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※この話に出てくる武に関する技術や名称・表記は作者がネットで見たものを独自に解釈し書いた物であり、間違った知識や表記があるかもしれませんがお許しください orz

まさか、はじめての前書きがこんなだとは……気を取り直して、どうぞー!
二章:変わったもの
第8話:剣正の覚悟と百代の覚悟【後篇】

(良い表情じゃ)


 日頃から祖父として川神院総代として百代を見てきた鉄心は、百代の内に“闘争への飢え”という名の魔が住みついているのを危惧していた。

 圧倒的な武の才、天賦の才を持って生まれた百代は強者として武の世界に君臨することになった。武神の名を我がモノとした鉄心さえも凌ぐ百代の実力は他者を寄せ付けないまでになり、孤独に身を置くことになる。


(強者ゆえの孤独……じゃが)


 時は流れ百代を孤独から救う者が現われた。いや、救い出そうとする者が現われたのだ。
 
 闘いに身を置く者として精神的に不安定だった百代の前に立つ男、浅井剣正。それは鉄心が、百代が待ち続けた男だった。

 鉄心の前で闘っている二人は純粋に楽しんでいる者の表情をしていた。



「はぁっ!!」

 
 振る脚は、抜き身の刀。直撃すれば骨を容易く折るであろう破壊力を秘めた蹴り。撃ちだされる拳は、銃の弾丸。掠りでもすれば身を抉り取るであろう威力を持ったパンチ。

 気で強化された百代の力と剣正との力には大きな差があったが、持ち前の目の良さと自身のバックボーンの一つとなっている武術を駆使し剣正は凌いでいた。回避が間に合うものは避け、不可能なものは上手く捌き受け流す。

 が、防ぐだけではジリ貧。徐々に回避が間に合わず受け流すシーンが増え、剣正の額には汗が浮かぶ。

 腕や足を器用に使い受け流してはいるが、回避とは違い一歩間違えれば致命傷を負ってしまう。回避と比べれば明らかにリスクが大きいのだ。それは実際に攻撃を受けている剣正がよくわかっていた。


「これで!」


 剣正は百代の突きに合わせ腕を伸す。手を鶴の頭部を模した形である鶴頭かくとうにし、自身に迫る百代の拳を跳ね上げた。

 拳を跳ね上げられた百代の上半身は無防備に晒される。その瞬間を狙い作った剣正は前に出した脚を軸に回転し遠心力を加えた肘を鳩尾に打ち込む。


「がはっ……!」


 直撃した肘による一撃による衝撃は、呼吸するために必要な筋肉のうちの一つ、横隔膜を刺激し動きを瞬間的に止まらせた。それによって酸素を供給できず百代の反撃に移れず動きが僅かに鈍ることになる。

 それを剣正が見逃すはずもなく、百代の側頭部に蹴りを放とうと脚を振り上げた。

 その時、剣正の思いがけない出来事が起きた。


「嘘だろ……」


 動きが鈍っていたはずの百代が、一瞬にして回復し動いたのだ。剣正は知らなかった。これまで川神百代が負けなかった理由わけを。

 いくら最強と謳われようと所詮は人間。例え小さな傷でも蓄積されれば、大きなダメージとなり戦闘を持続するには大きな障害となる。剣正はそう考えのもと闘っていた。




 だが、天が百代に与えた唯一無二の才【瞬間回復】が剣正の考えを真正面から裏切る。


 先に蹴りを繰り出している剣正。やや遅れ気味のタイミングで蹴りを放つ百代。
 

 もはや止めることができず、振りぬくことを決めた剣正が脚に全神経を集中し百代に蹴り叩きこむ。しかし、それを大きく上回る速度で百代が剣正の腹部に蹴り込んだ。


「ぐふっ……!!」


 直撃した百代の蹴りは剣正を吹き飛ばし、肋骨をへし折り、その衝撃は内臓にまで達し、剣正は酷い吐き気を催した。食道を胃液が遡ってくる。生物としての生理現象に意思を預けようとした。

 体を支える脚から力が抜け、膝が崩れ落ちる。

 尚も込み上げてくる胃液と消化途中の食物。

 その時、剣正は一陣の風を感じる。

 そして、ふと顔を上げ 見た

 今にも倒れそうな自分へと迫る百代の姿を……。





(そうだ……俺は)



 ――思い出す

 決断を

 決意を

 闘っている相手を



(先輩を……川神百代を孤独から救うと誓ったんだ!)



 吐き出す寸前まで来ていた嘔吐物を半泣きになりながらも飲み込み、涙目で霞む視界で何とか百代の拳を捉える。

 今からでは躱すことはもちろん、先ほどまでのように捌くこともできない。だからこそ剣正は倒れることを選択する。

 もともと力を抜いていた体は重力に従って地面に落ちていく。百代の迫るのを目視しながら、拳が進むであろう軌道から逸れるように上半身を捻り地面を転がり回避を試みたのだ。

 その選択は功を奏した。剣正の頭があった位置を撃ち抜くように百代の拳が通過していく。だが、百代の突きは剣正の考えていた以上の速さで迫っていた為、剣正の髪を掠り僅かばかりだが焦がした。

 九死に一生を得た剣正は、地面を転がり続け百代との距離を取り素早く立ち上がり、すぐさま構えを取った。


「良く避けたな」

「ギリギリだったよ」

「それにしても厄介な目だ」

「先輩の回復力ほどじゃないさ」


 互いに認め合い、間合いを測りつつジリジリと距離を詰める両者。


「だが、眼が良いからと言って反応できなければ、意味がない!」

「言うだけなら誰にだって言えるぜ」


 百代の言うことは理に適っていた。剣正の目は一般人を遥かに凌ぐ静止視力と動体視力を有し、その動体視力は普通では捉えられない百代の動きを完璧に捉えていた。それ故に実力差のあるこの決闘を成立させていたのだ。

 そして百代は闘いの中で感じていた。全てを視られていると。

 武術家としての本能が囁く。
 

『――より速く。より加速しろ』


 その本能に従うがまま百代は加速する。

 人体の仕様スペックを無視した速度まで、人間の限界を超える速度まで加速し、剣正に接近する。


 対して剣正は目に全神経を集中し気を張り巡らせ……そして剣正も限界を超える。剣正の視界に映るもの全てが減速する。相対する百代の身体の動き出し“起こり”を捉え身構える。

 前半は攻めていた剣正だったが、本来の戦闘スタイルは相手の出方を見てから動き出す所謂【後の先】だった。【守主攻従しゅしゅこうじゅう】とも呼ばれる、その特徴は完全なる防御を行なった後に反撃するというものであり、剣正の特性である視力とは絶妙の組み合わせなのだ。

 一般人では決して見ることのできない。武道・武術を興ずる者の中でも一握りの存在が目を凝らしたうえでやっと見える百代の動きを、まるでスローモーションのように捉えた剣正は、右足を前に出した半身から左足を前に出した逆半身に構えを入れ替え百代を待った。
 
 この動きは先ほど折れた肋骨の状態を考えてのことだった。

 超高速で近づく百代は元々、一撃必殺の威力を持つ拳に全体重、速度を加えて剣正に打ち出す。

 神速という言葉が似合う突きを剣正は完璧に見切り直線的に進む拳の軌道を僅かにずらし、前方に沈みながら腕を取り体の向きを反転させる。そして肘関節を極め鋭角に投げた。これは剣正と百代が始めて相対した時に百代が剣正に使った技だった。

 が、一つだけ違うことがあった。今回、剣正は関節を極めている。そして極めた腕を折りつつ投げたのだ。

 百代に受けていたダメージは剣正の運動能力を著しく低下させていたが、精神が傷ついた肉体の限界を超えた力を引き出し、生まれてから現在までの中で、最も速く・最も鋭く・最も呼吸の合った、自身最高の投げだった。


「なっ……」


 剣正の感じたのは骨を折った確かな手ごたえとそれを否定するかのような軽さ。


「よぉ、剣正」


 百代は地面に落ちずに剣正の正面へと立っていた。だが、片腕はダラリ力なく下がっていて、剣正に折られたことが目に見えてわかる。確かに百代は折られ、投げられていた。

 が、それは百代の掌の上での出来事。

 腕を折らせ、地面を離れる瞬間に自ら跳んだのだ。そして空中で身を翻し剣正の前へと降りた。


「お前には驚かされてばかりだ」


 残る腕を瞬時に引くと、真っすぐに剣正へと叩きつけた。剣正もそれを見て回避を試みようとしたが、百代がそれを許さない。瞬間回復によって息を吹き返した腕で剣正の身体を掴んでいた。

 剣正の抵抗空しく百代の拳が剣正の身体へと突き刺さった。


「楽しかったぞ」


 百代の突きをまともに食らった剣正は、百代の言葉を聞く前に凄まじい速度で飛ばされた。さながら銃から飛び出した弾丸のよう滑空し地面についてからも転がり続ける。そして舞い上がる砂埃の中に消えて行った。

 両者の闘いを見守っていた観客からは一切の音が聞こえてこず、辺りは風や草木が奏でる音と剣正が舞いあげた砂が落ちる音だけだった。

 やがて砂埃は晴れ


「ハハッ、参ったな……」


 百代の視線の先には


「まだ……終われねぇよ、な……」


 口から血を垂らしながらも立つ男。道着は所々破れ、全身至る所に砂を被り汚れている剣正の姿だった。


「本当に剣正、お前には驚かされてばかりだよ」


 百代がしっかりと地を踏みしめながら歩みを進め、呟く


「言ったろ? ……『俺が先輩のいる世界に行ってやる』って」


 剣正がふらふらになりながらも足を進め、囁く





「最高だよ。お前は」
「強ぇなぁ。ホント強ぇよ、先輩」





 やがて二人は手の届く範囲まで接近する。







 そして





「はぁぁぁぁああッッッ!!」

「くッ……!!」






 剛の拳と柔の拳が交差する。


















 なぁ剣正……本当はお前、もう見えてないんだろう?


 私が放った拳が剣正の身体に直撃する


 もう、倒れてもいいんだぞ?


 ほんの少し前まで攻撃を捌いていた剣正は、そこにはいない


 なんで倒れない?
 


 撃ちだされる拳からは威力が感じられない
 繰り出される蹴りからは驚異が感じられない



 なのに……何で、こんなにも痛いんだ……


 そんなにもボロボロなのに、なぜ立っている
 


「そんな……悲しい顔すんな」

「!?」



 何も見えていないはずなのに



「先輩の拳から伝わってくるんだよ」

「なんで……」

「さっきも言ったろ?」



そうか……剣正が幾度となく言う台詞



「“俺が先輩のいる世界に行ってやる”って」
 “お前が私のいる世界に来てくれる“だろ?




私が待っていたのは





「行くぜ、先輩」

「来い、剣正」






私が本当に待ち望んでいたのは――







 精神力のみで動いていた剣正の身体が起こした奇跡。

 空っぽだったはず肉体に宿る一発限りの力。

 剣正は最後の力に、全てを拳に乗せて突き出した。



「剣正、お前の拳(想い)は私に届いたぞ」



 体から力を失い崩れ落ちていく剣正の身体を百代は受け止める。


「そこまで! 勝者!! 川神百代!!!」


 鉄心の声が響き渡る。いつしか周囲は静かになっていた。

 始めは騒いでいた観客たちだったが、剣正と百代の決闘を見ている間に口数が減り、やがて無口になり見入っていたのだった。





 パチ!

 パチパチ!!

 パチパチパチパチ!!!!

 



 一つの拍手が二つの拍手を生み、二つの拍手が四つの拍手を起こす。それはやがて大きくなり、剣正たちを取り囲んでいた観客たち全てから拍手や労いの言葉が送られていた。


(剣正、聞こえるか? 闘っただけの私たちに、これだけの人間が声援を送ってくれている)


 百代が背中に担ぐ剣正の顔は、本田戦の後に浮かべていた悔しさの表情とは違い、たしかな笑みを溢していた。



「私たちが運ぼう」


 気を失っている剣正を医務室に連れて行こうとタンカを持った教師陣が近づいてきた。


「いや、私が運ぶ。それにコイツにはタンカは似合わない。なぁ――」

前書きにも書かせていただきましたが、間違った解釈による誤った知識や表記があると思います。ココは直した方が良いという箇所がありましたらご指摘ください!


さてここからはずっと私のターン!

いやぁ、もう『次の話で完結してもいい流れじゃね?』と思っています
半分冗談で半分本気だったりもしますww

それにしてもいつにもましてオ○ニー小説だなと感じた今回……w

本日、執筆していて思ったこと
『気付けば百代がヒロインっぽい』
な ぜ こ う な っ た !?

では、いつものごとくですが
ご感想、ご意見、ご指摘など随時お待ちしております。
誤字脱字があれば報告お願いします。
真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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