原子力発電所の安全性を確保する上で重要な機能は、(1)原子炉を「止める」、(2)原子炉を「冷やす」、(3)放射能を「閉じこめる」ことで、これらの機能を果たす機器、建物などが、津波に影響を受けることなく、正常に機能することが要求されます。具体的には、原子炉建屋などが浸水しないこと、および「冷やす」機能に関連する設備(余熱除去系など)に冷却水を供給する原子炉機器冷却系が海水を取水できることが必要となります。
考慮する津波
原子力発電所において検討対象とする津波は、過去に敷地周辺に影響を及ぼしたと考えられる津波および海域活断層から想定される津波です。過去の津波については、日本およびその周辺の海域で発生した津波だけでなく、1960年のチリ地震津波のように遠く離れた地域から伝わってくる津波についても考慮しています。
浜岡原子力発電所においては、これらの津波について文献などに基づき検討した結果、1854年の安政東海地震による津波が敷地に最も大きな影響を及ぼしたと考えられます。
津波による水位変動
発電所の敷地に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる1854年安政東海地震による津波について、水位評価を実施するために、痕跡高(こんせきだか)などの文献調査に加えて、数値シミュレーション(解析)をおこない、水位低下や陸上への遡上(そじょう=さかのぼること)などの津波の挙動を詳細に評価しています。
津波による水位上昇
数値シミュレーションの結果、敷地における最高水位は満潮位(朔望(さくぼう)平均満潮位)を考慮してT.P.(注)+5.8m程度であり、また、痕跡高などの文献調査の結果、敷地付近では満潮位においても最大T.P. +6.0m程度と推定されていることから、敷地における最高水位はT.P.+6.0m程度と想定されます。
(注)T.P.:東京湾平均海面
1854年安政東海地震津波による静岡県沿岸の痕跡高
津波による水位低下
数値シミュレーションの結果、5号機取水塔(原子炉を冷却するための海水を取り込むために海底に設けられた設備)設置位置における最低水位は、干潮位(朔望平均干潮位)を考慮してT.P.-8.8m程度と想定されます(1~4号機取水塔についても最低水位はほぼ同程度です)。取水口(取水塔の海水取り入れ口)の下端レベルはT.P.-6.0mであり、安政東海地震時には地盤が1.4m程度隆起したと想定されることから、下図のように4分間程度は取水口の下端レベルを下回ることになります。
取水塔位置における津波の時刻歴波形(5号機の例)
津波に対する安全性
水位上昇に対する安全性
痕跡高などの文献調査や数値シミュレーションの結果、敷地付近の津波の高さは、満潮を考慮しても、最大でT.P.+6m程度です。
これに対して、敷地の高さは津波の高さ以上のT.P.+6~8mであり、津波に対する安全性を確保しています。
さらに、敷地前面には、高さがT.P.+10~15m、幅が約60~80mの砂丘が存在してます。また、安全上重要な施設を収容している原子炉建屋などの出入口の扉は防水構造にしています。
これらのことから、浜岡原子力発電所は、津波に対する安全性を十分に確保しています。
最高水位の検討
水位低下に対する安全性
数値シミュレーションによれば、水位低下によって、取水口の下端レベル(T.P.-6.0m)を4分間程度下回ることになります。この間一時的に取水できなくなりますが、取水槽には、原子炉機器冷却系に必要な量の海水が20分間程度以上確保されており、その間には取水塔位置の水位が回復します。したがって、水位低下に対しても原子炉施設の安全性は十分確保されています。
取水設備概要図
その他の津波対策
浜岡原子力発電所の取水塔は、敷地前面の沖合約600m、水深約10mの地点に設置されています。取水口は水深の中間部に設けた中間取水方式になっており、海底砂による埋没を防ぎ、ゴミが混入しにくい設計となっております。また、取水口・取水槽にはスクリーンなどを設置し、ゴミなどの異物の流入を防止する設計としています。