- Q3. アメブロの芸能人ブログ戦略をどう思ってた?
アメブロが芸能人の囲い込みで力をつけ、他社を華麗に抜き去りつつあったのは、ライブドア事件の一年後ぐらい、2006年終盤〜2007年頃のことだ。
ちなみにライブドアブログは事件前までは会員数ではダントツの首位で、事件(2006年1月)後もそれでひどく落ち込む訳ではなかった。ただ、激しく追い上げるFC2とアメブロに対し、ただ現状維持だけを続けていたライブドアブログの状況がこの記事の下の方のグラフから良く分かると思う。
→有名人・芸能人ブログ人気でアメ−バ躍進
この頃、ライブドアブログがアメブロと同じような、芸能人ブログを中心とした集客・マネタイズモデルに進まなかったのには、たぶん二つ理由がある。
ひとつは、事件の影響でブランド価値が下がってしまっていたこと。
もうひとつは、当時、ブログ事業をマネタイズする手法をまだどこも確立できておらず、PVを集めれば集めるほど赤字になる事業であったこと。そしてまだ事件のショックからも立ち直れていない状態で、いつマネタイズのメドがつくかもわからない投資事業に赤字を突っ込み続けるという決断ができなかったこと。
■
アクセスログや検索ログを見た事がある人には、コンテンツのプレゼンスを上げるには芸能人の話題性に乗っかるのが唯一の正解だ,ということは明白だった。
検索キーワードのトレンドに上がるのは、いつだって、TVの情報番組やドラマで出た話題、あるいは芸能人の名前ばかりだ (あとエロを除けばね)。そもそもライブドアブログが当時ずっとユーザ数一位を独走していたのだって、ホリエモンの話題性によるところが大きかったわけだし。
ただ、事件で完全に毀損したライブドアのブランドイメージは芸能人囲い込みには不向きすぎた。
いや、実際は、評価を0から100に上げることよりも、-100を+100にひっくり返す方がずっと楽なのかもしれない。PRの達人の手にかかれば、ひょっとすると、日本津々浦々まで浸透した悪名をまるごとプラスにひっくりかえしてしまうことも可能だったのかもしれない。
事件直後にどんなブランドマネジメントが行われたのか、あるいは行われなかったのか、の詳細についてはよく知らない。ただ結果としては、世間からのバッシングにひたすら防御姿勢で耐えるのが精一杯で、また、ドブ板営業で芸能事務所をつなぎとめるだけの営業リソースもなかった。
また当時、ブログのマネタイズ方法が全く確立されていなかったことも要因としては大きい。
今では当たり前となったブログ記事下の広告をドリコムがいち早く導入してみたところ、大炎上して無人の荒野と化したのもこの頃だ。
→ドリコムブログのゴタゴタと仕様変更で移転する人(2007年2月)
前回も書いたように、できるだけ良い条件で身売りできるよう黒字化が経営上の最優先とされる中、「PVを増やしてその後どうすんの?」という空気はなきにしもあらずだった。
少し後になって、サイバーエージェントの藤田社長が「livedoor Blog は縮小均衡」という発言をしてライブドア社員をイラッとさせたが、このへんのことを表現してたのであればさほど間違いではないだろう。
→アメブロが大成功狙える時期にきた--サイバーエージェント藤田社長に聞く(2008年4月)
優秀なディレクター/プロデューサー達は皆、この空前の逆風への対策を練るためにブログの運用どころではなく、あるいはさっさと他の会社へ移ってしまい、「一番の広告塔なんだけど一番の赤字なんだよねぇ」なブログはしばらく長期戦略を欠いたままひたすら現状維持を続けた。
結局、事件から一年ほど後になって@sasakill (現NHN Japanの偉い人)が舵を握るまで、ライブドアブログには長期的方針の空白期間があった。どの方向にも有効な一歩を踏み出すことができないままモタモタしているところで、「当たり前の正攻法」をトップダウンで再確認し、中央突破したサイバーエージェントに大きなパイをもっていかれた、というのが妥当なところだろう。
■
さて、それはそれとして…
先に「芸能人の話題性に乗っかるのが唯一の正解」とは書いたが、それは話題性を得るところまでであって、それをビジネスにかえるのにはまた別の相当な苦労がある。営業力の大きくないライブドアが芸能事務所とまともに渡り合っていくのは大変で、いずれにしても近いうちに破綻しただろうと思う。
アメブロからの強烈な接待攻勢にも関わらず、ごく最近までライブドアブログに残り続けてくれていたある大御所芸能人がいた。たぶん本人は、ブログのサービス提供者がどこかなんて気にもしてなかっただろう。使い慣れたサービスから移動するほどの理由が特になかっただけだと思う。
が、実際にライブドアとの接点になるのは芸能人本人ではなく芸能事務所だ。大御所芸能人という強いカードを武器に、アメブロ移転をちらつかせながら、無関係の広告案件を安価でひきうけさせられたりするうち、だんだん「別にそこまでして居てほしいわけでもないしなぁ…」というしらけたムードが現場に漂いはじめていたものだ。(で、実際その後すぐアメブロに引き抜かれていきましたとさ。)
芸能関係やそのメイングラウンドである旧来メディアの体質は古く、消費者をバカだと思っているというか、自分たちが時流を作っていると思い込んでいる節があって、それが昨今話題の「ステマ」が横行する一因な気がする。たちの悪いパブ記事 (最近は「ステマ」という方が分かりやすいようだけど、ちょっと定義があいまいすぎるよね、ステマって...) を芸能人に書かせて力技で消費者を誘導する、などがその典型だ。
→有名人のブログを使った商品宣伝の実例|ステマ バイラルマーケティング
パブ記事に関する個人的見解は、在職中にこの記事の下の方にも書いた。
最近は、旧来メディアのように作られたアイドル(偶像)ではなく、ツイッターなど生の場でのアドリブがきくとか、面白い記事が書けるとかいった、本当の意味での「タレント(才能)」が生まれつつある。そんななか、「撮影してまーす」「ノーノーフォーメンでむだ毛もばっちり!」「楽屋でみんなと」みたいなタイトルが並ぶ改行の多いブログにいかほどの未来があるのかは正直分かりかねる。
…といった諸々のファクターもふまえ、今から2,3年前に、ライブドアブログが目指すべきはセレブリティのマス発信でも一般人のコミュニティ的つながりでもなく、発信力のあるブロガーがブログで飯を食えるようにすることだ、という方針が定められた。今あるBLOGOSや2chまとめブログの囲い込み、あるいはブログ奨学金、日本ブログメディア新人賞などの制度はすべてのその方針に沿っている。
またそれによって、ライバル視すべきはアメブロではなくFC2ブログだということも明確にされた。
結果、サイバーエージェントは芸能人主体で、ライブドアはGoogleのアドセンス主体で、それぞれ全く異なる道をたどって、いずれも2008〜2009年頃ブログ事業のマネタイズに成功する。
→想定通りブログで稼げる会社になった /サイバーエージェント代表取締役社長CEO藤田 晋 氏(2009年10月)
→ライブドア、分社2期目で通期黒字化を達成(2009年4月)
おまけ: うちは黒字化したけどそれにひきかえNTTデータの無惨なことよ!!と刺激的な記事を上げて炎上した@tabbata(当時メディア事業部長)のブログがこちらになります。
■
芸能人と違って、彼らブロガーには直接会って意見を聞くことができる。
例えばブログごはんというイベントがライブドア主催で不定期で開催されている。これは、ブログのPVに貢献してくれたお礼にブロガーの皆さんにごはんをおごりますよ、という名目で、ブロガー諸氏からサービスに対する意見を聞く場でもあった。
(ちなみにこのネーミングは、「ブログで飯が食える世の中にしたい」という運営側の気持ちにも多少ひっかけてあったと思う。)
→ライブドア主催の「ブログごはん。」という飲み会に行ってきたよ!(2009年5月)
何百万PVを稼ぐようなブロガーと直接話しながら開発に携わっていくのは楽しい経験だった。
特にらばQの中の人とアルファルファモザイクの中の人は厳しくて、あの機能はまだかとか、なんでこんな仕様にしたんだとか、毎回さんざん詰められたのは良い思い出です。
アメブロが芸能人の囲い込みで力をつけ、他社を華麗に抜き去りつつあったのは、ライブドア事件の一年後ぐらい、2006年終盤〜2007年頃のことだ。
ちなみにライブドアブログは事件前までは会員数ではダントツの首位で、事件(2006年1月)後もそれでひどく落ち込む訳ではなかった。ただ、激しく追い上げるFC2とアメブロに対し、ただ現状維持だけを続けていたライブドアブログの状況がこの記事の下の方のグラフから良く分かると思う。
→有名人・芸能人ブログ人気でアメ−バ躍進
この頃、ライブドアブログがアメブロと同じような、芸能人ブログを中心とした集客・マネタイズモデルに進まなかったのには、たぶん二つ理由がある。
ひとつは、事件の影響でブランド価値が下がってしまっていたこと。
もうひとつは、当時、ブログ事業をマネタイズする手法をまだどこも確立できておらず、PVを集めれば集めるほど赤字になる事業であったこと。そしてまだ事件のショックからも立ち直れていない状態で、いつマネタイズのメドがつくかもわからない投資事業に赤字を突っ込み続けるという決断ができなかったこと。
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アクセスログや検索ログを見た事がある人には、コンテンツのプレゼンスを上げるには芸能人の話題性に乗っかるのが唯一の正解だ,ということは明白だった。
検索キーワードのトレンドに上がるのは、いつだって、TVの情報番組やドラマで出た話題、あるいは芸能人の名前ばかりだ (あとエロを除けばね)。そもそもライブドアブログが当時ずっとユーザ数一位を独走していたのだって、ホリエモンの話題性によるところが大きかったわけだし。
ただ、事件で完全に毀損したライブドアのブランドイメージは芸能人囲い込みには不向きすぎた。
いや、実際は、評価を0から100に上げることよりも、-100を+100にひっくり返す方がずっと楽なのかもしれない。PRの達人の手にかかれば、ひょっとすると、日本津々浦々まで浸透した悪名をまるごとプラスにひっくりかえしてしまうことも可能だったのかもしれない。
事件直後にどんなブランドマネジメントが行われたのか、あるいは行われなかったのか、の詳細についてはよく知らない。ただ結果としては、世間からのバッシングにひたすら防御姿勢で耐えるのが精一杯で、また、ドブ板営業で芸能事務所をつなぎとめるだけの営業リソースもなかった。
また当時、ブログのマネタイズ方法が全く確立されていなかったことも要因としては大きい。
今では当たり前となったブログ記事下の広告をドリコムがいち早く導入してみたところ、大炎上して無人の荒野と化したのもこの頃だ。
→ドリコムブログのゴタゴタと仕様変更で移転する人(2007年2月)
前回も書いたように、できるだけ良い条件で身売りできるよう黒字化が経営上の最優先とされる中、「PVを増やしてその後どうすんの?」という空気はなきにしもあらずだった。
少し後になって、サイバーエージェントの藤田社長が「livedoor Blog は縮小均衡」という発言をしてライブドア社員をイラッとさせたが、このへんのことを表現してたのであればさほど間違いではないだろう。
→アメブロが大成功狙える時期にきた--サイバーエージェント藤田社長に聞く(2008年4月)
優秀なディレクター/プロデューサー達は皆、この空前の逆風への対策を練るためにブログの運用どころではなく、あるいはさっさと他の会社へ移ってしまい、「一番の広告塔なんだけど一番の赤字なんだよねぇ」なブログはしばらく長期戦略を欠いたままひたすら現状維持を続けた。
結局、事件から一年ほど後になって@sasakill (現NHN Japanの偉い人)が舵を握るまで、ライブドアブログには長期的方針の空白期間があった。どの方向にも有効な一歩を踏み出すことができないままモタモタしているところで、「当たり前の正攻法」をトップダウンで再確認し、中央突破したサイバーエージェントに大きなパイをもっていかれた、というのが妥当なところだろう。
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さて、それはそれとして…
先に「芸能人の話題性に乗っかるのが唯一の正解」とは書いたが、それは話題性を得るところまでであって、それをビジネスにかえるのにはまた別の相当な苦労がある。営業力の大きくないライブドアが芸能事務所とまともに渡り合っていくのは大変で、いずれにしても近いうちに破綻しただろうと思う。
アメブロからの強烈な接待攻勢にも関わらず、ごく最近までライブドアブログに残り続けてくれていたある大御所芸能人がいた。たぶん本人は、ブログのサービス提供者がどこかなんて気にもしてなかっただろう。使い慣れたサービスから移動するほどの理由が特になかっただけだと思う。
が、実際にライブドアとの接点になるのは芸能人本人ではなく芸能事務所だ。大御所芸能人という強いカードを武器に、アメブロ移転をちらつかせながら、無関係の広告案件を安価でひきうけさせられたりするうち、だんだん「別にそこまでして居てほしいわけでもないしなぁ…」というしらけたムードが現場に漂いはじめていたものだ。(で、実際その後すぐアメブロに引き抜かれていきましたとさ。)
芸能関係やそのメイングラウンドである旧来メディアの体質は古く、消費者をバカだと思っているというか、自分たちが時流を作っていると思い込んでいる節があって、それが昨今話題の「ステマ」が横行する一因な気がする。たちの悪いパブ記事 (最近は「ステマ」という方が分かりやすいようだけど、ちょっと定義があいまいすぎるよね、ステマって...) を芸能人に書かせて力技で消費者を誘導する、などがその典型だ。
→有名人のブログを使った商品宣伝の実例|ステマ バイラルマーケティング
パブ記事に関する個人的見解は、在職中にこの記事の下の方にも書いた。
最近は、旧来メディアのように作られたアイドル(偶像)ではなく、ツイッターなど生の場でのアドリブがきくとか、面白い記事が書けるとかいった、本当の意味での「タレント(才能)」が生まれつつある。そんななか、「撮影してまーす」「ノーノーフォーメンでむだ毛もばっちり!」「楽屋でみんなと」みたいなタイトルが並ぶ改行の多いブログにいかほどの未来があるのかは正直分かりかねる。
…といった諸々のファクターもふまえ、今から2,3年前に、ライブドアブログが目指すべきはセレブリティのマス発信でも一般人のコミュニティ的つながりでもなく、発信力のあるブロガーがブログで飯を食えるようにすることだ、という方針が定められた。今あるBLOGOSや2chまとめブログの囲い込み、あるいはブログ奨学金、日本ブログメディア新人賞などの制度はすべてのその方針に沿っている。
またそれによって、ライバル視すべきはアメブロではなくFC2ブログだということも明確にされた。
結果、サイバーエージェントは芸能人主体で、ライブドアはGoogleのアドセンス主体で、それぞれ全く異なる道をたどって、いずれも2008〜2009年頃ブログ事業のマネタイズに成功する。
→想定通りブログで稼げる会社になった /サイバーエージェント代表取締役社長CEO藤田 晋 氏(2009年10月)
→ライブドア、分社2期目で通期黒字化を達成(2009年4月)
おまけ: うちは黒字化したけどそれにひきかえNTTデータの無惨なことよ!!と刺激的な記事を上げて炎上した@tabbata(当時メディア事業部長)のブログがこちらになります。
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芸能人と違って、彼らブロガーには直接会って意見を聞くことができる。
例えばブログごはんというイベントがライブドア主催で不定期で開催されている。これは、ブログのPVに貢献してくれたお礼にブロガーの皆さんにごはんをおごりますよ、という名目で、ブロガー諸氏からサービスに対する意見を聞く場でもあった。
(ちなみにこのネーミングは、「ブログで飯が食える世の中にしたい」という運営側の気持ちにも多少ひっかけてあったと思う。)
→ライブドア主催の「ブログごはん。」という飲み会に行ってきたよ!(2009年5月)
何百万PVを稼ぐようなブロガーと直接話しながら開発に携わっていくのは楽しい経験だった。
特にらばQの中の人とアルファルファモザイクの中の人は厳しくて、あの機能はまだかとか、なんでこんな仕様にしたんだとか、毎回さんざん詰められたのは良い思い出です。