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二章:変わったもの
第2話:ストレス発散


「あー、学校行きたくねぇ……」


 どんよりとした空気を身に纏いながら剣正は多馬川の傍を歩いていた。落ち込んでいる原因は言わずもがな、先日ラジオの最後に百代の発言。あのラジオの放送日以降、教室や廊下、あげくトイレでも突き刺さる嫉妬の視線にうんざりしていたのだ。

 横を歩く猫も剣正の様子を見てどこか同情しているような表情にも見える。

 そんな剣正の心情とは裏腹に後方から明るい声が聞こえてきた。

 振り返った先にいたのは川神学園でもそこそこ有名な『風間ファミリー』。小さい頃からの仲の良い友人同士が集まった賑やかな集団で百代を抜いたメンバーは2-F組の生徒で構成されており、全員に少なからず面識があった。


「あいつらは気楽で羨ましいぜ」


 明るく楽しそうにしている風間ファミリーを見た剣正は悲しい面持ちでボソッと言葉を漏らした。


「剣正じゃないか。おーい剣正!」


 そこに後方から剣正を呼ぶ大きな声が聞こえてくる。声の主の正体は剣正が学園に行きたくない原因を作った張本人である百代。


(聞こえないフリ、聞こえないフリ)


 しっかりと耳に百代の呼ぶ声が届いていたが、周囲に風間ファミリーがいるとはいえ一緒に登校している光景を他の生徒に見られ、今の状態がこれ以上悪化するのが嫌で無視をする剣正。

 少しでも危険(自分が)に晒される可能性があるのであれば、全力で回避を試みるつもりのようだ。


「おーい剣正。聞こえているんだろう?」


 尚も呼びかけてくる百代に剣正は心の中で願った。『頼むから諦めてくれ』と。

 だが、そんな剣正の願いは儚く散ることになる。

 無視をし続ける剣正に業を煮やした百代が走ってきたのだ。それに気付いた剣正は逃げようかとも思ったが逃げた後のことを考えたら、この瞬間を我慢したほうがいいと判断しその選択はせず諦めることにした。


「なんで無視するんだ?」

「なんのことかわからない」


 追いつかれた百代に追及される剣正だったが、わざとらしく惚けこの場を乗り切ろうとする。
 
 百代から離れようと早歩きで学園に向かおうといたところに、風間ファミリーの面々が近づいてくる。

 風間ファミリーのリーダーである風間翔一を筆頭に、剣正に挨拶をした。

 剣正の心境を知らない翔一たちに悪意などあるわけもなく、それを理解している剣正はこの場から離れにくくなってしまう。

 唯一情報通である大和は剣正の置かれている状態を知っていたので、なんとなく察したようだが自由奔放な翔一を止められるわけがなかった。


「うーっす。おはようさん」


できるだけ明るく挨拶をしようとしたが、言葉に覇気はなく端々に「どこか元気がない」とわかる。


「どうした剣正。悩みがあるなら私に言ってみろ」


 『アンタのせいだよ!』と言いたい剣正だったが心の中で大きく叫ぶだけに留め、ハハハと苦笑いする。

 その後は剣正の願いは届かず風間ファミリーと川神学園に向かうこととなり、たいして中身のない会話をしながら歩いて行く。


「お前が川神百代かぁ?」

「そうだが」

「俺たちは――」


 雑談をしながら歩いていた風間ファミリーと剣正に話しかけてきたのは、先日百代に絡んできた男たちの仲間らしく報復にやってきたと乱暴な言葉で話した。


「私を倒したいのか?」


 百代は男たちを見て、にやりと笑う。だが、その笑いはいつもの礼儀知らずの獲物を狩る際の笑みではなく、何かをイタズラをする時の表情だった。

 剣正は『今だ!』とばかりにこのチャンスを生かしてこの場からと離れるため忍び足で去ろうとする。


「私とやりたいなら、そこの男を倒してからだ」



 一斉に注がれる視線。その矛先は――。



「……え? 俺?」


 剣正だった。コソコソと逃げ出そうとしていた剣正を見て百代は笑う。


「えーと……冗談だよな」

「さっき私を無視したろう。罰だ」


 言葉を失う剣正。何を言っても無駄だと悟ったのだ。助けを求めようと風間ファミリー全員の顔を見たが、『ご愁傷様』と言いたげな表情を剣正に向けていた。例外はいたが、この状況を打破できそうな人物ではなかった。


「いやぁ、無視してないって」


 何とか言い逃れをしようと頑張る剣正だったが、激しく後悔していた。十分前の自分を殴り飛ばしたいと。あの時、返事をすればこうはならなかったはずなんだと。


「ほら行ってこい!」


 百代にバンと背中を叩かれた剣正は前のめりになりつつ一歩二歩と進み、男たちの前へと立ってしまう。


「ハハハ、あの~諦めて帰ってもらえないでしょうかねぇ?」


 半ばヤケクソ気味だったが、駄目もとでも平和的に解決しようと男たちに話しかける。


「何笑ってるんだテメェ! 諦めるわけねーだろ!」


 そんな剣正の言葉は一蹴される。できるだけ友好的にと笑いながら話しかけた剣正の姿が鼻に着いたようだ。

 それでも諦めきれず、頭に思い浮かんだ言葉をそのまま口に出してしまう剣正。


「多分というか、絶対にあの人には敵わないって。怪我する前に帰った方……」


 その言葉を引き金に百代へと敵意を向けていた男たちの標的は剣正へと移った。


「やんのかテメェ!」

「いや、俺は」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」


 先頭にいた男が飛びだし剣正へと拳を飛ばす。

 次の瞬間、剣正を殴ろうとした男が感じたのは浮遊感だった。

 剣正は体勢を低くし自分へと伸びる拳を下から跳ね上げ、腕を取り背負い投げのように投げた。


「ぐはぁ……」


 地面に背中から叩きつけられそのまま気を失う男。


「野郎ぉ!!」

「つい……許してくれないかな、とか思ったり……」

「ふざけやがって! おいやっちまうぞ」

「あぁ、仕方ない。ストレス発散させてもらうぜ」


 その後、多馬川の河原に十数人の男が倒れている姿が見られた。

なかなか話しが進まず……

ヒロインは未定でございます
フラグを立てるのは難しい。そして回収できるかも不安ですw

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