悪い予想だけはよく当たる。
先月の本欄で田中直紀氏の防衛相起用についてこう書いた。「野党は来週から始まる国会で格好の標的とするだろう。『田中さん、○○を知ってますか』と、最近流行の能力判定テストのような質問に多くの時間が費やされるのは目に見えている」と。
予想を超える悲惨な状況である。憲法と自衛隊の関係といった基本質問に答えられない。野党の質問者が「硫黄島」をどう読むか、聞く。秘書官が「いおうとう」と書いたメモを田中防衛相に渡そうとすると、質問者は「メモを渡すな」と叫ぶ。もはや、見るに堪えない。
実際には衆参の予算委員会は、自民党や公明党などの中堅どころが質問に立つ際には、消費増税や年金問題など、相当突っ込んだ質疑もされている。それをあまり報じないマスコミもいけないが、国会質疑を本筋に戻すためにも、田中氏は一刻も早くお辞めになった方がいい。
言いたい話はここから。先月の本欄では資質を問われる閣僚は当選回数を重ねたベテランが多く、それが深刻だとも書いた。実はこの時「当選させ続けた有権者にも責任があるかもしれない」と付け加えようとしてやめた。第一に本人の責任だし、その人を候補者にする政党の責任だし、まして閣僚となれば、今回の野田佳彦首相に見るように任命者の大きな責任だからだ。
マスコミの責任もある。私たちは何か問題が起きない限り、「その人は能力がない」とは書かない。役職に就かなければ、その人が日ごろ、どんな議員活動をしているか報じる機会も少ない。さらに新人候補となると、有名人は別として、その人となりを伝えるのは難しい。有権者の判断に足る情報を提供しているとはいえない。そんな反省もある。
でも、それが分かっていても、田中防衛相に対する質疑を聞いていて、これほど暗たんとした気持ちになるのはなぜだろう。それは選んだ国民自身がおとしめられているような気持ちになるからではないかと、堂々めぐりのように考えるのだ。
1月6日の朝日新聞に掲載されたインタビューで作家、半藤一利氏は「政治家が劣化するのは国民が劣化しているからだ」と厳しく断じたうえで、「国民のレベルが上がれば政治家も上がる」と語っている。
私にはなかなか言えない言葉だが、私もそう信じたい。(論説副委員長)
毎日新聞 2012年2月8日 東京夕刊
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