き写していくようなものだ」と言っています。この表現は時々目にしますが、算数の側面をよく伝えている言葉だと思います。算数を考えるときには自由気ままに考えてよいのですが、わがままに考えると、狭く美しくないものになりますので、広く美しいものに磨き上げているうちに普遍性をもったものに行き着きます。これが、「神様の手帳に書かれていること」ということなのでしょう。サイエンス・エンジェルというのは、神様の使いとして、「神様の手帳」の案内人を意味するかもしれません。
というようなことを「キッズレーダー」に書きました。なお、サイエンス・エンジェルはサークル活動やボランティアではなく、文部科学省から奨励を受けた組織なのだそうです。サイエンス・エンジェルのネーミングも大隅氏が発案したものではありますが合議で決定されたそうです。これらのことが、『キッズレーダー』では明確な記述になっていませんでしたのでここで補足します。
今月号(2009年3月号)の『キッズレーダー』では小谷元子氏(東北大学 大学院教授 数学者 猿橋賞)が支援されているサイエンス・エンジェルについて書いてみました。
2008年10月号の『進学レーダー』では「女性と数学」というテーマでコワレフスカヤについて、『キッズレーダー』では、『数学はいつも苦手だった』の訳者石井志保子氏(東京工業大学 大学院教授 数学者 猿橋賞)について書きました。それで、小谷氏については、1年後くらいに書いてみようかなと思っていました。ところが、小谷氏の支援するサイエンスエンジェル(科学天使)がだんだん知られるようになってきたので、タイミングというものもあるので、この際前倒しに書いてみようと思ったのです。現在日本の女性数学者の最高峰であるといわれている石井・小谷両氏を取り上げたことになりますが、はじめて連絡したにもかかわらずこころよく掲載用のお写真をくださいました。
また、大隅典子氏(東北大学 大学院教授 生物学者)からもお写真をいただきました。実は、小谷氏お一人か、小谷氏と大隅氏お二人の1枚のお写真をお載せしようと思っていましたので、スペースが苦しくなってしまい、急遽、中学入試問題用スペースを振り向けました。誠にありがとうございます。お二人は天使に采配をふるわれる、いわば女神さまのようなおかたで、私のつたない作文がおかげで、値打のあるものに映ります。重ね重ねお礼申し上げます。
両氏についてWEB上ですでにどなたかが公表されているものを書き換えて少しご紹介します。
ところで、WEBサイト『博士から博士へ』からわかるように、お二人は中学が同じだそうです。高校が同じ東京学芸大学附属高校なので、中学は東京学芸大学附属の、竹早(か世田谷)なのだろうと思っていますが、あるいはほかの中学校かもしれません。
小谷元子(こたにもとこ)氏
専門分野 微分幾何学 数学者
研究テーマ スペクトル幾何学と調和写像
著書
「ポストモダン解析学」(ユルゲン・ヨスト、小谷元子訳、シュプリンガー東京 2000年)、
「21世紀の数学、幾何学の未踏峰」(宮岡礼子・小谷元子編、日本評論社 2003年)
第25回猿橋賞を受賞 受賞テーマは「離散幾何解析による結晶格子の研究」
「キッズレーダー」にお載せしたお写真は数式を背景にかっこよく決まっていますが、この数式はこの論文の重要な数式かもしれません。おそらく、このためにわざわざ撮影していただいたものと思い感激しています。
以下は、WEB上のインタビュー記事などを1つながりに書き改めたものです。
分数の計算とか間違えてしまうので小学校の算数はあまり好きではなく中学校で算数から数学になって好きになりました。中学では、例えば、「無限」という概念を人間がどのように理解してきたかをガイドブックを読んでいました。でもガイドブックと言うものは、どこか誤魔化してあるところがあるわけです。誤魔化してあるところは理解できません。その理解できないところをどのように考えたら理解できるのかを考えるのが好きでした。自分で勝手に勉強して「これは論理的に間違っている、それはどう考えてもおかしい」と先生にいろいろ質問しにいったりする生徒でした。先生がよく対応してくれたことも、今思えば恵まれていました。
高校(東京学芸大附属高校)の時はもっぱら、数学と物理をやっていましたが、文系では現代国語がすごく好きでした。数学は科学を記述する言語であるというところが一番語学に近いと思います。高校のときの現代国語の先生が名物教師で、物の考え方を教わって、それは今でも影響をうけています。 意外かもしれませんが、数学でも最終的には、その人の人格が研究に表れるので、自分なりの物の考え方をきちっと持つことや、人格形成は大切です。そういうものなしに訓練とか技術だけ身につけてもそんなに良い研究はできないと思うんです。自分が何をやりたいかというのは、自分の価値観に関係しているので、価値観を磨かなくてはいけないと感じます。
数学のおもしろいところは自分で自由に考えて良いところです。数学が一番自由だと思います。 例えば、初等幾何などは解き方が決まっていなくて、どうしたらいいかわからなかった問題が補助線を引くと簡単に答えが出せて、ぱっと目の前が開ける感じがあります。数学はどうしてそう考えるかを学んでから、理解の確認のために問題を解くべきで、問題の解法を覚えて解く訓練をするというのではおもしろいはずはないです。私が子どもの頃は、教える先生もゆったりしていて、「考えてごらん。どういうふうにあなたなら解きますか」という姿勢でしたがそれがよかったと思います。
東大受験に失敗し、医大に入りましたが、しかし、数学への思いは断ちがたく、翌年、東京大理学部に入り直しました。
科学は大学院に進んで、自分が手を動かすような研究を始めないと本当に面白さがわからないのかもしれません。私も最初は、科学があまりに進化していて、でき上がってしまったことばかり教わるので、それに追いつくことができないし、そこに自分が加われるとも思えない。最先端がすごく遠くに思えたので、勉強する前に自分に何か新しくできる事があるのかどうかわからなくて、ちょっと絶望的な気分になりました。でも、実際には、最先端でできることがすごく身近にあってすぐに見つかることがわかりました。
2、3年やれば、きっと自分にできることが、身近で見つかるとわかってもらえると思います。
猿橋賞受賞について、最初は単純にうれしいと思いましたが、この賞は特別な賞なので、私がいい加減だと『女性科学者は』と言われてしまいます。女性が不利になることが今でもあると思うので後進のためにも責任がありプレッシャーを感じるようになりました。
数学は科学を記述する「言葉」を用意する学問です。現象に対する漠然とした理解が高まってきたときに、それを表現する「言葉」を発見すると、すべてが明解になり理解が飛躍的に進むという「うれしい驚き」を体験できます。数学が豊かになれば科学も豊かになります。ただし、ここで言う豊かさとは、目先の便利さではなく、現象への深い理解のことです。
数学は自由な発想を尊ぶ学問です。研究者の個性と美意識が直裁(ちょくさい)に表れる学問でもあります。普遍的な真理の探究という大前提の下に多様性を受け入れる柔軟な学問でもあります。
歴史的な経緯もあり、現在はまだ女性研究者は少ないですが、体力的なハンディのない数学は、女性が実力勝負するのにもっとも相応しい場かもしれません。
(WEB上にあるインタビュー記事などをつなぐなど書き改めました。)
猿橋賞
猿橋賞は地球化学者の猿橋勝子氏によって創設された、「女性科学者に明るい未来をの会」(1980年創立 古在由秀会長)から毎年、顕著な研究業績をおさめた50歳未満の自然科学の分野の女性科学者に「女性自然科学者研究支援基金」をもとに贈られる賞。
猿橋賞受賞数学者
第5回(1985年) 八杉満利子(やすぎまりこ)氏(京都産業大学名誉教授)
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~yasugi/
第15回(1995年) 石井志保子(いしいしほこ)氏(東京工業大学大学院 理工学研究科教授、日本学術振興会学術システム研究センター 専門研究員(兼) 本稿既出
http://www.math.titech.ac.jp/~shihoko/shihoko.html
第25回(2005年) 小谷元子(こたにもとこ)氏(東北大学大学院 理学研究科教授)
http://www.sci.tohoku.ac.jp/koho/html/interview-1.html
大隅典子 (おおすみのりこ)氏(1960.11.29- )
鎌倉出身
東北大学大学院 医学系研究科教授・歯学博士
研究の専門分野は発生生物学および神経科学、中でも脳の発生発達。
平成16年度より戦略的創造研究「ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明」プロジェクトを開始し、健やかな脳を育むための基礎研究を展開しつつある。この他、諸学会の理事や評議員、文部科学省振興調整費プログラムオフィサーなどを務め、人材育成、研究者コミュニティーと社会のつながり、科学研究のあり方・進め方等の方面でも積極的に活動している。
主な著書
『神経堤細胞-脊椎動物のボディプランを支えるもの』(共著)(東大出版会、1997年)
『エッセンシャル発生生物学』(訳書、羊土社、2002年)
『バイオ研究で絶対役立つプレゼンテーションの基本』(羊土社、2004年)
『心を生みだす遺伝子』(訳書、岩波書店、2005年)
『エッセンシャル発生生物学第2版』(羊土社、2007年)など
大隅氏は11月29日がお誕生日のようです。「大隅典子の仙台通信」の2008-11-30に「いとしのノリー」についての記事があり、リンク先のYouTubeで、大隅氏のとおぼしき声(ただし、笑い声)を聞くことができます。歌詞のリンクもあります。楽しそうですね。大学院というと、上下関係が厳しそうな封建的なイメージが私にはあります。「いとしのノリー」の歌詞にも上下関係は感じられるもののここなら入りたいなあとつい、思いそうになります。ただし、言わずと知れた超の付く難関です。
このブログで、秘密を見つけてしまいました。一部のページが文字を「最大」に設定しないと見えないことから、大隅典子氏は文字を「最大」にしてブログを作っておられるという仮説が立てられると思います。ただし、こういうことを書くと更新されてしまうこともありえます。
『重力ピエロ』という映画は背景として「大隅研究室」が使われたそうです。この映画がはやると、なにかの拍子に「いとしのノリー」の歌もはやって、「いとしのノリー」の映画化ということになるでしょうか。「科学する女性はかっこいい」とか副題がついたりして、…。
大隅典子の仙台通信
「10th Anniversaryほか」 [2008-11-30 22:21 by osumi1128]
http://nosumi.exblog.jp/8996832/
「今年は2年前に作られた「いとしのノリー」の生演奏付き(by Western All Stars featured by Shino)。
デジカメで動画を撮ってYouTubeにアップしてみました。詳しい歌詞はこちら。」
「重力ピエロ先行試写会」 [2008-12-23 10:43 by osumi1128]
http://nosumi.exblog.jp/9099513/
「大隅研今年の10大ニュースの一つに『重力ピエロ』の映画撮影が挙げられます。初めてロケ弁を食べたり、助手の方達の働きぶりに感動したりしました。」
映画『重力ピエロ』
宮城先行ロードショーが2009年4月25日(土)から。
全国ロードショーは5月23日(土)から。
これまでの連載で算数の問題に取り組む心構えのようなものはだいたい書いたのではないかなあと思ったりはしていますが、三誌とも今年度も続投することになり、ともなってこのWEBも続けるようです。題材を変えてこれまでと同じようなことを繰り返し言うことになるのかなあ、なるべく、新味を失わない記述にしたいなあと思っています。
ところで、桜井進さんとおっしゃるサイエンスナビゲーターが書かれた『天才たちが愛した美しい数式(PHP研究所)』を見せてもらいました。(真藤啓はネタ切れかと心配されている?)ネイピア、ニュートン、関孝和、アインシュタイン、ボーア・仁科芳雄、フェルマー・谷山豊の6章で8人について書かれています。
さすがはこの道1本で食べていこうとする方によるものだけあって面白くためになる迫力のある本だと思い感心しました。ただ、どれも高校生向けに書かれた内容で、小学生には、ほとんどこのままでは伝わらないのではないかなあと思いました。
ところが、2008年晃華学園中の問題を見て、これに関連付けて、軽くなら扱えそうだと思いなおしました。
ネイピアの考えた対数(たいすう)の有用性について述べたいと思います。
10×10を10∧2、10×10×10を10∧3
のように表すことにすると、(10∧2)×(10∧3)=(10∧5)となります。ここで、かけ算はたし算に直して考えられるということの感じがつかめると思います。
こうしたことを利用して、かけ算をたし算にできるのです。
=10∧yのグラフをかくと次の図のようになり、1=10∧0、2=10∧0.30103、3=10∧0.47712、6=10∧0.77815、10=10∧1、なのです。
1の目盛りから0.30103離れたところに2という目盛りをつけ、1の目盛りから0.47712離れたところに3という目盛りをつけ、他の数の場合も同じように考えて目盛りをつけていくと、下のようなへんてこな定規ができます。これを2本すり合わせると、1の目盛りから0.30103+0.47712=0.77815離れたところに6という目盛りが来るので、2×3=6のかけ算がたし算でできたというわけです。
このような、目盛りのついた棒を計算尺と言います。この図は、2×3=6以外にも、2×4=8、2×5=10、24×2=48なども読みとることができます。
次に23×37をやってみると、
上の尺(C尺)の3.7にあたる数を下の尺(D尺)で見ますと、だいたい851か852と読めます。実際は851ですので、だいたいの値が読めますね。また高校では対数表を使って計算しますが、ややこしいかけ算やわり算をたし算やひき算になおせます。
また、こうしたことを利用して、数の範囲を限定する方法に利用できます。大学入試などでは対数表の抜粋が添えられることもあります。
「対数を習ったのがきっかけで高校で数学がきらいになった」という人が少なくありませんが、小学生の時に少し感じをつかんでおくと、嫌いになるきっかけを減らせるかもしれません。
下の問題は東京の私立女子中学校の晃華学園中の2008年の問題です。この問題は、将来、上記のようなことが理解できるようになる含みを持った問題です。
問題
ある数aを5個かけあわせたa×a×a×a×a を,
と表すことにします。このような表し方をするとき,次の問いに答えなさい。
(1) 次のには同じ数があてはまります。
にあてはまる数を求めなさい。
(2) 次の,
にあてはまる数を求めなさい。
(3) 次の(ア)~(エ)の4つの数を小さい方から順に並べ,記号で答えなさい。
(2008年 晃華学園中)
この問題も、「まっさらな状態でこの問題が解けるようだとその子には学校が要らないのでは?」と思わせるような問題ですが皆さんはどうお感じになるでしょうか。
解法
なので、25、34、43、52を比べればよいことになります。
それぞれ、32、81、64、25なので、小さい順に並べると25、32、64、81となりますので、記号ではエ、ア、ウ、イとなります。
(注意) 322008、812008、642008、252008を比べよと言っているので、32、81、64、25で比べてよいのです。
答え (1) 4 (2) A5 B81 (3) エ ア ウ イ
この問題は受験者にとって、出題者の想像を超える難問に映ったことでしょう。
参考
計算尺を手軽に作るには
計算尺を手軽に作るには「計算尺推進委員会」のものを印刷することができます。
子ども用 http://www.pi-sliderule.net/SlideRule/Kids/pdfKids.pdf
おとな用 http://www.pi-sliderule.net/SlideRule/Make/Visio/SlideRule.pdf
計算尺推進委員会サイトトップページ
http://www.pi-sliderule.net/
課題
C尺とD尺でかけ算ができるわけですが、わり算ができないかを考えてみましょう。また、D尺を2本作り、一方を180度回転させると、C尺とメモリが線対称のものができます。これをCI尺といいます。CI尺とD尺でわり算をしてみましょう。
グラフを作成するソフトは色々なものがありますが、私はBearGraph(フリーウェア)を使っています。
かっては、「次の斜線部分の面積を求めなさい。」というような問題の中で、次の図がよく出ていました。
そうして、これは、次の図のように変形できるから、
簡単に求めることができます。
それが、最近は、30度のところが25度で出たりします。まったく同じ解き方で解けるのですが、ちょっと変わるだけで、「習っていない問題が出た」と映る人も少なくありません
「進学レーダー」で私は、白い部分でも比べてごらんという解法を載せてみましたが、黒い部分だけ見るとまるで違う形に見えますが、白い部分でみると同じ形(合同)だとわかると思います。
私は、「黒い部分は黒いチョコレートでできている、しかし、白い部分も白いチョコレートでできているのです。」などと、チョコレートの魅力を援用して説明することがあります。
黒いチョコレートが好きと言っていた人が突然「白いチョコレートも好き」と言い出すことがあります。
算数が好きになったのかなあと思うと、白いチョコレートをもらったからなんて言うこともあります。
入試問題や『進学レーダー』の私の書いているページはモノクロなので黒としていますが、WEBページでは色が使えるのでここでは青くしてみました。以下も同じです。
次の図は、ルビンの壷という図で、壷が図として認識されるときは、その他の部分は地であり、2人の顔が図として認識されるときは、その他の部分は地です。壷と2人の顔が同時に見えることはありません。「3年予科教室テキスト算数 後期上」にも載せていますのでご存知の方も多いでしょう。
人によってはどちらかにしか見えない場合もあるそうですが、あるときから、交互に見ることができたりするようです。しかしいずれにしろ同時に見ることはできません。このような図を「多義図形」と呼びます。 デンマークの心理学者エドガー・ルビン(Edger Rubin)が1915年に発表しました。
白いチョコレートを持ち出さなくても、次の図で、「ア+ウ」=「イ+ウ」、よって、ア=イである。
という解法も古くから、よく知られています。というかこの方が多いと思い、あえて別解の方を示したものです。進学レーダーの発行日(2月15日)も少し関係あったりします。
もちろん、30度や25度でなくても、18度や36度でも、同じ角度なら何度でも同じ方法で解けます。
こうしたことを、あらゆる角度について教えることは不可能だしその必要もないと思いますが、何しろ1個だけの練習では、それだけをそのまま覚える人もいるかもしれません。
同じような問題を2題ずつ教えればよさそうですが、すべての問題をそうすることはなかなか時間的にも難しいのです。
テキストにある問題を数値までそのままでカリキュラムテストに出すということは今までもこれからもありませんので、そういう学習の必要性は当然理解されていると思いますが。
では、そうしたことを2008年の麻布の6番の問題を解いて考えてみましょう。
問題
円の
の部分の図形OABがあります。次の問いに答えなさい。
(2008年 麻布中)
答え (1) 4:9 (2) 7.85cm2
解説
ここまで来ると、2つの図の黒い部分どうしの大きさも等しいことがわかるでしょう。全体が等しくて、白い部分が等しければ、残りの部分も等しいのですから。
この図では25度が2つあるところがポイントです。まあ、別に25度でなくても、18度でも、36度でも同じ角どうしなら、何度でもよいのです。
解法
答え (1) 4:9 (2) 7.85cm2
この(2)などは、言われてみると、たいていすぐにわかるでしょうが、自分自身ではとっさには思いつかないかもしれません。知っていることを二重に使うわけです。
この問題は将来どのように成長を遂げるのでしょうか。とりあえず次のような問題が考えられるかもしれません。
1. 5つに分けるが5等分でないもの
2. 等分ではあるが、7等分や9等分であるもの
とか、四分円でなく半円でとか考えるのです。こういうと、まれに、「えっ、そんなに覚えなくてはいけないんですか」という人がいますが、こういうことを自分で考えて解いてみるのです。すると、自由で主体的になり、全然覚えようとしなくても覚えられるのです。
麻布中の問題が、そういう学習をしなさいと言っています。
「知っていることを二重に使う」ということは、前に、「27の倍数の見分け方は、9で割った商がさらに3でも割れるかどうかで調べる」といったように全然違うことにも現れます。
27(37)の倍数の見分け方
ところで、27の倍数を直接見分ける方法はないのかというと、ないこともありません、3けたずつ区切ってたした和が27の倍数であればよいのです。
なぜかというと、999=27×37です。ですから、27や37の倍数を見分けるには、999を引けるだけ引いて小さくしてから割ればよいのです。999を引くということは、千の位から1を引いて一の位に1を足せばよいのです。たとえば、4けたの整数1234が27の倍数かどうかを調べるには、235で調べればよいのです。999を引くということを繰り返すことを考えると、たとえば、2回繰り返すとしたら、千の位から2を引いて一の位に2をたしても同じです。
例えば、6けたの数123444が27の倍数かどうかを調べるには1000を123回引いて1を123回足せばよいのですから、444+123=567で調べればよいのです。
ちなみに、ここでは、567=27×21ですから、123444は27の倍数です。
こういうことをいうと、じっと考えていた子から
「どうして999が27の倍数と気づいたのですか」という質問が飛んでくることがあります。
いい質問です。ここで話が、ぐっと広がります。
「1を27で割ると、0. 037037037037037037…となるよね。
これで27の倍数の見分け方は3けた区切りのたし算と分かるんだが、この場合は、これに27をかけると
0.999999999999999999…となるので、ちょん切ると999=27×37と分かるのさ。
=1÷27=0.037037037……=
だから、=
というわけで、999=27×37と考えてもよい。」
などと答えるとよいでしょう。
これをこのまま覚えるのではなく、考えるヒントにして、自分でも何か気づいてほしいところです。
何か問題を解いたとき、ちょっとだけ広げた問題も考えてみると、チョコレートを食べたときのようにうれしくなります。そうした問題が出るからというだけではありません。先に解いた問題の理解が深まり、問題の取り組みのフットワークがよくなるのです。目新しい問題がすぐに解けるようになりやすくなります。心がけてみてください。
脳科学者の茂木健一郎さんは、
「世間には勉強が苦手な子がいる。自分ができないことにチャレンジするのは苦しいことなんですね。ただ脳の仕組みから言うと、苦しいことにチャレンジして、それを乗り越えたときに、一番大きな喜びがあるわけです。
(略)
脳はドーパミンが出た時にうれしさを感じるわけですよ。ドーパミンが出る直前にやっていた神経活動が強化されるというのが教科学習の基本的なメカニズムなんです。」
これ、とても素晴らしい事をおっしゃっています。ただ、必ずしも難しい言葉を使っているわけではないのですがストンとうけとめられていない人もいるかもしれませんので補足しますと、
「難しいことを考えると、脳は苦しむ。苦しみを乗り越えて理解すると、脳は喜ぶ。その喜びの味をしめて、脳は難しいことを考えたくなる。」とおっしゃっているのです。
ここに算数好きになるヒントがあります。一言で言うと「算数好きになるために、ドーパミン体験をしよう」ということです。同様なことは既に言われていますが、脳科学者の言葉は科学的で説得力があると感じられる方も多いのではないでしょうか。
茂木健一郎(もぎけんいちろう)氏
脳科学者。1962年、東京都生まれ。東京大学大学院 理学系研究科物理学専攻 博士課程修了。理学博士。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、現在ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー(上級研究者)、東京工業大学大学院 連携教授、東京芸術大学 非常勤講師。
著書
「脳とクオリア」(日経サイエンス社)
「脳内現象」(NHK出版)
「脳と仮想」(新潮社)
「やわらか脳」(徳間書店)
「脳を活かす勉強法」(PHP研究所)
など多数。
NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』でパーソナリティーを務めるようにもなり、愛らしい似顔絵とともに広くお茶の間にもその顔を知られる存在となっています。
締め切りの関係で各誌には2009年の入試問題は扱えませんでしたが、このWEBページは締め切りが遅いので、真っ先に目についた2009年の問題を2、3扱ってみましょう。
問題
一辺の長さが1cmの立方体を下の図のように番号をつけ27個積み重ね、一辺の長さが3cmの立方体を作ります(図1)。一辺の長さが1cmの立方体をここでは、「小立方体」と呼ぶことにします。
いま、小立方体27個を積み重ねた一辺3cmの立方体(図1)を図2のように太線()と破線(---)にそって切断し、切断後に出来る5つの立体のうち4つの面がすべて正三角形になる立体を「立体A」と呼ぶことにします。
(ア) 切断後に2色で色がぬられる小立方体の番号をすべて答えなさい。
(イ) 切断後に1色でのみ色がぬられる小立方体の番号をすべて答えなさい。
(2009年 西大和学園中 県外2番)
解法
(1)
「頂点小立方体」3面切られる4個、切られないでのぞかれる4個、
「辺小立方体」すべて1面切られる12個、
「面小立方体」すべて2面切られる6個、
「心小立方体」切られないで残る1個
というわけで
ア 「面小立方体」 、
、
、
、
、
の6個
イ 「辺小立方体」 、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
の12個
答え
(1) (2)
(3) (ア) 、
、
、
、
、
(イ) 、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
、
問題
次の図1の正方形内の斜線部分と合同な二等辺三角形4枚で、図2のような展開図を作りました。
この展開図を組み立てたときにできる三角錐の体積を求めなさい。
(2009年 開智中 先端A5番改題)
解法
正四面体の外接立方体の高さを2倍にするとできる立体で体積も2倍になる。
3×3×6×(1-×4)=18(cm3)
答え 18cm3
問題
最大公約数が1である2つの数は、足した数とかけた数どうしの最大公約数も1になります。必要があればこの性質を用いて、次の問いにそれぞれ答えなさい。
(2009年 栄東中 東大選抜I4番)
解法
である。
累乗の和が13になるものは1+3+9=13しかないが、
累乗の和が31になるものは1+5+25=31のほかに
1+2+4+8+16=31があるので、
16×9=144であればよい。
答え (1) 300、525 (2) 144
解いているうちに続々と面白い2009年の問題が集まってきましたが、きりがないので今回はこの辺で。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
付記
「asahi.com(朝日新聞社)にも書かれているんですね。」と言われ、見てみると、本当にasahi.comに載っていました。『学校選択』に月刊で書いたものを隔週で出しているようです。すると、いずれ、原稿が足りなくなるでしょう。ただ、私には何も知らされていないので、多分何とかなるのでしょうが。
算数エッセー asahi.com(朝日新聞社)
http://www.asahi.com/edu/student/guide/sansu/TKY200901060281.html