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社説

TPP協議 関税全廃は容認できぬ(2月9日)

 環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加をめぐる日米の事前協議がワシントンで始まった。

 初日は局長レベルの会合である。米政府の要求内容が最大の焦点だったが、具体的な項目は固まっていないとして提示を見送ったようだ。米側は自動車、保険、農産品の市場開放を求める産業界の要望を日本側に伝えており、今後の厳しい交渉を予想させる中身だ。

 驚くのはむしろ日本側の対応である。コメなどの重要品目への配慮を求めながらも、全品目を自由化交渉の対象とする考えを表明した。交渉次第では関税の全廃もあり得る。

 こうしたTPPの重要な対処方針について、野田佳彦首相は国会の答弁などであいまいにしてきた。

 昨年11月の日米首脳会談でも首相が発言したと米側が発表したのに対し日本側が慌てて否定する騒動もあった。米国との事前協議に合わせて打ち出すのはいかにも唐突である。

 首相は交渉参加について、関係9カ国の要求を見極め、十分な国民論議を経た上で結論を得ていくと説明してきた。しかし、はなから全品目対象の自由化を打ち出すのでは「参加ありき」が露骨である。

 そもそも事前協議は情報収集が目的であって、関係国に政府の方針を伝える機会ではあるまい。

 国内と海外での説明を使い分ける野田政権の姿勢も首をかしげる。

 国内ではTPP交渉参加の手続きを慎重に進める方針を表明するが、対外的には積極姿勢を示す。国民への説明は不十分なまま国際的な公約として既成事実化しようとする意図があるなら大いに疑問だ。

 肝心の関税撤廃の例外扱いについて、政府は今後交渉入りする中で主張するとしている。

 しかし、日本政府が関税撤廃への意欲を示したと受け取られる中で、主張がそのまま通るのか、はなはだ心もとない。交渉参加を求めるなら事前協議の場で、重要品目の例外扱いが必要な日本の立場を説明し、支持を取り付けるべきだ。

 首相は「農漁村を断固守り抜く」と述べたが、TPPと両立する農業の姿を一向に示していない。対策がないまま関税を撤廃すると、道の試算では関連産業を含めて影響額は2兆1千億円にも上る。

 焦点の重要品目の扱いが不透明どころか、懸念されるのでは本交渉入りはとても容認できない。沖縄を含め、地方でTPPに反対する声が強まっているのは当然である。

 政府・与党には、農業の盛んな地方にとって、死活問題であることへの自覚が足りないのではないか。

 地域に犠牲を強いる安易な交渉は許されない。

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