日能研教務部算数科 真藤 啓
本稿は、次のそれぞれの算数エッセーのうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことを補足するために、開設しています。タイトルは『進学レーダー』のものとそろえ、WEB掲載のタイミングも『進学レーダー』の発行日に連動して毎月15日に行います。
けれども、毎月それらの文を読まなくても本稿が読めるようにも心がけています。受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いています。
『進学レーダー』2月号(みくに出版) 算数エッセー「算数好きになる薬 九九遊び」
『キッズレーダー』2月号(日能研) 算数エッセー「おいしい算数 西暦の問題」
『学校選択』2月号(全国中学入試センター) 算数エッセー「算数好きのきっかけをもとめて 謡曲『通小町』」
1ふくろ7個入りのあめ
1ふくろに7個入りのあめが何ふくろかあります。このときのあめの合計の個数は7の倍数です。
7+7+7+7+7+7+……
つまり、7をくり返してできる数を7の倍数と言います。
また、同じ数をくり返したすときにはかけ算ができますから、7×□のように表すことができる数です。
7個入りのあめのふくろは何ふくろあっても、あめの合計個数は7の倍数です。つまり、
7の倍数+7の倍数=7の倍数
7の倍数-7の倍数=7の倍数
です。今回はこうしたことを利用して、西暦の問題を考えてみましょう。
西暦の問題、今年の場合
2009は7で割り切れるかどうかをどうやって調べますかと聞くと、実際に割って調べるという人が多いのではないかと思います。実は、「9-2=7 よって、2009は7で割り切れる」のです。
2002=2×7×11×13なので、2002は7の倍数です。
だから、20ABが7の倍数かどうかを調べるには2002をひいてから調べるとよいのです。
20AB-2002=AB-2なので、下2けたから、2をひけばよいのです。
2002は11や13の倍数でもありますから、同様にして、13-2=11なので、2013は11で割り切れ、15-2=13なので、2015は13で割り切れます。
西暦の問題は毎年、どこかの中学に出ていますが、今年2009年にも西暦の問題が出るでしょう。2009は、7×7×41=2009 です。これは素因数分解(そいんすうぶんかい)がしやすいパターンなのでマークすべきです。また、49×41=2009 なので、このあたりもねらわれるかもしれません。次の3つの点を押さえておくとよいでしょう。
素因数分解
100までの整数は、というか正しくは121未満の整数が素数であるかどうかは、2か3か5か7で割れるかどうかを調べるとよいのです。もっと大きい整数で、2か3か5か7で割れない場合は、その次の素数、11、13、17で調べることになります。が、あまり大きい素数で割らなければならないのは出題する方の中学としても出しにくいと思います。
2007は2+7=9であることから9で割れることはすぐわかり、3×3×223まではいくのですが、223が素数であることは11、13までは調べなければならなく、やや出しにくい問題でした。しかし、数校で出ました。
2008は、200も8も8で割れますから、8で割れることが分かります。2×2×2×251=2008なので、これも251が素数であることはたしかめにくいのでやや出しにくいのです。その点、7×7×41=2009はとても出しやすいと思います。
特別な2数のかけ算
また、近年、「インドの算数」とかいわれていますが、十の位が等しく、一の位の和が10になる2けたの2数のかけ算は特別な方法があります。たとえば、74×76なら、7×8=56、4×6=24なので、2つのかけ算の答えを順にならべ5624とします。つまり、まず、片方の十の位に1をたして、1つちがいの数のかけ算をします。次に、一の位の数どうしをかけ算し、2つのかけ算の答えをならべます。だから、49×41のときは、4×5=20、1×9=9(=09)なので、49×41=2009となるわけです。
BCD-Aは 7の倍数か
7の倍数の調べ方はあまり有名ではありませんが、たとえば、6けたの数ABCDEFが7の倍数かどうかは、3けたで区切ってひき算しDEF-ABCが7の倍数かどうかで調べるとよいのです。これは、ABCABC=ABC×1001なので、6けたの数ABCDEFから、7の倍数ABCABC をひいて、ABCDEF-ABCABCで調べるとよいのですが、ABCDEF-ABCABC=DEF-ABCなので、結局、DEF-ABCで調べるとよいことになるわけです。
というわけで、もし4けたの数ABCDについて調べるには、BCD-Aで調べるとよいのです。
二〇一二問題
ここまで読んでくれていますか。今の一、二、三年生は、2012、2013、2014ですので、関係ないと思っておられるかもしれません。ギリギリの記述は心に残りにくいし、変化球にも弱いのです。
さて、2012は20も12も4の倍数ですからパッと見に4×503つまり、2×2×503=2012までは分かると思いますが、503は実は素数なのですが、素数とたしかめにくく、ちょっと出しにくい問題です。無理に作ってみると、たとえば次のような問題が考えられます。
問題
たとえば、14は 2+3+4+5=14 というように、連続した4個の整数の和で表すことができます。
これにならって、2012を連続した2個以上の数の和で表しなさい。
(本稿のためのオリジナル問題)
解法
2012=4×503
=503+503+503+503
=(251+252)+(250+253)+(249+254)+(248+255)
=248+249+250+251+252+253+254+255=2012
とできます。
答え 248+249+250+251+252+253+254+255=2012
別解
2012=4×503
だから、4を真ん中にして503個の整数を並べると、
(-247)+(-246)+(-245)+……+4+……+252+253+254+255=2012
ここで、
(-247)+(-246)+……+(-3)+(-2)+(-1)と1+2+3+4+……+245+246+247
が相殺(そうさい)されて、
(-247)+(-246)+……+(-3)+(-2)+(-1)+0+1+2+3+4+……+245+246+247=0
となるので、
248+249+250+251+252+253+254+255=2012
答え 248+249+250+251+252+253+254+255=2012
とする方法も知られています。この方法も汎用性(はんようせい)が高いのですが、小学生には負の数はなるべく使わない方がよいでしょう。負の数が出てこない場合も多いので、負の数が出てこない場合に限って使うとよいでしょう。
2009が7の倍数かどうかを調べるには、9-2=7が7の倍数かどうか調べればよく、もちろん、7は7の倍数ですから、2009は7の倍数です。商をもとめなければなりませんから、どうせ割らなければなりませんが、7の倍数でなかったら割ってみる必要がなくその分はやく解けるようになるのです。2009÷7=287です、28も7も7の倍数ですから、7×7×41=2009はすぐ分かると思います。
相殺(そうさい)
差し引いて、互いに損得がないようにすること。帳消しにすること。また、長所・利点などが差し引かれてなくなること。
汎用性(はんようせい)
使い道が多いこと
確認 倍数の調べ方
7、11、13の倍数の調べ方 応用例
たとえば円周率の数の並びを利用して、
31 415 926 535 897 932 384 626 433 832 795
という32けたの数について考えてみます。これが7や11や13で割るといくつ余るかというと、3けたずつに区切って、交互に左右2山に分けて、それぞれの合計の差を求めればよいのですが、左右の山の同じ位の同じ数などを打ち消してからそれぞれの合計を求め、それを引き算した方が簡単です。1268-1142=126、つまり、126が7や11や13で割るといくつ余るかということと、もとの数が7や11や13で割るといくつ余るかということと同じになるのです。126は7で割り切れ、11で割ると5あまり、13で割ると9余るので、もとの数もそうであることが分かります。
こんな大きな数を調べる問題が出ることはありませんが、超大きな数で分かるようにしておくと、いろいろな小さい数の場合も丸分かりになると思います。
二〇一三問題
2013はぱっと見で素数ではないかと思った人もおられるかも知れません。13-2=11なので、11の倍数です。11の倍数も、3けた区切りのひき算の答えが11の倍数であれば、11の倍数です。もっとも、11の倍数の場合、各位の数字を交互にたしひきしても調べられます。2013は、3-1+0-2=0なので11の倍数です。
また、2013は2+0+1+3=6なので、3の倍数です。このように、3の倍数は各位の数字をたし算しても調べられます。3や11の倍数の調べ方は、7や13の倍数の調べ方よりも有名ですから、この素因数分解はかなり出そうな問題といえます。
二〇一四問題
2014は一の位の数字を見ただけで、とりあえず2で割れるとわかります。
2014=2×1007=2×19×53
となります。これが出るかどうかは微妙です。確かめるために割る素数としては11や13あたりが一応限度だと思いますので、19は最後の限度というかやや出しにくい問題です。しかし、一部こういう問題が好きな学校では逆に出さないではおられない問題と思うかもしれません。まず出ないと思いますが、くふうした出題がふえていますので、一応、押さえておきましょう。
【蛇足】 19の倍数を見分ける方法
ちなみに、19の倍数を見分ける方法は、9けた区切りでたしひきして、その結果が19の倍数であれば19の倍数ですので、これも出そうにありません。
1000000001を素因数分解すると
1000000001=7×11×13×19×52579となります。
7×11×13=1001ですから、
1000000001=1001×19×52579となり、
11は1けた交互
7、13は3けた交互
19、52579は9けた交互
のたしひきして調べるとよいのです。
11は1けた交互でも3けた交互でもよいように、7、11、13、19、525791の倍数かどうかを、9けた区切りで調べることができます。
「9けたとどうやって見抜いたのですか」という人もいるでしょうか。
9けたということの見抜き方は
1÷19=0.052631578947368421052631578947368……
というように、わり算の商が052631578947368421と18周期になるとき、その半分の9けた区切りにするとよいのです。
「一般には19の倍数を見分けるのは出ない」というと、「どうして言えるのですか」という人がいるかもしれないから、そういう人に安心してもらうために書いたものです。ですから、これにより、当面考えなくてもよいのだなあと納得してもらうとよいでしょう。もちろん、簡単な数が19の倍数かどうかを調べるときにはわり算で調べればよいので守備範囲です。
二〇一五問題
2015は一の位の数字を見ただけで、とりあえず5で割れるとわかります。
2015=5×403です。403は何で割れるでしょうか。実は、2015は、15-2=13なので、13で割れるのです。2015=5×403=5×13×31となります。この因数分解はここまで読んでいただいた読者の皆さんにはすでにやさしいのですが、中学の先生にとっては「小学生には難しいだろう」と思われていると思いますので、やや出しにくいかもしれません。
当分、2000年台は百の位のない下2けたですから、20AB年はAB―2が、7か11か13の倍数であれば、その倍数であると分かります。
まとめ 7、11、13の倍数の見分け方
2009は9-2=7だから7の倍数
2013は13-2=11だから11の倍数
2015は15-2=13だから13の倍数
20ABはAB-2が7(11、13)の倍数なら、7(11、13)の倍数
2ABCはABC-2が7(11、13)の倍数なら、7(11、13)の倍数
3ABCはABC-3が7(11、13)の倍数なら、7(11、13)の倍数
ABCDEFはDEF-ABCが7(11、13)の倍数なら、7(11、13)の倍数
以上が1、2、3年生をお持ちの読者を対象に「キッズレーダー」に書いたものの補足です。次に、現在4、5年生向けである2010、2011にも書いてみます。
2010=10×201=2×5×3×67で、この素因数分解は理想的に出しやすいのではないでしょうか。
連続する3数の和
2×5×67=670を真ん中に3個の整数の和にすると、669+670+671
2×3×67=402を真ん中に5個の整数の和にすると、400+401+402+403+404
2×67=134を真ん中に15個の整数の和にすると、127+…+133+134+135+…+141
2×3×5=30を真ん中に67個の整数の和にすると、
(-3)+…+30+…+63=4+5+…+63
これは、2×5×3×67=67×30
=(33+34)+(32+35)+……+(4+63)
=4+5+…+63
ともできます。
一方、2011は3、5、7で割れず、一見素数に見えますが、実はやっぱり素数なのです。
これが素数であるということを調べさせる問題はまず絶対に出ないとみてよいでしょう。素数であることを断ってどんな問題ができるかですが、
「2011は素数です。……」
という問題は、ちょっと浮かびません。まあ出たとこと勝負ではないかと思います。保護者会とかで、「2011×2011=4044121です。また、1102×1102=1214404です。2011の逆順の平方は逆順になります。」というとやや受けがねらえるかもしれません。趣味的であまり出そうに思えませんが、……。
種明かし
筆算を書いてみると、それぞれのけたで繰り上がりがないので、見え見えになります。
注意 逆順の平方は一般には逆順になりません。珍しいから面白いのです。念のため。
オリジナル問題
2つの整数A、Bがあります。和はA+B=2011です。また、差A-Bは9の倍数です。考えられる9の倍数のうち、3番目に小さい数を求めなさい。
解法
和2011は奇数ですから、差A-Bも奇数です。遇数はあり得ません。ですから、9、27、45でしょう。
和が2011、差が9、27、45、和差算でいずれも答えが存在するので、3番目は45
答え 45
感想
うーむ。我ながらつまらない問題でした。2011年までに考えてみます。それまで、この連載が続いていないかもしれませんが……。
参考
4つの数字、0、1、1、2を並べてできる4けたの整数について調べると、
1012 1021 1102 1120 1201 1210 2011 2101 2110の9個ある。
それらを素因数分解してみると、
1012=2×2×11×23
1021(素数)
1102=11×19×29
1120=2×2×2×2×2×5×7
1201(素数)
1210=2×5×11×11
2011(素数)
2101=11×191
2110=2×5×211
となります。「4つの数字、0、1、1、2を並べてできる4けたの整数」のうち、2101以外の奇数は素数なので、素数が多いとわかりますが、そういう方向では、面白い問題が作れないように思います。灘中は盲点を突いてくるのでわかりませんが。
素数の表
この数が素数かどうかを調べるにはGOOGLEなど検索エンジンで、「素数、表」と検索してみよう。いくつかあります。
約数を求める
この数の約数は何かということを調べるには、次のサイトが便利で今のところほかには見当たりません。
http://www.f3.dion.ne.jp/~kint/game/java_game/rensyu/yakusuu2.html
西暦の問題は、毎年、一期一会というか、「西天の霹暦(せいてんのへきれき)」(さぶ)というか1年違うと、話がコロッと変わり、悩ましいところです。
青天(せいてん)の霹靂(へきれき)
陸游という詩人が書いた「九月四日鶏未鳴起作(鶏がまだ朝鳴きしないときにつくる)」という題の詩の一節に「青天、霹靂を飛ばす」というのがあり、そこから、「青天の霹靂」という慣用句が生まれました。
意味は 晴れ渡った空に突然起こる雷の意味で、急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃を表すときに使います。
文中「西天の霹暦(せいてんのへきれき)」(さぶ)とあるのは、「青天の霹靂」の「青」「靂」を「西暦」に置き換えたダジャレで、(さぶ)とは「サブいダジャレでした」という意味です。分からない人もいるかもしれないということで、無粋ですが補足します。
陸游(りくゆう)(1125―1210)
中国、宋(そう)代の詩人。字(あざな)は務観(むかん)、号は放翁(ほうおう)。越(えつ)州山陰(さんいん)(浙江(せっこう)省紹興(しょうこう)市)の人。
29歳のとき進士の試験に第一位をとったが、宰相秦檜(しんかい)に妨害されて殿試で落第させられた。秦檜の死後、34歳で初めて官界に入った。
彼はつねに国を憂い、ときに要人を批判しては幾度も免職にあい、中央の微官と地方官を転々として終わった。
このように官界において孤立し、挫折(ざせつ)を重ねて不遇であったが、侵略者金への徹底抗戦を主張し、それを詩に歌い続ける剛直激情の愛国詩人であった。
さきの『キッズレーダー』の記事を算数科の何人かに見てもらうと、「面白い。お母さんにはともかくお父さんには受けるのでは……」と但し書きのついた評をもらったので、そんなはずはないと、ほかの女子社員に見てもらったところ、「むずかしーい。でも、お父さんには受けるかも」と似たような意見でした。
2002は7の倍数です。2002=2×7×11×13ですから明らかですよね。7の倍数に7をたしても、7の倍数です。
だから、2002+7=2009=(7の倍数)
2002は11の倍数です。2002=2×7×11×13ですから明らかです。11の倍数に11をたしても、11の倍数です。
だから、2002+11=2013=(11の倍数)
2002は13の倍数です。2002=2×7×11×13ですから明らかです。13の倍数に13をたしても、13の倍数です。
だから、2002+13=2015=(13の倍数)
ここは、難しくないところです。(お母さんにも受けるはず。)
問題
207,2007,20007,… のように先頭が2で末尾が7,間はすべて0である整数のうち,27で割り切れるが,81では割り切れないものを考える。この中で最も小さい数はである。
(2007年 灘中1日目3番)
解法
207、2007、20007、… を9で割ると、
23、223、2223、…となり、この商のうち3で割れるが、9で割れないものの中で最も小さい数は何か、ということになる。
つまり、各位の数の和が3の倍数であって9の倍数でないものは何ということだから、
3の倍数は、2223、2222223、2222222223、……というように、並んでいる2の個数が3の倍数個あればよいのですが、最初の2223は9の倍数にもなるので除くと、2222223となり、もとの数は、0が6個並ぶ20000007となります。
答え 20000007
解説
かけ算九九から、27といえば、3×9=27、81といえば9×9=81をパッと思い浮かべる人も多いと思います。
「3や9で割り切れる数」は習っていても、「27や81で割り切れる数」なんて習っていないようと言いたいところかもしれませんが、27で割るということは、いったん9で割ってさらに3で割ることと同じです。81で割るということは、いったん9で割ってさらに9で割ることと同じです。
207、2007、20007、… はいずれもとりあえず、2+0+7=9なので、9で割れることは見ただけで暗算で分かりますから、その商、23、223、2223、……が、さらに3で割れるが9で割れないものは…と聞いているわけで、習って知っていること(3や9で割り切れる数を調べる方法)を、二重に使って考えよというわけです。素敵な問題です。こういう問題を、タイミングを外さずに2007年にふいと出せる灘中は本当にすごいなあと感心させられます。
もしかすると、もっと何年も前から気づいて、2007年に出そうというように温存していたのかもしれません。
有名なエッセイストの外山滋比古(とやましげひこ)さんの書かれた文で、ある出版社から電話で、「さるも木から落ちる」というのは、いつどこのさるが、どのようにして木から落ちたのですか、また、「弘法(こうぼう)にも筆の誤り」というのは、弘法はいつ頃、どういう状況で間違えたのですかなどと聞かれたが、ことわざというのは、必ずしも、実際におこったことをもとにしているわけではない、そんなことも分からないで質問するなんて失敬だというようなことを書かれているのを読んだ記憶があります。
筆者のおっしゃるのは、まことにもっともだと思うものの、中国のことわざには「覆水(ふくすい)盆(ぼん)に返らず」とか、「士(し)は己(おのれ)を知る者のために死す」など由来があるものも多いので、編集者としては気になったのでしょう。算数の「小町算」の由来の出典はいくつかの謡曲に出てくる「百夜通(ももよがよい)」がもとになっているといわれています。由来は記憶を補強する力があるようにも思います。
「百夜通」で、二人はどんな算数遊びをしたでしょうか。と前ふりをして、進学レーダーでは「百夜通」について書きました。そこでは、
「立方数の累加
あるとき、かけ算九九の答えの合計はいくつかしらという話題が出て、少将が1から9までの和が45だから、45×45=2025というと、小町はまあ素敵、と言いました。
翌日、1から9までの立方数の合計
1×1×1+2×2×2+……+9×9×9
=45×45=2025
と言うと、小町はほおを染めて喜びました。」
という、エピソードを捏造(ねつぞう)して、わり込ませました。紙面が苦しくて、詳しく書けなかったのでこれについて次節で補足します。
捏造(ねつぞう)
事実でないことを事実のようにこしらえること。
外山 滋比古(とやま しげひこ 1923年―)
お茶の水女子大学名誉教授 英文学者
魅力ある文章で、国語教科書や各種入試問題の頻出著者としても有名。
参考「弘法にも筆の誤り」の出典は「今昔物語巻十一(こんじゃくものがたりまきのじゅういち)」?
「弘法も筆の誤り」という言い方も、WEB上でたくさん見かけますが、「弘法にも筆の誤り」というのが正しいようです。ところで、このことわざには、次のようなエピソードがあるという説もあります。
出典は今昔物語の巻十一がそれで、それによると、
弘法大師、宗に渡り真言の教え持ち帰り来る
今は昔、弘法大師という聖がおられました。俗姓は佐伯真魚(さえきまな)で、宝亀5年(774年)、讃岐国多度郡屏風浦(現:香川県善通寺市)で生まれました。聖人が来て胎内にはいるという夢を見て懐妊し、お生みしたのでした。その子は五、六歳のとき、土で仏像をつくったり、草や木で仏堂を建てたりしていましたが、あるとき、八つ葉の蓮華(れんげ ハスの花)の中に多くの仏がお見えになり、その子と語り合ったという夢を見ました。
(略)
さて、この子が二十歳で、みずから、名を如空と改め、二十二歳で東大寺の戒壇において具足戒を受け、それ以後、名を空海と改めました。三十一歳のとき、大和国高市郡にある久米寺の東にある塔の下で経典を見つけましたが、そのとき日本ではこれがわかる老はいませんでした。そこで、「自分で唐に渡り、この教えを習おう」と決心しました。延暦二十三年五月十二日、遣唐大使として越前守正三位の藤原朝臣葛野麻呂という人が唐に渡りましたが、その人にともなって渡ったのでした。そして、ついに青竜寺の東塔院の名僧である恵果阿闍梨(けいかあじゃり)にお会いしました。和尚は空海を見ると、笑みをたたえ、「そなたが来ることは前から予想していた。わしには法を授けるにたる弟子がなかったので、ずいぶんに待ち遠しかったぞ。そなたにすべて伝えよう」とおっしゃいました。
(略)
また、空海が都の中を回ってご覧になり、ある河のほとりにやって来られると、そこに一人の破れ着物を着た童子(どうし)が現れました。髪はドラゴンボールの悟空のように乱れていました。童子が空海に向かい、「この河の水の上に文字を書いてみよ」と言いましたので、空海は童子の言うままに水の上に清い水をたたえる詩を書きました。すると、その詩の文字は一点もくずれずに流れ下って行きました。
「フフフ」童子はこれを見て笑みをたたえ言いました「こんどはわたしが書こう。和尚よく見ていよ」と。そして、水の上に「龍」という文字を書きました。ただし、文字の右側にある一つの小さい点をつけませんでした。すると、その文字は流れずに同じ所に浮かんでいました。そこで、小さい点をつけ加えると、その字はたちまち光を放ち、竜王の姿に変じて空に上って行きました。この童子は実は文殊菩薩(もんじゅぼさつ)でおわしたのでした。破れ着物は瓔珞(ようらく 古代インドの貴族の装身具で仏像や天蓋の装飾とする)だったのでした。
(略)
その後、大同二年十月二十二日、無事に帰朝しました。唐から持ち帰った法文を国内に広めよという宣勅とすみやかに大内裏の南面の諸門の額を書くようにとの仰せがありました。そこで外門の額をすべて書き終わりました。ところが応天門の額をうちつけてから見ると、「応」の字の最初の点がいつの間にかなくなっています。人々のざわめきをよそに、空海が下から筆を投げ上げてその点を付けました。人々はそれを見て、手をたたいて感嘆したのでした。
「今昔物語(巻十一)」から
これを読むと、弘法は文殊をまねて書いたのだとも考えられ、「筆の誤り」とばかりは言えないような気もしますがどうでしょうか。雑誌の編集部は、これを知って、「さるも木から落ちる」のさるはどこのさるが落ちたのだろうと気になったのかもしれません。
文殊については「三人寄れば文殊の知恵」ということわざもあります。これは「三本の矢」(毛利元就)、「3本の棒(イソップ物語)」などにも通じるかもしれません。これらのことわざは、小学校の校長先生の朝礼などにも出てきそうなので割愛します。
【補足1】 覆水(ふくすい)盆(ぼん)に返らず
中国では「覆水難收」という宋でできた四字成語で『野客叢書(やかくそうしょ)』にあります。
商朝の晩期、知謀(ちぼう)にたけている人物がいて、姓は姜、名は尚、字は子牙、人よんで姜太公(かんたいこう)と呼ばれていました。先祖は封于呂のため、別名は呂尚(りょしょう)。彼は周文王、周武王を研究して商朝を滅ぼして、周朝を創立して、大きな功労をおさめました。後の封在齊、春秋の時の齊国の始祖です。
姜太公は曾在商朝のころ官になったことがありましたが、紂王の残虐な統治を不満に思って、官を捨てて歩いて、陝西渭の水の河辺の1つの比較的にへんぴな地方で隠遁(いんとん)します。周族の指導者の姫昌(きしょう)(つまり後の周文王)の重用を得るため、彼はいつも小さい河辺でまっすぐな針に餌をつけて釣っていましたので魚はかかりませんでした。
姜太公は一日中魚を釣って、家の生計は苦しくなりました。彼の妻の馬氏は彼が貧しいことが嫌でした。お金持ちになりそうもないので、もう彼と共に生活したくない、離れていってしまいたいと言いました。姜太公は何度も彼女に「別れないでくれ、いつかは必ず金持ちになるから」と言いましたが、馬氏は彼がでたらめいって、だましていると思って信じませんでした。そして、とうとう立ち去っていきました。
後に、姜太公は周文王の信用と重用を得て、また周武王に各諸侯と共同で研究して商朝を滅亡させ、西周の王朝を創立します。姜太公が、富貴になり地位があるようになり、太公望といわれるようになったので、馬氏は、姜太公のもとを離れたことを悔やみました。そして、姜太公を探し当てて、夫婦の関係を回復することを願い出ました。 姜太公はすでに馬氏の人となりを見抜いていたので、もはや夫婦の関係を回復したいとは思えなかったのでした。そして、1つぼの水を地の上にまき、馬氏にその水を戻してみよと言います。馬氏は急いで伏せて地の上で水を取ろうとしますが、泥水しかすくえませんでした。
姜太公は彼女に対して言います。「あなたはすでに私を離れて行って、ずいぶんいっしょにいませんでした。これは地の上の水と同じで、もう一度戻すことはできないのですよ。」
「覆水難收(覆水盆に返らず)」の意味は、地の上のこぼれた水は回収しにくいのと同じようにすでに動かぬことになったことは戻すことができないということです。
その後、姜太公は、また、主君である武王と人材について論じた際、武王が血縁主義で人材を登用していることについて「国家が衰亡する」と説いたのに対し、武王は能力主義の呂尚に「家臣に乗っ取られる」と互いに警告を発しあっています。
(出典は中国のいくつかのホームページに同じ話がたくさんありました。日本でもすでに知られていますが、小学生では知らない人もいるかと思い書きました。)
【補足2】 「士は己を知る者のために死す」
豫譲(よじょう)という人は、中国春秋の末期、晋の重臣である智伯(ちはく)の家臣でした。かつては同じ晋の重臣、范氏・中行氏に仕えていましたが大事にされず、智伯に仕えたのでした。智伯は趙襄子(ちょうじょうし)に攻め滅ぼされ、その頭蓋骨を杯にされてしまいました。豫襄は
「士は己を知る者のために死す、
女は愛してくれる者のために容(かたち)づくる(飾る)」といって主君智伯の敵を討とうと趙襄子の命をねらうことになります。
最初、豫襄は姓名をかえ囚人となりすましました。宮殿の左官工事に紛れ込み、厠(トイレ)の壁塗りのとき匕首(ひしゅ)をしのばせ趙襄子を刺し殺そうと狙ったのでした。趙襄子は胸騒ぎを覚え、壁塗りの囚人を捕まえて問いただすと、豫襄でした。
「このような暴挙をあえてする理由はなんだ」と尋ねられた豫襄は「智伯氏は自分を国士としてもてなしてくれた、だから自分も国士として報いるのだ」と平然と答えました。
趙襄子は「智伯には跡取りもいないのにその臣下が敵を討とうとする、こいつは天下の賢者だ。あっぱれな忠臣義士だ。放免しろ。わしが用心して彼を避けておればよい」といって豫襄を無罪放免したのでした。
しかし、豫襄はその後も復讐の鬼となって趙襄子を狙い続けたのでした。
豫襄は相手にさとられないように、体に漆を塗ってかぶれさせ、ライ病人を装い、その上炭を飲んで喉をつぶして、かすれた声にして、市中物乞いをして趙襄子の動向をさぐったのでした。妻すらも彼を見破れなかったのでしたが、ただ一人友人が見抜いて彼を呼び止めました。
「おまえほどの才能を持っていれば、趙襄子に仕えたらよいではないか。側に仕えていたら殺すにしても、その方がやさしくないか」とすすめると、豫襄は言いました。「一旦、人の臣下となってそれを殺そうとするのは二心を抱いて主君に仕えることだ。自分のしようとすることがいかに難しくても、二心を抱かぬ事がいかなる事か後世の人に見せてやりたい」と言って去りました。
ある日、豫襄は趙襄子が通るはずの橋の下に待ち伏せていました。趙襄子が橋を通りかかるや、馬が殺気を感じて前に進みません。
「これは豫襄の奴が伏せているに違いない。者ども探せ」と命じます。乞食に身をやつした豫襄が見つかりました。
趙襄子は言いました。「その方は、范氏や中行氏にも仕えたことがあるではないか。智伯氏は彼たちを滅ぼした。それなのにその方は敵を討とうとせず、智伯の臣下となっている。智伯も死んだ。それをなぜ智伯の敵討ちにいちずになるのか」
豫襄は答えて言いました。「私は確かに范や中行に仕えました。しかし二人とも有象無象(うぞうむぞう)なみに私を扱いました。だから私は有象無象なみに彼らに報います。智伯は私を国士として扱ってくれました。だから私は国士として報いるのです」
趙襄子は溜息をつき涙を流しながら「豫襄よ。智伯のために尽くしたいと願った君の思いはすでに遂げられている。それに私が君を赦すのはもう限界だ。君も考えるとよい。もう、私は赦すことはできない」と言うと兵に彼を捕らえさせました。
豫襄は「先に、殿は私を赦してくださった。天下に殿の賢者ぶりを讃えぬものはおりません。今日、私が殺されるのは当然です。でも、最後のお願いです。その着ているお召し物を頂きたい。これをたたき斬って敵討ちの思いをはらしたいのです。もし、そう願えれば、死んでも恨みはありません」
趙襄子は彼の着ている衣服を豫襄に渡しました。豫襄は懐から短刀を抜くと、その衣服に三度躍りかかり、ずたずたに切り刻んで「これであの世で智伯に敵討ちが報告できる」と叫んで、やおら、短刀で自殺したのでした。
「史記-刺客列伝」
子どもをよく知って伝えてあげるとしっかり伝えられるという教訓を感じます。
「士は己を知る者のために死す」ではちょっと強すぎるので、「士は己を知る者のために動く」と新入社員にはいうこともあります。以前、「子どもの学びファイル」で「作文の書き方」というようなものを書いたときに、伯牙(はくが)という琴の名人とその友人の友人の鍾子期(しょうしき)の「以為世無足復為鼓琴者(以為(おも)へらく、世に復(ま)た為に琴を鼓するに足る者無しと)」のエピソードと、「士は己を知る者のために動く」ということばで、子どもがよい作文が書けるようにするためには、「褒めるでもなく、けなすでもなく、よい読者になってあげることである」というようなことを書きました。他教科のことでもよいということで書きましたが、多くの人に共感されたように思います。
匕首(ひしゅ、中国音ではビーショウ)
懐にしまえる短刀で、日本の合口(あいくち)にあたり、実際、匕首をあいくちとも読みますが、本来は違う武器です。
深草の少将は、小野小町のところへ毎夜通いましたが、あるとき、かけ算九九の答えの合計はいくつかしらという話題が出て、少将が1から9までの和が45だから、45×45=2025というと、小町は「まあ素敵」と言いました。
翌日、1から9までの立方数の合計は
1×1×1+2×2×2+……+9×9×9
=45×45=2025
と言うと、小町はほおを染めて喜びました。
と「進学レーダー」に書きました。算数と関連付けるために無理やり割り込ませたのですが、小野小町が算数が好きだったといえば、美容に関心の深い女の子も見てくれるでしょうか。
立方数の合計について補足説明します。
かけ算表の総和
ところで、小野小町が生まれたのは大同4年(809年)頃とされています。かけ算九九は、日本では万葉集の昔から知られていましたが、また九九の表については、『口遊(くちずさみ)天禄元年(970)』で、「九九、八十一」から始まっていたので、小町のいた当時のかけ算の九九の表は次のようなものだったことでしょう。
さて表の答えの合計はいくつになるでしょう。
とりあえず、1の段の九九のかけ算の答えの合計は何でしょう、と聞くと、
1の段の和は1+2+3+4+5+6+7+8+9=45です、と答えてくれることでしょう。
1から10までの和が55なので、55から10ひいて45とか、または、1から9までの合計は、両端の2数ずつの和が10になる組み合わせが4組でき、真中が5だから45、とか答えてくれるでしょう。
2の段は2×(1+2+3+4+5+6+7+8+9)=2×45
3の段は3×(1+2+3+4+5+6+7+8+9)=3×45
・・・・・・
9の段は9×(1+2+3+4+5+6+7+8+9)=9×45
なので、合計は、(1+2+3+4+5+6+7+8+9)×45=45×45
45×45は十の位が共通で一の位の和が10なので特別な計算ができます。4×5=20、5×5=25なので、2025です。
一般に表の総和はかける数の総和とかけられる数の総和の積になります。
(表の総和)=(かける数の総和)×(かけられる数の総和)
という式に書き表せます。このことは、どんなことに応用できるかというと、たとえば、8×9=72の約数の表は、(1、2、4、8)と(1、3、9)の積の表で表せますが、
72の約数の総和は、(1+2+4+8)×(1+3+9)=15×13=195となります。
ちなみに72の約数の個数は、4×3=12(個)です。
立方数の累加
ところで、このかけ算九九の表で、字型というか、
(ガンマ ギリシャ文字の3番目の大文字。小文字はγ)字型というかの総和は、1×1×1、2×2×2、3×3×3、……、9×9×9となっているのです。
例えば、5番目のは、5+10+15+20+25+20+15+10+5=25×5=5×5×5なのです。
ということから、
13+23+33+……+n3=(1+2+3+……+n) 2
ということがわかり、1+2+3+……+n=×n×(n+1)ですから、
13+23+33+……+n3
=(1+2+3+……+n) 2
=×n2×(n+1)2という公式ができます。
この公式は、高校で学ぶことになっていますが、こういう説明なら、小学生でも分かると思います。
【補足1】 小野小町(おののこまち、大同4年(809年)頃 - 延喜元年(901年)頃)
平安前期9世紀頃の女流歌人。六歌仙・三十六歌仙の1人。
日本では、クレオパトラ(エジプト)、楊貴妃(中国)、と並んで、世界3大美人とされています。
西洋では、小野小町のかわりに、ヘレネ(ギリシア神話に出てくる美女)が入ります。
花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせし間に(「古今集」「小倉百人一首」など)
【補足2】 『口遊(くちずさみ)』
天禄元年(970)、当代随一の学者、源為憲(みなもとのためのり)が太政大臣 藤原為光の子供のために作成した教養書で、反復(はんぷく)暗唱(あんしょう)しやすい短文にしてあります。
もともとは、大正年間に山田文法で鳴る国語学者の山田孝雄(やまだよしお)が、昔は、「九九、八十一」から始まって、「一一が一」 で終ったのではないかという仮説を立てましたが、その後、まもなく、数学史家の三上義夫(みかみよしお)が「口遊(くちずさみ)」を見つけ、山田の仮説が正しいことを証明しました。
【補足3】 山田孝雄
現代日本語文法において、山田文法、松下文法、橋本文法、時枝文法の4つが、いわゆる四大文法と呼ばれます。それらは、それぞれ、山田孝雄、松下大三郎、橋本進吉、時枝誠記(ときえだもとき)により提唱されました。今日、中高で使われるのは、このうちの橋本文法で、そのため、橋本文法のことを学校文法とも言います。
【蛇足1】 やさしい高校教科書?
最近、高校の数学の教科書で、算数の苦手な子向けの、漫画のイラストをふんだんに入れた学びやすい教科書ができたということで、どんな本だろうと思っていました。高度で、しかも易しいなら、小学生にもすすめられるのかなと思って、入手してみました。
啓林館の『オーレ数学』を見ると、『数学A』の「場合の数」にはくふうが見えるものの、『数学1』など他は、ただ漫画を加えただけであって、少しも分かりやすくなっていないような印象を私は受けてがっかりしました。それにつけても、中学入試はすごいと思います。難しいことがやさしく書かれています。ですから、たとえ、中学入試をしない人でも中学入試に取り組んだり、研究してみるとよいのではないかと思います。
【蛇足2】 一夜一夜に、人見ごろ
ところで、本文中にどさくさまぎれのように、「一夜、一夜に人見ごろ」という句を入れました。七字五字の調子の良い言葉です。これは、
=1.41421356…
の語呂合わせの暗記法です。意味は、「一夜ごとに人が美しくなっている」という意味だそうです。「人」というのは、女性、特にここでは小野小町を指します。また、「見ごろ」というのは、花などによく使いますが、美しく見えるときということです。他の平方根の覚え方で有名なのは
=1.7320508…(ひとなみにおごれや 人並みにおごれや)
=2.2360679…(ふじさんろくおうむなく 富士山麓鸚鵡鳴く)
=2.64575…(なにむしいない 菜に虫いない)
=316227766…(人麻呂(ひとまろ)は三色に並ぶ7並ぶ6並ぶ)
です。
『進学レーダー』では、今回は問題を2題出したので、順にその解説をしましょう。といっても問題2はすでに先に解説済みですが。
問題1
6けたの整数123ABCが7でも11でも13でも割り切れるとき,下3けたの整数ABCはである。
(2002年 灘中1日目2番)
解法
123123=123×1001です。
また、1001=7×11×13ですから、
123ABC-123123=0、以外には考えられないので、ABC=123です。
答え 123
2002年がちょうど1001年に1度の1001の倍数の年なのです。言い換えると、紀元後第2回の1001の倍数の年なのです。そうして、7、11、13の倍数が見分けやすい、世紀初期の到来を予言しています。
【補足】 123ABC-123123=0以外には
123ABC-123123=0以外には、無理に考えると、123ABC-123123=1001とか反対に123123-123ABC=1001でなければならないはずですが、こういう心配はありませんよね。
問題2
1から10までの立方数の合計
1×1×1+2×2×2+……+10×10×10
を求めなさい。
(この稿のためのオリジナル問題)
解法
1×1×1+2×2×2+……+10×10×10
=(1+2+…+10)×(1+2+…+10)
=55×55
これは特別な計算ができて、
5×6=30、5×5=25、よって、3025 です。
答え 3025
別解
1×1×1+2×2×2+……+9×9×9=2025
と本文にあるので、これに、10×10×10を加える。
2025+10×10×10=3025
答え 3025
「105減算」といわれている問題があります。105は3×5×7=105なので、3や5や7の倍数かどうかは、105をひけるだけひいて小さくしてから、それが3、5、7で割れるかどうかを調べればよいという方法を使う問題です。
すると、これを知った皆さんは、「1001減算」ということに気づくことでしょう。1001は7×11×13=1001なので、7や11や13の倍数かどうかは、1001をひけるだけひいて小さくしてから、それが7、11、13で割れるかどうかを調べればよいという方法を使う問題です。
「1001をひけるだけひいて小さくする」ということは、「1001でわり算をして余りを求める」ということと同じことです。一般に「ひけるだけひいて小さくする」ということは、「わり算をして余りを求める」ということと同じことです。
「千一減算」という代わりに、「アラビアナイト物語(千夜一夜物語)」にかけて、「千一物語」というのも面白いと思います。
言葉は印象を強める効果がありますので、好きな名前を付けて覚えるのも面白いと思います。
『数学セミナー』の「エレガントな解答を求む」に出ていた問題に関連して、次のような問題を作ってみました。
問題
1辺が4cmの立方体ABCD-EFGHがあります。点Aから3cmの点を3辺AB、AD、AE上にとり、P、Q、Rとし、点Gから3cmの点を3辺GH、GF、GC上にとり、それぞれS、T、Uとすると、6つの点P、Q、R、S、T、Uは、正八面体の頂点になります。
この正八面体PQR-STUの体積を求めなさい。
(本稿のためのオリジナル問題)
解法
1辺が6cmの立方体の6面の中心を頂点とする正八面体と合同であるから、
6×6÷2×6÷3=6×6=36(cm3)
【補足】
自分の知っている知識とか、得意技に持ち込むという感覚で解けると思います。
もともとは、『数学セミナー2008年9月号(日本評論社)』の人気コラム「エレガントな解答を求む」に「1辺4の立方体を削って最大の正八面体を作れ」(沼田稔氏出題)という問題があり、12月号に上記の正八面体が答えであると載っていましたが、PQ=QS=はふつうの小学生にはきついかなと思い、「点P、Q、R、S、T、Uは、正八面体の頂点になります。」と問題文で宣言しました。したがって、同誌の問題の改題というのもはばかれるかもしれませんので、オリジナル問題としてみました。オリジナルというのもはばかれる気もしますが。中学入試に出すにはもう少しこなれた表現にくふうすべきでしょう。
沼田稔(ぬまたみのる)氏
岩手大学 教育学部 数学教育 教授
2009年度入学の東京工業大学特別入試を考えてみたいと思います。その前に、二進数について少しおさらいをしましょう。
二進法(2しんほう)というのは、0と1の2つの数字だけを使って数を表すことです。このとき、表された数を二進数(2しんすう)と言います。
0と1だけが使われている整数を1から順に小さい方から書いて下さいと言うと、
1、10、11、100、101、110、111、……
と答えてくれることでしょう。数を、1と0だけで表すことにすると、同じようになります。これを二進数とみると、普段使われている数(十進数)の
1、2、3、4、5、6、7、……
にあたります。
二進数を普通の数(十進数)と区別するために、右下に2とか二とか(2)と書くことも多いです。それによると、
12=1、102=2、112=3、1002=4、
1012=5、1102=6、1112=7、……
となります。手書きの場合はかっこを使って小さく(2)と書いた方がよいでしょう。また、文脈からまぎれのないときには右下の2を省くこともあります。
(1)二進数のたし算・ひき算
二進数のたし算は、1+1=10、1+0=1、0+1=1、0+0=0
が基本です。これを「かけ算の九九」にまねて「たし算の一一」といいます。また、111+1=1000なども押さえておきましょう。
二進数のひき算は、たし算の逆ですから、
10-1=1、1-0=1、1-1=0、0-0=0
が基本です。1000-1=111なども押さえておきましょう。
(2)二進数のかけ算・わり算
二進数のたし算は、1×1=1、1×0=0、0×1=0、0×0=0
が基本です。これを「かけ算の九九」のかわりに「かけ算の一一」といいます。また、111001×1001=10000001なども押さえておきましょう。
二進数のわり算は、かけ算の逆ですから、1×1=1、1×0=0、0×1=0、0×0=0
1÷1=1、0÷1=0が基本です。
1000000001÷1001=111001なども押さえておきましょう。
(3)十進数を二進数に直す方法
例えば十進数23を二進数に直すには2の累乗
1、2、4、8、16、32、……
のうち、できるだけ大きい方からとれば自然にできます。
23=16+7=16+4+3=16+4+2+1=101112
です。計算で求めるには
23÷2=11あまり1なので、
23=2×11+1
11÷2=5あまり1なので、
23=2×(2×5+1)+1=4×5+2×1+1
5÷2=2あまり1なので、
23=4×(2×2+1)+2×1+1
23=16×1+8×0+4×1+2×1+1
23=101112
となります。そのことを、右のように簾除法(れんじょほう、すだれわりざん)で計算すると便利です。最後に残った商と余りを順に書きならべると同じ結果が得られます。簾除法を連除法(れんじょほう)とも書きます。連除法(れんじょほう)とは、複数の数をまとめて割ることであるという考えもあります。
(4)二進数を十進数に直す方法
例えば、二進数101112を十進数に直すときには、
右から順に1、2、4、8、16、……をかけてできた数を合計すればよいのです。
=16+4+2+1=23
となります。
(5)1ばかり並べてできている二進数があって、並んでいる1の個数が合成数の場合は、このもとの数は合成数です。たとえば15個並んでいるとすると5個ずつ3つに分けて
111111111111111
=111110000000000+1111100000+11111
=11111×(10000000000+100000+1)
=11111×10000100001
とできるからです。もちろん、3個ずつに5つに分けて
111111111111111=111×1001001001001
ともできます。
ですから、素数を見つけるときには、1が素数個並んでいる二進数から探せばよいことになります。
このことを発見したのは、マラン・メルセンヌで、1ばかり並べてできている二進数をメルセンヌ数といいます。2の累乗より1小さい数です。
「メルセンヌ数」は「2の累乗」より1小さい。
「2の累乗」 2、4、8、16、32、64、128、……
「メルセンヌ数」1、3、7、15、31、63、127、……
これを二進数で表すと、
「2の累乗」 10、100、1 000、10 000、100 000、1 000 000、10 000 000、……
「メルセンヌ数」1、11、111、1 111、11 111、111 111、1 111 111、……
となります。
メルセンヌ数のうち、素数になっている数をメルセンヌ素数と言います。
メルセンヌ素数の判定法としてリュカテストが知られています。
リュカはパズル『ハノイの塔』の考案者として知られています。
(6)次に並んでいる1の個数が偶数の合成数の場合に限って考えてみましょう。
1111=11×101
111111=111×1001
11111111=1111×10001
1111111111=11111×100001
111111111111=11111111×1000001
……
となります。
(7)ところで、100000000……を100001で割ってみましょう。少し雑に書くと
となると思います。雑ですが上の式から分かると思います。
話が変わりますが、ここで、10000000・・・・・・を100001で割り切れるように書きなおしてみましょう。赤字で示したように書き換えてみますと、
とすれば割り切れます。
つまり、1は1
で割り切れることが分かります。
では、実際に東工大特別入試午前の2番の改題を考えてみましょう。
問題
数列を作ろうと思います。前の数を8倍して7を引いてその次の数を作るというきまりで数列を作ります。そのできる数列のうちには、素数が1個しかない数列もあります。その数列の先頭になる数は何ですか。2つ答えなさい。
(2009年 東工大特別入試午前の2番改題)
解法
「前の数を8倍して7を引いてその次の数を作る」というとき、先頭が7であれば、先頭だけが7(素数)で他は7より大きい7の倍数になる。(8かけて7を引くとできる数は、必ず、もとの数より大きくなる)
よって、「先頭が7の数列」は「素数が1個しかない数列」である。
2つ答えなさいとあるので、もう1つの数列は先頭1、2、3、……の場合について、順にあるまで調べることにする。
もう1つの「素数が1個しかない数列」の先頭をかりに1とすると、その数列は1、1、1、1、1、……となり、素数が1個もない数列になるので、先頭に1は適さない。
先頭をかりに2とすると、2、9、65、513、……となり、これを二進数で表すと、10、1001、1000001、1000000001、……
「8倍して7を引いて次の数を作る」とは「1をひいてから8倍して1をたす」と同じことである。
また8は二進法では1000となる。よってこのあとも1と1の間に並ぶ0が3個ずつ増える数列となる。
ところで、二進数では、1111、111111、11111111のように1が偶数個並ぶ数は合成数である。
1111=11×101、
111111=111×1001、
11111111=1111×10001
を示せば十分であろう。
1000000000001
=111111110000+10001
=11110000×10001+10001
=11110001×10001
となり、先頭を2としたとき、2以外は合成数となる。
よって少なくとも、先頭が2または7のとき、その数列には素数が1個だけ現れる。
答え 2、7
「2つあげよ」とあるので、受験生ならこれでいいと思いますが、予備校の先生が解説を書くなら、他のS1についても言及すべきでしょうね。すると、めちゃくちゃ面倒になります。なお、東京工業大学では、解法を公表していません。上の解法は、問題を小学生に向けて書き換え、もし小学生に教えるとしたらこう説明するかもしれないというものを書いてみたわけです。
もとの問題
問題
漸化式 cn+1=8cn-7(n=1,2,3,…)を満たす c1,c2,c3,… を考える。数列 c1,c2,c3,… に素数がただ1つだけ現れるような正の整数 c1を2つあげよ。
(2009年 東工大特別入試午前の2番)
解法
1つめは、c1=7である。c2以降は7より大きい7の倍数になるから適する。
もう1つを、c1=1とすると、c1=c2=c3= …=1となり不適。
もう1つを、c1=2とすると、
漸化式 cn+1=8cn-7 c2 は、cn+1=8(cn-1)+1と変形できるので、これにc1=2を代入すると、cn=8(n-1)+1となる。
2(n-1)=aとおくと、cn=a3+1=(a+1)(a2-a+1)である。
よって、n≧2のときcn は合成数になる。
答え 2、7
本問題のように、末項(数列の最後の数)が与えられていない、いわゆる無限数列で、素数が1個しかない数列なんて言われると、小学生には無理かもしれません。二進数の計算も特にかけ算やわり算はきついかもしれません。まあ、二進数で考えると、倍数が見破りやすいことがあるということは押さえておいてもよいかもしれません。
大きな整数(奇数)が素数かどうかを調べるのはかなりきついので、同大受験生でも初めの方針が狂うと、かなり難しかったのではないかと思います。
この問題に関連する問題が1989年の学習院大学で次のように出題されています。
問題
nを正の整数とする時、9n-8n-1は64の倍数であることを示せ。
(1989年 学習院大学)
解法
n=1のとき、原式=9-8-1=0 よって64の倍数であり、成り立つ。
9は二進法では10012と表される。10012の累積を2、3やってみると、次のようになる。
これが10000002(=64)で割ったときの余りについて考えるときには赤い部分は無視してよい。
すると、10012(=9)をかけるごとに余りは10002(=8)増えるので、-8nと相殺される。
別解
n=1のとき、原式=9-8-1=0 よって64の倍数であり、成り立つ。
n=kのとき、9k-8k-1=(64の倍数)が成り立つとすると、
n=k+1のとき、
9k+1-8(k+1)-1
=9×9k-8k-8-1
=9×(9k-8k-1)+64k=(64の倍数)
なので、すべての正の整数nで成り立つ。
「1のとき成り立つ」、「成り立つものの次も成り立つ」という2つのことが言えればすべて成り立つことが言えたことになります。無限のことを有限で言及できるこのすごい方法を「算数的帰納法(さんすうてききのうほう)」と言います。(本当は「数学的帰納法」と言います。)
「算数的帰納法」を使わなければ解けない問題が中学入試に出ることはありません。そもそも、無限について説明する問題は非常に少ないのですが、どんどん接近している感じもします。やがてはバンバン出るかもしれません。
私は大学入試問題を系統的に研究しているわけではありません。この問題は『数学セミナー2008年12月号』に載っていたのですが、そこには、次のような問題もありました。
問題
次の各々の場合について与えられた等式を満たすm、nの値を求めなさい。
解法
答え (1)m=3、n=3 (2)m=1、n=1
『数学セミナー』にしてはやさしいと思った方もおられるでしょう。『数学セミナー』の名誉?のために言うと、これは話の前ふりの問題で、この後だんだん難しくなっていきます。
さて、私の「算数エッセー」も2周年を終えました。3年目は、内容は今のところまだ白紙ですが、新しい読者のために最初はレベルを下げてじわじわとレベルを上げることになるかと思います。本稿は、日本一算数ができる小学生になりたいという、普通の小学生向けに書いています。数学教育に関心ある学者先生から「よく書けている」と好評をいただいているようですが、プレッシャーに感じて厳密さを狙ったりしないで、難しいことをわかりやすく書いていきたいと思います。1年間どうもありがとうございました。また今回も最後までご覧いただきありがとうございました。