日能研教務部算数科 真藤 啓
本稿は、次のそれぞれの算数エッセーのうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことを補足するために、開設しています。タイトルは『進学レーダー』と同じにし、WEB掲載のタイミングも『進学レーダー』の発行日に連動して毎月15日に行います。
けれども、毎月それらの文を読まなくても独立して本稿が読めるようにも心がけています。受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いていますが、今年の入試を見る限りにおいては、この稿を読むことは中学受験にも有利のように思います。
『進学レーダー』5月号(みくに出版) 算数エッセー「算数好きになるくすり アキレスと亀」
『キッズレーダー』5月号(日能研) 算数エッセー「おいしい算数 三角数・四角数」
『学校選択』5月号(全国中学入試センター) 算数エッセー「算数好きのきっかけを求めて 立方体の切断」
パラドックスとは、『進学レーダー』では「だまし話」と書きましたが、ふつう日本語では逆理、背理、逆説、またはまれに、矛盾と訳されます。語源は古代ギリシア語のパラ(逆)とドックス(理論)を組み合わせた語です。
古代ギリシアでは、原住民の人たちが農作業などの労働をしてくれたので、ギリシア人は、外から攻めてきたときに戦いますが、戦争のない時には暇(ひま)でした。ヒマつぶしに、学問やスポーツを楽しんだようです。
スクール(学校)の語源はラテン語の「スコラ(暇つぶし)」、スポーツの語源は古フランス語の「デス・ポート(気晴らしをする)」であるというように名残をとどめています。
政治や裁判などは話し合いで決めていました。そのため、人を納得させる話し方を練習しようとする人が増えて、ソフィスト(ギリシア語 物知り)に習うようになります。
そうした話し合いに負けないために、勝つために、用心深く考えられるようにするために、ソフィストはパラドックスを考えました。そうしたソフィストの中にパルメニデスやその弟子のツェノン(ゼノンと書くこともあります)がいました。2人は南イタリアのルアカのギリシア都市エレアに住んでいたので、エレア派と言われています。ツェノンは「エレアのツェノン」ともいわれています。ここではまぎれがないので単にツェノンと書きます。ツェノンには『アキレスと亀』のほかにも『飛んでいる矢は飛んでいない』などいくつかのパラドックスを作っていますが、同じようなものです。その中で『アキレスと亀』が最も有名です。
無限級数という言葉については後で説明しますが、0よりも大きい数を次々にたしていくとその合計は無限大になることもありますが、ある値に限りなく近づくこともあります。ある値に限りなく近づくことを「収束(しゅうそく)する」といいます。
アルキメデスについて述べたときに円周率は収束の遅い級数であるといいましたが、正n角形のnをどんどん大きくしていって円周率を求めるわけですが、目で見てもわかるように、正24角形くらいですでに円にそっくりになり、正96角形ともなると、円と見分けがつかないくらいになります。
円周率を3として計算してよいという学習指導要領が出たとき、日能研が批判して、たいへんな話題になりましたので記憶に新しいことと思いますが、円周率は3.14で肉眼で見分けがつかない位に正確なのですが、3だと円が正6角形と同じ周となり円に近いとは言えないわけです。
『アキレスと亀』は、無限級数はいつも無限大になるのではないだろうかという先入観を利用して、だます話(パラドックス)といえます。こうしてパラドックスは、用心深い推論を促す働きを持つことになりました。
「矛盾」という故事成語についてはすでに、国語などの他教科で習っているかもしれませんが、簡単に説明しますと、語源は、法家の韓非という人が書いた、『韓非子』の一篇「難」にでてくることばで、「どんな盾(たて 防具)も突き抜く矛(ほこ 両刃の剣に柄をつけた、刺突のための武器 剣や槍の原始的なもの)」と「どんな矛も防ぐ盾」といって、矛と盾を売っていた楚(そ 昔の中国の中の1つの国)の人が、客に「その矛でその盾を突いたらどうなる」と問われ答えられなかったという話からおこったものです。
もし矛が盾を突き通すならば、「どんな矛も防ぐ盾」ということが誤りであり、もし突き通せなければ「どんな盾も突き通す矛」ということが誤りになります。だから、どちらにしてもおかしな事になってしまい、売っていた人のいうことは嘘であることになります。
原文 楚人有鬻盾与矛者。誉之曰、「吾盾之堅、莫能陥也。」又誉其矛曰、「吾矛之利、於物無不陥也。」或曰、「以子之矛、陥子之盾、何如。」其人弗能応也。
(『韓非子』難編(一)より)
書き下し文 楚人に盾と矛とをひさぐ者あり。これをほめていはく、「わが盾の堅きこと、よくとほすものなきなり。」と。また、その矛をほめていはく、「わが矛の利きこと、物においてとおさざることなきなり。」と。あるひといわく、「子の矛をもつて、子の盾をとおさばいかん。」と。その人こたふることあたはざりき。
「矛盾」は、韓非が『韓非子』の中で儒家(孔子と孟子がその代表、ここでは孔子 徳治主義)の思想を批判し、自説の法家(韓非 法治主義)の思想の正当性を主張しようという文脈の中で述べられています。
法家、儒家は諸子百家つまり、六家(陰陽家、儒家、墨家、法家、名家、道家)の1つです。諸子百家は中国の春秋戦国時代に現れた学者・学派の総称です。「諸子」はおのおのの学者を意味します。百家は多くの学派、特に先述の6家を意味します。
中国の戦国時代の七国は「秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓」です。これはまた、七国の七人の王自身を指すこともあり、戦国の七雄ともいいます。
七国の覚え方に次のような暗記法があります。高校生になってから覚えても間に合いますが。
韓・楚・趙・秦・魏・斉・燕(かん そ ちょう しん ぎ せい えん)
簡素、聴診器、千円(かんそ ちょうしんき せんえん)
名家の論理の中に「飛ぶ鳥の影は動かない」というものがあります。これはゼノンのパラドックスに相当するものと考えられています。名家の代表的な思想家として、公孫竜や恵施が挙げられます。その末流は往々にして詭弁(きべん へりくつ)に陥り、とくに公孫竜が唱えた「白馬非馬」は後世、詭弁の代名詞にもなりました。
「白馬非馬(はくばひば 白い馬は馬でない)」
「白とは色の概念であり、馬とは動物の概念である。であるからこの二つが結びついた白馬と言う概念は馬と言う概念とは異なる。」と言う論です。
もう一つ有名なものは「堅白同異(けんぱくどうい 白くてかたいものはない)」
「白くて固い石は手で触っている時には白いと言うことは解らず、目で見ている時には硬いと言うことが解らない。すなわち白いと言う概念と硬いと言う概念は両立しない。」と言う論を唱えた。
こうした矛盾やパラドックスは、論理的な話をするための練習問題として、有効だったことでしょう。なお、白馬と書いて、「はくば」と読むことも「あおうま」と読むこともあります。
パラドックスの中に「自己言及パラドックス」というのがあります。この言葉はともかく話自身はよく知られていますが、一応紹介します。
ある数列の規則性などを調べるとき差の数列を作ることがあります。そうすると、わかりやすくなることが多いです。「差の数列」をもとの数列の「階差数列」といいます。
もとの数列の初項(初めの数)に「階差数列」を累加すると元の数列になります。したがって、級数と階差数列はだいたい反対の関係になっていると思ってよいでしょう。累加というのは次々にたすことです。「累」という字は繰り返すという意味の「かさねる」という字です。(音読みがルイ、訓読みがかさねる)
たとえば、自然数の数列
1、2、3、4、5、6、7、・・・・・・
の階差数列は、
1、1、1、1、1、1、・・・・・・
です。この数列は単数(モナド)の数列ということもあります。
1に次々に1を加えると、つまりモナドの累加は、元の自然数になります。
自然数の累加を自然数の級数といいます。
1、(1+2)、(1+2+3)、(1+2+3+4)、(1+2+3+4+5)、・・・・・・
つまり、
1、3、6、10、15、・・・・・・
となります。
これを三角数と言います。
三角数の累加は、つまり、三角数の級数は、三角錐数(さんかくすいすう)と言います。
1、4、10、25、・・・・・・
同じ数列をいろいろというのは紛らわしいかもしれませんが、それらをいろいろな面からとらえられる利点があります。
モナドの数列から次々に級数を作っていくと、パスカルの三角形ができます。
付記 (階差数列と級数)と(微分と積分)
級数と階差数列はだいたい反対の関係になっていると書きました。だいたいというのは、等しい階差数列を持つたくさんの数列があるということから、可逆でないと考える方がおられるかもしれませんので書きました。
一方、関数を微分すると一意に導かれる導関数(どうかんすう)が存在します。関数を積分すると導かれる関数は無数の不定積分が存在します。そこで、積分定数(せきぶんていすう)Cで調整を図ります。
階差数列と級数ということばは、微分と積分ということばの持つ関係と密接な関係があります。そうして、しばしば、微分と積分は反対の関係になっているということを言われますので、そういう意味では、級数と級数とは反対の関係になっているといってよいと思います。
『進学レーダー』に載せた次の問題を解いてみましょう。
問題
1辺の長さが6cmの正方形の各辺のまん中を結び、新しい正方形をつくります。次に新しくできた正方形の各辺のまん中を結び、さらに新しい正方形を作ります。これをくり返していくとき、5番目に新しくできる正方形の面積は何cm2ですか。
(2007年 東京学芸大学附属竹早中)
解法
(6×6)÷2÷2÷2÷2=(cm2)
答え cm2
【補足】
この問題を解くだけだと、これでおしまいですが、1番目から、全部たすと合計がどうなるかという問題だと
というわけで0より大きい数を無限にたしても、合計は無限にはならないことがわかります。こうした問題も古くからよく出題されています。
【補足】
を2進法小数になおすと、1.11111・・・・・・(2)になりますが、10進数の
=1.11111・・・・・・に似ていると思うかもしれませんが、むしろ、
=1.99999・・・・・・=2
に似ていて、1.11111・・・・・・(2)=10(2)=2 です。
そういえば、時折、
「1÷3=0.33333・・・・・・だよね。すると、
0.33333・・・・・・×3=0.99999・・・・・・となり、1よりちょっと小さくなる。不思議だ。」
という人がいますが。
1=0.99999・・・・・・
です。
まさに、1÷3×3=1 だから明らかですが、
x =0.99999・・・・・・
とおいて、その10倍から引くと、
よって、x =9÷9=1 となりますというと、納得してくれる人もいます。
最初の数がaで、aに次々にrをかけてできる数列、
a、a×r、a×r×r、a×r×r×r、a×r×r×r×r、a×r×r×r×r×r、・・・・・・
を等比数列といい、はじめの数 a を初項(しょこう はじめのこう)といい、かける数rを公比(こうひ)といいます。
a、 a×r、a×r2、a×r3、a×r4、・・・・・・、a×rn-1
と書くこともできます。この級数(累加した合計)を求めてみましょう。
x =a+a×r+a×r2+a×r3+a×r4+・・・・・・+a×rn-1
とおいて、r倍したものからひくことにします。
なので、 rが1以上のときに無限大になりますが、rが0より大きく1より小さい場合には、無限大になりません。それを、
と表します。ここでは、rが負の数(0より小さい数)や0や1の場合については考えに入れていません。
類題演習
次の問いに答えなさい。
(2004年 晃華学園中)
解法
答え (1)6 (2)254cm2
三角数の累加は三角錐数といいます。道順に現れるパスカルの三角形から求めることができます。
ここでは、公式を作ってみたいと思います。
すでに、「区別のつく 7 個のものから 3個選び出す組み合わせの数」は(7×6×5)÷(3×2×1)というのをやっていますが、ここでは、別な方法を紹介します。「次の図は小さな立方体が何個並べてあるでしょう。」
この個数を、上から見て、平面的にかくと次のようにかくことができます。
数字の位置を動かして3通りにして、同じ場所を足すと、それぞれの位置の和がどれも等しくすることができます。
5段の場合は、5+2=7が1+2+3+4+5=15(個)できます。
これは同じものを3個たしたものですから、
となります。
n段の場合は、(n+2)が (個)できます。
これは同じものを3個たしたものですから、
となります。
区別のつくn個のものから、3個取り出す場合の数 nC3=×n×(n+1)×(n+2)
にあたります。
四角数の累加は四角錐数(平方錐数)といいます。これを求める公式を作ってみたいと思います。
「次の図で小さな立方体が何個並べてあるでしょう。」
1×1+2×2+3×3+4×4+5×5 なので、
これを、平面的にかくと次のように書くことができます。
数字の位置を動かして3通りにして、同じ場所を足すと、それぞれの位置の和がどれも等しくすることができます。
5段の場合は、5×2+1=11が1+2+3+4+5=15(個)できます。これは同じものを3個たしたものですから、
となります。
n段の場合は、(n×2+1)が (個)できます。これは同じものを3個たしたものですから、
となります。つまり、こういうことです。
1×1+2×2+3×3+4×4+5×5+・・・+n×n=×n×(n+1)×(n×2+1)
では、次に、2007年11月4日実施(入学は2008年4月)の東京工業大学第1類(理学部)特別入学資格試験の午後の1番の問題をやってみましょう。
問題
三角錐を、1つの底面に平行な(n-1)枚の平面で高さをn 等分するように切ります。残りの面に関しても同様に切ると三角錐は幾つの部分に分かれますか。個数を求めなさい。
(2007年11月4日(日)実施 東工大第1類(理学部)特別入学資格試験改題)
解法
まず、立方体を3×3×3(=27)積み上げて、1辺3の立方体を作る。
次に、できた立方体の1つの頂点に着眼して、その隣の3頂点を通る平面で切断する。
こうしてできた3角錐は何個の立体からなるかというと、
1+(1+2)+(1+2+3)=10
これは、3番目の3角錐数(三角数の和)
これは、3角錐の4つの面のうち、3つの面に平行な面で切断したときの個数です。
これをさらに、4つめの面に平行な面で切断します。
新しい切り口は、次の図の黄色で示したところです。
1×1+2×2=5(個)増える。切り口が増えた分だけ、個数が増える。
よって、10+5=15(個)
一般に、三角錐を4つの面に平行な面でそれぞれ、高さをn等分する平面で分けると、
(n番目の三角錐数)+(n-1)番目の四角錐数 に分けられる。
n番目の三角錐数+(n-1)番目の四角錐数 を求める公式
先にn番目の三角錐数を求める公式と、n番目の四角錐数を求める公式を先に学びましたから、これを利用して、n番目の三角錐数+(n-1)番目の四角錐数を求めることができますが、n番目の三角錐数+(n-1)番目の四角錐数を直接求める工夫をしてみましょう。
n番目の三角錐数+(n-1)番目の四角錐数
=(n+1)×(1+2+3+・・・・・・+(n-1))+n
=×(n+1)×n×(n-1)+n
=×n×(n×n-1+2)
=×n×(n×n+1)
答え ×n×(n×n+1)
もとにした問題
正4面体を、底面に平行な(n-1)枚の平面で高さをn 等分するように切る。
残りの面に関しても同様に切ると正4面体は幾つの部分に分かれるか、個数を求めよ。
(2007年11月4日(日)実施 東工大第1類(理学部)特別入学資格試験)
【補足】
「正4面体」を、「立方体のかどの三角錐」に置き換えて解きましたが、個数を求めるときには同じ答えになる。よって、「もとにした問題」はこのように変えて解くと考えやすい。同様なので省略。
答え ×n×(n×n+1)
この東京工業大学の特別入試は、2006年11月実施(2007年に入学する)から始まって2年目の問題です。
試験の概要
提出書類の審査と、数学を題材とする筆記試験「課題I(150分)、課題II(150分)」
の成績等を総合的に評価して、合格者を決定します。
なお、この試験合格者には、大学入試センター試験を課しません。
とあり、午前中に課題I(数学2題150分)、午後に課題II(数学2題150分)というように、数学さえできれば合格できるという試験で、20名定員のところを大変な応募者が集まっているようです。上にあげたのは課題IIの1番です。つまり「午後の1番」です。もともと数学など理系に強い人が受験している大学ですが、さらに数学の強い人が入りまわりを巻き込むことになりそうです。東工大の大学院の一部は世界では日本一と評価されているところもあるそうですが、それがさらに強化される刺激になるのかもしれません。
まず、立方体積み木の斜め切りでよく練習をして、正四面体に視点を移すとわかりやすいと思います。
再掲図からも明らかなように、立方体積み木を与えられた斜め切りにすると、できる立体はもとの三角錐に相似な立体と、立方体から2つの3角錐を切り取った8面体の2種に限られます。
これを展開図で表すと、次のようになります。
【注意】 正式な用語ではありません。
この三角錐の形に名前をつけてみましょう。「直角二等辺三角形」を真似て「直角三等辺三角錐」というのはどうでしょう。しかし、長い名だと呼ぶのが面倒なので、どうせなら「直三錐」と短く呼ぶ方がよさそうですね。もう1つの立体はどうしましょう。立方体から2つの「直三錐」を除いた残りの八面体ですから、「補直三錐」というのも浮かびますが、「ほちょく・・・」なんて言いにくいので、「直三錐ネガ」ということにします。(この稿のために突然作った言葉ですからほかでは使えません。念のため。)
付記 反角柱
「直三錐ネガ」を積極的に呼ぶ時には、「反角柱」ということばがあります。
反角柱は、ねじれ角柱と訳されることもあります。角柱の平行な2平面(底面)を一方の辺と点を他方と取り換えたようにねじって、一方の底面の各頂点から他方の底面の直近の2つの点を結んでできる多面体です。
角柱のときと同様に天井と床にあたる多角形を底面、周りの三角形を側面といいます。角柱の側面が長方形(平行四辺形)であるのに対し、反角柱は二等辺三角形(三角形)になります。したがって、反角柱は2個の底面の辺の1つ1つに側面が対応するので角柱の2倍の側面を持ちます。反角柱の中で、底面が正多角形のものを正反角柱といいます。また、側面が正三角形で底面が正多角形の多面体を特に「アルキメデスの反角柱」といいます。
2008年の東京大学理系の第3問で正8面体を「アルキメデスの反角柱」とみて、問うています。「アルキメデスの反角柱」ということばは使われていません。
2008年の東京大学理系の第3問も追って取り扱う予定です。
さて実際の東工大の入試は正四面体なので、それに即して考えてみましょう。
「正四面体」はそれと「相似な同じ向きの正四面体」が「n番目の三角錐数」個あり、
それを除くと、囲まれていた「正8面体」どうしが同じ向きで「(n-1)番目の三角錐数」個あり、
それを除くと、囲まれていた「相似な逆向きの正四面体」どうしが同じ向きで「(n-2)番目の三角錐数」個あることがわかります。
わかりにくければ、はじめの「直三錐」でよく確かめて、もう一度考えてみましょう。
つまり、東工大特別入試の求める答えは
「n番目の三角錐数」+「(n-1)番目の三角錐数」+「(n-2)番目の三角錐数」
ということになります。ここで、
「(n-1)番目の三角錐数」+「(n-2)番目の三角錐数」=「(n-1)番目の四角錐数」
ですから、
「n番目の三角錐数」+「(n-1)番目の三角錐数」+「(n-2)番目の三角錐数」
=「n番目の三角錐数」+「(n-1)番目の四角錐数」
=(n+2)×「n番目の三角錐数」+n
=×n×(n×n+1) となるわけです。
【補足】 次のように考えることもできます。
さて、「直三錐ネガ」の展開図は、城北中で出題されたことがあります。次の様な図だったと思います。これは「反角柱」ですが、「反角柱」と見てしまうと、わかりにくいです。「直三錐ネガ」とみるべきです。すなわち、立方体から、「直角三等辺三角錐」を切り取った多面体とみるべきです。
問題
次の図はある立体の展開図です。直角2等辺三角形6個と、
正三角形2個からできています。この立体の体積を求めなさい。
(1990年 城北中)
解法
「直三錐」は立方体のですから、それを2個ひいた「直三錐ネガ」は立方体の
つまり
です。
2×2×2 = =
(cm2)です。
答え cm2
展開図だけから、立体を想像するのは結構難しいと思います。ですから、「どうせ!!そう難しいはずはない」と強気で、立方体かせいぜい正四面体を切ったものだろうと見当をつけて考えるとよいでしょう。ともあれ、大学入試を学ぶと時折、中学入試がすごくはっきり見通せるようになることがあり楽しいですね。
逆に、中学入試をやっていると、大学入試を簡単に解くコツが見えてきたりすることもあります。入試問題を難問に味付けする調味料が同じだったり関連したりするからです。すると、難問に対する力が付いてくるのが実感できると思います。
類題
次の図はある立体の展開図です。直角2等辺三角形3個と、正三角形1個からできています。この立体の体積を求めなさい。
(1990年 城北中の類題)
解法
「直三錐」は立方体のですから、
2×2×2×=
=
(cm2)です。
答え cm2
正四面体は、東京工業大学の特別入試の検討により、非常に見通しのよいものになりました。今後、各予備校や雑誌では先の私の解法を取り入れることになるでしょう。
さて、中学入試に関して言うと、正四面体だけではなく、8辺が等しい四角錐(正八面体を半分にした立体、ここでは、以下単に「正四角錐」と略す)を切り分ける問題も出ていますので探求してみましょう。
ざっとながめて、だいたい理解できればよいと思います。
先ず、「正四角錐」を各面に平行な面で5つに分けることを考えましょう。すると、もとの「正四角錐」と相似な同じ向きの小「正四角錐」が、1+4+9+16+25=55(個)できます。5番目の四角数個です。
この5段目だけに注目してさらに見ていくと、4段目の小「正四角錐」の1つひとつの真下にはそれをさかさまにした、逆立小「正四角錐」がくっついています。この個数は、1+4+9+16=30(個)できます。つまり、4番目の四角錐数個できます。
また、5段目の正立の小「正四角錐」の間には、正四面体が挟まって、たて横に格子状の山脈を作っています。正四面体だけを、たての並びと横の並びを分けて描きだすと次のようになります。
5段目を上から見てみましょう。
見る方向を変えて、たとえば、上から見た図をかいてあわせて考えるとわかりやすいと思います。
それぞれの個数は、4×5、つまり、4番目の矩形数個あります。したがって、正四面体は全部で、(1×2+2×3+3×4+4×5)×2=80(個)できます。
よって、全体の個数は
(5番目の四角錐数)+(4番目の四角錐数)+(4番目の矩形錐数)×2
=55+30+80=165(個)
さて、これが正しいことを大まかに確かめたいと思います。体積で確かめましょう。
ここで小「正四角錐」の体積は小「正四面体」の2倍ですから、「正四面体」の体積を1とみると、5段全体は 2×(5×5×5)=250 となります。
また、ピース(部分、かけら)の合計は
2×(55+30)+80=170+80=250 となり一致します。
ついで言いますと、
(5番目の四角錐数)+(4番目の四角錐数)+(4番目の矩形錐数)×2
は、9番目の四角数になります。つまり、下のような正方形になります。
したがって、1×1+3×3+5×5+7×7+9×9=1+9+25+49+81=165(個)
いろいろな解き方を知っておくと、自分自身で確かめられてよいと思います。4色でかいてみます。
実はこの図解はなかなかよくできていてわかりやすいと思うのですが、図が読めない人というか、自分の頭の中に再構築できない人も多いので、多分に自己満足なのかもしれません。
さて、今回の記事に関連する中学入試問題を2、3挙げてみます。新しいものがよいとも思う反面、このあたりから広がったという問題を押さえておきたいという意味もこめて、やや古い問題をとりあげてみました。
本稿を、「中学入試に関係のないきわめてマニアックな記事だ」という人もいるように聞きます。しかし、これらの問題や、今年の入試問題を見ると、あながちマニアックでも、逸脱でもないことがご理解いただけると思います。これらの問題をすばやく解くためには上記の記事を軽く読んでおくことをお勧めしたいと思います。
問題
(1998年 神戸女学院中)
解法
答え (1)ア14 イ14 ウ55 (2)15、11、3 (3)42925
解説
与えられた図で、上と下の正方形が並んでいる個数は、四角錐数個とすぐわかりますが、真ん中がパッと見にはわかりにくいです。そこで、神戸女学院中は計算で確かめさせていますが、次の図のように考えることもできます。
また、右のように奇数(1、3、5、7、・・・)が何個あるかを調べてもよいです。
結局、n番目の四角錐数は
(1+2+3+・・・・・・+n)×(n×2+1)÷3
=×n×(n+1)×(n×2+1)
つまり、
12+22+32+42+・・・+n2=×n×(n+1)×(n×2+1)
という公式ができ、そのことを問うたものです。この図は、別に神戸女学院中の創案ではなく、以前から知られていて、私は洋書で読んだことがあります。その本は文字がほとんどなく絵本のような数学の本でしたので、図で内容を理解しました。日本の本でも見たことがあったように思います。ただし、中学入試では初めての出題の図だと思います。この公式は、学校では高校で習うものです。数学の得意な保護者様には、
=
n(n+1)(2n+1)
のことであると言ったほうがわかりやすいかもしれません。
つまり、神戸女学院は、高校の内容に小学生が自分で気づくような図解を紹介しているわけです。受験算数は貴重な文化であるという人がいますが、まさにその通りだと思います。
問題2
右の(図I)のような1から50までの整数を、ある規則にしたがって書き並べた正三角形の紙が3枚あります。
これらを(図II)のような向きにしてから、すべての頂点を合わせて3枚ぴったり重ねます。
次の問いに答えなさい。
(1998年 立教中(現立教池袋中))
解法
答え (1)(イ) (2)42925
解説
これも、前問と本質的には同じです。
この方法は、もうずいぶん前に私は自分で気づいたように思っていますが、少し記憶があいまいです。もしかしたら、同僚のS善雄さんから教えていただいたような気もします。授業で教えたことが、いつの間にか本などに伝播するのでそうしたことかと思いますが、あるいはもっともっと古くから広く知られていたかもしれません。
問題3
次の問いに答えなさい。
(2000年 早稲田中/類題 2007年 灘中)
解法
答え (1)4個 (2)ア64個 イ96個
《参考》
こういう問題では、真上から見た図で数えると簡単です。
簡単という意味は、図が描きやすいということです。しかし、初めてこういう問題を解く人にとっては、イメージがつかみにくいようです。少し素朴な回り道をいろいろして空間図形になじんでから覚えた方がわかりやすいと思います。1つ1つの小立方体の粒をここではキューブということにします。キューブというのは立方体という意味の英語で、別に小さいという意味はありませんが、ここだけのニックネームです。さて、キューブの切られ方は何通りになるのか。わかりにくいときには分けて考えてみます。
さて、右の図(再掲図)が分かりにくいという人が少なくないようですので、次節で基本的な図でウォーミングアップしてみて再読なさってみてください。
わかりにくいときには簡単な図で考えて、少しずつ数を増やして練習してみましょう。
図のような立方体の斜め切りの切り口はこうなります。
図のような2枚重ねの板の斜め切りの切り口はこうなります。
図のような4本のぼうの斜め切りの切り口はこうなります。
図のような8個の立方体の斜め切りの切り口はこうなります。
図のような16個の立方体の斜め切りの切り口はこうなります。
図のような8本の棒の斜め切りの切り口はこうなります。
図のような8個の立方体の斜め切りの切り口はこうなります。
付記
この問題は2007年灘中2日目の4にも出ています。受験算数のレベルって、かなりすごいことになっています。しっかり理解できたら、高校レベル、大学入試レベルに届いてしまいます。逆にいうと、高校レベル、大学入試レベルの問題でも表現を工夫すると小学生にも伝えられるということになるかもしれませんが、どうだったでしょうか。少し難しいかあと思う反面、受験算数では結構あちこちに出ていますので、「頑張るからわかりやすく教えて」という思いを感じてつい長くなりました。
WEBページは文字だけだと100ページくらい平気なのですが、図をふんだんに使うと、かなり容量を食いますので、ページが開けなくなります。ページを分けるとか解法や補足をポップアップにする方法も考えられますが作る方が大変なだけでなく、読者が印刷した後の紙を管理しにくいなども考えられます。そろそろ限界かと思いますので今回はこの辺に致します。最後までお読みいただいてありがとうございます。