「ん、ここは……」
目を覚ました剣正が見たのは知らない天井。
「ようやく目を覚ましたか。ここはテントの中だ。調子はどうだね?」
覚醒しきっていない剣正の耳に届いたのはフランクの声だった。何の調子を聞かれているのかわかっていない剣正だったが、徐々に意識がはっきりしていき、何故自分が寝ていたのか、そして何を問われているのかを理解した。
「大丈夫です。あ、何か飲み物をくれると嬉しいかな」
「わかった。すぐに持って来させよう」
フランクは携帯していた小型無線機を使い、部下に飲料物を持ってくるように伝えると、用事があると言い残し剣正が眠っていたテントから出て行った。
「はぁ……あの人がいると息が詰まるぜ」
フランクが出た入り口も見ながらため息を吐く剣正。そして1分ほどベットで寝転がっていると、見知った人物がたずねてきた。
「無事だったみたいだな」
「感謝します。調子は?」
訪ねて来た人物とは剣正が倒れる間際まで戦っていたマルギッテ。手には先ほど頼んだ飲み物が入ったペットボトルが持たれており、剣正に体の調子を質問した時は、普段の凛々しいものではなく、申し訳なさそうな少女のような表情を浮かべていた。
「片目がボヤけて見えること以外何の問題もないさ。あと飲み物ありがと」
「まさか銃弾に!?」
「違う違う。戦ってる時アンタの攻撃見切る為に本気だしたからだ。何時かはわからねぇけど治るから気にすんなよ?」
バツの悪そうな顔を浮かべているマルギッテに、剣正は笑顔で伝える。
「楽しかった。ありがと」
「私もです。機会があるならばもう一度戦いたい」
「納得のいく決着じゃなかったからな……いいぜ、やろう! でもまた今度な」
戦う。
それは1ヶ月前の戦うことを嫌い、戦うことから逃げ、戦いを否定していた剣正からは絶対に出てくることがなかった言葉。
それを理解している剣正はつい笑ってしまう。
先ほどまで浮かべていた笑みとは違う表情で笑う剣正を見て、マルギッテは突然なんだといったような表情になる。
「あー、これはだな……思い出し笑いというなんというか」
マルギッテの表情に気付いた剣正は、いきなり笑い出した自分の行動を恥ずかしく思ったのか取り乱してしまう。
そして恥ずかしいのを誤魔化そうと立ち上がったのが拙かった。
急に立ち上がったことで立ち眩みに襲われてしまったのだ。一瞬だけ真っ白になる意識、それにより前へと倒れていく剣正。どうにか堪えようとした剣正だったが、体制が悪かったことが災しどうにもならなかった。
倒れていく最中見えた棒のようなものに捕まろうとしていたのだが、片目しかほとんど見えておらず、手を滑らせてしまう。
結果、無様に倒れた剣正は地面を転げ回ることになった。
「ふふふッ。大丈夫ですか?」
「あ、あぁ大丈夫……。でも、ようやく笑ったな」
マルギッテは軍人として誇りを持ち、普段からビシっとして凛々しく振舞っており、笑うことは少ない。そして今回は剣正に怪我を負わせてしまったことへの罪悪感から、申し訳なさそうな表情しか浮かべていなかった。
合ってからずっと決して良い表情をしなかったマルギッテが笑ったのだ。
偶然に起きてしまったとはいえ自分の行動で笑ってくれたのが剣正は嬉しかった。
剣正が一番好きなのは『笑顔でいること』で、それは自分ではなく他人であっても同じ。
笑顔を見れば、少し幸せな気分になり嬉しい。
素が美人であるマルギッテの笑顔を見たので、それは尚更だった。
「……そんなことより、やはり片目がボヤけているのは危険なのでは?」
剣正の言葉で、毅然として振舞っていた自分が笑ったことに気付き咳払いをするマルギッテ。
「普段が視力よすぎるから少し面倒だな」
「ではこれを」
「これって」
「私が使っているものです。嫌であれば捨ててくれて結構」
「ありがと、使わせてもらうよ。それにしてもよかったのか?」
「戻ればスペアがあるので」
剣正に手渡されたのはマルギッテがいつも装着している眼帯だった。片目だけボヤけている剣正の身を按じてくれたのだ。
「でもこれってどうやって着けるんだ?」
「貸しなさい」
そう言ってマルギッテは、横着している剣正から眼帯を取り上げると、服に腕を通すかのように慣れた手付きで素早く着けてくれてくれる。
「おー、ありがと! どうだ似合うか?」
ナルシストではないが、悩んで買った新しい服の感想を友人に聞くときのように訪ねる剣正。
「……似合ってます」
「なんだよその間はッ!? いいよ、どうせ似合わねぇさ」
そんなやり取りをして過ごしていると、剣正たちのいるテントへフランクが戻ってきた。
「おや」
「あーいいです。似合ってないですから」
「ん、私はマルギッテが笑っているのが珍しかっただけのだが」
「中将殿ッ!」
「はっはっは、話しもいいが時間だ。浅井くん準備したまえ」
「準備?」
フランクから伝えられる『準備』という言葉に、嫌な予感がする剣正。
「時間がない。マルギッテ、彼を例の場所へと連れてくるように」
「ハッ!」
フランクはマルギッテに命令すると、テントか急ぎ足で出て行く。そして残されたのは剣正とマルギッテ。だがそこには先ほどまでのマルギッテはいなかった。いるのは軍人としてのマルギッテ。
「あのさ……また俺どっか連れてかれるの?」
「大人しくしていなさい」
「いや、だから!」
「言うことが聞けませんか?」
「ハイ……」
不安から噛み付いた剣正だったが、マルギッテにキッとひと睨みされると萎縮してしまいされるがまま縄で取り押さえられてしまう。
そして軍人とはいえ、女性のマルギッテに抱えられ剣正はテントの中から連れて行かれてしまうのだった。
剣正が強制的に連れて来られたのは、ここに来る際に乗ったものと同型のジェット機の中だった。それを見たとき剣正は家に帰れると心の中で小躍りしたのだったが、現実はそんなに甘くない。否、剣正に甘いはずがない。
「箱根に向かう」
「へ?」
フランクの言葉に間抜けな声を上げてしまう剣正。
「箱根って日本の?」
「そこ以外にどこがある。クリスが旅行中なのでな。年頃の男女が一緒なのだ、親としては心配して当然だろう。もし万が一クリスに何かあった場合は……」
今にも人を殺しそうな目で腰に備え付けてある拳銃を見つめるフランク。剣正はゴクリと息を呑んだ。
「あった場合は?」
「八つ裂きにした上でMG4で蜂の巣にしてくれる!」
予想以上にひどかった。
筋金入りの親バカだと思っていた剣正だったが、これを聞いてフランクに対する評価がさらに下降、そして危険度レベルはレッドゾーンを振り切っている。
フランクが剣正の絶対に怒らせてはいけない人間リストに入った瞬間だった。
「大丈夫だと思いますよ?」
「思うのでは駄目だ! 大丈夫でなくては!!」
「……で、何で俺が連れて行かれるのでしょう?」
興奮していることは気にせず、剣正は思っていたことを尋ねる。
「スマナイね、柄にもなく取り乱してしまっていたようだ。浅井君にも旅行に参加してもらおうかと思ってね」
「お嬢さんの監視役ということですか?」
「それもお願いしたいが、本音を言うと御礼とお詫びだよ」
そうこれはフランクから剣正への急に連れ去ったことへのお詫びと、部下のマルギッテを助けてくれたことに対する御礼の気持ちだったのだ。
「でも俺バイトがあるんだけど」
「気にすることはない。君を迎えに言った部下が君の代わりに働くことになっている」
「ルーカスさんが?」
剣正は自分が代行するはずだった仕事内容を思い出していた。剣正がゴールデンウィーク中に請け負っていた仕事は
・デパートの屋上にて着ぐるみで子供の相手をする
・最近誘拐事件が多発している地区にある保育園のガードマン
・そして合コン
上記の三つだった。
「何か問題があるのかね?」
「いえ特に」
「それでは向かうぞ」
「了解」
心の中で剣正は「がんばれルーカスさん!」とエールを送る。
これから人生二度目の恐怖を味わうとは知らずにのんきな剣正だった。
口調に問題がある気がしますがお許しを orz
助けてもらったのだから、少しくらい丁寧に話してもいいじゃない!
という考えのもと書いていたのでww
そにしてもようやく次回箱根旅行へと移れますw
長かった……でもまだ原作でいうところのOPはまだというw
それではいつものお目汚しを……
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