皆さんお久しぶりです!
待っていてくださった方、すみませんでした orz
久々に再会を果たした剣正と宇佐美優は会話もそこそこに移動していた。行き先は優の大好物である久寿餅を売っている和菓子屋がある仲見世通り。
「相変わらず人が多いわね」
「観光客に限らず、地元の人間も菓子とか買いに来たりするからな」
そう話しながら歩く二人の視界には数多くの人間が映っていた。特色のある土産品を物色する外国人から、優と同じように自分の好物を食べに来ている若者や老人、様々な人々が仲見世通りにいる。
歩けないほどの人がいるわけではなかったが、ぶつからないようにして歩くのは少々困難だったのか、優はこんなことを言い出した。
「剣ちゃん手繋いでー」
外見とのギャップを感じられずにはいられない一言。
「いやいや、子供じゃねぇんだから。はぐれても店は知ってるし、そこで合流すれば」
「そんなこという剣ちゃんは嫌い」
「…………」
「はい、決定!」
そう言うと半ば強引に剣正の手を取った優は自分の手を重ねた。
「ンフ~」
「あのな……はぁ」
文句の一つでも言ってやろうかと思った剣正だったが、満面の笑みを零し隣を歩く優に毒気を抜かれ諦める事にした。行く行く和菓子屋を知っている剣正は諦めたのと同時に心の中で切に願う。
(頼むから居ませんように……!)
ここ数週間の運を考えればわかっていた事だったが、結果を言えば剣正の願いは無情にも叶うことはなかった。
最悪とまではいかずとも運は微妙のままである剣正は、いつになったら自分の運気は上昇するのか、と考えながら手にある久寿餅を口に運んでいた。
「それじゃ優さんが前に言ってた弟って」
「そう剣ちゃん。仲良くしてあげてね」
隣で優と話しているのは剣正のクラスメイトである小笠原千花。今時の女子高生という容姿や言動をとる彼女だが、実家の和菓子屋を誇りを持ち手伝っているという実はしっかり者なのかもしれない。
すぐ傍でキャッキャと話す二人を後目に、お代は私が持つから好きなだけ食べていいと優に言われた剣正は久寿餅をこれでもかと言うくらい頬張り続ける。
(女三人寄ればっていうけど、二人でも十分ウルセェよ。ここに……いや、考えるのはよそう)
ここに先輩がいたら、なんて事を一瞬頭を過ぎった剣正だったが、綺麗さっぱりと忘れることにした。
ことごとく願望の叶わない剣正だったが今回の願いは天に届いたらしく、その後も百代が現れることなく、勘弁してほしい状況ながらも久寿餅の味を大事に噛みしめた。
十数分後、頼みまくった久寿餅を平らげた剣正は少し張ったお腹を押さえながら、携帯電話と睨めっこしていた。受信ボックスに入っていたメールを開き読み終わると、何やらポチポチと打ち込みだした。
「誰かにメール? もしかして彼女!? そんな剣ちゃんに……」
「ウルサいな! キャ……男“友達”だよ」
ディスプレイに表示されているメールの宛先には『風間翔一』。風間ファミリーのメンバーからはキャップと慕われ、剣正もキャップと呼ぶように言われていたが、今更恥ずかしく未だになかなか呼べていなかったりする。
「男友達かぁ。ふーん……」
「何か言いたいことでもあるのかよ」
出会ってから一年が経つが、剣正の口から“友達”という言葉を聞いた事がなかった優は、不満げな表情を浮かべながら話す剣正を見て微笑んだ。
「いえ、何もないわ」
「そうかい。それじゃ俺はこれから行くとこあるけど、ユウ姉はどうする?」
「あら、私を放置してどこに行くの?」
「人聞きの悪いこと言わないでくれ……さっきの友達から、廃ビルに来るようにって言われてるだよ。何か見せたい物があるらしい」
「もしかして、その友達って風間ファミリーの誰かじゃない?」
「そうだけど、何か知ってるのか?」
百代と仲の良い優は、由紀恵やクリスを除く風間ファミリーとの面識があり、ファミリーのメンバーとも仲が良く、剣正が呼び出された廃ビルにも行った事があったのだ。
「何度か遊んだ事があるのよ。へぇ……それなら私は先に帰る事にするわね」
「埋め合わせはまたするから」
「その言葉覚えておくから。私を放置したこと後悔させてやる」
「勘弁してくれ」
「ふふっ、冗談よ。ほら早く行きなさい」
「あぁ、行ってくる」
優に別れの言葉を告げると剣正は走り出して行った。
「よかったね剣ちゃん……」
そう呟いた優の遠ざかっていく剣正の背を見る目からは優しさが感じられた。
「それじゃ、私も残ってる仕事でも片付けに行きますか」
◇◆◇◆◇
呼び出されていた廃ビルに着いた剣正は、走ったことで火照った体を風にさらして冷ましながら翔一を待っていた。
「最近走ってばっかな気がするぜ」
しばらくすると汗は引いてき、元の体温に戻った頃、遠くの方からかすかに音が聞こえてきた。段々と近付いてくるエキゾーストノートは翔一が跨る原付バイクから出す音だった。
「悪りぃ、待たせたみたいだな」
「俺もさっき着いたばかりだし、気にすんな」
本日二度目となる待ち合わせ特有の会話を交わした剣正と翔一。
「ここにいても何だから、さっさと案内するぜ」
「案内って、もしかしてこの中をか?」
「あぁ、とりあえず着いて来い!」
案内すると言ったにも関わらず、説明をほとんどせずに走り出し廃ビルの中に消えていった翔一の背を追い、抜き忘れられていたバイクのキーを引っこ抜くと剣正も廃ビルの中へと入っていった。
中に入ると上の階へと繋がる階段の前で翔一が待っており、後から来た剣正を見て先に行ってしまったことを謝った。
「いやぁ、皆に早く言いたい事があって先に行っちまってた」
「風間はそういう奴なんだって最近わかってきたから、気にしてない」
「怒るなよー」
「別に怒ってないさ。さぁ、行こうぜ。それに早く言いたい事があるんだろ?」
剣正は駄々をこねる子供のように口を尖らせる翔一を見て、笑いながら案内をしてくれと頼んだ。
その後、翔一の後を歩き廃ビルの中を数階上がると一つのドアの元へと案内された。
「ここに何かあるのか?」
剣正の質問に得意げな表情を浮かべながら翔一はガッとドアを開け放つ。
「見て驚け! ここが俺たち風間ファミリーの……ってあれ? なんだこの空気?」
ドアの向こうには剣正、翔一を抜いた風間ファミリーのメンバーが集結していたのだが、明らかに気まずい空気が部屋の中を支配していた。
剣正たちが来たことで幾分か緩和された雰囲気の中、大和が翔一にこの状況が生まれた事情を説明する。
「なんだもう解決してるじゃん」
説明を聞き終わった翔一は一言で締めた。その後は機嫌の直っていない京を大和に任せ、翔一は懐からとある券をテーブル上へと出した。
「それ何のチケット?」
「よくぞ聞いてくれた! 商店街の福引きで旅行券が当たった。場所は箱根で二泊三日だ!」
それを聞いたファミリーのメンバーからは賛辞の声が上がり、翔一は満足した表情を浮かべる。
先ほどまでの気まずい雰囲気は彼方へと吹っ飛んでしまっていた。意識してなのか無意識なのか、一瞬で場の空気を変えた翔一を見て剣正は素直に感心していた。
「それっていつ行くんだキャップ? 準備とか必要だろうし」
「有効期限はと……G・Wだな。皆は予定は大丈夫か?」
翔一の問いに頷く質問した大和たちが頷く。
「あぁ悪い。G・Wは仕事があって参加できない」
剣正を除いて……。
「ヒゲに頼んでどうにかならねぇのか?」
「んー、どうだろうな。こればっかりは会社の信用に関わるから無理だと思う」
岳人の質問に答えた剣正は、残念そうな顔を浮かべる翔一たちに笑いながら続けて話した。
「行けないのは残念だが、お土産は期待してる! できるだけ食べ物がいい」
「わかったぜ! 各自、剣正に食べ物を買ってくるんだ、わかったな?」
おー! と返事をしたメンバーは、どんな食べ物が好みなのかなどを剣正に聞いたりして、その後の時間を過ごした。
ようやくPCが手に入り、執筆を開始することができました。今回の更新までの間にメッセージをくださった方や見ていてくれた方、ありがとうございました!
そしてこれからも【真剣で俺が愛するもの!】と忍をよろしくお願いします!
帰ってきて早々ですが、ご感想、ご意見、ご指摘など随時お待ちしております。
誤字脱字があれば報告お願いします。
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