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二章:変わったもの
第9話:敗北のあとに
「また先輩の世話になるとはな……」


 決闘を終えた剣正は気を失い医務室に寝かされていた。肉体のダメージは気による治療を施し自然治癒能力を高めてくれたおかげで、目立った外傷はほとんど治っていた。


「回復したとはいえ、まだ目が見えてないんだろ?」

「まぁな」


 百代に引かれるようにして歩いている剣正の瞳には光がなかった。


「明日にでも治ってるさ。きっと」


 目が見えていないことに恐れるでもなく、焦るでもなく、普段通りの剣正がそこにはいた。


「それってアレの代償か?」


 剣正は生まれ持った才である視力の良さに加え、眼に全神経を集中し気を張り巡らせることで一時的に能力を向上させ限界を超えた視力を得られる。だが、それは諸刃の剣で限界を越えた力を無理やり引きだしているに過ぎず、使用後は『数時間~数日間』視力が低下し目が見えなくなってしまうのだった。


「バレてたか。あの時の先輩の動きを捉えるには、奥の手使うしかなかったんだよ。それでも勝てないんだから強すぎるぜ」

「それでもお前は来てくれる」

「あぁ、そう約束したからな。でもあんまり期待しないでくれよ。」

「『逃げたくなる』だろ?」


 次にくる言葉を予想し笑いながら先に言う百代。


「よくわかっていらっしゃる」


 そんな百代につられ剣正の顔にも笑みが浮かぶ。


「さぁ、川神院に着いたぞ」

「悪いな」

「麗子さんには連絡してある。自分の家だと思ってくつろいでくれ」


 治療によりダメージから回復してきているとはいえ、剣正は怪我人。今日は大事を取って川神院で様子を見ることになっていた。


「おかえりなさい」

「ただいま、妹よ」

「その声は……川神か」


 川神院へと入ったところには百代の妹である一子が薙刀を持って鍛錬に励んでいた。クラスメイトということもあり、一子と剣正は何度か話したことがあるため、目が見えなくとも声で判断できた。


「名前で呼んでくれていいわよ。川神じゃ誰だかわかんないし」

「そういえばそうだな」

「何かあったら言ってね」

「あぁ、その時は頼りにするよ。ありがとな」

「うん」

「それじゃ俺は行くわ」


 剣正はそう言うと百代に手を引かれ家の中に入っていった。












「ん……朝か」


 翌日、いつもと違う部屋で目を覚ました剣正の目には光が宿っていた。だが本調子まで回復してはおらず、多少ボヤけていて見えていた。

 川神院で朝食を頂いた剣正は、世話になった人たちに礼を言うため院内を歩きまわっていた。


「改めて見ると、やっぱデケェな」


 川神市に住みだしてから川神院の前を何度か通ったことのあった剣正だったが、中に入ったのは今回が初めてで、川神院の規模の大きさに驚いていた。


「やぁ、浅井クン。もう調子は良いのかい?」


 そんな剣正に話しかけてきたのは、ルー・イー。川神院の師範代で、剣正の通う川神学園の教師でもあった。


「目はほとんど見えてるよ。体はまだちょっと痛いけど、生活する分には支障はないかな」

「おぉ、それはよかったネ!」

「ルー先生もありがとな」


 昨日医務室でボロボロだった自分を治療してくれたうちの一人であるルーに礼を言う剣正。


「なになに、あれもワタシの仕事だからネ。一つ質問していいかな?」

「どうぞ、俺に答えられることなら答えるぜ」

「終盤、百代に飛ばされてからの君の体は限界を迎えていた。なのにどうして動けたのか。聞かせてくれないか」

「んー……意地だな。それに限界なんてものは勝手に決めたものだろ? 無理やりでも動く限り動かすんだよ。後悔しないようにな」

「ははは、意地か。確かに後悔しないようにすることは悪くない。でも無理のしすぎは体を壊す原因になりかねない。気をつけないといけないヨ」

「そうならないように、鍛錬に励むさ」

「困ったことがあったら何でも言いなさい。力になるヨ」

「そん時は頼むわ」



 その後、ルーとの会話を終えた剣正は鉄心たちに礼を言うと川神院を出て島津寮へと向かった。






◆◇◆◇◆







「なんだ……こりゃ……」


 寮にある部屋に戻った剣正の目の前には、最後に部屋を出た時にはなかった物が鎮座していた。


「…………これって」


 決して広くはない部屋に堂々と置かれているそれは、横長な箱に大小様々なつまみが付いており、なにやらメーターのような針などが付いた機器。戦争映画などで軍隊が仕様しているソレ。


「どう見ても通信機だよな。ん?」


 とりあえず中に入った剣正は確認しようと通信機(?)に近づいた。そこで通信機(?)の上に置いてある手紙らしきものを発見した。


「眼鏡はっと……」


 視力が回復していないため、こんな時のために置いてあった眼鏡をかけた。


「えーと、何々――『君がコレを読んでいるということは、もう設置してあるのだろう。そこにある物は通信機だ。君に娘のことを任せたのはいいが、私は職業柄、世界を飛び回っているため連絡するのに手間がかかる。そのために設置させてもたった。何かあったらこれで連絡するがいい。フランク・フリードリヒ』…………どんだけッ親馬鹿なんだよッッッ!!!」


 読み終わった剣正は手紙を床に叩きつけ、ドイツのある方向たぶんに向かって突っ込んだ。


「アホらし……寝るか」


 まだ決闘の疲れが抜けきっていないため、回復に専念しようと寝転がり意識を手放した。











 その日の夜、島津寮のメンバーと川神姉妹によって、寮生になったクリスを歓迎する焼き肉パーティーが開かれることになっていたらしく、剣正もそれに参加することになった。

 同じ寮に住みながらも、これまであまり交流のなかった剣正は最初遠慮していたが、翔一たちが生みだす雰囲気に後押しされ、最後には自分からも会話に入り仲を深めた。


「んじゃ俺もバイトあるんで。夜の引っ越し」

「具体的に内容を聞くのが怖いな。行ってらっしゃい」

「同感だな。行ってら~」


 怪しいバイトへと向う翔一を送り出した剣正と大和は、男の相談をしていた。


「浅井、行けると思うか?」

「行ける。たぶん」

「姉さんもいるからなぁ」

「いくらなんでも、そこまではわからんだろ。盛り上がってるみたいだし」


 二人が話しているのは、寮の二階にある女子風呂を覗きに行くか否か、という正直どうでもいい内容のものだった。

 結果、覗きに行くという思春期の男子なら当然の選択をした剣正と大和は二階へと向かった。


「安心しろ。俺はステルス剣正と呼ばれたことがあるんだぜ」


 大和の不安を払拭するために親指を立てる剣正。


「おーい、剣正。大和。お前たちも入るかー?」

「……バレてるじゃん。ステルス剣正」

「……その名で呼ぶな」
急ぎ足でゴールデンウィークまでお送りする予定ですので、多少無理のある文に見えますがお許しを!

本日、執筆していて気付いたこと
『風間ファミリー入りするか否かの話を書き忘れてた』
ん、サラっと重要な事を言ったって?……キニシナーイ!
真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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