日能研教務部算数科 真藤 啓
このページは、「進学レーダー9月号」に連載している算数エッセー「算数好きになるくすり 空間図形の不思議(ふしぎ)」のうち、問題や解説など、紙面で書ききれなくなったことを補足するために、開設しました。
録音機の声を再生すると、自分の声と違って聞こえることがあります。それと似て、写真も自分が日ごろ鏡で見ているのとは違う感じがします。昔、写真を裏返しに現像したものを見ましたが、かえって、「あ、これは自分とそっくりだ」という気がしたものです。
そういうわけで、『進学レーダー』では、あれこれ考えて、あのような話にしてみました。
鏡像の立体は似ているけれども違う立体であるということを印象深くストーリー仕立てにしようと思ったわけですが、結果的にまあよくできたように自分では思っています。
ここで、算数的な内容についていくつかを順に補足したいと思います。
立体図形では平面で考えるのと、同じように考えられることがいろいろある反面、そう考えてはいけない例もあります。
あまり難しいものは入試にそうそう出ませんが、出ていないこと(問われていないこと)を間違えてつけ加えて記述してしまうことなどはあります。そういうわけで、立体図形を考えるための注意点などを述べたいと思うものです。
平行四辺形を合同な半分にするには、中心を通る直線で分けるとよいです。この場合、180度回転すると、お互いが重なり合います。
立体でも、たとえば立方体を中心を通る平面で切って分けると、同じ体積に分けることができます。ただし、切り口が平行四辺形になるとき、ひっくり返しても2つの立体は重なりません。
平行四辺形を平面上でひっくり返すのと、空間上でひっくり返すのは意味が違うからです。
平行四辺形を平面上でひっくり返す→180度回転
平行四辺形を空間上でひっくり返す→裏返し(線対称移動)
となるわけです。
右のような結び目の画像をひっくり返すと、2種類の結び目はたがいに他と重なります。画像ではなしに実際に紐でやってみると、紐は自分自身に重なります。ひっくり返さないで回転させても、自分自身に重なる関係になります。
つまり、2種類の結び目は独立しています。鏡像の関係になっています。
「紐の結び目」は、ずいぶん前に、日能研で11月3日に「学力調査テスト」というのをやっていたころ、その問題のひとつにも取り上げました。
この図は、大学の「位相幾何学(トポロジー)」の教科書の最初の方によく出てくる図ですが、裏返しにしても同じになるというのは、子供でも十分理解でき、かつ驚けるだろうと思い、出してみたのです。(『進学レーダー』ではひっくり返すだけを取り上げましたが、120度回転させても自分自身に重なります。)
この種の問題は2002年には早稲田実業中に出ました。
問題
Aは1本のひもをつないで作ったものであり、その「ひも」の状態をアのようにかんたんにかきました。また、カからケは、アと同じように「ひも」の状態をかんたんにかいたものです。 カからケのうち、「ひも」を切らずに、ひねったり、ひっぱったりしてAと同じ「ひも」の状態にできるものをすべて選び、カからケの記号で答えなさい。
(2002年 早稲田実業中)
【解法の指針】
1つながりの紐があるとき、ある点を起点(出発点)として、紐をたどってみることを考えてみますと、たとえば、右の図では上、下、下、上、上となりますが、このように、「上、上」とか、「下、下」のように同じ文字が並んだときには簡単にできます。
解法
カ カはアにすることができます。 キケ キやケは輪になります。 ク はこれ以上簡単にはなりません。
答え カ
《参考》 紐の結び目の問題
この種の問題は、1985年に六甲中に出題されました。最近では、2000年頌栄女子学院中、2003年捜真女学校中に出ています。 この早稲田実業中、六甲中、頌栄女子学院中、捜真女学校中の問題は、位相幾何学の基本的な知識を自発的に喚起させようとしているのでしょう。ただ、この種のものは、珍しいものに弱い子にもわりとわかりやすいようです。
円と直線の位置関係と、球と平面の位置関係はまったく同じような関係にあるといえます。
円と直線の位置関係を表す図は、球と平面の位置関係を真横から見た図と見ることさえできます。これは中学では教えられています。
しかし、なまじこういう図だけを見ていると、平面も空間もいつも同じように考えてよいと勘違いするもとになるかもしれません。
面積比と体積比というと「猫はトラより寒がりである」ということを思い出します。猫をよく見ると、というかよく見なくてもトラの体形によく似ています。
ところが、猫はトラと違って大変寒がりだと言われその理由は、小さいものほど体積あたり表面積が大きいからだといわれています。
物を燃やすときの燃料は表面積が大きいほど空気に触れやすいので燃やしやすいといわれます。最近はお風呂を沸かすにもガスを使い、薪(まき)を燃やすなどという機会が少なくなっていますが、火を起こすには、紙のように薄い物から、割り箸のような細い物、薪でも割り箸のように細く割ったものに移していきます。このようなものを「たきつけ」と呼んでいました。
氷などを解かす場合にも、大きな固りよりも、小さく砕いた方が解けやすくなります。これは、大きなものより小さいものの方が体積当たりの表面積が大きくなるからです。
たとえば、1辺の長さが8cmの立方体の体積は、8×8×8=512(cm3)で、
表面積は、8×8×6=384(cm2)です。
1辺の長さが1cmの立方体8×8×8=512(個)の体積は、512cm3で、
表面積は、1×1×6×512=3072(cm2)です。
このように体積あたりの表面積は大きく違うわけです。
もっとも、平面図形でも、同じ形の図形では、小さい物の方が、面積あたりの周は大きくなります。
平面を正方形で敷き詰めることができます。正方形のほか、正三角形や正六角形で敷き詰められます。同じ大きさの正方形を敷き詰めて大きな正方形を作ることができます。
同じ大きさの正三角形を敷き詰めて大きな正三角形を作ることができます。
同じ大きさの正六角形を敷き詰めて大きな正六角形を作ることはできません。
《参考》 敷き詰められる形
三角形はどんな三角形でも敷き詰められます。 合同な三角形は、一般に2つ合わせて平行四辺形になります。 平行四辺形は敷き詰められます。 平行四辺形以外の四角形は一般に2つ合わせて平行六辺形(3組の対辺が平行な六角形のニックネーム、正式な用語ではない)にでき、これも敷き詰められます。 平行六辺形は2つの合同な五角形に分けられます。また、敷き詰められる図形をもとにして凹凸を対応させて、いろいろな形に変形させて敷き詰めることができます。
さて、正方形や正三角形のようなことが空間図形でもいえるでしょうか。まず、立方体を積み重ねて、大きな立方体を作ることができます。これは、平面図形で、小さい正方形を並べて、大きい正方形を作ることができるのと似ています。
(1) 立体の敷き詰め 正四面体の場合
では、正四面体を積み重ねて、大きな正四面体を作れるでしょうか。
逆に、正四面体から、4つの頂点をそれぞれ共有する(1辺の長さが半分の)小さな正四面体を取り除くと、正八面体が残ります。
このすき間が正八面体というのがはじめはちょっと意外な気がするのではないでしょうか。
正三角形から頂点をそれぞれ共有する正三角形を取り除くと、正三角形になることと違うからです。
ところで、この結果を観察すると、1辺の長さが2倍の相似な立体の体積比は
(1×1×1):(2×2×2)=1:8
になることから、この正八面体と小四面体の体積比を求めることができることがわかります。
1辺の長さが等しい正八面体と正四面体の体積比は、
1:(8-1×4)=1:4 となります。
正八面体は、立方体の6つの面の真中の点を頂点とする立体と見ることができます。 こう考えると、正八面体の中に3つの正方形が互いに垂直に交わっているという性質が見ぬけます。
このことから、正四面体は、(その中に入っている正八面体が正方形で分けられるから、)切り口が正方形の合同な2つの立体に分けられることがわかります。
このことは、十余年前に晃華学園中に出たことがあります。これが最初で、その後、比較的最近も他校で出たことがあります。
(2) 立体図形の敷き詰め 正四角錐の場合
正四角錐(ここでは正八面体を正方形の切り口で2分したもののこと、ここでは以下、単に正四角錐ということにします。)の5つの頂点をそれぞれ共有する小さな正四面体を取り除くと、残りは1つの正四角錐と正四面体ができます。
言い換えると、この正四角錐は、1つの八面体と、4つの正四角錐と4つの正四面体に分けられます。
1辺の長さが等しい、正四面体と正四角錐と正八面体の体積比は、 1:2:4になることはすでに気づいたことでしょう。ここで、小さい正四角錐の体積を2と見ると、もとの大きい正四角錐の体積は、1×4+2×4+4=16、2×8=16 と二通りの式で求められ、それが一致することが確かめられます。
なお、立方体と、それに内接する正四面体や正八面体との体積比は、次のようになります。
立方体:正四面体:正八面体=6:1:2
中学入試では次のように出ます。
類題演習1 正四面体
すべての辺の長さが等しい三角すいABCDの各辺のまん中の点を、図のようにP、Q、R、S、T、Uとします。また、PSの長さは6cmです。このとき次の各問に答えなさい。ただし、角すいの体積は(底面積)×(高さ)÷3で求められます。
(2004年 巣鴨中)
解法
答え (1) (2)36cm3
類題演習2 正四角錐(半正八面体)
どの辺の長さも3cmである四角すいをA、どの辺の長さも3cmである三角すいをBとします。AとBを何個か使って、すき間なく組み合わせると、どの辺の長さも6cmである四角すいができます。AとBはそれぞれ何個ずつ必要ですか。
(1998年 栄光学園中)
答え A 6個 B 4個
類題演習3 立方体に内接する正四面体
1辺の長さが9cmの立
(2006年 巣鴨中)
解法
答え (1) 243cm3 (2) (ア) 9cm3 (イ) 171cm3
問題
球面上に4点A、B、C、Dがある。AC=AD=BC=BD=CD=2cmで、辺CDの真ん中の点をMとするとき、三角形ABMは正三角形になっています。このとき、この球の半径の長さを右に作図しなさい。
(2001年 東京大学前期文理科共通数学改題)
着眼点
辺BCを共有する2つの正三角形ABCとDBCが正三角形ADMをはさんでいる。その全体が球に内接するというのである。
解法
ADの真ん中の点をNとすると、対称性から球の中心OはMN上にあることがわかる。
正三角形の外心は重心と等しいから、正三角形DBCの外心GはBD上にあって、MG:GD=1:2となる点である。
AMを一辺とする正三角形AMDで、Gを通るMDに垂直な線をかき、MNとの交点をOとするとき、Oは球の中心となる。このときで、OAやODが半径になる。
解答例
《参考》三角形の5心
文中、外心・重心という言葉を使いましたが、補足します。
三角形には5心というのがあります。内心・外心・重心・垂心・傍心がそれです。
1【内心】(ないしん 内接円の中心) | 3つの内角の二等分線の交点 |
2【外心】(がいしん 外接円の中心) | 3つの辺の垂直二等分線の交点 |
3【重心】(じゅうしん) | 3つの中線の交点 |
4【垂心】(すいしん) | 頂点から対辺におろした3つの垂線の交点 |
5【傍心】(ぼうしん) | 2辺の延長と1辺とに接する円の中心 1つの内角の二等分線と2つの外角の二等分線との交点 |
※中線とは三角形の頂点と対辺の中点(辺の真ん中の点をその辺の中点という。)を結んだ線分をいいます。
重心は中線を2:1に分ける点です。
ところで、これに関連して中点連結の定理というのがあります。
中点連結の定理とは、三角形の2辺の中点を結ぶ線分はもう1つの辺と平行で長さは半分になるというものです。中点を結ぶことによってできる小さい三角形はもとの三角形と相似である(相似条件は2辺の比とそのはさむ角が等しい)からアタリマエのことでわざわざ定理として覚える必要はないと思った人もいるかもしれませんが、このアタリマエのことをしっかり安定させると、それを土台としてまた知識を積み上げられるのです。
重心は中線を2:1に分けるというのもすぐわかると思います。
もとにした問題
第1問
半角rの球面上に4点A、B、C、Dがある。四面体ABCDの各辺の長さは、
AB=、AC=AD=BC=BD=CD=2を満たしている。このときrの値を求めよ。
(2001年 東京大学前期文理科共通数学)
「01東京大学」と「06開成高」と「04駒東中」はほぼ同じ問題!!
球に内接する四面体なんか中学入試に出るのかという人もいるかもしれませんが、ところが出ているんです。次に紹介する2004年駒場東邦中学校の問題です。おそらく、東大の上の問題をもとにしたと考えられます。ほとんど、同じくらいの難しさです。
なお、2006年の開成高校「3」は、1辺を共有する正三角形2個にできる四面体とそれに内接する球との問題ですが、同じような筋で解ける問題です。
問題
以下の各問いに答えなさい。
(2004年 駒場東邦中)
解法
角DBCは60度
角DBC=150度だから、角ABD=(180-150)÷2=15()
なので、角ABC=60+15=75(
)
答え (1)75度 (2)(ア)解法の図参照 (2)(イ)= a-2 (3)=a×(a-2)
この駒場東邦中の問題は受験算数としては、やや難し過ぎるという気がします。東大入試には平方根号が使われていたのを回避しようとして文字式を使ったのでしょうが、これはこれで難しいですね。実際これが解ける人はもとになった東大入試も解けるのではないでしょうか。小学生にストンと理解できる表現の問題に限定してほしいものです。
今回は、立体図形が平面図形とちょっとかってが違うことがあるので注意しましょうという話題でした。ついつい長くなりました。簡潔にしようといろいろ削除しましたがこのようになりました。「受験算数でこれまでは出ていないので、ここまでは出ないだろう」と思うことが、不意に出ることがあり、いちおう教えておけばよかったなあと思うこともしばしばあります。そんなことを考えながら書いてみました。