窓割り犯人撃退の翌日の放課後、剣正は多馬川の河原に座り込み、とある人物を待っていた。HRが終わって、すぐ教室を飛び出し急いで走って来たこともあり、額には汗が浮かんでいた。
待ち合わせをしている人物はまだ来ていないらしく、座った状態のまま忙しなく周囲をキョロキョロと見渡している。
「普通に歩いて来ればよかったよ」
立ちあがった剣正は見晴らしの良い所へ移動し一通り見てみたものの、期待していた人物を見つけることはできず、急いできたのが馬鹿らしく思ったのか大きく溜息を吐く。
この河原は数ヶ月前から避け続けていた相手である百代と初めて争った場所であった。百代の吐いた嘘が原因で、その言葉を真に受けた剣正は込み上げた黒い感情に身を任せ、拳を握り怒りのままに振るい続けた。
最終的には途中で止めに入った大和に、百代の言葉が偽りだった事を告げられ落ち着くことができたのだった。
勘違いから拳を握ったうえに百代に投げ落とされ負けたという苦い思い出があるが、変わるきっかけを得た場所でもあり剣正は大切に思っていた。
「お待たせー。ゴメンね、事務所に寄ってたら遅くなっちゃった」
「お疲れさん。いいよ、気にしないでくれ」
感慨に浸っていた剣正に話しかけてきたのは赤い髪を短く切った女性だった。身長は剣正より10センチほど小さいが、その身をスーツに包んでいて、どこかカッコイイ印象を覚える。
「とりあえず、ただいま」
「おかえり宇佐美さん」
「その呼び方は、仕事以外では禁止って言ってるでしょ?」
「あー、おかえりユウ姉。恥ずかしいから苦手なんだけどな」
「そんなこと知らないわよ。私が良ければ、それでいいの」
望んでいた愛称で呼ばれたことで、不満そうだった表情から笑顔に変わった彼女。川神学園の教師の宇佐美巨人の娘で、名前は『宇佐美 優』。
だが血は繋がっておらず、十数年前に親を亡くした優は、親不孝通りで半死の状態で倒れている所を宇佐美に保護され、以降、宇佐美の下で育てられることになった。
何の関係もない自分の面倒を見てくれた宇佐美に感謝し、姓を『宇佐美』に変え、代行業を手伝っている。交渉事などの仕事を主に担当している。
一年程前に担当していた仕事で相手方が突如逆上し、襲いかかられたところを偶然通りかかった剣正に助けられ、その際「気に入った」と言ってスカウトしたのだったが、仕事人としての建前上、強さを買ったという理由で宇佐美代行センターにスカウトした経緯があった。
「なんだか納得できねぇけど、まぁいいか」
「剣ちゃんのそういう所好きよ」
「へぇへぇ」
剣正を気に入った優は、自分のことを『ユウ姉』と呼ばせるようにしていた。そして剣正のことを弟のように可愛がる関係は百代と大和に似ている。違うところといえば、過ごした時間だったが、この2人にはそんなこと関係なかった。
「そうそう、アンタ百代に負けたんだって? それも完膚無きまでに」
「げッ……なんで知ってんだよ」
「情報は持っているだけで損はしないの。あと言い忘れてたわね、私って川神学園の卒業生なの。それで3年の時に私を口説いてきた子がいたの」
「あー、わたった。それが先輩なんだろ?」
登校時に女子生徒の取り巻きの中にいる姿や、街中で年上の女性を口説きに行っている人物を見たことのある剣正は、答えに行きつき軽く頭を押さえる。
「ご名答。付け加えるなら当時のモモちゃんは一年生」
「それでどうしたの?」
「もちろん適当に相手したわ。話してみると面白い子だったから仲良くはなったけどね。それでこの前、モモちゃんからメールもらったのよ。『面白い奴がいる』って……話しを聞いているうちに剣ちゃんって気付いたわけ」
「初めて知ったよ。ってことはユウ姉の卒業と入れ替わりに俺が入学したのか」
「言ってなかったからね。私のこと何歳だったと思ってたの?」
「先輩と同じくらいかなと」
「そういう気遣いはいいの。ほら、正直に言ってみなさい」
「……20代の半ばくらいと思ってました」
この場所に来る時に掻いた汗とは違う汗が剣正の背中を伝う。
「よろしい。やっぱり長いこと大人の相手をしてると老けて見えるのかな。仕方ないとは言え、ちょっと憂鬱」
「申し訳ない。ってか何でバレたんだよ」
「別にいいんだけどね。剣ちゃんのクセ」
「クセ?」
「嘘を吐く時、微妙な敬語っていうか丁寧語になってるのよ」
「ほぇー、言われてみればそうかも……」
優は幼い頃から宇佐美の仕事を傍で見ていた。もともと秀でていた観察眼は成長と共に養われていき、高校生になるころには、大人顔負けの洞察力を得ていた。
「で、どうやって負けたのか話してみなさい」
「それは――」
その後、剣正は決闘の始まりから、倒れる瞬間までの経緯を覚えているかぎり説明をする。決闘からあまり時間は経っていなかったため、思い出すのは容易だった。
「それは剣ちゃんアンタが悪い」
「だって、あの回復力、何て言ったっけかな……そう“瞬間回復”だ。あんなのあると思わなかったんだよ」
「川神鉄心の孫娘で川神院の次期総代候補なのよ? それくらいはあるかもしれないって考えないのが駄目」
「えー、だけどよぉ」
「常識に囚われないの。人間なんて体のポテンシャルを半分も使えてないんだから。でも中には使えてない部分を引きだす人もいるってこと。そもそも剣ちゃんの目だってそうでしょう?」
『自分が悪い』ということに納得できていなかった剣正だったが、引き合いに出された自分の目のことを言われ何も言えなくなってしまう。
たしかに剣正の目は常識からは考えられない能力を持っており、高速で移動する物体も集中すればスローモーションのように捉えることができた。
百代との決闘まで学園では隠していた剣正だったが、代行の仕事で優の手伝いなどをしたことがあったので、目の存在を知られていたのだった。
「考えが甘かった。これからは気をつける」
「よろしい。自分の欠点を見つめるいい機会になったね」
「ゆっくりと克服していくさ」
「それでこそ私の弟」
「ハハ、敵わないなユウ姉には」
合わなかった時間を埋めるように言葉を交わし、笑顔を見せる二人は本当の姉弟のように見えた。
新キャラ登場回でした!
剣正を書く前に考えていたオリ主の予定だったキャラで、本来は男のはずだったのですが女性化で登場させることにw
なんというか趣味全開って感じですが、上手いこと話しに絡ませて行きたいと思います!
容姿に関しては剣正と同じく皆さまのイメージにお任せですw
次回は風間ファミリーに属するなら避けて通れない、あの金曜集会ですが何とか纏めてみせます!w
では毎度恒例の……
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