福井県にある関西電力大飯原子力発電所3号機と4号機の「ストレステスト」について、国の原子力安全・保安院は、8日、専門家の会議での審議をすべて終え、近く、「妥当だ」とする最終評価をまとめる見通しになりました。今後、原発の運転再開に向けた議論が本格化するとみられますが、地元自治体は再開に慎重な姿勢を示していて、今後の行方は不透明な情勢です。
ストレステストは、政府が停止中の原発の運転再開について、地元の理解を得るために導入した新たな安全評価で、コンピューター上のシミュレーションで、原発が地震や津波などにどのくらいまで耐えられるかを確認するものです。
これまでに16基の原発の結果が国に提出されていますが、このうち、最初の国の評価となる関西電力大飯原発3号機と4号機のテスト結果について、8日、専門家の会議で最終的な審議が行われました。
まず、原子力安全・保安院が最終評価の案を示し、先月、国の依頼で調査を行ったIAEA=国際原子力機関が「テストの方法は国際基準に適合している」という結論をまとめたことを踏まえ、「福島第一原発を襲ったような地震や津波がきても、同じような事故の状況に至らせない対策がとられている」として、「妥当だ」としました。
これに対し、原発の運転再開に慎重な姿勢を示してきた専門家からは、「今回のストレステストでは不十分で、単なる机上の空論にすぎず、運転再開のステップにすべきではない」などといった意見が出されました。
一方、別の専門家からは、「今回のストレステストをきちんと評価したうえで、今後、さまざまな方法で安全性を高めていくべきだ」という意見が出されました。
委員の中には、議論が十分し尽くされていないとして、審議の継続を求める意見もありましたが、保安院は「指摘を踏まえたうえで、責任を持って取りまとめをする」として、8日ですべての審議を終える方針を示しました。
近く大飯原発のストレステストの結果について「妥当だ」とする最終評価をまとめる見通しで、今後、原発の運転再開に向けた議論が本格化するとみられますが、地元自治体は再開に慎重な姿勢を示していて、今後の行方は不透明な情勢です。
大飯原発の「ストレステスト」の審議が8日で終了する見通しになったことについて、原発の運転再開に慎重な姿勢を示してきた2人の委員は、「まだ安全性の議論は終わっていない」などと不満を口にしました。
このうち、芝浦工業大学非常勤講師の後藤政志委員は「今回の議論で安全であることが証明されたわけではない。安全性の議論は終わっていないので、このまま運転再開というのはとんでもない話だ」と述べました。
また、東京大学名誉教授の井野博満委員も、「まだ議論は中途半端で、確認しなければならない問題が残っている。少なくとも議論が打ち切れる状況ではない」と話しました。
会議のあと、原子力安全・保安院の市村知也課長は、「多くの議論をいただいたので、われわれとしては、まず、これを最終評価にどう反映させるか検討したいと考えていて、現時点でいつまでにまとめるという見通しはない。ただ、われわれの考え方は『ストレステストの結果は妥当だ』とした最終評価の案のとおりで、基本的に変わらないのではないか」と述べました。
「ストレステスト」は、福島第一原発の事故を受けて、ヨーロッパで先行して始まった原発の新たな安全評価で、国内では、去年7月、政府が導入しました。
コンピューター上のシミュレーションを使って、地震や津波などにどれくらい耐えられるかを確認するもので、ポンプや電源設備といった重要な機器を一つ一つ調べます。
関西電力は、大飯原発3号機と4号機について、地震の揺れの大きさはこれまでの想定の1.8倍まで、また、津波は想定のおよそ4倍の11.4メートルまで安全性に余裕があり、深刻な事故には至らないとしています。
保安院が、「テスト方法は妥当だ」とする最終評価をまとめた場合には、原子力安全委員会に報告され、専門家の立場から二重のチェックが行われます。
そのうえで、安全委員会の指摘を踏まえ、政府が、運転再開ができるかどうかを最終的に判断することになっています。
しかし、「ストレステスト」を巡っては、専門家の一部から、「審査の基準が明確でなく国の評価はあいまいだ」として、運転再開の判断の前提とすることに批判的な声が出ています。
また、実際に運転を再開するためには、地元自治体の了承が必要ですが、自治体からはストレステストや福島第一原発の事故について国の説明を求める意見も多く、国がどのように説明責任を果たすのか姿勢が問われています。
国内の原子力発電所は、54基のうち94%に当たる51基が停止していて、このまま運転を再開する原発がなければ、4月下旬には、すべてが止まることになります。
運転している3基は、関西電力の高浜原発3号機が20日に定期検査に入る予定で、また東京電力の柏崎刈羽原発6号機も来月に止まります。
そして、北海道電力の泊原発3号機が4月下旬に停止する見通しです。
電力各社は、老朽化などで使っていなかった火力発電所を動かしたり、余った電力を融通し合ったりして、冬の電力需要のピークを乗り切りたい考えですが、関西電力は、電力の供給が厳しいとして、来月23日まで、家庭や企業に対して去年より10%の節電を要請しています。
また、火力発電所がトラブルで運転を急に停止する問題も各地で起きていることから、経済産業省は、全国で節電の取り組みを続けるよう協力を呼びかけています。
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