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二章:変わったもの
第4話:たび重なる不幸

 肉体を使っての戦闘、所謂決闘は職員会での許可が必要となる。大抵の場合はその日のうちに了承され、教師立ち会いのもとで行われる。

 だが今回の決闘はその例には当てはまらなず先延ばしにされた。決闘をする人物が常軌を逸しているため学園側に少なからず準備が必要となったのが要因だった。

 決闘の申請があった日から既に3日が経過し、そして4日目の朝になり学園内はお祭り騒ぎになっていた。遂にこの日、学園の全生徒と言っても過言ではないほどの注目を集めている決闘が執り行われるのだ。

 広報部などは号外で新聞をバラまき更に騒ぎに拍車をかけた。見出しには大きく『川神学園で今最も話題の男【浅井剣正】川神学園で最大の人気を誇る【川神百代】遂に決着!』の文字、各ページにはオッズや下馬評が連ねられている。内容はやはり圧倒的に百代有利と予想され『一瞬か!?』とまで書かれていた。

 そんな第三者の騒ぎを余所に剣正はトボトボと通学路を歩いていた。


「行きたくねぇ……」


 ここ数日同じような言葉を呟いている剣正。決闘の日が迫るにつれテンションが下がっていき、決闘当日にはどん底まで落ちていた。

 先日百代に啖呵を切ったあと、ふと冷静になった時に剣正は後悔していた。『なんて事をしてしまったんだ』と……。

 あれほど避けていた百代との闘いを、ストレスが溜まり我慢の限界という理由だけで自分からふっかけてしまったのだ。

 どうにか中止にさせようと試みた剣正だったが、権限を握っている学長である鉄心に断られてしまい失敗に終わる。

 それどころか鉄心に「孫(百代)を頼んだぞい」とまで言われてしまっていた。学長室から出た剣正は「何が頼むだあのクソじじぃ……」とボヤいていた。


「隕石でも降ってきてくれねぇかな」


 もはやこれまでかと、悲しい瞳をしながら叶わぬ願いを呟き重い足取りで歩む剣正。


「あっ、でも無駄か。あの人なら粉砕しそうだしな……」


 そんな相手と闘わなければならないと思うと自然と頭を下がり肩を落としその場に立ち止まってしまう剣正だった。


「いっそ逃げるか」


 プライドより命と言わんばかりに、顔を上げた剣正は180度ターンし川神学園とは正反対の方向へと全力で駆けようとした。


「なんだあれ……」


 振り返った剣正の視界に飛び込んできたのは見慣れないモノだった。

 白く綺麗な毛を生やし、立派な足で地を踏みしめる四足歩行の動物。一瞬どこかから逃げ出したかと思った剣正だったが、その馬の背に跨る少女を見て間違った考えだと思い知らされる。


「おいおい……なんで…………こっちに、向かってくるんだぁ!?」


 突然の事態に気が動転し思考が止まり、その場に立ち尽くしてしまう剣正に馬とそれに跨る少女が軽快に接近してくる。


「もしやアナタは川神学園の生徒か?」


 剣正の目の前で停止した馬の背に跨る少女は問いかけた。


「金髪……」


 だが剣正には届いておらず放心状態のまま少女の容姿を呟いていた。


「もう一度聞こう。アナタは川神学園の生徒か?」


 そんな剣正の様子を見てもう一度問いかける少女。今度は先ほどより少し大きめの声で話しかける。


「あ、あぁ一応そうだけど……ってアンタも学園生なのか?」


 質問に答え、ようやく思考が追いついてきた剣正は少女が着ている服が、自分の通っている川神学園の女子の制服という事に気付く。


「今日から世話になる」

「どうりで見かけた事がなかったのか」

「それで、アナタは何をしている? もう始まる時間だぞ」

「今日は帰る。気が乗らねぇどころか行きたくないんでね」


 少女の問いに答えた剣正は手を上げると背を向け歩き出した。


「ちょっと待てっ!」


 が、少女はそれを許そうとせず馬を器用に扱い回り込むと剣正の前に立ちふさがった。


「えーっと……お嬢さん。邪魔なんだけど」

「クリスティアーネ・フリードリヒだ」

「じゃあクリスティアーネさん、もう一度言うけど邪魔なんだけど……」


 頭をポリポリと掻きながらクリスティアーネと名乗った少女を見ながら鬱陶しそうに話す剣正。


「クリスでいい。サボりは見過ごすことはできない」


 ここで剣正はクリスを『融通の効かない子』と判断し、この場しのぎの言葉を考えた。


「わかった。ちゃんと間に合うように走って行くから先に行ってくれ」

「そうか」


 剣正の言葉を聞いてクリスはようやく納得したのか、先ほどまでの少々きつめの口調は消え『うんうん』と頷いている。

 そんなクリスの様子を見て心の中でガッツポーズをとる剣正。


「今から走っても間に合うとは思えん。よって連れて行く」

「へっ?」


 馬に騎乗した状態のまま近付いたクリスは剣正の腕を取ると、太ってないとはいえな決して軽くないのにも関わらずグイッと軽々と引き上げた。


「…………」


 あまりの出来事に剣正は再び放心状態になってしまう。


「では行くぞ」

「……って、ちょっと待った!」


 クリスの声で現実に引き戻され我に返る剣正。


「何か問題があるのか?」

「いやぁ……そのー、馬も二人乗りじゃ辛いだろうから……」

「浜千鳥(乗っている馬の名前)はそんな柔じゃないぞ」


 どうにか断ろうとした剣正だったが、返ってきた言葉は残念ながら剣正の求めていたものではなかった。

 おまけとばかりに2人を乗せている馬-浜千鳥-が『甘く見るんじゃねぇ』と言わんばかりに鼻を鳴らす。


(コノヤロー馬刺にしてやろうか)


 と思った剣正だったが、馬も少女も悪くないとわかっているのですぐにその考えを捨て諦めることにした。


「では行くぞ!」

「お~……」


 クリスの元気な掛け声に力なく声を出す。


「行け浜千鳥っ!!」

「最近ついてねぇなぁ……」


 馬の背に揺られながらここ数週間の自分の不運を呪う剣正だった。

あれ?戦闘だと思っていたのに何故こうなったw
次回こそ決闘のはず……たぶん!w

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