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一章:護りたいもの
第6話:嵐の前に
 朝のHRホームルームが始まる直前に突如現れた生徒によってSクラスの教室内は異様な空気に包まれていた。Sクラスの生徒達の視線は前のドア付近に立っている生徒に向けられていて、好意的な印象を持っている者は少なかった。

 自分のクラスを飛び出した剣正は乗り込んだ教室の中を端から端へとグルリと見渡す。と、そこにSクラス担任である宇佐美巨人がやってきたのだが、入口のど真ん中に居座るように立っている剣正の後ろ姿を見ると話しかけた。


「おい、そこに立ってると入れんだろ。教室に入れ」


 だが宇佐美は剣正だと気付いていないらしく、自分の受け持つ生徒だと思い教室の中に押し込む。前方にしか気の行っていなかった剣正は押された勢いで二・三歩前進すると後ろを振り返った。


「ん? 浅井だったか。早く教室に戻れ」


 ここでようやく気付いた宇佐美は剣正を自身の教室に戻るように促したのだが、剣正はそれに応じようとはせず無言で再び教室内を見渡し始めた。

 少なからず剣正のことを知っている宇佐美は剣正の行動を不思議に思いながらも、面倒なことになる前に戻らせるため注意をしようとしたが、それよりも早く言葉を発した人物がいた。


「何用か、庶民。言っておくがここは貴様の教室ではないぞ」


 声の主は川神学園指定の制服ではなく特注だと思われる金のスーツを身に纏っている九鬼英雄だった。九鬼財閥の御曹司ということもあるが、良くも悪くも目立つことから川神学園で英雄を知らない者はいない。

 その英雄に傍に居る、これまた指定の制服ではなくメイド服に身を包んだ女子生徒である忍足あずみが続いて話す。


「英雄様のご質問に答えないとお仕置きですよ☆」


 英雄に仕えるあずみは『メイドモード』なるものと『通常モード』を使い分けるが、今回は傍に英雄が居るためメイドモードで話しかけてはいたが、剣正を見るその目は言葉とは裏腹に鋭かった。


「お前には用はない」


 あずみの視線を受けているのを気にすることなく剣正は言い放つ。直後、教室内の雰囲気がピンと張りつめたものになる。


「テメェ……」


 ジャキ。と音を立てどこから取り出したのか2本の小太刀を構えているあずみが居た。小太刀の切っ先は剣正へと向けられていて、いつでも飛び出せるような体制になっている。


「やんのかメイド。俺は今、機嫌が悪いんだ」


 あずみの殺気を真正面から受けているなか怯むことなく剣正は睨むと、スッと腕を上げ構えた。


「はいストーップ」


 一色即発の状況を打開したのは、剣正の後ろに立っていた宇佐美だった。今にも飛び出しそうな二人の間に割って入った宇佐美は両手を広げ待ったをかける。


「どきなヒゲ」

「邪魔すんなよ宇佐美さん」


 だが、剣正とあずみは口を揃えて宇佐美に対し言葉を発した。その間も両者の視線は相手へと向けられていて、一歩も引かない様子だった。


「オジサンを困らせないでくれよ。これでも教師だから一応は務めを果たさなきゃいかんの」


 溜息を吐きながら片手で頭を抱えるようにする宇佐美。そもそも面倒なことが嫌いな宇佐美はどうにかしようと思考を巡らせる。


「やっぱりこうなってたか」


 そこに響いたのは剣正でもあずみでも宇佐美でもない者の声だった。


「落ちつけ浅井。今、やってもお前の立場が悪くなるだけだ」

「ゲンちゃん」


 剣正へと話しかけたのは源忠勝。Sクラスで起きているこの騒動の発端である剣正のクラスメイトでもあり、数少ない友達と呼べるうちの一人だ。

 剣正が乗り込んだ事情を大和から聞き知っている忠勝は、宇佐美に近づき説明をする。


「そういうことだったか……浅井、この場はオジサンが預からせてもらう。いいな?」


 面倒事などあまり関与したくない宇佐美ではあったが、自分の代行会社で働く剣正の力になってやろうと無償でとある提案を持ちかけた。


「決闘だ?」


 そう決闘だった。川神学園には決闘システムという他の学校にはない変わったものがあり、宇佐美はそれを使って戦えと言ったのだった。そうすれば普通は暴力事件沙汰になるものでも、この川神学園内においては合法的にできるのだ。


「これなら何の問題もなく暴れられるだろ?」

「……仕方ない」


 宇佐美の気持ちを汲み取ったのか渋々といった様子ではあったが提案に乗る剣正。それを受け宇佐美はあずみの方を向き話しかけた。


「理解がよくて助かる。忍足、そういうことだ。悪いが今回は引いてくれ」

「あ?」

「よい、あずみ。ここは引け」

「ですが」

「我の言葉が聞こえなかったか? ここは引けと言っている」

「!? 申し訳ございません英雄様!」


 先程の忠勝による事情の説明を聞いていた英雄は剣正の態度を許すことにしたらしく、あずみへと命令という形でこの場を引かせる。


「主に対する忠義、それでこそ我の従者よ。誇ってよい」

「ありがたき御言葉」

「して庶民よ。その猫とやらは今はどうしておる?」

「島津寮で寮母さんに診てもらってるよ」

「そうか。あずみ分かっているな」

「はっ! ただちに高名な獣医を用意いたします」


 突然の出来事に剣正は驚きの表情を浮かべてしまう。何の気まぐれなのか英雄は怪我をした猫を九鬼の力を使い獣医を呼び出したのだ。


「九鬼……お前」

「猫の為とはいえ、これほどまでに真剣になる姿を見ては……ほんの気まぐれよ」


 そう言うと英雄はどこか遠くを見るような瞳になった。英雄自身過去に大きな事故に遭い利き腕に怪我を負ってしまい、続けていた野球を断念した経験があった。


「そうかい。今度猫を連れて礼を言いに来させてもらう」

「うむ」


 剣正は純粋に英雄に感謝をし、それに対し英雄は短くはあったが返事をした。そこには先程までの遠くを見つめる目ではなく、しっかりと剣正を見る英雄が居た。


「お二人さん青春している時に悪いが、授業が始まる。廊下で綾小路先生がご立腹だ。忠勝、浅井を連れて早く教室に戻れ」

 
 宇佐美は面倒くさそうな表情をしながら廊下を見ると剣正たちに話しかけた。それを聞いた忠勝は剣正を連れてSクラスから出て行く。

 その日の昼休み、単身乗り込んだ剣正とそれに巻き込まれた形で忠勝が綾小路麻呂にネチネチと説教をされる姿が職員室で目撃された。
書いているうちにグダグダに……次回は思い通りの話を書きたい!

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