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二章:変わったもの
第15話:ハプニングは突然に
 
 剣正はすっかり静かになった島津寮の中を眠気眼を摩りながら歩いていた。居間にある壁掛け時計は10時20分を指していた。本来なら学校がある時間なのだが今日はG・ゴールデン・ウィーク。学生に限らず一部の社会人を除き全国的に休みなのだ。


「今頃、アイツらは電車の中か」


 冷蔵庫にあったお茶を飲み、喉を潤わした剣正から呟きが漏れる。そう、風間ファミリーの面々は翔一の当てた旅行券を使って箱根旅行に出かけていた。普段は騒がしい島津寮に静けさが訪れているのは、騒ぐ張本人たちが居ないからだった。

 剣正も誘われていたのだが、先日の金曜集会(毎週金曜日に秘密基地に集まる風間ファミリーのイベント)でも言っていたが宇佐美代行センターでのアルバイトが入っていた為に、参加できず不本意ながら留守番ということになっていた。

 風間ファミリーが旅行に出かけた今日、G・W初日は剣正もアルバイトがなく暇を持て余していた。


「ゲンちゃんもいねぇし、クッキーはメンテナンスに九鬼の所に行ってるし……部屋の掃除でもするか」


 部屋に移動した剣正は早速掃除を諦めようと思った。百代との決闘後、治療の為に川神院で一夜を過ごしている間、クリスの父であるフランク・フリードリヒが剣正の承諾もなく置いていった無線機が原因だった。

 元は家屋だったものを改装して作られた島津寮。当然各部屋は和室であり、部屋の隅に追いやっているとはいえ完全に浮いてしまっている無線機は圧倒的な存在感と異質を出している。

「捨ててしまいたい」と思っている剣正だったが、会った際にフランクの危険性を感じてしまっていた為、捨てれないという状況に陥っていた。もし捨てるにしてもどうすればいいのかもわからないこともあり、完全にお手上げ状態の剣正。


「大串なら喜ぶんだろうけどな……」


 剣正の口から出てきた人物の名は【大串スグル】。川神学園の2ーFの生徒で一言で表すのなら、生粋のオタク。ジャンルはアニメなどのオタクの代名詞から軍関係のマニアックなものまで幅広くこよなく愛しており、二年に進級した際に行われた一泊二日のオリエンテーションで話したことがあった。その時の大串は第一印象の暗い奴というものを木っ端微塵に壊すかの如く、熱く語っていたのが印象に残っていた。

 たしかに大串ならタダで実際使われている無線機を貰えるという状況に立てば歓喜していたころだろう。だが、クドイようだが残念ながら無線機があるのは剣正の部屋。


「ん、そういやコレってどう使うんだ?」


「うんうん」と頭を悩ませていた剣正は、ふと顔を上げると無線機に視線をやった。この部屋に無線機が置かれてから、ただの一度も使ったことがなかったのだ。

 無線機の上に乗せられていた一通の封筒を引き出しから取り出した剣正は、一度クシャクシャになったことで読みづらくなった文面に目を通していく。

 一枚目は読み返しても親馬鹿としか言いようのない内容だったが、実は封筒の中にはもう一つ同封されていたものがあった。中から出てきたのは一冊の本。表紙には日本語でこう書かれていた。


『猿にでも分かる無線機の使い方・入門編』







「…………とりあえず、色々とツッコミたくはあるが」


 少々おかしなタイトルの本ではあったが内容はしっかりとしたもので、読了した頃には二時間ないし、一時間半ほど時間が経過していた。読んでいくうちに集中してしまっていた剣正は苦笑いを溢す。だが、すっかり基本的な無線機の使い方は身についていた。


「おそるべし『猿にでもわかる無線機の使い方・入門編』」


 手紙や封筒を元あった引き出しに戻すと、剣正はカップ麺を持って部屋を出て行ってしまった。部屋を掃除するという目的はどこへやら、完全に忘れてしまっていた。







◇◆◇◆◇








 再びキッチンへと移動した剣正は買い置きしていたカップ麺にお湯を注ぐ為ヤカンに水を入れるとガスコンロに火を点けた後、冷蔵庫に残っていた白ご飯をレンジへと放り込んだ。起きてからお茶以外のものを口にしておらず、お腹の減り具合はMAXに達していた。

 レンジが暖め終わったことを知らせる音を出す頃、丁度ヤカンからも沸いたぞとヤカン独特の音を上げる。剣正は瞬時に火を止めると流れるような動作で、あらかじめ蓋を開けていたカップ麺にお湯を注いだ。非常に手馴れた手つきであり、普段から自炊をしていないことがわかる姿だった。


「今すぐにでも食べてぇけど、コレは4分待つのが一番美味しく食べれる」


 人によってカップ麺の待ち時間は人によって異なるが、剣正の食べようとしているカップ麺の待ち時間の目安は5分と記載されていた。剣正は少し硬いくらいの麺が好きであり通常より少し短い時間でいつも食べだすのだ。

 お湯を注ぎ終わり仕上げに蓋を閉じた直後、島津寮にかつて聞いたことのない音が響いた。


 ビービービー! ビービービー!


 突然のことに剣正は驚いて手に持っていたカップ麺を床に落としそうになったが、なんとかバランスを保ち大切な食料を台無しにするという悲惨を回避することに成功しテーブルの上に置くと、音の聞こえてくる方へ向けて歩き出す。

 音の発信源は剣正の部屋からだった。恐る恐る戸をを開いた剣正は室内に顔だけを突っ込み、中を確かめる。


「ってコレかよ……驚かさないでくれ」


 音の正体は先ほど使い方を覚えたばかりの無線機から出ているものだった。

 剣正は溜息を吐きつつも無線機の前まで歩いていくと、真新しいマイク付きのヘッドホンを頭に装着し、数あるボタンの中から一つを選び迷わず押した。


『聞こえるかね浅井君』


 ヘッドホンから聞こえてきたのは、この無線機を置いていった張本人であるフランクの声。声に混じって銃声らしき音や何かが崩れ落ちるような音が聞こえてくるが、剣正は気にせず返事をする。


「問題なく聞こえますよ」

『それはよかった。では手短に用件を話す。一度で覚えたまえ』

「はい?」

『今から島津寮に迎えを寄越す。時間にして60秒で、そちらに車に乗った私の部下が到着する。君はそれに乗るのだ。尚、詳しい説明は部下に聞きたまえ。以上で交信を終了する』


 プツンっと短く音が鳴ると、ヘッドホンからは何も聞こえなくなり無線機も元の鉄塊に戻ってしまっていた。


「…………」


 あまりの唐突さに言葉をなくす剣正。何が起こったのかと混乱している脳は思考するのを拒絶し、一時的に放心状態になってしまう。その間に無常にも一秒、二秒と進んでいく。

 剣正を正気に戻したのは来客を知らせるチャイムだった。玄関に出てみると、そこには軍服を来た人間。一目でフランクの部下だとわかる人物は、顔を出した少年を視野に捉えると口を開いた。


「ご命令により浅井剣正殿をお迎えにあがりました。失礼ですが、貴方が浅井殿でよろしかったでしょうか」

「は、はぁ……俺が浅井剣正だけど……」


 フランクの部下は少年を剣正と確認するやいなや、剣正の腕を掴むとドアの方へと力任せに引っ張っていく。


「よかった。では参りましょう。時間が押しております」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! まだ昼飯が、ラーメンが、ご飯がッ!」


 剣正は力の限り抵抗を試みるが、相手は現役の軍人。力で勝てるわけもなくズルズルと引き摺られていってしまう。


「残念ですが、諦めてください」

「い・や・だ! 俺は昼飯を食べるん、だッ!」


 火事場のクソ力とでも言うのか食べ物への執着心なのか引き摺られていた状況から一遍、寮の中へ、正確にはカップ麺などを置いたままのキッチンの方を目指して少しずつ前進してく。


「仕方がありませんね」


 軍人はそう言うと掴んでいた手を離した。いきなり引っ張られていた力が無くなったことで、剣正は前のめりに倒れこんでいき音を立てて床に激突してしまう。


「……いってぇ……って、え?」


 剣正が感じたのは顔を床に叩きつけた痛みと背中に硬い何かを押さえつけられた感触。


「失礼ながら、強攻策に出させていただきます」

「なッ……!?」


 声が聞こえた直後、カチっという音と共に剣正の全身に電流が走った。


「ご安心を。一時的に麻痺しているだけで30分ほど経過すれば元に戻ります」


 スタンガンを使った軍人は、力の入っていない剣正を担ぎ上げ玄関から出て行き、車の助手席に剣正を放り込みシートベルトを装着させると自身も乗り込み車を発進させる。


「俺の昼飯ぃぃぃぃぃぃ!」


 剣正の悲痛な叫びは車内から漏れていたがG・Wということもあり、近隣の住人はどこかに出かけており気付く人はいなかった。







 ――その日の晩、仕事から帰った忠勝はキッチンに残されていた作られたはいいが、手の付けられていないカップ麺とレンジに入れっぱなしになっていたご飯を見つけると、文句を言いつつも片付けていた。
公式HPでフランクさんのプロフィールを見ていて、とある項目に目を奪われました

武器:軍そのもの

武器ってアレですよね?
百代なら拳、ワン子なら薙刀と最も自分の力を引き出し上手く扱えるアレ。
えぇい、ドイツの中将はバケモノか……!
ハイ、言いたかっただけですw

とまぁ、そんな感じで驚いていた私ですが、今回は以前出てきた無線機を使った話でした
フランクさんが剣正を拉致った理由は言わずもがな。もう気付いている方はいると思いますが、次回の更新まで気付いていないフリをしていただけると嬉しいですw

それでは次回のあとがきでお会いしましょう!

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