放課後になり川神学園のグラウンドには、今日一日、学生としての勤めを果たした生徒たちでごった返していた。数多くの生徒の中には野球のユニフォームや袴などの制服以外の物を着用している生徒も少なからず見ることができる。
「それではこれより川神学園の伝統、決闘の義を執り行う。審判はワシ、川神鉄心が責任を持って勤める。両者前へ出て名乗りを上げい」
生徒たちが集まっている理由はコレだった。決闘には知力を競うものから身体を使うものまで様々なものがあるが、今回は素手による殴り合い。こういった内容のものは、放っておいたとしても面白いもの見たさで集まってくるのだ。さらに今朝剣正が起こしたSクラスへの乗り込み騒動も噂となり広がっていたこともあり集まる人数に拍車を掛けていた。
ただ観戦する者から、決闘に便乗して商売をする者、胴元となり賭けを成立させる者まで多々居る。
「二年F組、浅井剣正」
「二年S組、本田智也」
観客たちが見つめる先には、これから戦う相手を射殺すような目で見る剣正と、それを嘲笑うかのように余裕綽々な態度を取る生徒が居た。彼こそ剣正が可愛がっている猫を傷つけた真犯人だった。
「決闘中は勝負がつくまでは何があっても止めぬ。が、勝負がついたにも関わらず相手に攻撃を行おうとしたらワシが介入させてもらう。良いな?」
普段は寒いジョークを飛ばしたり、無理に若者の言葉を使おうとする鉄心だったが、今の鉄心からはそのようなふざけた雰囲気は感じられない。流石は年老えてなお世界から武神と恐れられる『川神鉄心』と言える。
「ああ」
「わかりました」
注意事項を受けた二人はそれぞれ返事をする。
それを見て鉄心は一歩下がった位置へと移動すると大きく息を吸い込み――
「いざ尋常にはじめいっ!!!!」
――空気を震わせながら、決闘の開始を告げる言葉を言い放った。
多くのギャラリーが見つめるなか、先に動いたのは剣正ではなく本田という生徒だった。サッカー部ということもあり脚力が長けている本田は先手必勝を体現するかの如く、自慢の脚を生かして飛び出したのだ。
「さっきから気に食わない目で見やがって!」
そう言い放ちながら剣正へと肉薄した本田は、接近した勢いを拳に乗せて剣正の顔へと打ちだした。
直後、『ゲシッ』っと、鈍い音が辺りに響く。
決闘と見守るギャラリーの最前列に百代と大和の姿があった。
「驚いた……」
「あの本田って生徒に?」
二人の目の前には握られた拳が顔のど真ん中に直撃し血が滴り落ちている剣正と、それを放った本田という光景が広がっていた。
「無防備に攻撃を受けたあの男に……だ」
百代の言うとおり剣正は迫り来る拳を何の抵抗もせず攻撃を受けていたのだ。
「それはいきなりだったからじゃ」
「違うぞ大和、浅井ならあの程度の攻撃は簡単に避けられるはずだ」
「それだったら何で避けなかったの?」
「私が知るか。後であの男にでも聞け」
大和の問いに百代は多少キツイ口調で言葉を返す。これは百代自身、『剣正の真の実力が見られるかもしれない』といった願望が叶わないと思ったからだった。
(なんでだ浅井……お前はその程度なのか……)
本田の初撃撃を受けた剣正は再び無防備な状態で殴られ後方へと吹っ飛び地面を転がり、追い打ちを掛けるように本田が距離を詰め剣正の体をメチャクチャに蹴りだす。
それを見てギャラリーから落胆する声や剣正を心配する声などがちらほらと上がりだした。
(いてぇよ……なんで、こんな目に遭わなくちゃならねーんだ……)
「早く負けを認めろよ。この屑がッ!!」
(いてぇよ……でも、お前はこんな痛い目に遭いながら自分の家族を護ったんだよな……)
「オイ! 何とか言ったらどうだ!!」
(偉いぞ……お前は家族を護った。今度は俺がお前の護ってやるからな……)
「俺は……」
「ん? 何か言ったか」
「俺はお前を許さねぇぇぇッッッッ!!!!」
吠えた。突如として剣正は吠えたのだ。
突然の出来事に驚いた本田は一歩、二歩と下がってしまう。
それは仕方のないことだった。至近距離で決闘の行く末を見守る鉄心でさえ、今の剣正による叫びには少々驚いていたのだから。
(この男子生徒……最近モモがちょっかいを出している者じゃったが、まさかコレほどとはのう)
さきほどまでざわざわと声が上げていたギャラリーは静まり返っていた。その中、剣正はゆっくりと立ちあがる。
(あいつを傷つけたお前を……)
(あいつら家族を離れ離れになりそうにしたお前を……)
「絶対に許せねぇんだ。許すわけにはいかねぇんだよ」
そう言うと剣正は口元に垂れている血を袖で拭うと決闘が開始されてから初めて構えを取った。
右手は胸の位置、左手は腹の前辺りで構えられており、拳は握ることなく指は開かれている。
「ほう、あの構えは」
相手に対し一直線上に肩幅程度の広げられた両足は前足と後足の踵の角度が直角になるように置かれている。
先日の百代との戦闘では見せなかった構えだった。あの時の剣正は怒りの感情に任せ、ただ力のままに拳を振るっていた。今回の剣正は叫んだ事によって無駄な力が発散され、思考がクリアな状態になっていることもあったが、仕返しではなく猫を護るための戦いをするということが大きかった。
「やはりのう」
剣正の構えを見た鉄心はどこか納得したかのような顔つきになる。
百代はというと、先日の戦闘で感じた違和感の正体がわかったことでスッキリした表情で剣正を見ていた。
「大層な構えを取ったわりに来ないのか。とんだ臆病者だな」
「………………」
構えた剣正を見て本田は挑発の言葉を吐きかけたが、剣正は動じることなくピタッと静止した状態で構え続けていた。
「こんな臆病者に無駄な時間はかけていられん。次で終わらせてやる」
動くことのない剣正を臆病者呼ばわりした本田は、離れてしまった距離を詰めていく。
彼、本田は勘違いをしていた。剣正は何もビビって動けずにいたのではないのだ。
初撃の時と同様に本田は勢いを乗せた拳を剣正へと放つ。
「破ッ!」
「なに……!?」
本田の伸びていた拳は剣正による手刀で切り落とされ、下方に流された手首を掴まれ関節を極められてしまう。ここまでの剣正の動きに乱れはなく、流れるような体捌きと鮮やかさだった。
剣正はその様態のまま体重をかけていき、本田は反抗するにも関節を極められて自由に動けずされるがまま、地面へと抑え込まれてしまった。
「この野郎!」
どうにかして抜け出そうとした本田だったが、反撃を許すことのない剣正によって残念な結果となる。
「謝れ……」
「はっ?」
「猫に……あいつら家族に謝れよ。そしてもう二度としないと誓え」
「けッ、誰が謝るかよ。それにアレはあのクソ猫が悪いんだろーが」
「そうか……」
本田の反省など全くしていない様子を見て剣正の目、口と言った顔を形成するもの全てがガラリと変わる。
次の瞬間、バキッと鈍い音が響いた。
「折れたぁぁぁ! 俺の、腕が……!!!」
そう響いたのは本田の腕が折れた音。剣正は手首を極めている方ではない手で本田の肘を叩き折っていたのだ。
無様にも痛みに耐えきれず地面を転げ回る本田を見て、鉄心はこれ以上の戦いは無理だと判断した。
「それまで!! 勝者、浅井剣正!!!」
鉄心の声がグラウンドに響き渡った。
決闘を見届けていたギャラリーから大きな歓声が沸く。
容赦なく相手の骨を折った剣正への批難や恐怖といった声もちらほら聞こえていたが、剣正の実力を目の当たりにして興奮している生徒も数人いた。その中の一人はもちろん百代。
(本気ではなかったようだが、私が出させてやる。あの目も……)
狙っていた獲物が本物だったということがわかり百代は喜んでいた。すぐにでも襲いかかりたいという気持ちをどうにか抑えチャンスが来るのを待つようにする。
決闘が終わりギャラリーはゾロゾロと帰り出したが、その時、事は起こった……。
「まだだ……まだお前は反省してない。こんな腕の一本や二本なんかいらねぇだろ?」
終わったにも関わらず剣正は本田に対し追い打ちを掛けようとしていたのだ。
「あのバカッ!!!」
ここで一度切らせていただきましたー!
本田という生徒は適当に考えましたので悪しからず……もし原作にいたらゴメンナサイ。
久しく原作をしていないので記憶が曖昧に、という言い訳……
ここで悩みを一つぶっちゃけさせていただきます………クリスの転入話どうしよぉ orz
何も考えてなかったよー(涙
毎度のことでウンザリかもですが
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