二章:変わったもの
第7話:剣正の覚悟と百代の覚悟【前篇】
剣正は体の側面に置いてあった手を上げると構えを取った。剣正が有名になったあの決闘、本田戦と同じ構えを取り百代と対峙する。
今朝のビビっていた姿からは想像できないほど静かに、それでいて闘志を燃やす瞳で百代を見据え間合いを測っていた。
対して百代は剣正とは真逆にユラリとした自然体で立っている。どんな攻撃にも対応できるような姿だった。
闘争心の塊のような百代が先に動くかと思われていたが、先に動いたのは意外にも剣正。地に着けた足に力を入れ運動部顔負けの瞬発力で百代に向かって跳び出したのだ。
対峙してからすぐの出来事に観客の大多数は驚く。前回の決闘を見ていた生徒たちは何となくではあったが、剣正の戦闘スタイルはカウンターや相手の力を利用したものだと思っていたのだ。
「はぁっ!!」
瞬く間に接敵した剣正は地を這うような低姿勢の状態から、天に向かい伸びるように上昇し、掌底で百代の顎を跳ね上げに向かった。
意表を突いた攻撃とはいえ相手は百代。そんな単純なことが通用するとは到底思えないが、結果は直撃。突き上げられた掌底は見事に標的を打ちぬき、百代の顔は鮮やか跳ね上がった。
これにはギャラリーはおろか、仕掛けた張本人である剣正自身も驚いたが、止まることはできない。手を休めてしまえば反撃を許してしまう可能性があったからだ。
これまで百代の戦闘を見たことのある剣正は百代の圧倒的な実力、戦闘力から生み出される破壊力を知っていた。だからこそ攻撃を受ける前に少しでもダメージを与えたい。できることなら倒してしまいたいという願望があった。
百代の懐、超至近距離から剣正ができる攻撃は限られていた。首を引っこ抜かれた形で突っ立っている百代の腕、手首付近を掴み取り自分の方向へと引きつけ肩を勢いよく衝突させ百代に強い衝撃を与えた。
「まだまだぁ!!」
衝撃で後方に飛んだ百代に対し剣正は攻撃の手を緩めず接近し、頭部目掛け横から薙ぐように蹴りを放つ。その間も百代は無抵抗。されるがままに剣正の攻撃(蹴り)を受け頭部が弾けた。
「はぁはぁ……」
時間にすればわずか一分以内の出来事。剣正にとって攻撃しているとはいえ相手は百代。気を緩めるなんて自殺行為はできるはずがなく、精神を擦り減らしながらの攻撃だった。精神が削られれば、当然身体にも異変は起きる。結果、息切れを起こすことになった。
「……痛いな、やっぱ」
「チ、やっぱり駄目だったか」
剣正の攻撃は一切の手加減はない全力だった。武の経験がある剣正の攻撃はどれだけ小さく見積もっても平均男性を大きく上回るものだ。だが、その攻撃を受けた当の本人である百代はピンピンしていた。
「わざと受けただろ」
「ん? お前に習ってやってみたんだが」
百代の言う剣正の行動とは、前回の決闘で剣正が見せたものを指していた。相手の攻撃を避けることも守るもせず、棒立ちのまま受けるというものだった。
「わかっていた事とはいえ……やはり痛いな」
決して、百代は悪ふざけや思いつきでしているわけではなかった。剣正と本田の決闘を見ていた時に百代は罪悪感を持たずにはいられなかったのだ。あの決闘の火種になった原因は本田という生徒にあった。だが、百代はそうとは考えていなかった。
「なんでだよ、先輩」
剣正が見せたあの行動は百代の脳裏だけではなく心の内にも大きく深く刻まれていた。百代の戦いは常に自分の欲求を満たす為の勝負であって、剣正のように何かの為に闘うようなものではない。
「これが私のケジメだ」
常に戦いを求めている戦闘狂と思われがちなのだが、百代には決して揺らぐことのない信念と呼べるものがあった。
決闘後、百代が謝ったところ剣正は『そんなことはない』『先輩が気にすることじゃない』と言っていたが、百代の中では解決してはいなかったのだ。だからこそ、百代はこうして剣正の取った行動『自分が護れなかった猫の痛みを知る』に習い『自分の所為で剣正が負った痛みを知る』を実行したのだ。
「“気にすんな“って言ったのによ」
「剣正!」
「なんだよ先輩」
「“気にするな”」
百代が決闘を望んでいたのは単純に戦いたいという欲求だけではなく、剣正とのケジメを付けたいというものもあったのだ。その思いはこうして果たし――
「ハハハ。わかったよ、先輩」
剣正が笑い、百代が笑う
「それでいい」
「「存分に死合おう!」」
――両者の意地・信念、全てをぶつけ合う本当の闘いが今、始まった。
タイトルを見て「まさか!」と思われたことでしょう
はい、そうです。この決闘編は前後半にわけてお送りしますw 痛ッ!うわっ、何をするやめ(ry
真面目な話、この決闘はただの闘いというわけではなかったので、分量的には少ないですが、個人的には内容の薄いものではなく一度ここで切らせていただきました orz
その辺り、ご理解いただけると幸いです!
次回更新は近いうち……一週間以内にしたいと思いますので、どうかお待ちを!
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