日能研教務部算数科 真藤 啓
本稿は、次のそれぞれの算数エッセーのうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことを補足するために、開設しています。タイトルは『進学レーダー』のものとそろえ、WEB掲載のタイミングも『進学レーダー』の発行日に連動して毎月15日に行います。
けれども、毎月それらの文を読まなくても本稿が読めるようにも心がけています。受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いています。
『進学レーダー』8月号(みくに出版) 算数エッセー「算数好きになる薬 バラのゆくえ」
『キッズレーダー』8月号(日能研) 算数エッセー「おいしい算数 恐ろしきは算の道」
『学校選択』8月号(全国中学入試センター) 算数エッセー「算数好きのきっかけをもとめて 表意文字と算数」
カタランは、1814年にベルギーのブリュージュで「ジョセフカタラン」という名の「フランス宝石商」の家に生まれ、一人っ子で育ちました。
カタランというのはカタルーニャ人という意味もあるので、もともとはカタルーニャ州出身かと思われます。カタルーニャ州はスペインの自治州で州都はバルセロナです。
バルセロナといえば、1992年のバルセロナオリンピックの開催地でしたので聞き覚えがあるでしょう。算数の関連の話題としては、メートル法のメートルの単位を作る時に北極から赤道までの長さを実際に測量することとなりました。しかし、その長さを本当に実際に測量するのは不可能に近いので、パリを通過する同一経線上にあるフランス北岸のダンケルクからスペイン南岸のバルセロナまでの長さを三角測量を繰り返して計測し、その長さと両都市の緯度差から北極から赤道までの長さを求めることとしました。現在、バルセロナでは日本のアニメがとても人気があるそうです。
1825年に、カタランはフランスのパリへ旅立って、エコール・ポリテクニークで数学を学びました。エコール・ポリテクニークは言わずと知れた理系の世界的な大学です。(大学とは言わずに一段上のエリート専門機関という意味で区別してグランゼコールと言いますが。)天才ガロアが入学できなかったことでも知られています。
つまり、カタランはなかなかできる子だったのですが、このグランゼコールをなかなか卒業できませんでした。ところで、彼は1833年にJ・リウビル教授に会っています。1834年に、彼は大学から追い出されて、シャロン=シュル=マルヌへ行きました。そこで、彼は勉強をやりなおしました。
シャロン=シュル=マルヌは1998年に現名称シャロン=アン=シャンパーニュと変更したフランスの北部に位置する都市で、シャンパーニュ=アルデンヌ地域圏の首府、マルヌ県の県庁所在地です。
カタランは頑張って勉強してエコール・ポリテクニークに再入学し、リウビルの助けを借りて、1841年に数学の彼の学位を得てやっとこさで卒業しました。
その後、彼は、画法幾何学を教えるために、シャルルマーニュ・カレッジに行きました。
この年、西洋のあちこちで革命がはやりました。彼は1848年の革命に参加し、政治的に活発な活動をしました。思想的には左翼で深みにはまり、その後、フランスの下院(衆議院)議員になりました。後の1849年に、カタランはフランスの警察に違法な書類がないかを家宅捜査されたこともありますが、何も見つかりませんでした。
1865年リェージュ大学は彼を分析学の教授に任命しました。考えるところがあり、1873年に雑誌編集者になりました。 1883年に、彼は整数論の分野で、ベルギーの科学アカデミーのために働きました。 彼は、再びリェージュ大学の教授に任命された年に亡くなりました。
カタランは連分数、画法幾何学、整数論と組合せ理論に取り組みました。
1. カタラン予想
カタラン予想は、カタランによって1844年に出版されて、158年後の2002年にプレダ・ミハイレスクにより肯定的に証明されました。カタラン予想とは次のようなことです。
xa-yb=1 、x, a, y, b>1
上記を満たす自然数解の組み合わせは
x=3, a=2, y=2, b=3.
だけであるというものです。
32-23=9-8=1ですから、x=3, a=2, y=2, b=3であれば成り立つのは簡単にわかりますが、これしかないと証明するためには158年もかかったのです。
プレダ・ミハイレスク(1955年3月23日 - )は、ルーマニアの数学者。チューリッヒ工科大学を卒業し、ドイツのパーダーボルン大学で研究に励み、2002年に「カタラン予想」を証明したことにより注目されるようになりました。2004年に発表しました。2005年からはドイツのゲッティンゲン大学教授になりました。このときから、「カタラン予想」は「ミハイレスクの定理」とも言います。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校を通称チューリッヒ工科大学といいます。スイス連邦工科大学は、1855年に設立されました。現在では、チューリッヒ校,ロザンヌ校、及び、4つの国立研究機関から成っています。建築学科、土木工学科、機械工学科、化学、林学に加えて、数学・自然科学・文学・社会学・政治学を包括する学科があり、アインシュタインやレントゲンなどが学んだことでも知られます。
ゲッティンゲン大学
ドイツのゲッティンゲンに位置する大学。ハノーファー選帝侯ゲオルク・アウグスト(後の英国王ジョージ2世)によって1737年に創設されました。この創設者の名にちなんで、正式名称はゲオルク・アウグスト大学と言います。ノーベル賞受賞者を40名輩出しています。
数学に関しては19世紀の中頃から20世紀の前半にかけて、ガウス、リーマン、クライン、ヒルベルト、ゲルハルト・ゲンツェン、ハッセ、ワイルなど、多くの有能な数学者が集り、世界の研究の中心としての役割を果たしました。そのため、第二次世界大戦中は、イギリスとドイツはケンブリッジとゲッティンゲンを爆撃しないという紳士協定を結んでいました。日本人では、仁科芳雄、本多光太郎などが在籍していた。札幌農学校(現北海道大学)初代教頭クラーク博士もここに留学しており、明治時代の日本人の留学生はゲッティンゲンに「月沈原」という漢字を当てていました。
2. カタランの立体
半正多面体の双対のことをカタランの立体(またはアルキメデス双対)といいます。カタランの立体は、半正多面体の各面の中心を結んだ立体ではなく、そのカタランの立体の面の中心を結ぶと元の半正多面体になる立体です。また、全ての面が合同で、全ての二面角が同じという性質も持ちます。このうち切頂n面体の双対は、もとの正n面体の双対である正m面体の各面の中心を持ち上げた形で、p方m面体といいます。(1855年に発見)
3. カタランの定数
カタランは、組合せの問題を解決するために、カタランの定数を導入しました。リーマンのゼータ関数の変形です。少し難しいのですが、行きがけの駄賃でとりあえず書いておきますが無視してください。
という無現級数を考えると、自然数kが奇数のときはπk×(有理数)と書ける。特にk=1のときは、です。
この式は、1674年ゴットフリート・ライプニッツ(ドイツ)が発見した円周率πを求める公式として有名です。14世紀のマドハヴァ(インド)や1400年頃のマーヴァダ(インド)、1671年のジャームズ・グレゴリ(スコットランド)なども発見していることが分かっています。円周率πを求める公式として最も簡単であるということでも有名です。ただし、この級数は収束がとても遅いので、今日では、πを求める式としては使いにくいといわれています。
ところが、kが偶数のときにはどうもとらえようがなく、最初の偶数k=2の時についての値をカタランが求めています。
と書き換えることができ、およそ、
β(2) 0.91596 55941 77219 01505 46035 14932 38411
です。この値をカタランの定数といいます。
この定数を求める公式もいろいろ考えられています。山田裕史氏(岡山大学大学院教授)は
「こんな数は無理数に決まっていると思うがまだ証明されていないそうだ」(『数学セミナー』2008年5月号)
と言っておられますが、ひょっとすると、超越数かもしれません。
カタランの定数の近似値を求める式も他にもいくつも発見されています。カタランの定数についての近似値を求めることが、コンピュータの性能を示すテーマになるかもしれません。
ところで、4月号の
6) オイラーの贈物5 博士の愛した数式
で、超越数として1文字で表される数は、π(円周率)とe(自然対数の底)の2つしか見つかっていません。と書きましたが、オイラーの公式は、πとeの関係式という側面を持ちますので、πはeで、eはπでというようにお互いが他で表現できることになります。いいかえると、超越数として1文字で表される数は、π(か e)で、他の超越数はπ(か e)を使って表現されるものしか見つかっていませんということになります。超越数というのは、代数的数より圧倒的に多い(濃度が違う)のに不思議な気がします。
参考 カタランの定数の33の表現 『Wolfram Research(ソフトウェア会社)』のサイト
http://documents.wolfram.com/v5/Demos/Notebooks/CatalanFormulas.ja.html
4. カタラン数
カタランは、いくつかの数のかけ算にそのままかっこをつけるとしたら何通りあるかの値が作る数列を考えました。その数列を作る数のそれぞれをカタラン数といいます。カタラン数ははじめは大学入試に出ていたのですが、だんだん、中学入試にも出るようになっています。
3つの文字a、b、cのかけ算は
((a×b)×c)、(a×(b×c))の2通り、
4つの文字a、b、c、dのかけ算は
(((a×b)×c)×d)((a×b)×(c×d))、((a×(b×c))×d))、
(a×((b×c)×d))、(a×(b×(c×d)))の5通り、
結局、カタラン数は
1, 2, 5, 14, 42, 132, 429, 1430, 4862, 16796, 58786, 208012, 742900, 2674440, 9694845, 35357670, 129644790, 477638700, ……
という数列になります。
掛け算の計算順序など、どうせ同じ答えになるので、どうでもよさそうですが、カタラン数は、いろいろな問題に顔を出すことがわかってきました。
以下はカタランの贈り物のうち、中学入試にも出る「カタラン数」に絞って考えることにします。
1. かっこの並べ
3組の( )を正しく並べる方法は
((( ))) ( )(( )) ( )( )( ) (( ))( ) (( )( ))
の5通りあります。これが 三番目のカタラン数C3=5 の場合に対応しています。
( ))( )) や )(( )( ) といった形は( )を正しく並べていないので数えません。
2. たし算とかっこの並べ
3組の( )の右かっこを+に置き換えてみましょう
((( ))) ( )(( )) ( )( )( ) (( ))( ) (( )( )) はそれぞれ、
((( +++ 、 ( +(( ++、 ( +( +( +、 (( ++( +、 (( +( ++
となります。これも 三番目のカタラン数C3=5 の場合に対応しています。これを意味のある計算に直すと
(((a+b)+c)+d)、(a+((b+c)+d))、(a+(b+(c+d))、
((a+b)+(c+d))、((a+(b+c))+d))の5通りになります。
もちろんかけ算でも同じです。
(((a×b)×c)×d)、(a×((b×c)×d))、(a×(b×(c×d))、
((a×b)×(c×d))、((a×(b×c))×d)の5通りになります。
注意
こうしてできた、たし算(やかけ算)で、a、b、c、dの文字や記号+を消すと、
((()))、((()))、((())、(()())、((())))となり同じものが混じってうまくいきません。
こうしてできた、たし算(やかけ算)では、a、b、c、dの文字や右かっこを消すことができます。
ここらで、具体的な問題に入りましょう。進学レーダーに載せた次の問題について考えてみましょう。
問題
出席番号が1番から8番までの男女4人ずつの計8人が,左から右に一列にならんでいます。男子は全員が花を1本ずつ持ち,女子は花を持っていないとします。いま,この8人とは別のK君(花を持っていない)が,8人の横を次の作業をしながら,一番左の人から一番右の人の所まで歩いて行くことにします。
8人がどのように並んでも,男子だけ,女子だけを見ると,並び方は,それぞれ必ず出席番号の小さい方から大きい方になっているものとします。男子をA,女子をBと表すことにします。例えばABBBAABAの順に並んでいるとすると,上の作業を終わったとき,K君は2本の花を持っていることになります。次の問いに答えなさい。
(2002年駒場東邦中)
問題の意味
さて、問題をしっかりたどって、意味をつかみましょう。問題の設定文をちぎって赤字で表し、少しずつ意味を考えてみます。(国語のお勉強のような気がしますが、…)
I 出席番号が1番から8番までの男女4人ずつの計8人が,左から右に一列にならんでいます。
最近の小学校の出席番号では男女を区別せず、50音順にふることが多いようです。保護者の皆さんも先刻承知でしょう。小学生の子どものいない塾教師には「あれ、男女の出席番号は離れているのでは?」と思う人がいるかもしれません」この問題の出題者は、小学生の子をお持ちかそうした情報に詳しい方かと思われます。とにかく、出席番号が1番から8番までの男女4人ずつの計8人が,左から右に一列にならんでいることをイメージしましょう。
II 男子は全員が花を1本ずつ持ち,女子は花を持っていないとします。
男子を青丸、女子を赤丸として男子全員に花を持たせます。「どうして女子は赤と決めるのですか。差別ではありませんか」と気になる人は別な色で考えてください。
III いま、この8人とは別のK君(花を持っていない)が、8人の横を次の作業をしながら、一番左の人から一番右の人の所まで歩いて行くことにします。
8人がどのように並んでも、男子だけ、女子だけを見ると、並び方は、それぞれ必ず出席番号の小さい方から大きい方になっているものとします。
これは男子どうし、女子どうしを区別しないということを意味します。
男子をA、女子をBと表すことにします。例えばABBBAABAの順に並んでいるとすると、上の作業を終わったとき、K君は2本の花を持っていることになります。
問題の設定がだいたいわかりましたか。では、問題に入ってみましょう。
次の問いに答えなさい。
何でもよければ、ABABABAB(とか、AAAABBBB)が分かりやすい。
とりあえず練習として、そのとき、K君の手に何本あるかを折れ線グラフで表してみよう。
最初に男子が4人並んでいる場合
4番目が初めて女子の場合
3番目が初めて女子のとき
2番目が女子のとき
1+3+5+5=14
これは、次の図で、PからQまで行くときの道順と同じなので、各交差点まで行く場合の数をたしていけばよいことになります。
答え (1) 解答例 ABABABAB (2)14通り
参考
(1)の解答は14通りあるが、そのうちのどれでもよい。ここでは、そのうちの一番簡単なものを答えるのがよいであろう。一番簡単なものはAAAABBBBか、ABABABABであろう。
この問題の類題として、「1人50円の会費を1列に並んで払うときに、百円玉を出して五十円玉の釣りをもらう人と、50円玉で支払う人が5人ずついたときの並び方」などがある。
10人が円になっています。手を交差させないで握手をする場合の数は何通りありますか。
まず、2人の場合を考えてみると1通り
4人の場合を考えてみると2通り
6人の場合を考えてみると5通り
8人の場合を考えてみると、Aさんが隣のBさんやHさんと握手することにすると他の6人の握手の仕方は上の5通り。AさんがDさんやFさんと握手することにすると他の6人の握手の仕方は上の1×2=2通り 5×2+2×2=14(通り)
どうやらこれも、1、2、3、5、14、……となりカタラン数になっています。
また、4番目のカタラン数C4は
C4=C3+C2×C1+C1×C2+C3
となることが分かり、
また、5番目のカタラン数C5は
C5=C4+C3×C1+C2×C2+C1×C3+C4
となることが分かります。
C5=14+5×1+2×2+1×5+14=42 となり正しいですね。
見かけが全然違うのにカタラン数になっているのが面白いです。どうしてこれがカタラン数になっているのでしょう。
円を、どこか1点に注目して、その点が始点になるように1本の線(線分)にする。
すると、左かっこ「(」と右かっこ「)」の並びと同じ関係になる。
たとえば5角形の内角の和は何度ですか。というときに、2本の対角線で3個の三角形に切り分けて、180×3=540(度)なんていうことがありますが、「5個の三角形に切り分ける方法は何通りありますか」というと、もうカタラン数なのです。辺のうち1辺を特定してこれを赤くします。その他の4個の辺は順に時計回りにa、b、c、dと名づけて数を表すことにします。
すると、a+b+c+dのたし算に3組のカッコをつける場合の数とになり3番目のカタラン数5から5通りと分かります。
次の表に1、2、3、4を書き込んでみましょう。ただし左の数は右より小さく、上の数は下の数より小さいものとします。
こたえは、
の2通りです。
「1234」に「上上下下」か「上下上下」を対応させる2通りになります。
次の表に1、2、3、4、5、6を書き込んでみましょう。ただし左の数は右より小さく、上の数は下の数より小さいものとします。
こたえは、
の5通り考えられます。
なるべく合理的に考えると簡単になるばかりか数えミスが防げます。
1、2と5、6の置き方はそれぞれ2通りずつあります。
すると、1、2、5、6の置き方は、4通りとなります。
ここに3、4の置き方を考えます。空欄が上下や左右に並んでいるときには1通りに決まります。
「123456」に「上上下下上下」か「上上上下下下」か「上上下上下下」か「上下上下上下」か「上下上上下下」を対応させる5通りになります。
次の表に1、2、3、4、5、6、7、8を書き込んでみましょう。ただし左の数は右より小さく、上の数は下の数より小さいものとします。
1、2、3と6、7、8の置き方はそれぞれ3通りずつあります。
すると、1、2、3、6、7、8の置き方は、9通りとなります。
ここで、4、5の置き方を考えます。空欄が上下や左右に並んでいるときには1通りに決まります。斜めのときは2通りありますので、4+5×2=14(通り)
「12345678」に
「上上上下下下上下」、「上上上下下上下下」、「上上上上下下下下」、「上上上下上下下下」、
「上上下上下下上下」、「上上下下上下上下」、「上上下上下上下下」、「上上下下上上下下」、
「上上下上上下下下」、
「上下上上下下上下」、「上下上下上上下下」、「上下上上下上下下」、「上下上下上上下下」、
「上下上上上下下下」、
を対応させる14通りになります。
次の表に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10を書き込んでみましょう。ただし左の数は右より小さく、上の数は下の数より小さいものとします。
1、2、9、10の置き方は、次のアイウエの4通りに分類できる。
エの場合はあとは「2行3列の場合」と同じだから、5通りと分かる。
イとウは同じで、あとは「2行4列の場合」からエの場合を引いたものだから、それぞれ14-5=9(通り)と分かる
あとは、アの場合であるが、3、8の置き方で、次の4通りある。
カとケは同じ場合の数になる。
カの場合は3の右に、4、5、6、7の4通りに決まる。
ケの場合は3の右に、4、5、6、7の4通りに決まる。
キの場合は、3の左は、4、5、6、7のうち2個をとり小さい順にならべる。
45 46 47 56 57 67の6通り
クの場合は、2の左は、45、46、47、56、57の5通り
5+9×2+(4+4+6+5)=42(通り)
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」に「上上上上上下下下下下」の並びを対応させることを考えればよく、並べるときには途中のいつでも、「上」よりも「下」の方が多くならないように並べればよい。
以上から、「2行1列の場合」「2行2列の場合」「2行3列の場合」「2行4列の場合」「2行5列の場合」の場合の数が、
1、2、5、14、42、となり、カタラン数の数列になっています
初めの数、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10のうち、上段に保つ数を●、下段に落とす数を○で表すと、
たとえば、
は、
となりますが、これを1から順に並べると、
となります。このとき、左から見ていくと、いつでも、○の個数は●の個数を超えないことが分かります。
●や○のかわりに「上」という文字を5個、「下」という文字を5個、上が下よりいつも少なくならないように並べ、それに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10を対応させると考えてもよいというわけです。
これを道順で表すことを考えます。
次のような道を作り/や\を通る。いつも、/の方が\より少なくなることはないことを確認して、あとは各交差点までの場合の数を次々にたしていけばよい。
5番目のカタラン数の42と分かる。
とかくかわりに
とかいたり
とかくこともあります。
次の図も4番目のカタラン数が14であることを表しています。
ところで、この図のレンガ色の部分に注目して、
次の点線の部分に6個以内のレンガを積みたいと思います。何通りの積み方がありますか。0個の場合も1通りに数えます。
などという問題も作れそうですね。
0個1通り、1個1通り、2個2通り、3個3通り
4個3通り、5個3通り、6個1通りで合わせて14通りです。
次のV字溝に8個のレンガが積み重なっています。このレンガを1回に1個ずつ取り除きます。ほかのレンガを動かさないように取り除く場合の数を求めなさい。
という問題も同じです。
取る順番に番号を付けると考えれば同じとわかりますね。
次の問題は、『数学セミナー2008年1月号』の人気コラム「エレガントな解答を求む」に載っていたものです。「エレガントな解答を求む」の問題としては易しい問題というか見慣れた問題ですが、一応、カタラン数の一般化ですから、小学生には結構難しいかと思います。
上段の数字は下段の数字より小さく、左側の数字は右側の数字より小さいという条件を満たすとすれば
という並べ方もできます。このような並べ方は全部で何通りあるでしょうか。
『数学セミナー2008年1月号(日本評論社)』
「エレガントな解答を求む(出題 西山豊 大阪経済大学教授)」より
解法
(1)5番目のカタラン数の42と分かる。
(2)解1
正方形を敷き詰めてできる大きな正方形の対角線を超えないように進む場合の数を求めるのですが、超えるものも超えないものもすべて数えると、2nCnであることはすでに知っている人も多いでしょう。この中には対角線を超える上矢印↑が0、1、2、3、4、……、n個のものは同じだけあるので2nCn÷(n+1)=
下はn=3のときの↑が対角線/を3個、2個、1個、0個の場合の数がすべて5通りずつあることを表している。
(3)解2
↑が対角線/を超える道順の合計を求められればそれを除けばよい。対角線を超える道順とは、言い換えると、右の図で赤丸●を1つでも通る道順の場合の数である。
Aから少なくとも1個赤丸●を通ってBに行く最短距離は何通りあるか。
AからCに行く最短距離は何通りあるか。
この2つは1対1対応がつくのです。
それは、はじめて赤丸●についたとき以降の進行を赤丸●線で折り返した道に歩むと考えるとよいのです。
あらためて、対角線を超えた最初の交差点を赤丸●にして、これを赤線/でつなぐ、そうして、赤線に触れたらそれからあとは、赤線の選対線対称に進むものを対応して考えるということを実際にやってみましょう。
すると、上のようになる。
これは、右の図で青線-を通ってAからCまで行く場合の数に一対一対応がつく
2nCn-2nCn-1 となるが、これを簡単にすると、
となる。
付記 へクサフレクサゴン
話は変わりますが、西山豊氏のへクサフレクサゴンについてのサイトも面白いです。
理論 へクサフレクサゴンの一般解 西山豊(大阪経済大学教授)
http://www.osaka-ue.ac.jp/gakkai/pdf/ronshu/2003/5404_ronko_nisiyama.pdf
トーナメント戦(勝ち抜き戦)の形や、二分木というものの場合の数もカタラン数である。
トーナメントの形
二分木の形
まだいろいろあります。実はこの「まだいろいろある」というのがいやで書こうと思ったのですが、これら以外は当面まったく必要がありません。
最後にまとめにかえて、計算式などについて述べてみましょう。そのまえに記号nCrとCnについて確認します。
カタラン数に関する計算式I
組み合わせの場合の数の記号nCrは、「区別のつくn個のものからr個えらぶ場合の数」ということを表します。
「組み合わせ」のことを英語でコンビネーションcombinationと言いますが、nCrのCはその頭文字です。頭文字とは先頭の文字を言います。計算式は
となります。いくつかやってみましょう。
カタラン数に関する計算式II
次にCnについて説明します。これは、n番目のカタラン数という意味です。同じCを使っていますがこのCはカタランCatalanの頭文字です。Catalan というのは「カタロニャ語」「カタロニャの」「カタロニャ人」などと辞書には載っていますが、ここでは、もちろんベルギーの数学者Eugene Charles Catalanの名に由来するものです。
それで、Cn=です。また、
Cn=2nCn-2nCn -1です。
(つまり、Cn==2nCn-2nCn -1です。)ここで、2nとは、n×2のことです。
カタラン数に関する計算式III
道順の計算について
正方形の半分の道で求めるには、次のように各交差点までの場合の数を次々にたしていけばよいのですが、ここでも「計算の工夫」ができます。
この42を計算するとき、半分までは普通にたしていきます。
AからBまで行く道順で、半分の位置ア、イ、ウに着眼します。
Aからアは1通りです。アからBも1通りなのです。ですから、Aからアを通って、Bに行く道順は、1×1=1(通り)です。
Aからイは4通りです。イからBも4通りなのです。ですから、Aからイを通って、Bに行く道順は、4×4=16(通り)です。
Aからウは5通りです。ウからBも5通りなのです。ですから、Aからウを通って、Bに行く道順は、5×5=25(通り)です。
合わせて、1+16+25=42(通り)と計算できます。
2006年の灘中の問題にも、似たような計算の工夫ができるものがありました。
右の図は,1辺の長さが3cmの正六角形,正方形,正三角形を組み合わせて作ったものである。これらの辺を通って,アからイまで行くときの最短距離は何cmですか。また。その最短コースは全部で何通りありますか。
(2006年灘中1日目7番)
解法
最短距離 2×7+1=15(辺)、3×15=45(cm)
場合の数 アから図のAやFに行くのは1通りで、AやFからイに行くのも1通りなので、アから図のAやFを通ってイに行くのは1×1=1(通り)。
アから図のBやEに行くのは5通りで、BやEからイに行くのも5通りなので、アから図のBやEを通ってイに行くのは5×5=25(通り)。
アから図のCやDに行くのは10通りで、CやDからイに行くのも10通りなので、アから図のCやDを通ってイに行くのは10×10=100(通り)。
合わせて、(1+25+100)×2=252(通り)
答え 最短距離 45cm 場合の数 252通り
(実際の灘中の問題は1日目の穴埋めなので答えの単位の「cm」や「通り」などは不要です。
以上でカタラン数についてはおしまいです。カタラン数は今年、「数学セミナー」で何度もとりあげられて話題になりました。受験算数の「活火山」的課題と思われますので、一応押さえておきましょう。
まるで違うような問題にカタラン数が現れたりして、おもしろ半分おどろき半分だと思います。ところが、何となくカタラン数に似ていて、実はカタラン数の問題ではない問題もありますので、うのみの丸暗記をしたりせずに、ある程度確かめられるようにして押さえておきたいものです。
付記 算数の記号や用語は意味が限定された表意文字 (「学校選択」に載せた記事に関連して)
「小説の神樣」と言われた志賀直哉は昭和21年4月、雜誌『改造』に「国語問題」と云う小文(3200字)を発表しました。それによると「日本語を廃止してフランス語を日本の国語とした方がよい。」と言って話題になりました。また、外国人にも日本語を学びやすいように「カナモジだけにしたほうがよい」とか「日本語をローマ字表記で国際化を」(梅棹忠夫氏)という人もいますが、日本語は実は意味がつかみやすいのです。それと、たとえば、砂糖+衣+錠剤=糖衣錠 というように造語能力にも優れています。
エッセイストで通訳者のロシア語通訳協会会長の故米原万里さんの文章が今年2008年、明治大学付属明治中(東京の私立共学中)の国語の問題に出ていましたが、それによると、漢字カナ混じりの文は意味がつかみやすいと断じていますが、カナモジだけの表記やローマ字だけの表記では意味が分かりにくいことからも類推できることでしょう。
算数が好きな人の好きな理由と算数が嫌いな人の嫌いな理由が同じだったりすることがよくあります。たとえば、記号だとか用語などの約束ごとがあるから算数は難しいと言う人がいますが、記号だとか用語などの約束ごとがあるから算数はやさしいとも言えるのです。
それは、算数の記号や用語は意味が限定された表意文字だからなのです。
できるだけ、記号を使わないように配慮していますが、記号は算数を分かりやすくするのだと思ってみると気分が変わると思いますので、気にとめておいてほしいと思います。
日本では、関孝和がライプニッツに先んじて微分積分を発見した、という説が昔からいわれています。国内では藤原正彦氏が支持していると伝えられます。が、これについては、諸外国はもとより、国内でも異論があります。
西洋では微分積分を使わないと解けない問題も日本で和算で解けたということは事実です。また現代の数学者でも解けないような詰将棋のような解法手順の多い図形の問題も研究していました。つまり、西洋の問題が解けたばかりか西洋の数学者が解けない問題が解けた。というのも事実ですが、そうして藤原正彦氏はそのことを指して、関孝和はライプニッツに先んじていたと言っておられるのかもしれませんが、和算はグラフを使わないので、西洋の微分積分の汎用的利便性は持っていません。
各問題をそれぞれ工夫して解く傾向が強く、しかも各流派が多分に秘密主義で、西洋のような系統的に高めあったりすることが少なかったのです。
たとえば、詰将棋は「数学パズル」と見ることもできますので、数学者はたいてい解けます。しかし、プロ棋士はたいていの数学者が解くよりももっと早く瞬時に解けます。これをもって、プロ棋士が数学者よりも数学ができるとはいえないと思うのです。
洋算はどんどん発展しながら輸入されました。和算でも高度な代数方程式などが解けましたから、単に数学だけであれば、それを和算に取り込んでいけたことでしょう。ところが、力学、電気、建築、土木、などなど、応用数学を学ぶときに、はじめ、「ことばの部分は訳語になおして、数学部分は和算に直して理解する」ということも試みられましたが、言葉そのものに洋算が絡み合っていたので、「訳語+和算」で学ぶよりも、「訳語+洋算」での学ぶ方が学びやすかったのでした。このため、必然的なりゆきで洋算が広まっていきました。
洋算には限りなく広がりを感じますが、和算は流派にこだわったりして、狭い方向に突き進んでしまったようです。韓国の文芸評論家の李御寧(イー・オリョン)氏ではありませんが、和算には少しく「縮み志向」が感じられます。
文中、少しく(すこしく)とは(少しばかり。いささか。 少し。)という意味のやや格調高い言い方であって間違いではありません。理詰めで格調高く指摘された場合に、しっかりお答えしようと思って緊張してたときなどにこういう表現を私は使っています。(念のため)
ところで、何を和算というのでしょう。伊達宗行氏は著書『「数」の日本史』の中で、
和算とは塵劫記を超える本格的な数学である。
といっておられます。塵劫記も和算も江戸時代にできたものなので、であってみれば、あまりに和算の歴史が短すぎるでしょう。
『プリンピキア』をほめられたとき、ニュートンが、もしも私が、ほかの人たちよりわずかでも遠くを見たとすれば、それは巨人たちの肩の上に乗っているからなのですと言ったように、西洋の数学は多くの数学者の長いリレーがニュートンの番に回ってきて発見したという面があります。
そして、日本にはユークリッドもデカルトもカバリエリもいなかったのです。関にとって、先行文献は「塵劫記」やその類書くらいでした。実際、関は「塵劫記」で学んだといいます。もっとも、関についてはさまざまな伝説があり、その伝説の1つに当時流行の塵劫記を見てこれは何の本かと大人に聞いたら、算用の書だというので、1~2日借りて、みな解けたといって返したと言います。個人技として関孝和の和算がとても高度であったということには異論はないのですが、西洋の数学とどちらがと言って比べることができないと思うのです。伊達氏は同書の中で次のようにも書いています。
そもそも土俵がちがうのである。和算にはグラフの概念がない。単に図形があるのみである。西洋流の微積分はまず座標軸を定めてその上で展開されるのであるから、それがない和算では比べようもないのである。そして微積分における重要な概念、たとえば微分と積分とは互いに逆演算の関係にある、といった数理は和算に全く見られない。したがって西欧型の微積分と比較できるものはないといってよいのである。
しかし、それはあくまで西欧感覚で見ての話である。和算では座標は無いが直観的な空間認識がある。そしてさらには微小空間を思考的に作り出す手法を持っていた、適尽法というのがあって、これで極大、極小を取り扱うのである。これは和算におけ微分法である。また図形については独得の処理法を発達させ、たとえば体積や面積の計算では、西洋の積分学でやるような区分求積をする。これは洋算における定積分と全く同じ結果を与えることはもちろんである。ただ、不定積分はない。関数に対する積分操作、という概念がなく、あくまで具体的な面積、体積が対象である。
(中略)
面白い話がある。幕末の世情騒然としたころ、幕府も西洋、特に砲術の洋書を勉強させるべく外国人教師を雇うなどして、その基礎となる洋算を学ばせた。(略)集まった生徒たちの中には和算を知っている者も多かった。彼らは洋風の微積分を学ぶのはもちろん初めてである。しかし、その問題の最後に出てくるさまざまな積分の結果を和算で知っていた。最初はさっぱりわからないのに結果だけ皆知っている、外国人教師は目を丸くしたという。
『「数」の日本史 伊達宗行(日本経済新聞社)』(赤字は引用者による)
伊達氏はただ、不定積分はないと書いていますが、この違いは大きいと思います。もちろん、伊達氏は十分ご存知で書いておられます。
藤原正彦(ふじわら・まさひこ)
1943(昭和18)年、旧満州新京生まれ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学理学部教授。1978年、数学者の視点から眺めた清新なアメリカ留学記『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、独自の随筆スタイルを確立する。著書に『遥かなるケンブリッジ』『数学者の休憩時間』『父の威厳 数学者の意地』『心は孤独な数学者』『国家の品格』等。故・新田次郎と藤原ていの次男。
『国家の品格』は2007年末までに発行部数260万部を超えるミリオンセラーとなり、2006年における書籍の年間ベストセラーで首位に輝いた。「ハリーポッター」に次ぐ世界2位の売上だという。書名の「品格」は2006年の新語・流行語大賞を受賞。便乗する形で「○○の品格」という名の書籍などの商品が相次いだ。そうした、類書にも大きな話題を呼んだものが少なくない。
土屋賢二氏(文教育学部人文科学科(哲学))と並ぶ、お茶の水女子大学の看板教授。
李御寧(イー・オリョン、1934年 - )は、韓国の文芸評論家、初代文化相。
親日派で、『「縮み」志向の日本人』は日本語で書かれてベストセラーになった。同書では、従来の日本の比較文化論が、日本と西洋の比較でしかなかったことを批判し、土居健郎の「甘え」概念について、日本独特というが、単に西洋にはないだけで、韓国にもそれに相当する語はあると批判した。
1934年、韓国忠清南道生まれ。
1960年、ソウル大学大学院碩士。
『韓国日報』『朝鮮日報』論説委員、梨花女子大学教授、国際日本文化研究センター客員教授、
韓国初代文化相を歴任。梨花女子大学名誉教授、中央日報社常任顧問。文学博士。
日本では、国際交流基金賞、日本文化デザイン大賞などを受賞
伊達 宗行(だて・むねゆき)
1929年仙台生まれ。52年東北大学理学部卒業。55年東北大学理学研究科物理専攻中退。理学博士。物性物理学が専門。大阪大学理学部長、日本原子力研究所先端基礎研究センター長、日本物理学会会長、日本学術会議会員、同第4部長などを歴任。
物性科学、特に磁粗 極低温、強磁場研究で国際的に著名。松永賞(1971)、仁科記念賞(80)、日本金属学会論文賞(85)、藤原賞(91)、紫綬褒章(同)、勲二等瑞宝章(00)を受賞。
現在、日本原子力研究所評嶺役。大阪大学名誉教授。
〈著書〉
『改訂新版 物性物理学の世界』(講談杜)、『極限科学 強磁場の世界』(丸善)、『大学院物性物理学1~3』(監修、講淡社)など
付記
『進学レーダー』では駒場東邦中のカタラン数の入試問題をアレンジして書いたのですが、かなり難しいと感じる方が多いようです。カタラン数についての最低限度の知識を示したものでこれより簡単にならないので、『キッズレーダー』と『学校選択』では、極力算数色を排除して書きました。
カタラン数は数学者にとってもまだそれ程なじみが少ないようです。ですから、数学科をお出になったお父さんでもご存じない場合があるかもしれません。
カタラン数について、現在、小学生向けのものはほとんどない状態なのです。本稿はカタラン数について小学生向けのものとして、当面、割とよく書けたと思っていますが、やがて、出題が増えると、それにともなって、対策や指導法ももっとこなれたわかりやすいものに改良されていくことでしょう。
そういうわけで、いまのところ、「自分用の覚書」程度の状態のものでして、やや難しいところがあったかも知れませんが、中学受験生としては「ある問題を見て、その問題がカタラン数の問題であるかどうか、であれば答えはどうなるか」ということがつかめればよいでしょう。