日能研教務部算数科 真藤 啓
本稿は、次のそれぞれの算数エッセーのうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことを補足するために、開設しています。タイトルは『進学レーダー』のものとそろえ、WEB掲載のタイミングも『進学レーダー』の発行日に連動して毎月15日に行います。
けれども、毎月それらの文を読まなくても本稿が読めるようにも心がけています。受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いています。
『進学レーダー』1月号(みくに出版) 算数エッセー「算数好きになる薬 失敗授業」
『キッズレーダー』1月号(日能研) 算数エッセー「おいしい算数 つみ木の問題」
『学校選択』1月号(全国中学入試センター) 算数エッセー「算数好きのきっかけをもとめて 三等辺四角形」
『キッズレーダー』では、あまり知識がいらない、しかし、むずかしい問題ということで、今回は、2008年度の長崎県立中学校(長崎東、佐世保北中学校共通)の入学選抜適性試験を題材に、積木を片づける問題を取り上げてみました。実際の問題は次の通りです。大人でもけっこうむずかしいのではないかと思いますが、どうでしたでしょうか。
あきらさんは、木材を使っていろいろな積木を作りました。
まこと 「お兄さんが作ったこの積木、いろいろな形があって楽しかったよ。」
あきら 「それはよかった。」
まこと 「でも、積木入れの箱の中にうまく入らないよ。1個多いんじゃないかな。」
あきら 「本当だ。別の積木が1個まざっているよ。」
※ 図1と図2の点線(・・・・・・・・・・・)は、積木の大きさをわかりやすく表すために等しい間かくでつけたものであり、
もようではありません。
問題4
図1のあ~さで示した11個の積木のうち10個の積木を並べると、図2の箱の中にすき間なく入ります。余った1個の積木の記号を書きなさい。
また、箱の中にすき間なく入れるためにはどのように入れるとよいか、あなたの考えた方法を、下の例にならって解答用紙の図の中にかき入れなさい。
ただし、図にかいた積木に記号を書く必要はありません。
(2008年 長崎県立中学校入学者選抜適性試験)
解説
まず、三角形を並べ合わせて長方形にするというのが第一観でしょう。大きめの三角形に狙いをつけて、長方形で囲んでみます。
大きめの三角形を長方形で囲む。
ちょうどうまい具合にあうけ、いえおでそれぞれ長方形ができることが分かりました。
この問題ではうまい具合に2つの長方形になりましたが、一般には、L字型にしかならないというようなこともあり得ます。L字型だと作るのが少し難しくなりますが、いったん形ができるとそのあとは形が限定されるのでかえって楽になるかも知れません。
何気なさそうに「大きめの三角形に狙いをつけて、長方形で囲んでみます。」と書きましたが、これは強力な手であって、ここに気づけばこの問題はあらかたできたようなものです。難しそうな問題が、長方形だけになって、ぐんと見通しがよくなりますので、「あっ」と声を上げたくなるほどうれしくなるところだと思います。
長方形で囲むということは方眼マス目の問題の常とう手段ですが、こんなところにも使えるわけです。
こうして長方形ばかりにすると、積木は55マス分あり、箱は小さい正方形のマスがたてに6マス、横に8マスだから全部で48マスあるので、7マス分のかがよぶんにまぎれこんでいたことが分かります。
ここまできたら、きとこにさを合わせて長方形きこさを作り、長方形おえいを回転させて、たて長の長方形にすると、ちょうどうまくおさまります。
この回転してたて長にするところは、実際の積木だとたいていの人がすぐ気づきますが、紙の上だと分かりにくく思う人もいます。そういう人は、段ボールなど厚手の紙か、いらなくなったフェルト生地などで作って練習してみるとよいでしょう。ただ、試験はたいてい紙で出るので、分かった後で、紙の上だけでも解けるようにしておくとよいでしょう。
解答 記号 か
図例
そういえば旅行かばんにいろいろな形のおみやげをつめこむのがとてもうまい人がいます。そういう人はこういうのもうまいのかも知れないと思い出してしまいました。
『つみ木の問題』という題をつけましたが、「裁(た)ち合わせ」という種類の問題です。この種の問題は「タングラム」とか、「クロスパズル(ラッキーパズル)」等というシルエットパズルを片づけるときに現れる問題です。
日本にも江戸時代の『清少納言の知恵板(ちえのいた)』という本に「清少納言の知恵板」というシルエットパズルがのっています。とてもはやったそうです。ちょっと見では簡単そうですがけっこう難しいので、古くから人気があったのでしょう。中学入試にもたまに出ますので、軽く遊んでおくとよいかも知れません。
付記1 裁つ(たつ)
「裁つ」紙や布などを、ある寸法に切ること。特に、衣服に仕立てるために型に合わせて布地を切ること。「截つ」とも書き、「絶つ」や「断つ」と同語源とされる。
縫(ぬ)うという字と並べて、裁縫(さいほう)となる。
孟母断機(もうぼだんき) 物事を途中で止める愚かさを戒めるたとえ。
「裁つ」と同語源とされる「断つ」という言葉は、四字熟語孟母断機にも出てきます。孟子(もうし)が学業半ばにして帰省した際、孟子の母がおこって、織っていた織布を断ち切って、孟子に言いました。「勉強する道理は、布を織る道理と同じです。少しずつ少しずつ丁寧に継続して編んでいって、ようやくひとつの役に立つ布を織ることができます。あなたが本を読むのも同様で、努力に努力を重ねて、長い時間の蓄積を通じて、ようやく業績ができるのです。あなたのように努力しないで、帰ってきて、どうして大事業を成し遂げることができますか?」孟子はそれを聞いてたいへん恥ずかしく思って、それから発奮して学び、ついに一流の博学高徳の聖人になりました。
出典は『列女伝』(中国のWEBサイトで調べると、大体同じものがたくさんありました。)
孟母三遷(もうぼさんせん) 幼児の教育には環境が大切であるという教え。
孟子の母についての四字熟語として有名なもう1つは孟母三遷です。孟子が幼い頃、彼の家は墓地のすぐ近くにあった。そのためいつも、泣いて会葬する隊列の様子をまねて葬式ごっこをして遊んでいました。孟子の母は、市場の近くに引っ越しました。豚を殺す声や物売りの声が一日中聞こえるので、孟子はそのまねをして商売ごっこをして遊びました。再び引っ越して、今度は学校の近くに住みました。孟子は、学生がやっている祭礼の儀式や、礼儀作法の真似事をして遊ぶようになりました。孟子の母はここに腰を落着けることにしました。やがて孟子は成長すると、六経を学び、後に儒家を代表する人となったのでした。
出典はこれも『列女伝』(中国のWEBサイトで調べると、微妙に違うものがたくさんありました。)
裁断(さいだん)
裁断は「裁」も「断」も切ることで、物を断ち切ることをいいます。特に、型に合わせて布・紙・革などを切ること。また、 物事の善悪・適否を判断して決めることをいい、「裁断を下す」「裁断を仰ぐ」などのように使われます。「わかる」という字は、「分かる」、「判る」、「解かる」などが使われますが、いずれも、刀という部分があるのが面白いと思います。
※「判」という字は「半」と「刀」でできた意味で、刀で半分にすることから来た文字です。
付記2 清少納言(せいしょうなごん)
紫式部と並び称される平安中期の女流文学者。本名はわかっていません。父は清原元輔(きよはらのもとすけ)、曾祖父は深養父(ふかやぶ)。正暦4年(993)ごろから一条天皇の中宮定子(ていし)に仕え、和漢の学才をもって寵(ちょう)を受けた。随筆「枕草子」、家集「清少納言集」など。生まれた年やなくなった年もはっきり分かっていません。
付記3 紫式部(むらさきしきぶ) (973 頃-1014 頃)
平安中期の女流作家・歌人。藤原為時(ためとき)の娘。はじめ藤式部と呼ばれました。藤原宣孝(のぶたか)と結婚、大弐三位を生むがまもなく夫と死別します。その後、『源氏物語』の執筆を始めます。才媛のほまれ高く、一条天皇上東門院中宮彰子(しょうし)に仕え、『白氏文集』を進講しました。藤原道長や藤原公任(きんとう)らとの交流もありました。『源氏物語』のほかに『紫式部日記』『紫式部集』などの著があります。
父為時が、兄惟規(のぶのり)に漢籍(中国からはいってきた漢字ばかりで書かれた本)を読ませていたときのことです。兄が読めずにいたところ、そばで聞いていた妹の紫式部がすらすらと暗唱しました。そのとき父は感心して、「何と賢い子だ。お前が男だったらどんなに良かっただろう。残念なことだ。」といったと伝えられています。紫式部は父からきちんと勉強を教わったのではありません。
直接教えられているより、興味を持って耳をそばだてて聞いている弟や妹の方が分かることがよくあるようです。あとで述べますが、心にブレーキがかかりにくいということもありそうです。
一人っ子の場合、子どもに聞えよがしに、お父さんがお母さんに、(逆でもよいが)勉強を教えると、子どもが私も勉強がしたいと言い出すかもしれません。
付記4 ムラサキシキブ【紫式部】
クマツヅラ科の落葉低木。日本北海道南部以南部各地の山野に生えるが、また、果実が紫色で美しいので観賞用に庭木としても栽培される。高さ約3メートル。6、7月ごろ、葉の付け根に淡紫色の散房花序をつくり、秋に紫色の球形の実を結ぶ。秋の季語。
裁ち合わせパズルとは、裁って合わせるパズルであり、もともとは切り方・並べ方を問う問題でした。
正方形2個分の長方形を1個の正方形にする『算元記(1657年藤岡重茂之)』
長方形を1個の正方形にする『改算記(1659年山田正重)』
正方形5個分の図形を1個の正方形にする『勘者御伽草紙(1743年 中根彦循(なかねげんじゅん)』
その他、穴のあいた長方形を穴のない長方形にする裁ち合わせ
ピタゴラスの定理の証明はたくさんありますが、その中に、裁ち合わせを利用したものも多いです。また、「タングラム」や「清少納言の知恵板」や「ラッキーパズル」などのシルエットパズルを片づけるときにも、そして、場合によっては積木を片づけるときにも、「裁ち合わせ」の問題となります。
シルエットパズルはいろいろなものがありますが、有名なのは「タングラム」「ラッキーパズル」そして「清少納言の知恵板」でしょう。
各パズルの出典
参考文献
『新数学辞典(一松 信氏 他 大阪書籍)』
『休日のタングラム』
『休日のタングラム』和々草 奥田博(わわくさ おくだひろし 鎌倉市 会社員)氏のサイト
実際にタングラムでシルエット遊びをしてみたい方などにお勧めします。
http://www1.kamakuranet.ne.jp/usasan/frame.htm
『進学レーダ―』では、フランスの劇作家ウージェーヌ・イヨネスコの『授業(安堂信也・木村光一 共訳 白水社)』をご紹介しました。
全博士号の短期取得を狙うという生徒に簡単なたし算を教えたあとで、ひき算を教えます。
教授 さて今度はひき算をやってみましょう。お疲れでなかったら答えてくださいよ。四ひく三は?
生徒 四ひく三?…四ひく三?
教授 そうです。つまり、四から三だけとるんですよ。
生徒 それは七ですか?
教授 お言葉を返してまことに失礼ですが、四ひく三は七ではないんですよ。あなたは混同しておられる、四たす三は七です。四ひく三は七ではありません、…たし算はもうやめたんです。今度はひき算をやっているんですよ。
生徒 (理解しようと努力して)はい…
教授 四ひく三は…いくつですかな?
生徒 四。
教授 いや違いますよお嬢さん。
生徒 じゃあ、三?
教授 残念ですがそうじゃあないと申し上げねばならん、…お許しいただきたい。
生徒 四ひく三…四ひく三ですか?でも、まさか十じゃあありませんですわね?
ひき算の観念がまるでない生徒に、ひき算を教えようとするので空回りの連続です。1950年に書かれたものですが、かなり長く公演されているので、こうした部分が漫才のようで笑えるのかもしれません。しかし、小学生相手の塾教師としてはなぜかすなおに笑えません。もちろん、一けたのひき算を教える時にこんなに苦労することはありませんが、少し題材を変えたら同じようなことがよくあると、つい思ってしまいます。
分かるということは、脳の中に「分かる回路」が作られることではないかと思います。
そのとき、脳に負荷がかかるのだと思います。そのため、脳の中で負荷から守るために「分かってはいけない」というブレーキがかかるのだと思います。もちろん「分かろう」ともします。つまり、車でいえばアクセルとブレーキを同時に踏んでいるという状態になるのではないでしょうか。ですから、教える方は、筋道を立てて教えさえすれば分かるはずだとばかりにアクセルのかけ方を教えるだけでなく、「分かってはいけない」というブレーキを緩める工夫が必要です。生徒がすでに分かっている生活の知識などを利用することになります。また、ときにはブレーキを緩めさせるために関連雑談を入れることも必要でしょう。
学校の授業などもせっかくですから、よく聞く方がよいです。分かっていたつもりだったことをよく深く分かるためということもありますし、分かっていることをことばで説明するということを学ぶという意味もありますが、心のブレーキがほとんどかからない学びもはさんだ方が良いと思います。
【蛇足1】 ウージェーヌ・イヨネスコ(1909年11月26日 - 1994年3月28日)
イヨネスコはルーマニア出身のフランスの劇作家です。アイルランド出身のベケットと並び称される、フランスの不条理演劇を代表する作家の一人として知られています。不条理演劇というのは決まった意味のない、ナンセンスな演劇というようなことのようです。演劇とはこういうものだと決めてかかる先入観を無視した当時の新しい演劇です。
1950年に『禿の女歌手』を、1951年に『授業』を、1952年には『椅子』を発表。古典劇の規則を無視した「不条理」な作風が、発表当時は受け入れられませんでしたが、50年代後半より脚光を浴び始め、現代演劇史に大きな足跡を残すことになりました。パリのセーヌ左岸にある小劇場の『ユシェット座』では、1957年以来、現在に至るまで継続的に『禿の女歌手』と『授業』の上演を行っています。
『授業』での教授役は日本では故中村伸郎の当たり役になっていました。
後のイヨネスコは戯曲を発表する傍ら、政治への関心を示しました。イヨネスコのもとには東ヨーロッパ出身の政治亡命者が多く集まっていたため、イヨネスコは、当時のフランスではとかく理想的に捉えられていた、共産主義社会の現実に通じていました。だから、ソ連を初めとする共産主義体制、さらにサルトルに代表される左派知識人の主張を幻想であるとして厳しく批判し続けました。1966年には『渇きと飢え』がコメディ・フランセーズで上演されるなど、イヨネスコの名声は年を追うごとに高まり、1970年には、その功績により、アカデミー・フランセーズ会員に選出されました。1994年に亡くなり、パリのモンパルナス墓地に埋葬されました。
【蛇足2】 サミュエル・ベケット
アイルランド出身のフランスの劇作家。1969年にノーベル文学賞受賞。代表作『ゴドーを待ちながら』
【蛇足3】 中村伸郎(なかむら のぶお、1908年9月14日 - 1991年7月5日)
中村伸郎は、北海道小樽市出身の俳優。
幼少期、年の離れた姉夫婦のもとに養子入りし、東京に転居しました。養父となったのは、小松製作所初代社長の中村税です。東京開成中学校(現開成高校)卒業。青年期には画家を志しますが、断念して舞台俳優となりました。『築地座』、『文学座』、『NLT』、『浪曼劇場』『劇団雲』を経て、芥川比呂志らと演劇集団『円』を結成し、芥川亡き後は同劇団の代表者を務めました。『円』の現代表は橋爪功です
舞台では1972年より11年間にわたって、ウージェーヌ・イヨネスコ作の『授業』を毎週金曜日に渋谷の小劇場『ジァン・ジァン』で欠かさず上演し伝説となりました。また、1970年代中頃からは別役実演出作品の常連となり、ほとんど全て出演し、別役作品の顔というべき存在でした。
著書
『おれのことなら放つといて』(随筆・俳句集 第34回日本エッセイストクラブ賞)早川書房、1986年。
『永くもがなの酒びたり』(随筆・俳句集 遺作)早川書房、1991年。
さて、進学レーダでは、関連問題として、次の問題を載せました。何かひき算の問題をと思ったのですが、今年の難関校の中には見当たりませんでしたので、かわりに麻布中の「小町算」を取り上げてみました。
問題
次の□にたし算の記号+か,かけ算の記号×のいずれかを入れて計算をします。次の問いに答えなさい。
(2008年 麻布中4番)
答え
解説
小さい順に並べると,以下のようになる。
1×2+3+4=9
1+2+3+4=10 (1×2×3+4=10)
1+2×3+4=11
1×2+3×4=14
1+2+3×4=15
1×2×3×4=24
1+2×3×4=25
参考
3つの□それぞれに「+」か「×」をあてはめてできる式は2×2×2=8(通り)なので,それらをすべて調べる。
8通りあるので、それをそれぞれの計算結果を小さい順に答える。ただし,計算結果が10になるものが2つあるので、どちらかを答える。
解説
(2) 4つの□それぞれに「+」か「×」をあてはめてできる式は2×2×2×2=16(通り)。
それらをすべて調べると次のようになる。
1+2+3+4+5=15 2+3+4+5+6=20
1×2+3+4+5=14 2×3+4+5+6=21
1+2×3+4+5=16 2+3×4+5+6=25
1+2+3×4+5=20 2+3+4×5+6=31
1+2+3+4×5=26 2+3+4+5×6=39
1×2×3+4+5=15 2×3×4+5+6=35
1×2+3×4+5=19 2×3+4×5+6=32
1×2+3+4×5=25 2×3+4+5×6=40
1+2×3×4+5=30 2+3×4×5+6=68
1+2×3+4×5=27 2+3×4+5×6=44
1+2+3×4×5=63 2+3+4×5×6=125
1×2×3×4+5=29 2×3×4×5+6=126
1×2×3+4×5=26 2×3×4+5×6=54
1×2+3×4×5=62 2×3+4×5×6=126
1+2×3×4×5=121 2+3×4×5×6=362
1×2×3×4×5=120 2×3×4×5×6=720
以上より、
1+2+3×4+5=2+3+4+5+6、
1×2+3+4×5=2+3×4+5+6の2通りとなる。
参考
実際には、右辺(等号=の右側)はあまり大きなかけ算は省いてもよいでしょう。いったん解けると、次のような別解に思い当たるかもしれません。
別解
与えられた式で、左辺(等号=の左側)を1+2+3+4+5=15とくらべて次のように変えると、
「1+2→1×2」は1減る。
「2+3→2×3」は1増える。
「3+4→3×4」は5増える。
「4+5→4×5」は11増える。
右辺(等号=の右側)を次のようにすると2+3+4+5+6=20とくらべて次のように変えると、
「2+3→2×3」は1増える。
「3+4→3×4」は5増える。
「4+5→4×5」は11増える。
「5+6→5×6」は19増える。
よって、
と分かります。右辺の式の答えが小さい方から順に、書き出してその都度それが右辺でも作れるかどうかを調べると、すぐできますが、いっぺんには気づきにくいので、最初は、解法のように書き出して比べるとよいでしょう。いったんできると、別解が思いつくかもしれませんが、はじめから狙いすぎるとかえって時間のロスにつながり危険です。いったんは素朴な解き方を考え、しっかり答えがわかったら、いろいろ考えてみましょう。
先月『キッズレーダー』の「魔女ノンカン」で扱った、2008年筑波大駒場中の問題とも少しかぶる問題です。キッズレーダーでは、(1)だけを扱ったのですが、実は(3)まである次のような問題です。
問題
何枚かのコインが入っている箱があります。この箱に魔法(まほう)をかけるたびに,箱の中のコインの枚数が次のように増えます。
魔法Aをかけると,コインの枚数が2倍になります。
魔法Bをかけると,コインの枚数が3枚増えます。
たとえば,箱の中に5枚のコインが入っているときに,魔法をA,A,Bの順に3回かけると,箱の中のコインは23枚になります。
はじめに,箱の中にコインが1枚だけ入っています。この箱に魔法を何回かかけるとき,次の問いに答えなさい。
(2008年 筑波大駒場中1番)
(注意) 赤字のところは、実際の問題ではアンダーライン(下線)や傍点(上に点`)になっています。
解法
2をかけるということは
(3で割って1余る数)×2=(3で割って2余る数)
(3で割って2余る数)×2=(3で割って1余る数)
(3で割って割り切れる数)×2=(3で割って割り切れる数)
3を足すということは
(3で割って1余る数)+3=(3で割って1余る数)
(3で割って2余る数)+3=(3で割って2余る数)
(3で割って割り切れる数)+3=(3で割って割り切れる数)
だから、初めの数が3の倍数のときには、2倍しても3を足しても3の倍数になるが、初めの数が3の倍数でない時には、2倍しても3を足しても3の倍数にならない。
1があり、2ができるので、あとは次々に3を加えれば、すべての(3で割って1余る数)と(3で割って2余る数)ができるし、3の倍数は一切できない。
2008=3×669+1なので、3の倍数669個ができない。
答え
参考
筑波大駒場中はキョウコマ(教育大学付属大駒場中)と言われた昔から、他校と比べて必ずしも易しくなかったのですが、たいていは、全部書き出せば解けるという問題でした。2008までなどの範囲で考えるという問題は出さなかったのです。
したがって、昔は、わからない時は、たとえ100でも200までであったとしても書き出せば解ける。と言われていて、「整数を余りで分類することを利用する」などというと苦情を言われかねない感じでしたが、この問題では、2008まで書いていたら、途中で終わってしまいます。最近は「整数をわり算の余りで分類する」といった、一般化した大まかな捉え方が望まれるようになっているのです。
二等辺三角形というのは聞いたことがあっても三等辺四角形というのは聞いたことがない人も多いのではないかと思います。それもそのはず、そういう言葉はないのです。ニックネームなのです。こういうのは人から言われたのを覚えようということではなく、自分もそのニックネームが気に入ったので使おうというなら使ってもよいと思います。
休み時間に出したものがいつの間に広がったのか算数オリンピックには出始めているので、中学入試に波及しかねません。頭の体操としてひまなときに考えて遊んでおきましょう。
問題1
図の四角形ABCDで3辺BC、CD、DAの長さが等しく、角Cが90度、角Dが150度のとき、角Aは何度ですか。
(1993年 算数オリンピック)
解説
問題1は中学入試では、もともとは、正方形と正三角形を作ってできた5角形を切ってできる図で、すでによく出ていますが、いったんこうして作った図の一部を消すと難問に映るようです。
答え 45度
問題2
四角形ABCDで3辺BC、CD、DAの長さが等しく、角C、角Dが次のとき、Aは何度ですか。
(2007年 算数オリンピック類題)
問題2の解法
108÷2=54(度)と求められます。
答え (1)(2)とも 54度
では、オリジナル問題です。
問題
四角形ABCDで3辺BC、CD、DAの長さが等しく、角Cが80度、角Dが160度のとき、角Aは何度ですか。
(オリジナル問題)
解法
このオリジナル問題はどうやってつくったかというと、正三角形をかいて、図のように80度40度(和が120度なら何でもとよい)に接点を引いて、作った角を含む2つの二等辺三角形をもとの正三角形にくっつけてかくとできます。
よって、40°です。
こうしてできる三等辺四角形はまだ出ていません。たぶん、当分出ないと思います。
ただし、同じようでも、次のように正三角形をかいて、80度40度に接点を引いて、作った角を含む2つの二等辺三角形をもとの正三角形にくっつけてかくとできる四角形は、三等辺四角形ではありませんが、この形だけは、「ラングレーの問題」と呼ばれる有名な形なので、これまでにしばしば出ています。(といっても30年間で10題以下)。三等辺四角形を含め、この種の問題は整角四角形といわれています。中学入試の整角四角形では、「ラングレーの問題」だけは必須です。オリジナル問題として示した問題など他の形では、まだ出ませんが、こっそり遊んでおきましょう。
ラングレーの問題とは次のような問題です。
ラングレーの問題は上の、解法や別解として示したものが有名です。他に7通りほどの解法が知られていますが、他の解法は補助線が多くやや面倒です。いずれの解法にも共通することは、図の中にかいていない正三角形を見出すことです。入試は過去問題だけが解ければよいというものではありませんので、少し広げてとらえておくことが望まれます。
ラングレーの問題は中学入試としては、灘中が最初です。『数学セミナー』に出たものはいち早く出題されました。今のところ、すべて中学入試でのラングレーの問題では、上の「解法」のように解くように誘導があるので必ずしも難しくはないのですが、よく知られてきているので、そのうち補助線が少なくなる兆しもあります。というわけで、次に、攻玉社中(特別選抜)について考えてみましょう。
問題
(3)右の図にあるような図形の角度°を求めたいと思います。
(2008年 攻玉社中(特別選抜)2番の(3))
解法
(注意)
もっとも、同校では、角DAC(°)と角DFC=60度とは円周角と中心角の関係になっているから、60÷2=30(°)と求めるように、わざわざ、円周角と中心角の関係を導入していますが、(1)からほとんど自明なので、すこぶる筋悪な導入の問題といえるかも知れません。
2008年の早稲田大学(教育)1番の(3)の問題は相似の中心を求める問題。これは、中学入試にはないが、表現を変えれば小学生にも解けます。
まず、着眼点を強調して話を進めたいと思います。中学入試風なアレンジ問題に取り組んでなれてから、早稲田大学の問題にチャレンジしてみてください。
【練習問題】
右の図のように30度と60度の角を持つ直角三角形を大、中、小3個かきました。大と中の三角形の相似比は3:2で、中と小の三角形の相似比も3:2です。
中の三角形は大の三角形をある点Qを中心に120度回転させ、点Qを中心にに縮小したものと見ることができます。また、小の三角形は中の三角形を同じ点Qを中心に60度回転させ、点Qを中心に
に縮小したものと見ることができます。この点Qの位置はどこにありますか。作図して示しなさい。
(2008年 早稲田大学(教育)1番の(3)改題)
解法
もう1つの相似な「極小直角三角形」をかくと、「極小直角三角形」は「大の三角形」を点Qを中心に180度回転させ、点Qを中心にに縮小したものと見ることができます。すなわち、「極小直角三角形」と「大の三角形」とは相似の位置になるので、対応点を結ぶとよい。
別解
2つの60度ができるために、正三角形の外接円の交点として求めればよい。
では、もとにした問題です。
【もとにした問題】
(2008年 早稲田大学(教育)1番の(3))
解法
求める点をQ(a、b)と呼ぶと、QO、Q P0 、Q P1、Q P2、は60度ずつ回転しながら、長さは倍ずつになっているので、Qは、OP2、を27:8に内分する点である。
P0P1=×
=
、P1P2=
×
=
なので、
P2の座標は、
+
-
=
P2のy座標は、1+=
よってQの座標は、a=
×
=
y座標は、b=×
=
答え ( 、
)
参考
答えにが残るので、小学生にはこれ以上簡単には説明できません。なので、この問題は、改題ができれば当面よいということにしましょう。
今回は「授業」について述べてみました。授業といえば、アルフォンス・ドーデの『最後の授業』やクラベルの『23分間の奇跡』(訳 青島幸男)についても触れたかったのですが、長くなりましたので、またの機会にしましょう。
本稿2008年度8月号で、カタラン数について書きましたが、そこでは『数学セミナー』に連載中の『組合せ論逍遥』なども参考にさせていただきました。ところが、筆者で岡山大学の大学院教授の山田裕史氏から、メールをいただきました。大学院の先生にも読んでいただいているとはちょっとビビりますが、氏のメールには
カタラン数についての面白いエッセーで参考になりました。
とも書いてありました。科学者がノーベル賞を取ったときこんな気持ちになるのではないか、という気持ちになりました。ありがとうございます。リップサービスとは思いますが、編集部の方、ここんところ赤太文字でお願いします。
氏によると、カタラン数の使い道がまた広がりそうです。しかし、少し難しくなるので、ここでは省きます。私自身が少し勉強して、小学生に伝えられるものかどうか研究してお伝えするかもしれません。なお、『数学セミナー』の連載『組合せ論逍遥』は2009年3月号までで、今月12日発売の1月号では「対称群の表現」、2月号では「対称群の指標表」、最終回では、「シューア函数」を掲載されるとのことです。
時期は未定ですが、単行本になる予定と聞いております。そのころ改めてご紹介したいと思います。
本稿を見て、難しいという人には難しいかもしれませんが、易しすぎる、もっとちゃんと学びたいという方には、レベルは大学生向けの本物の数学の本ですが、分かりやすく楽しくやさしい配慮のある本ですので、中学入試にも出る最近話題の「カタラン数」や「組合せ」(「組み合わせ」を数学では「組合せ」と書きます)についてしっかり読んでみたい方にお勧めします。
山田裕史(やまだひろふみ)氏 岡山大学 大学院自然科学研究科教授
主な研究分野 シューア函数、アフィンリー環、対称群
岡山大学のサイト
http://www.math.okayama-u.ac.jp/staff-j.html
今回も長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。