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一章:護りたいもの
第5話:虚言

 片足に力を込め大地を強く蹴り飛び出した浅井剣正は勢いそのままに川神百代へと突っ込んだ。だが百代はまるで予見していたかのように身を翻して剣正のソレを避けた。当てるべき標的を失った剣正は、土埃を上げながら地面を滑るようにして停止する。

 今の攻防を見て直江大和は驚いていた。彼の知っている“浅井剣正”と言う男は学園内・寮内問わず比較的穏やかに過ごしていて、たまにふざけたりはしているものの、目の前で自分が姉さんと慕う百代と戦っている“浅井剣正”とはかけ離れたイメージだったからだ。

 驚きのあまり声も出ずその場に立ち尽くす大和に目もくれず、未だ興奮状態のままの剣正は百代をキッと睨むと再び飛びかかって行く。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 
 雄叫びを上げながら百代へと接近した剣正は大きく左腕を引き狙いを定め真っすぐに撃ち出した。


「そんな……ものかっ!」


 先程の初撃は難なく避けた百代だったが、今回はあえて回避せずしっかりと地に足を付け向かってくる剣正の拳を真正面から受け止めた。

 ここ数カ月の間、幾度も対戦を申し込んだ相手と戦っている百代は満足していると思われたが、そうではなかった。


(私が怒らせたとはいえ……つまらん)


 攻撃を簡単に受け止められた剣正は後方へと下がろうとしたが、そこを百代は許さず素早く剣正の腕を取ると鋭角に投げた。いや、投げたというより“落とした”という言葉の方が似合う程の速度と角度で地面へと叩きつけた。


「がはッ――!!」


 硬い地面と衝突した衝撃は計り知れず肺から空気が一気に抜け、そのままぐったりと倒れ伏せる剣正。





 終わった。

 普段から一緒に居ることの多い百代とジャレている時にかなり手加減をして投げられたことのある経験のある大和には、今倒れている剣正が立てるはずがない。と、少なくとも大和はそう思った。

 それは投げた張本人である百代も例外ではなく、大和を遠ざける時に一緒に放った鞄に入ってある携帯電話を取りに向かおうとしていた。


「まだだ……」

「ッ!?」


 百代が振り返った先には、全身に走る痛みと痺れに襲われながらも歯を食いしばり立っている剣正の姿があった。投げられ地面と衝突した際に口内を切ったのか、口元には血が垂れていた。


「アイツの為にも、倒れるわけにはいかねぇんだよ!」


 ただ自分が仲良くしていたという理由だけで傷つけられた猫の敵討ちもあったが、半分は自分に対する後悔と怒りもあった。




(こんなことになるなら戦いたくない理由を相手が納得してくれるまで説明しとけばよかった。相手が満足するまで戦えばよかった……)




 様々な思いが剣正の中を駆け巡っていた。


「……でもお前だけは許さねぇ。川神百代!!」


 大切なものを傷つけられた怒りはボロボロな剣正をムリヤリ動かす。未だ痛む身体を引きずるようにして一歩、また一歩と百代へと近づいて行く。

 ここでいち早く我に返った大和が剣正に向かって走り出し、百代との間に割って入った。


「なんだ直江……そこにいるとお前も巻き込むぜ」


 突然乱入してきた大和を鬱陶しそうに睨む剣正。その視線を真っ向から受け止める大和は背後にいる百代へと話しかける。


「もういいだろ姉さん」


 大和の言葉のあと、一拍置いて百代から短く「あぁ」とだけ返ってきた。
 
 何を話しているかわからない剣正は声を荒げ大和に掴みかかった。


「邪魔だ。どけッ!」

「浅井落ちつけ。さっきの猫は姉さんがやったものじゃないんだ」


 剣正は驚きを隠せなかった。大和へと伸びていた腕はダランろ下がり顔には困惑がまとわりついている。


「……ど、どういうことだ?」

「あの猫は俺たちがココに来た時には、もう怪我をしていた。それで治療する為に近づいたところに浅井が来たんだよ」


 戦っていた相手が無実だったことを告げられた剣正は一瞬戸惑ったが、本人に確かめずにはいられなかった。


「ほんとか先輩?」

「あ、あぁ」

「なんで嘘を吐いた?」

「最初に言っただろ。戦いたかったって」

「ふざけんなッッ!!」


 剣正、百代、大和の周囲の空気が震える。それほどまでに大きく響く声だった。先程とは別の怒りが剣正の中に生れていたのだ。


「とりあえずぶっ……飛ば、す――」


 だが、剣正はこの台詞を言いきると同時に意識を失い再び地面へと倒れ込んだ。百代に投げられた時のダメージが思った以上にあったようだ。怒りに染まっていた顔は消え、今はどこか悲しそうな顔がそこにはあった。


「姉さん、どうするの?」

「川神院で手当てする。お前は麗子さんにそう伝えてくれ」


 百代と戦闘を行い負傷した者たちは川神院が責任を持って治療するということになっている。例外はあるがこの場合はそれに当たらない。


「わかった。それじゃあ俺は先に帰るね」

「頼んだ。あッ、あとお前に1つ頼みたいことが――」








◆◇◆◇◆








 翌日、通学路にて眠たそうにする百代と大和の姿があった。互いに目の下に隈ができていて寝不足ということがわかる。


「どうだった大和?」

「わかったよ。少し苦労したけど目撃者の証言も録れた」

「流石だ大和。よくやった。ご褒美に美少女を負ぶって登校する権利を与えよう」

「遠慮しておくよ。というより浅井は? 川神院で預かるって言ってたけど」


 未だボーっとする頭を左右に振り周囲を確認する大和だったが剣正の姿は見つからず、百代に尋ねたのだった。

「もしかしてまだ寝たきりだったり……」

「いや、アイツは夜起きてどこか行ってしまった。気を探ったが見つからん」

 百代は個人を気で感じ取ることができるのだが、剣正を見つけることはできなかった。昨日の戦闘中は興奮状態であったとはいえ、感じ取るには十分すぎる程の気量と気質だったのだが、いざ戦闘が終わると一気に小さくなってしまい川神市に居るということ以外はわからなかった。


「自分で外に出るほど元気なら安心した」

「心配してたのか?」


 面白いものを見たというような顔をしながら百代は大和に視線を向ける。


「今回は姉さんが全部悪いしね。傍にいた俺も責任を感じてるんだよ」

「うっ……」


 大和の言葉にバツの悪そうな顔をした百代は前を向くと全速力で川神学園へと駆けて行った。


「じゃあ頼んでたやつ伝えといてくれよ」

「逃げたな」











 2-Fの教室内に剣正はいた。中途半端に伸びた黒髪は無造作に跳ねていて、身に着けている制服はシワだらけで所々土などで汚れていた。いつも以上にだらしない姿の剣正が机に頭を乗せ突っ伏していたのだった。

 教室に入ってくる者たちは一度剣正へと視線を向けるが、話しかけずソッとしておくという選択をしていた。

 だが、大和は剣正を発見するなり近寄り話しかけた。


「おはよう浅井」

「ン、おはよー」

「なんか疲れているみたいだけど」

「そんな、ことねー……よ」


 一度上げた顔だったが机に吸い込まれるようにして前のめりに倒れて行く。それも大和の次の言葉で剣正の意識は完全に覚醒することになる。


「先に結果から言う。昨日の犯人がわかった。……!?」

「「「「!?」」」」

 一瞬、教室内が異様な空気に包まれた。

「直江。その話、詳しく教えろ」

「わかった――」

 大和は昨日、百代と別れたあと自身の交友の広さを生かし『剣正が可愛がっていた猫に怪我をさせた』犯人を探してしたのだった。時間をかけ何人にも電話を掛け、メールを打ってわかったことは次の通り

 川神学園の生徒が帰宅していたところ目の前を子猫が通った。だが、通った際水溜りに入った子猫の衝撃で水が跳ね、その生徒のズボンに掛かったのだった。

「確認……その生徒ってのがS組のヤツなんだな?」

「間違いない」

「わかった。礼は言わねぇぜ直江」

「いいさ。お詫びのつもりだしね」

「そうか」

 話しを終わった剣正は、グッと力を入れ立ち上がり教室のドアへと歩いて行く。

「浅井ちゃん。もうすぐ先生来ます、ヒッ!」

 剣正に注意をしようとしたF組委員長の甘粕真与だったが、剣正の顔を見て驚きその場ヘタリ込んだ。

「悪いな委員長……先生来たら適当に言っといてくれ」


初の戦闘(笑)にお付き合い頂きありがとうございましたー!w
んー……難しい!自分の言葉のレパートリーの少なさに絶望を隠しきれません orz

次回も戦闘(笑)があるので、ほんの少しでも期待を寄せて貰えると嬉しかったりしますw

よければ評価を付けていってくださいね!
少しでも気に入ってくださった時は迷わずお気に入り登録を!……してくださると喜ぶ作者ですw


それではいつものことですが、
ご感想・ご意見・ご指摘など随時お待ちしております。
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真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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