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二章:変わったもの
第1話:一難去ってまた一難

 二年F組の教室内はとあるの話題で持ちきりで仲の良い物通し話し合っている。話題の中心にあるのは転入生。

 朝のHRホームルームの中で担任である小島梅子が伝達事項としてドイツにあるリューベックという場所から転入生が近々来ると話したのだ。

 それを聞いた翔一は商売魂に火が点いたようで、『転入生の性別を当てる』という名目で賭けの胴元となり一儲けしようと企んだ。

 その賭けには元々お祭り体質なF組生徒たちは次々と賭けに乗る。

 直感でどちらかに賭ける者、こっちがいいという願望を乗せて賭ける者、情報を集めてから賭けようとする者などの三者に別れた。

 賭けに参加しようと剣正はポケットに入れてある財布を取り出し残金を確認した。中には諭吉が一枚と小銭が少々。

 賭け金は1000円単位と決められているため、参加するには諭吉を全額投資するか、割って使うという方法しかなく剣正はどうしようかと悩んでいた。

 前回の給料日から結構経っていたため、剣正の手元にあるこの諭吉は全財産と言っても過言ではなく、もし負けなどしたらしばらくは貧相なご飯を食べる日々を送らなければならない。

 そんな考えが頭をよぎった剣正は財布をポケットに戻した。

 今回は見送る事にしたようだ。


「浅井は賭けないのか?」


 賭けの胴元である翔一の手伝いから抜け出してきた大和が剣正に話しかけてきた。


「今回は止めとく。金がねーんだよ」

「代行のバイトで稼いでるんじゃなかったのか?」

「今月は色々と使ったからこれが俺の全財産」


 剣正はもう一度財布を取り出すと机の上へと乗せる。そして大和を見ながら口を開いた。


「お前も絡んでるんだから、どうせ上手いこと儲けようって腹だろ?」

「なんのことかわからない」

「へぇ~そうかい」


 うな垂れるように突っ伏した剣正はそのまま動かなくなりしばらくすると意識を手放し眠りに着いた。
 
 授業中も気持ちよさそうに寝ていた剣正だったが、運悪くこの日入っていた小島の授業にて鞭を打たれ目覚めるとことなった。








◆◇◆◇◆








 弁当を持参していない剣正は学食に向かっていた。四時限目が終わり授業担当だった教師に礼をするやいなや、まるで拳銃から弾き出された弾丸のように教室から飛び出した。


「ったく、あの先生話し長いんだよ」


 どこの学校でも同じだと思うが、昼食時の学食という場所は紛争地帯となっている。育ち盛りである生徒たちは空腹を満たすために我先にと群がるのだ。

 そのため出遅れたら待ちに待たされたあげく、余り物しか食べられなくなる。

 だが諦める選択はなく、数%の希望に賭け学食へ向かう足を早める剣正。

 そんな剣正の望みが叶うわけもなく、到着した頃には学食は食べ物に飢えた生徒でごった返していた。


「ですよねー」


 券売機やカウンターへと群がる生徒たちを見て、悔やみながら肩を落としトボトボと列の最後尾へと並ぶ。


「間に合わなかったみたいだね」


 剣正が最後の足掻きと神頼みしている所に、話しかけてきたのはクラスメイトである師岡卓也だった。


「せっかく全力で走ってきたのに無駄だったぜ」

「仕方ないよ。あの先生の話しはいつも長いからね」

「足も治って、前に約束した報酬もゲットしようと思ってたんだけどなぁ」

「あれ覚えてくれてたんだ」

「当たり前だろ。できない約束はしない主義だ」


 剣正と師岡が言っている約束というのはパソコンに詳しくない剣正が手伝ってもらったお礼にと『個数限定の学食』を奢るというものだった。(第4話参照)


「忘れてると思ってたか?」

「あんなことがあったしね」


 少しバツが悪そうにしながら思っていることを素直に話す。


「アレはもう終わったことだ。猫も無事だったしな」


 口には出さなかったが「気にするな」と言っているかのように剣正は師岡を見て笑う。


 その後は午前中持ちきりだった転入生の話しをしながら人が減るのを待っていた。そしてようやく順番が回ってくる。


「やっぱりなぁ……」


 目の前にある券売機に並ぶ数多くの『売切れ』の三文字。剣正は目に見えて落ち込む。


「まぁいいか。師岡は何食うんだ?」

「僕はうどんにしようかな」

「了解。じゃあ俺もそれにするか」


 財布から小銭を取り出し券売機に飲み込ませる。ほとんどのモノは売切れだったが、師岡の言ったうどんはまだ残っていた。金額分が入れられるとボタンが光り、それを押す。


「嘘だろ……」


 うどんのボタンに浮かぶ今一番見たくないもの『売切れ』の三文字が再び目の前に現われた。


「ほら、やるよこれ」


 手の中にあるうどんの食券を師岡に差し出しす剣正。


「いいの?」

「お礼だよ。この前、猫のために走ってくれただろ」


 あの時、全力で走ってくれた師岡に剣正は感謝していた。学校で話すくらいの自分の頼みを聞いてくれ、関係ないにも関わらず全力で走ってくれた師岡に。


「じゃあ貰うね」

「おう!」


 剣正の思いを酌んだのか師岡は受け取った。


「どっか適当に席取っといてくれ。パン買ってくるわ」


 残っていた食券の中に食べたいものがなく、どうせ買うならパンの方がいいと思ったのだ。

 だが、当然残っているのは人気のないもの。

 しばらくして師岡の座る席を見つけた剣正の手にあったのはコッペパン。思っていた通りの余りものだったため落ち込んではいないが、明るくもない。


「結局これしかなかったぜ」


 手に持つコッペパンとテーブルの上に置かれているこれまたコッペパンを差しながら剣正は苦笑いをした。


「ごめんね。僕が食券貰ったから」

「気にすんな」


 そんな調子で剣正と師岡は他愛もない話しをしていると、学食に備え付けてあるスピーカーから声が聞こえてきた。


『今週もラジオ番組LOVEかわかみがはじまるよー。パーソナリティは俺ハゲこと2年の井上準と……』

『人生、喧嘩上等諸行無常。3年の川神百代だ』


 すると雑談などで騒がしかった声が静かになる。このラジオはさきほどスピーカーの向こう側で話していた二人が主体となり、毎回送られてくる(主に百代に)相談のメールに答えてきくというもので、生徒から人気があった。


「井上君も頑張るよね」

「毎回あんな終わり方してるのによくやるよ」


 そんなことを話しながらも二人はラジオに耳を傾ける。


『準さん、百代さんこんにちは、はいこんにちわー』


 送られてきたメールの文面を読み、それに答える井上。


『よ。というか、前置きはいいから本分読めハゲ』

『好きな子ができました――』


 いつもの調子で進んでいくラジオ。聞いている者たちも『そろそろだな』と、思いつつも聞こえてくる声に耳を傾け続ける。




 そしてやってきた。

 百代の注意する声と共に聞こえてくるバキッという鈍い音。毎回途中で暴走する井上を咎める際に百代は殴ったりなどして気絶させてしまうのだ。


「やっぱりな……」


 剣正が呟く。それはおそらくラジオを聞いている生徒たち全員が思っていることだった。


『……あ、気絶させてしまったな。まいい。曲流すぞ』


 一人になってしまった百代がいつものように締めの言葉を発すると同時に、一度去った喧騒が食堂に戻り始める。

 だが、この日はまだ終わらなかった。


『言い忘れてた。2年の浅井剣正を悪く言う奴らがいるらしいがお角違いだ。まぁ、アイツも少しやり過ぎた面もあるが、護りたいもののために闘ったんだ。それを悪く言う奴は私が相手してやる』


「先輩……」


 ポツリと漏れる呟き。


『剣正、足は治ったそうだが痛くなったら言えよ。次もお姫様抱っこしてやる。それじゃあ曲流すぞ』


 百代の声と入れ替わるように人気のある曲が聞こえ出した。


「嘘だろ……」


 本日二度目になる言葉が出てきた剣正。

 悪く言う生徒は居なくなったものの、この日からしばらく剣正には百代のファンから妬みなどの視線が向けられることになった。
前回あとがきに話しました番外編は延期しました orz
とりあえず今は物語を進めようという理由からです。もし楽しみにしていた方がいるのであればすみません……。
いつか掲載しますので今しばらくお待ちを。

第二章は原作に沿いつつ剣正を介入させ、オリジナルをちょいちょい挟んでいく予定です。……おそらく

私事ですがクリスの転入の話の構成は無事解決しました!w

第一章の間にコメントをくださった皆さん、お気に入り登録をしてくだだった皆さん、見てくださった読者の皆さん、第二章もよろしくお願いします!

でわでわ最後に……
ご感想・ご意見・ご指摘など随時お待ちしております。
誤字脱字があれば報告していただけると嬉しいです。
真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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