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二章:変わったもの
第10話:新たな友人と風間ファミリー
「自分から言った事とはいえ、疲れるぜ」


 手に持つ鉄製の破片や木材の切れ端など仕分けしながらを袋に詰める。剣正の周囲には同じような大きさの破片が四散していた。

 昨夜、覗きを決行しようとした剣正と大和だったが、目的地である風呂場にたどり着くまでにバレてしまい、あえなく断念した。

 自分の部屋に戻った剣正は、まだ痛みが抜けきっていない体を休めようと布団に入った。そして剣正が就寝に着いた数分後、島津寮を大きな音と揺れが襲った。

 その正体は、今、剣正がかき集めている破片がまだ形を成していた時の物、風呂を沸かすために必要な風呂釜が破壊された際に生じたものだった。






「ふぅ。とりあえず、こんなもんか」


 額に浮かんだ汗を、首に掛けてあったタオルで拭う剣正。側には、大小様々だが集めた破片が袋に詰められ積み上げてある。

 後のことは、専門の人間に任せるしかないなく、両手に袋を持ち玄関へと向かい邪魔にならないところに置くと、何度か二階の風呂場と玄関を往復し作業を終えた。

 その後、掻いた汗を流すために入浴し、居間で寛いでいた。


「腹減ったなぁ」


 テレビを見ていた剣正の胃が空腹を訴えるように音を出す。

 ふと顔を上げた剣正の見つめる先にある壁掛け時計は正午を回っていた。

 土日、祝日といった休日は寮生が自炊することになっているため、待っていても何も出てこず、無駄に時間を浪費するだけになる。

 だが、残念ながら剣正の自炊スキル0。

 買い置きしてあったカップラーメンやインスタント食品などは先週尽きてしまい、買い出しに行くのも忘れていた。


「あぁー、うぅー。腹減ったぁ……」


 うつ伏せになり奇妙な声を発しながら、うなだれる剣正。


「あ、あのっっっ!」


 そんな端から見たら変人と思われかねない剣正に話しかけてくる声が聞こえる。

 その声に反応した剣正は、空腹のため残り少ない体力を総動員し、声の主の方向へと顔を向ける。


「んあ? えーっと、たしか……黛さん?」

「は、はい!!!」


 情けない姿の剣正へと話しかけてきたのは黛由紀江まゆずみ ゆきえ。剣正たちと同じく島津寮の住み、寮生の中で唯一の一年生。


「それで何か用か?」

「あの……よろしければ、わた、私が昼食を作りましょうか?」

「ほんとかッ!?」


 いきなりガバッと立ち上がった剣正は、由紀江へと近づき方を掴んだ。その顔はいつになく真剣なものだった。


「私も昼食を取ろうとしていたので」

「頼むッ!!」


 昼食を作りに下へと降りてきた由紀江だったのだが、居間で腹を鳴らして「腹減った」と言って倒れている剣正を見て、話しかけてきたのだった。


「では今から作りますので、少々お待ちください」

「了解!」


 剣正の返事を聞いた由紀江は、キッチンに向かい冷蔵庫の中にある食材を確認しだした。


「何か嫌いな食べ物や、苦手な食べ物ってありますか浅井先輩?」

「特にないかな。基本的に何でも食べれる」

「わかりました」

「何か手伝えることあったら言ってくれ。調理以外の事なら何でもやるぜ」

「では、大きなお皿と小さなお皿、あとお茶碗を二人分用意してもらっていいですか」

「よっしゃ、お任せあれー」


 由紀江は、数種類の野菜と肉などを取り出しフライパンを使って調理しだした。その間に剣正はテーブルを拭き、頼まれていた皿などを用意する。




















「ご馳走様でしたッ!!」

「お粗末様です」


 食べ終わった剣正と由紀江は、両手を合わせる。


「んじゃ、洗い物は俺がするから黛さんはゆっくりしといてくれ」

「い、いえ私がしますよ」

「これくらいは俺にさせてくれ。料理はできねぇけど、片付けとかなら得意だから」
「では、お願いします」

「任された」


 食器を流し台に持って行った剣正は、テキパキと洗い物をこなし、フライパンなどの調理器具は次に使用する人物が使いやすいように片付けていく。


「こんな所だろ。黛さん何か飲むか?」

「浅井先輩と同じ物をお願いします」

「了解。あと浅井先輩じゃなくて、下の名前で呼んでくれ」

「いいんですか……?」


 恐る恐る剣正の顔を見ながら聞く由紀江。


「いいも何も、同じ釜の飯を食ったんだし、もう友達だ。友達なら名前で呼ぶのが普通だろ?」

「……友……達…………」

「もしかして、迷惑だったか?」

「い、いえっ!! 光栄ですっ!!!」

「うおっ!? そ、それなら良かった。剣正ってんだ。よろしくな」

「はいっ! 私の事も名前で呼んでもらえますか?」

「いいのか?」

「その……お、お友達ですから」

「そうだったな」

「由紀江っていいます」

「これから仲良くしてくれよな、由紀江ちゃん」

「私こそよろしくお願いします、剣正さん」


 この日、川神市に来てから一人目の友達が由紀江にできた。

 その後、剣正と話している時の由紀江の顔は、いつもの人を威圧してしまうぎこちない笑顔(?)ではなく、自然にこみ上げてくる良い笑みを浮かべていた。

 剣正も、そんな由紀江を見て楽しそうに話していた。

 今まであまり友人を作らなかった剣正だったが、激動の数週間の中で確かに変わっていた。
















 その日の晩、昨日食べた焼き肉のお礼にと由紀江が、寮生と川神姉妹、岳人、卓也に出身地である石川県の特産物を使った手料理を振る舞った。

 食後、勇気を振り絞って、風間ファミリーに入りたいと言った由紀江の願いは叶い、それを見て剣正は返事をしていなかった風間ファミリー入りを表明した。

 新たな仲間を得た風間ファミリーは互いに自己紹介をし、友好を深めた。

 そして何気ない一言で女子メンバーの反感を買い、女子側への捕虜となった大和を救うべく男子メンバーで奪還作戦を行ったが、結果は男子の惨敗。

 剣正も奪還作戦に入っていたので、それを相手すべく、高みの見物を決め込もうとしていた百代が参加したことが原因だった。
皆さん、一週間とちょっとぶり作者の忍です!
今回は久々のまゆっち登場です。(一章、第9話の最後に少しだけ登場してました)
そして剣正の風間ファミリー入り表明。本当はもう少しあとにしたかったのですが、この際さり気なく入れましたww

本日、執筆し終わって思ったこと
『松風、スマン』
書いているうちに出すタイミングを失った orz

あと数話で第二章も終了です!

しつこいんだよ!と思われるかもしれませんが恒例の……
ご感想、ご意見、ご指摘など随時お待ちしております。
誤字脱字があれば報告お願いします。
真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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