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諸事情で黒の錬金術師がなろう様に載せられなくなりました。
しかしながら始めた小説は最後まで書くのが作者の務め。お気に入り登録していてくれた人たちのため最終話と載せられなくなった話のあらすじをお送りします。
女神の選択
 白い光に包まれた僕らがたどり着いたのは──どこもかしこも凍りついた部屋──氷室でした。
「……ヴォルグ……」
「僕達だけか……」
 ここまでたどり着いたのは僕とヴォルグさんだけでした。ヴォルグさんも傷ついていました。僕のHPもかなりやばいです。
「大丈夫です。遅れているだけですよ。皆死んだりしません」
 仲間を信じましょう。必ずここにたどり着くと──
 僕は氷室の奥を見ました。
 祭壇にも見える台座に据えられた氷の棺。そこに眠るのは──銀色の髪の絶世の美女──眠れる女王リアーナです。
 ゲームの公式のイラストで見たことはありますが、ゲームの中で見たことはありませんでした。
 封印されし都はミリオン戦闘のときのみ一部が開放されるだけでした。女王が眠る聖棺がある氷室が開放されることだけは無かったのです。
 ミリオン戦闘は運営が一年に一度企画していた戦闘です。運営がない今、ミリオン戦闘を企画したのは誰なのでしょう。
「時間は?」
「そろそろだ」
 僕は聖棺に近寄りました。自ら淡く輝く女王リアーナ。彼女が神族だというのは定説です。だからこそ彼女がふさわしかったのでしょう。
 そのまつげがふるえ紫の瞳が開きました。
 託宣──です。これが──
「お目覚めですか? あなたは誰です(・・・・・・・)?」
 ミリオン戦闘を企画したのはこの存在です。それ以外は考えられません。
『世界を造るもの』
「世界──神ですか?」
『概念で言えばそれが一番近い』
「リアーナ女王──ではありませんね」
『そう。これは宿り身』
 その瞬間、僕の頭の中に様々な情報が溢れました。
「あああああああ!」
 なんということでしょう。この世界は──『クリエイト・ミレニアム』を基にしたこの世界はあの日──僕らが“大転移”と呼んでいるあの日、あの瞬間誕生したのです。
 僕らがこの世界に呼ばれたのは──
「冒険者を存在させるためですか……」
 冒険者──その存在はプレイヤーなくしては存在し得なかったのです。NPCとは違いプレイヤーの行動は設定されていません。よく使う台詞くらいは登録してありましたが、何をどう考え、どう動くのかその記録は無いのです。そう、冒険者はプレイヤーが操ってこそ行動できていたのです。だからプレイヤーの魂なくして冒険者は存在できず──また──冒険者の存在が無くては世界は安定しないのです。大繁殖した低級モンスターに壊されてしまうでしょう。
 この世界にはどうしても冒険者が必要だった。
 だからこそ──冒険者を存在させるため『世界を造るもの』は僕達──その瞬間ログインしていたプレイヤーを呼び込んだのです。
 そして──この託宣の目的は──
『選択はなされた。異界の魂たちよ、ご苦労だった』
「待ってください! 僕は──」


 伸ばした自分の手が見えた。
 見知らぬ天井がその先にある。
「──あ──」
 涙がこぼれました。
「理沙っ! 気がついたのね!」
 傍らに懐かしい顔がありました。
「お母さん……」
「よかった! 三日も意識不明だったのよ!」
「三日……」
「あのゲームをやっていた人が全員原因不明の意識不明になったって……どれだけ心配したか!」
 三日……それだけの時間だったようです。
 その後、病院は大騒ぎになりました。

 オンラインゲーム『クリエイト・ミレニアム』。ある日、そのゲームにログインしていたプレイヤー全員が突然倒れたそうです。原因は分からずゲームに何らかの支障があったのではないかと言われておりました。
 でもその三日後、今度は突然全員が意識を取り戻したそうです。
 その事実に世間は大いに騒ぎ──『クリエイト・ミレニアム』はサービス停止が決定しました。
 わたしはどこにも異常が無く恙無く退院できました。

「しばらくオンラインゲームはやめなさい」
「ゲームのせいじゃないよ」
 わたしは久しぶりに自分の部屋にもどり──パソコンを起動させました。
「あっ」
 マリーこと裕也くんからメールが来ていました。彼も無事こちらに戻ってきたようです。
 わたしは知るかぎり知人にメールを送りまくり──またゲームで知り合ったプレイヤーさん達は知るかぎりの連絡先に連絡を淹れていたようです。
 しばらく現状把握に努めました。
 あれは単なる夢ではないと証明したくて。

 『クリエイト・ミレニアム』はあの失神者が続出したその日に停止され、結局そのままサービス停止になりました──それが残念な有志により泊りがけのオフ会がひらかれることになり、わたしはそれに参加します。
 残念ながら未成年であるマリーこと裕也くんは親の許可がおりず不参加──ソウセキ、アマクサは参加。ジュ姐は家の都合で参加できないそうです。
 現地集合なので一人でバスへ向かうと、途中あきらかに参加者だろうという見覚えのある人達とすれ違います。
 バスを降りると──別のバスで着た人達と合流しました。
 なにやら見覚えのある顔立ちの巨漢と連れ立っている長身の人は──黒い髪、黒い瞳、短髪ですが──わたしには誰だか分かりました。
「“狂戦士”ヴォルグ?」
「そういう君はクロウか」
 涙が滲みました。
「覚えていますか?」
「ああ、当然だ」
 わたしは思わずしがみつきました。そっと肩に手が回されます。
「大神、知り合いか?」
 ちょっとばかりふくよかな巨漢が聞きました。
「宍戸、クロウだ。“黒の錬金術師”」
 レオーネさん、現実ではぽっちゃり系だったんですね。
 あの日──託宣はあの世界に存在するプレイヤー全てに下されました。
 そして僕達は選択をしてしまったのです。このことを覚えているのは封印されし都の王宮のたどり着いたプレイヤーだけです。その他の人達はあの世界での全ての記憶を失っていました。
 あの世界に残してきた僕──わたしの分身たるクロウ・リーはどうしているのでしょう。

 最後の書類に署名し、僕はやっと一息つきました。
「これで終わりですよ、あんまり無理しないでくださいね」
 ボルックさんがさっさと書類を取り上げ傍らに控えていたセバスチャンに渡します。
「仕方ないでしょう、領主としての努めです」
「領主は七人いるでしょうが」
「旦那様、ボルックさまの言うとおりです。普通のお体ではないのですから、お気をつけください」
 セバスチャン! 僕よりボルックさんの味方するんですか!
「うちのギルマスがいても同じこと言いましたよ。今日は帰ってきますから」
「そういうボルックさんのところはどうです? 順調ですか?」
 ボルックさんが照れています。
「ええ、まあ。あいつは子供が『コモン』なのか冒険者なのか気にしてますけど、どっちでもいいと思ってます。無事に生まれさえしてくれれば」
 ボルックさんの奥さんは『コモン』の女性なので生まれてくる子供はどっちかに分かれます。
 ええ、本人達が幸せならいいんですよね。
 お幸せに~。
 彼は──いえ、ボルックさんだけでなくプレイヤーだった冒険者のほとんどは自分がプレイヤーであったことを忘れています。
 あの日──『世界を造るもの』はプレイヤーの魂を送還し僕達に選択させました。
 自分の分身たる存在をこの世界に残すかどうかを──そうして残すという選択をしたものがこの世界での冒険者となりました。記憶を失っているものは自分が最初からそういう存在であったと信じて疑いません。
 それを覚えているのは一握り──あの日あの瞬間氷室にいた僕とヴォルグとぎりぎりで駆け込んできた老師だけです。あの部屋にたどり着いたご褒美なのでしょうか? 記憶と──もうひとつの変化──僕達だけのご褒美のようです。
 託宣がくだされた後はいつものミリオン戦闘と同じでした。冒険者はもちろん、『コモン』の軍勢、モンスター、そしてなぜか神人まで封印されし都の外にいました。神人達は封印されし都に帰りたがりましたが、封印はとじてもうどうしようもありませんでした。
 今彼らはイプシロンで暮らしています。
 色々と変化がありました。
 レオーネさんとソーシュネーさんが結婚したときは前身を知っているだけに複雑な気分になりました……
 この世界から消えてしまった人もいますが、記憶が書き換えられ──誰もそのことに気付いていません。
 それを思うと少しだけ切なくなります。
 ガンマーはなぜか無人になり、そこに再びタウンを作ろうという計画がされています。おそらくガンマーのプレイヤー達はこの世界に残りたくなかったのでしょう。一割強の冒険者が消えました。
 それぞれに事情があったものと思われます。
 ヴォルグは一時は『銀狼騎士団』をやめるといっていましたが、南さんをはじめ幹部や隊員一同一丸となって引き止めました。
 結局『銀狼騎士団』のギルドマスターであることはそのままです。ヴォルグは『陽だまり村』の館に住み『銀狼騎士団』のアルファ城に通っています。そのかわり『銀狼騎士団』の団員が最低一名は館に来ます。
 これがギリギリの譲歩でした。
 かくてヴォルグさんの『銀狼騎士団』のギルマスやめて『ルナティック・ハッター』に入る発言は取り消されました。
 僕はそれでもいいと思います。
 結婚している事実は変らないので。
 僕は──本来の性別──女になっていました。まるで最初からそうであったかのように皆の記憶が変っています。
 丸みを帯びて膨らんできたお腹には小さな命が宿っています。

 その部屋には何も無かった。がらんどうの部屋──沖田はそこに呆然と立っていた。
「どうした、局長」
「斉藤さん……」
 沖田は部屋を見回した。
「この部屋……最初からこうでしたっけ?」
「そうだ」
 虚ろな目をしたまま沖田が振り返る。
「副長って……最初から斉藤さん一人でしたっけ?」
「そうだ」
 沖田が再び視線を部屋の奥に戻した。
「どうしたんだいったい?」
「どうしてでしょう……ぼくは……大切ななにかを……なくしたような気がするんです」
「局長」
「あれ?」
 涙がこぼれた。
「あれ? おかしいな? 涙が止まらないや。悲しくなんかないのに……」
 沖田の私室の隣部屋。不自然にひとつ空いたなにも無い部屋。
「疲れているんだ。休んだほうがいい」
「……そうします。すみません、後のことはよろしくお願いします」
 沖田は涙をぬぐったが涙は後から後から零れ落ち止まらなかった。
 部屋を出る直前もう一度振り返ったとき──いるはずのない何かの面影を見たような気がしたが──それは捕まえようとしたとたん消えうせた。

「沖田総一郎、『東方記』の沖田ソウやってましたー」
「小山内利美です。『東方記』のトシゾウをやっていました」
 ころころと笑う可愛らしいとしか言いようのない美少年(高校生)が沖田さんでした。あの世界の沖田さんをそのまんま現代風にしただけです。
 その隣、どこか大人びた凛々しい印象の美少女がトシゾウさんの中の人です。
 今わたし達は大広間に集まり自己紹介とゲームの中ではなにをしていたのかを申告しています。
 色々な事実が暴露されました。
日向葵(ひなたあおい)、『お茶会』の向日葵やってました」
「あれ~、ヒマ姐さん関西弁は?」
「やだな、あれロールプレイですよ。わたし関東住みです」
「うっそおぉぉぉおお!」
「げ~! 騙されてた~っっ」
「その発想はなかったぜっっ!」
「ワイは夏目邦久ですわ。『ルナティック・ハッター』のソウセキの中の人やで」
「なんで老師が関西弁っっ! しかも若いじゃねーか!」
「わたし知ってた~。この人大学生よ~。老師って中国拳法の師匠のことで、年寄りって意味じゃないんだって~」
「だーまーさーれーたーっっ!」
「にゃん言葉で関西弁ごまかしとったんですわぁ。堪忍な~」
「だからトラジマか!」
 ちなみにコロンくんも関西人です。
「南真紀子。『銀狼騎士団』の南だ」
「南将軍~」
「普段はなにをやっているんですか?」
「OLだ」
「宍戸礼二です。『黒獅子騎士団』のレオーネです」
 てへっと照れたようにレオーネさんが名乗りました。うーむ……ギャップが……
「大神俊樹。『銀狼騎士団』のヴォルグだ」
 この場には覚えている人も、覚えていない人もいます。それでも──紡いだ絆はここにあると思いたいです──そうして僕の番がやってきました。
 ひとつ息を吸い──
「皆さん、今日はよくぞおいでくださいました。僕は烏森理沙。『ルナティック・ハッター』のクロウ・リーと申します。お見知りおきを」
最初からこの最後に向かって書いておりました。
東方記のファン皆さん、ごめんなさいっっ!!トシゾウが消えてしまうのは最初からの予定でした。
あの二人の幸せを願う感想を読むたび心の中で手を合わせておりました。本当にごめんなさいorz
でも中の人は幸せにしてます。


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