月
30
1月
2012
まちづくり市民会議によるイオンモール説明会
小名浜港背後地再開発問題で、去る1月26日、小名浜まちづくり市民会議によるイオンモールについての説明会が行われた。当日はイオンモール、いわき市役所からも関係者が来場し、市民会議のメンバーや商店街の人たち向けて計画の概要を説明。投資額150億円。来場者数年間1000万人。2000人の地元雇用という、巨大計画の全貌が浮かび上がってきた。
text by Riken KOMATSU
説明会は、1月26日午後6時半から、小名浜本町通りにある「小名浜まちづくり市民会議」の3階会議室で行われた。計画については、これまで市のウェブサイトやローカルメディアなどで概要が取り上げられていたものの、商店主や市民に対する説明がまったくなかったこともあり、会場には、地元商店街の店主のほか、タウンモールリスポ関係者、アクアマリンふくしま安部館長などの姿も見られるなど、関心の高さを伺わせた。
冒頭でまず、いわき市都市開発課の担当者が、選定に至った経緯を説明。市民側からは「事業者募集から選定までの時間が短く、まともな議論があったとは思えない」、「イオンモールありきで話が進められてきたのではないか」など意見が寄せられたが、市側は「背後地計画自体は20年近く前から始まっており、これまで700社を超える企業にヒアリングを行ってきた」と説明、積み重ねの上にある計画だということを主張した。イオンもその700社の1つであり、震災前から、社をあげてモールの計画について協議を重ねてきたとのことだ。
また、事業者にイオンモール株式会社に選ばれたことについては、「渡辺市長からも復興プランの策定をスピーディーに行うよう指示があった」と緊急性を主張。また、「募集の際にはイオンモール含め2社から提案があり、これまでの積み重ねも含めた計画の中身を精査して選んだ」と正当性を訴えた。市民側からは「説明になっていない」と怒りの声も飛んだが、市側は「よりよい環境でまちづくりが遂行できるよう地元の方には理解と協力を求めたい」と言うにとどまり、反対する市民との溝を埋めるには、まだ時間がかかりそうだ。
しかし、このままいけば、本日1月31日にも、事業者であるイオンモールといわき市の間の「基本協定」が結ばれることになる。一部市民からは「反対運動も辞さない」という声もあったこのイオンモール計画だが、協定が結ばれれば、「イオンモールが進出する」という流れを覆すことはできなくなる。今後は、よりよりまちづくりのために、市民の意見をどのようにまとめあげ、実際のモール建設に反映させるかが大きなポイントになる。
その意味で、現在明らかになっている計画について理解しておくのは、これからのモールづくりの大前提になる。前回の記事でも解説を試みたが、今回も、できるだけ詳細にアップデートしていきたい。おのおのの計画に tetoteとして評価を下すことはしていない。計画の中身をどう受け取るかは、もちろん読者の皆さんの自由である。前回の記事を参照頂ければ、計画の概要を理解する手助けになると思うので、未読の方はぜひご覧頂きたい。
—回遊性を重視した、いわき絆プレイス
計画の全体コンセプトは、「いわき “絆” プレイス」。東日本大震災の復興のシンボルとなるべく、モールに人を集め、福島の産品や安全性をPRしていくことで、地域経済へ貢献しようというのが狙いだ。モール単体で年間1000万人の集客と、2000人の地元雇用を見込んでおり、投資額は150億円程度となるという。イオン担当者も「会社あげての大プロジェクトであり、店舗の進出というものにとどまらず、『まちづくり』と連動したモールにしていきたい」としている。
延べ床面積は10万3870平方米、店舗面積は3万4470平方米。回遊性を重視した「歩きたくなる街」が大きなテーマになっており、既存の観光施設や、小名浜の既存商店街を結びつけるような「導線」を構築していくという。海沿いを歩くウォーキングやサイクリングロードの整備、ベロタクシーやセグウェイなどを目玉にするアイデアもあるほか、福島臨海鉄道を旅客化するなどモルダーシフトすることで「車に頼らない移動環境」を提案することも視野に入れているという。
地元店の出店については、「3分の1程度は地元のお店を入れたい。地元の目玉となるようなお店に出店頂ければ」とイオン担当者は話していた。他のイオンモールに比べ、より地元に密着した形でのラインナップを考えているようだ。また、「モールの計画を進めるにあたっては、あくまで既存のまちづくり計画に沿って行う」と、地元と一体となって店づくりにあたることを強調した。
心配される防災については、ウォーキングコースを兼ねた展望デッキが避難のための誘導路になることを説明。また、宮城県の「イオンモール名取エアリ」が、震災直後、数百人の買い物客を保護し、毛布や食料などを提供するなど一時的な避難所となったことを例に挙げ、「港エリアの防災の拠点として機能できるようなモールを目指したい」と、安全性、防災にも配慮したモールであることを強くアピールした。
—計画の中に見えるフロア構成
マルチエンタテイメントモールは全5階建て。1階部分には、ピロティ駐車場が設置される。他県のイオンモールでは、モールの敷地内に地上5階建てを超えるような立体駐車場を設置しているところが多いが、港の景観を重要視したため、1階のピロティ駐車場になるということだ。
2~4階部分の3フロアがモールとなる。2階には、生鮮食品を扱う店舗のほか飲食店などが入る計画となっている。すでにいわき・ら・ら・ミュウがあることから、魚介類には特化せず、農産物を主体にした地産地消コーナーを設置したいとのこと。地元産品のおいしさをPRすると同時に、「全国展開するイオンモールが進出し、正確な情報を提供・発信することが、福島の農産物の安全性をアピールすることにつながる」という期待もあるようだ。
3階はホビー・カルチャーのエリア。CDショップ、インテリアショップ、書店、雑貨店などが入ることになりそうだ。ちなみに、イオンモール水戸内原店では、Francfranc、タワーレコード、ヴィレッジヴァンガードなどが入店しているが、このようなラインナップになるのだろうか。また、クリニックなどヘルスケア関連の施設も入る予定とのことだ。4階はキッズコーナーやスポーツ用品店を計画しているという。
5階には、注目されるシネマコンプレックスが入る計画となっている。ただ単に映画を見るということにとどまらず、例えばサッカーの試合のパブリックビューイングを企画したり、結婚式場としても使ったりと、地域に開かれた「ホール」としての機能も持たせたいという。「歌舞伎など伝統芸能を企画したり、小さなライブイベントもできるような文化を発信する場所としても期待している」というから、モール側もかなり力を入れていることが感じられる。
今回イオンモール担当者から説明があったのは、おおまかに以上のような内容である。あくまでイオン側の説明をまとめただけの文章なので、そこはご注意を。
—イオンモール進出は既定路線だったのか
それにしても、なぜ市民の意見を集約することなく、復興まちづくりのパートナーがイオンモールに決まってしまったのか。一言で言えば、市民の代弁者ともいうべき小名浜まちづくり市民会議がイオンモール進出に賛成だったからだ。説明会中、市民会議のメンバーから「津波が来ても、地上5階建てのモールが防波堤になって、小名浜の街を守ってくれる」などという笑えない言葉が出てくるくらいに、イオンモール進出はまちづくり市民会議の幹部にとっては既定路線だったのである。
小名浜港背後地の再開発は、20数年前から解決されて来なかった地域の「難題」だった。当初より民間企業の誘致が望まれており、700社を超える会社にヒアリングをしてきたが、具体的な計画はほとんど上がってこなかった。あるいは、具体的な計画が出てきても、土地の取得など含め、住民の賛同を得られなかったのだろう。そこに来ての「震災復興」。イオンモールは、悲願達成のための千載一遇のチャンスなのである。言い換えれば、このような非常事態でもなければ進められないほど背後地再開発はこじれてしまっていたのだ。
説明会に参加した市民会議のメンバーからは、「汚染地とされたいわきで、150億円もかけて投資してくれる会社がどこにあるだろうか。もはやイオンさんに任せるしかないのではないか」という言葉も聞かれた。市の担当者によれば、震災後、いわき市の事業者募集に応じて計画を出してきたのは、ダイワハウスとイオンモール2社だけだったという。これまで700社を超える企業に話を聞いてきたというのに、たったの2社。それもまた現実である。
もちろん、150億円などという投資が自治体にできるわけもなく、市がそれに近い事業進めようとすれば今度は「税金の無駄遣い」という批判が集まることになる。具体的なアイデアも乏しい。これまで20年も解決できなかったという“実績”もある。イオンモールの進出は、いわき市にとってもまた好都合なのだ。イオンモール側も、これまでの出店実績に伴い徹底的な“皮算用”をしているはずだし、ビジネスとしても計算できる土地なのだろう。市民会議も市も乗り気なのだから、話がとんとん拍子に決まるはずである。
—1人の市民としてできることを考える
イオンモール進出は、震災後にいきなり降って湧いた問題ではなかったのだ。それを「既定路線」と呼ぶかは判断の分かれるところだが、説明会で想像以上に反対意見が出なかったのを見ても、まちづくり市民会議は賛成でまとまっているのかもしれない。そして、多くの市民が知らないまま、今日1月31日、イオンモールといわき市との間に開発基本協定が結ばれる。
市民の意見を聞くことなく進められてきたこれまでのプロセスには、大きな反省が残る。今後は、一部の「まちづくり専門家」だけでものごとを決めてしまうような震災前のまちづくりではなく、広く市民が参画できるポスト311の参加型まちづくり、そしてその仕掛けを考えていく必要がある。敢えて言えば、今回のイオンモール問題をその契機にできなければ、小名浜まちづくり市民会議はその名称から「まちづくり」を外すことも考えなければならないだろう。
もちろん、市民側にもまちづくりへの積極的な参画が求められる。イオンモールが決まった以上、「Yes / No」ではなく「How」、つまり当事者意識を持った具体的な意見の発信、行動がますます必要だ。後になって「そんなの聞いてない」が通用しないことは、今回の震災で織り込み済みである。幸い、事業計画策定にあたっての市民参加はいわき市もイオンも望むものであり、門は開かれている。市民1人ひとりの考えを店づくりそのものに反映させられる環境が用意されているのだとすれば、大きなチャンスと考えることもできる。
今回イオンモールから説明された計画の中身は、どれもすばらしいものばかりで、夢の楽園ができるのだと錯覚をしてしまいそうになる。しかし、計画段階では何とでも言うことはできるし、イオン担当者が「すべてをイオンが作るわけではない」と強調するように、イオンモールが集客した人をどう回遊させるかは、私たちが考えるべき問題だ。年間1000万人と見込まれるこの膨大な人の数を活用できるかは、イオンではなくむしろ私たちのアイデアが鍵を握っているのだ。
震災後、多くの読者が、津波で破壊された町並みを見て、やり場のない悲しみや怒りを感じたことだろう。そして同時に、「自分の住む町」のことに思いを馳せたことと思う。そんな思いを、いわき市やイオンモール、小名浜まちづくり市民会議はまちづくりに活かさなければならない。イオンモールの進出は、地域経済や雇用のチャンスであるかもしれないが、それ以上に、今自分が暮らす町とどのように関わっていくかを1人の市民として考え、それを実行するチャンスなのではないだろうか。40年後、50年後、古びたモールの廃墟を小名浜に残さないためにも、ポスト311の新しいまちづくりを共に考えていきたい。