休日の昼下がり、剣正は全国チェーン店であるファミレスで好物のパフェを頬張りながら、目の前で繰り広げられる不毛な口論をしている二人を眺めていた。
「どう見てもナンパを急いだガクトが悪い」
「モロがお子様クリームソーダ食ってるせいだな」
「違うね、クリームソーダに罪はないね」
口ゲンカをしているのは、先日入ることになった風間ファミリーのメンバーである島津岳人と師岡卓也。口論の始まりは岳人が店員の女性をナンパしたことが原因だった。
「で、いつもこんな感じなのか?」
ほどよくして言い合いを止めた二人を見て、パフェを食べるのに使っていたスプーンを口に咥えながら質問をする剣正。
「そうだね。ガクトがナンパして失敗。それで僕が迷惑を被る」
「なんだと? 筋肉もねぇ貧弱のモロのクセに生意気だ」
「筋肉は関係ないでしょいうが!」
沸点が低いのか、また言い争いを始めようとする二人。
「ナンパねぇ……」
「なんだ? ケンも俺様が悪いって言いたいのか?」
風間ファミリーに入り、友好を深めたことで剣正は苗字の《浅井》ではなく、名前で呼ばれるようになっていた。
岳人と、ここにはいない翔一は剣正のことを《ケン》の愛称で呼んでいた。
「そんなこと誰も言ってねぇだろ……あ、モロが言ってたか」
「じゃあ、何だよ?」
「ナンパで引っかかる女は、余所でも引っかかるに決まってる。そんな女がいいのか?」
「遊ぶだけならいいじゃねぇか」
「それなら文句はないさ。好きにやってくれ」
「いちいちお前に言われなくても」
剣正はそれ以上の追及はせず、口に咥えっぱなしになっていたスプーンをパフェの入っていた器に戻すと、店員を呼ぶボタンに手を伸ばす。
店内に呼び鈴のような音が鳴り響き、しばらくするとウェイトレスが嫌そうな表情をしながら注文を取りにやってきた。
「これ1つ。以上で」
手に持ったメニュー表のデザート覧にある、さきほど食べたものとは違うパフェを頼む剣正。ウェイトレスは注文を確認すると、空いた器などを持ち、軽く頭を下げると厨房の中へと消えていった。
「まだ食べるの?」
「甘いものはどれだけでも入る」
「女みてぇなヤツだな」
「別にいいだろ? 好きなんだから」
「女って言えば、ケンはどんな子がタイプなんだ?」
「僕も気になるな」
仲の良い岳人や卓也は互いのタイプの女性を知っていたが、最近よく話すようになった剣正のことはあまり知らなかった。
「なんでいきなりそんなこと聞くんだよ」
「さっきガクトに『ナンパについてくるような女がいいのか』とか聞いてたから、なんとなくね」
卓也の催促の言葉を聞いた剣正は「うーん」と考えだし、グラスに入った水を口に含み考えだした。
「守ってあげたくなるような子だな。あとはわからん」
「わからないって……じゃあファミリーで言うなら誰?」
「いない気がするけど、強いて言うなら由紀江ちゃんかなぁ? というかファミリーの女子は守られるより、守る側っぽいけどな」
「同感だ。モモ先輩はともかく、他の女子にはパワーじゃ負けないのに、真剣勝負ってなると勝てる気しなくなるし」
「確かにみんな強いもんね」
「ということで、ファミリーの中にはいないさ。話はこれで終わりッ! 俺はこれを食うことに専念する」
剣正たちが話している間に注文していたパフェが運ばれてきていた。店員の声がなかったため、いつからテーブルにあったのかはわからないが、少し中に入ってあるアイスが溶けていた。それを二つ目とは思えない速さで口の中へと放り込んでいく剣正。
数十分後、剣正たちがいた席のテーブルの上には、空になった容器が1つポツンと置いてあった。
◆◇◆◇◆
ファミレスを後にした剣正は、ナンパをすると気合の入った岳人、それを傍らで見守る卓也と一緒に行動する予定だったのだが別行動を取っていた。
岳人たちについて行かなかったのは、先ほどのファミレス店内で耳に挟んだ少年たちの会話が原因だった。
普段なら人の会話など気にしないのだが、今回は内容が内容だったために確かめずにはいられず、とある場所を目指して足を進める剣正。
向かっている間、剣正の頭の中では繰り広げられていた会話がグルグルと回っていた。
しばらくして剣正が歩いていたのは親不孝通り。この辺りは川神院に通じる仲見世通りなどの人が賑わう場所とは違って暗く、どことなく怖い印象を受ける場所だった。そこを慣れた様子で歩く剣正。すれ違う人間に声をかけ話しをしたりしていた。
「浅井じゃねぇか。こんなところで何してやがる?」
「ゲンちゃんか……丁度いい。少し話しを聞いてくれ」
親不孝通りに入ってから数人目となる人間との会話を終えた剣正に話しかけてきたのは源忠勝。剣正がしている代行業のバイト、宇佐美代行センターの後継ぎとして現代表である宇佐美巨人から仕事のイロハを教え込まれたりしている。いわゆる仕事の先輩であったが、クラスメートということもあり普通に話す仲だった。
剣正はファミレスで聞いた話をそのまま忠勝に話し始める。
「というわけなんだ。宇佐美さんに聞きに行こうかと思ってた所にゲンちゃんが来た。何か知ってるか?」
「たしかに最近怪しい新しい薬が出回ってるのは知っていたが……何にせよ調べといてやるよ」
「ありがと。危険が及ぶようなら、手伝うから言ってくれよな」
「別にお前の為にやってるわけじゃねぇ。俺が気になるからだ。勘違いすんじゃねぇ!」
「はいはい。とにかく頼むぜ」
「ったく……俺はこれから仕事だから行く」
「いってらっしゃーい」
◆◇◆◇◆
忠勝と別れた剣正は代行センターの事務所に向かい、宇佐美に話を聞こうとしていた。だが着いて早々、剣正は宇佐美に仕事を押しつけられてしまい労働に勤しんでいた。
「宇佐美さーん、終わったぜー……」
「御苦労さん。その辺に置いといてくれ」
剣正は自分に課せられた物の完成品をダンボールの中に入れ綺麗に梱包し、部屋の隅に積み上げていく。
「じゃあ俺は帰るわ」
最後の一箱を積んだ剣正は疲れ切った表情のままドアを開け、一声かけて出て行く。
時刻は夜の9時を回っており、昼と比べると一層暗くなり一般人を寄せ付けない雰囲気を放っている親不孝通りを剣正は島津寮を目指し歩いていた。
「あ、クスリのこと聞くの忘れてた」
通りの半分に差し掛かった所で事務所に向かった理由を忘れていたことに気付いた剣正。
「まぁ、今度でいいや……」
「アオォォーーッ!!!!」
突然剣正の耳に入ってきたのは男性の悲鳴のような声。
「なんだ!? ……とりあえず行ってみるか」
剣正は悲鳴が聞こえてきた方向に走り出して行き、到着した場所には数人の男が倒れていた。
声だけでは詳しい場所が特定できなかったこともあり、到着した頃には男たちを倒した相手が見つからず、警察と救急車を呼ぶだけ終わってしまった。
見ていたアニメが最終回を迎え、少し気が落ちている忍でございます。
今回の話は、後日書きなおすかもです orz
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