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一章:護りたいもの
第3話:暴かれだす真実
 川神百代は悩みを信頼の置ける人物に相談していた。相談内容というのは百代が、なかなか戦うことのできない少年――浅井剣正――について。
 剣正に興味を持ち出してから数ヶ月、二日に一度と言っても大袈裟ではない頻度で勝負を持ちかけていたのだが、ただの一度も良い返事を貰ったことがない。


「なぁ大和、どうすればいいと思う?」

「キャップにしてもそうだけど、姉さんもしっかりと説明してほしい」


 大和と呼ばれた人物は、体に纏わりつくようなスキンシップを行ってくる百代に、あくまで冷静な態度で聞き返した。性格は多少荒々しいが本来美少女である百代のスキンシップに対し、テンパったりしないのは、こうしたことに少年が慣れているのだろう。


「あー、名前なんだっけ……ほら、お前のクラスに居るだろう?」


 顔は分かるが相手の名前が出てこない百代は頭を抱える。その状態のまま一分が過ぎようとした時、少しだけ思い出したのか声を漏らした。


「あ、あさ……浅井ナントカ」

「浅井剣正?」

「そう! そいつだ!」

「で、彼がどうかしたの?」

「お前、アイツと同じクラスだろ?」

「そうだけど」


 百代が大和に相談を持ちかけた理由はここだった。戦いたい相手である剣正と同じクラスに居て、尚且つ人当たりが良く顔の広い大和なら、どうにかしてくれるだろうというもの。それでなくとも大和は百代を含めた7人で構成された仲良し集団である【風間ファミリー】の軍師として、培った知識や柔軟な思考を上手く使い様々な案を出す。こういった相談事は毎回、大和が担当しているのだ。
 今、百代と大和が居る場所も風間ファミリーの秘密基地で放課後や休日よくここで集まっている。

「私がアイツを追い掛け回しているのは知ってるだろ?」

「最近、特にね」

「強いはずなんだが何故か戦ってくれないんだ。どうしてかわかるか?」


 強者は戦いを求める。
 自分がそうであるように、実力のあるものは戦いを求めるのは当たり前だと思っている百代。


「うーん…………」


 理由を聞かれ考え出す大和。答えなどわかるはずもないが、真剣に悩んでいる百代の力になろうとしているのだろう。大和は情報を元に作戦を立て狡猾に動くタイプの人間なのだが、剣正とは二年に進級してから初めて交流を持ったこともあり、あまり知らなかった。


「ちょっと待ってて」


 2分ほど思慮の海に潜っていた大和だったが、何かを閃いたらしく、上着のポケットの中に入ってある携帯電話を取り出すとポチポチと触りだした。どうやら誰か宛にメールを打っているらしい。


「これでよし」

「よくわからんが、でかしたぞ弟!」


 メールを送るという作業を終えた大和の頭を百代がわしゃわしゃと撫で回す。ここで百代の言った『弟』というのは世間一般でいう『弟』ではない。これは、まだ2人が小学生だった頃に大和が百代の舎弟になるという約束をしたことがあり、それ以降、大和は百代の事を『姉さん』と、百代は大和の事を『弟』と呼ぶようになっていた。

 ただ、こうしてスキンシップを取り仲良くしている2人の姿を見ると、本当の姉弟のように見える。




 ――ピリリリリ!



 しばらく百代と大和がジャレていると、先ほど送ったメールの返信が届いたのを知らせる音が鳴る。


「ほんとにお前は友達が多いな」

「友達じゃなくて、知人だよ。それと少しだけど分かったよ」

「ほんとか!? 早く聞かせろ」



 ジャレていた時の雰囲気は消え去っていた。真剣な表情で急かすように話に喰い付いてくる百代。大和は送られてきたメールの文面を見ながら、整理し話す。


「このメール相手も直接は知らないらしいけど、噂では去年に川神学園で起きたことが原因っぽいよ。あと猫を可愛がっているって」

「猫はいいが、去年起きたことってなんだ?」

「あー、そうか。姉さんはその時、修学旅行でいなかったから知らないんだね」

「ム、なんだか私の知らない間に何かあったのか」

「簡単に説明すると、生徒が三人学園を辞めたんだ」

「生徒が辞めるのなんてどこにでもある話しだろ。それにアイツと、どう関係がある?」

「ここからが大事で、その三人は大怪我をしていたらしい」

「ほう……それをアイツがやったと?」


 僅かだが百代の目が怪しく光る。そんな百代の様子に気付かない大和は携帯に映し出されている文面を見ながら続けて話した。


「証拠はないけど、目撃した人が居たらしい。怪我をした連中と只ならぬ雰囲気の中、歩いている浅井の姿を」

「確かな情報なのか?」

「これだけじゃわからないから、明日にでも聞いて回ってみるよ。それに――」


 大和が全てを言いきる前に、バンッと音を立て扉が開いた。開けられた扉から入ってきたのは川神学園の制服を着て、頭にバンダナを巻いた少年、風間翔一だった。大和や百代の属する風間ファミリーのリーダーでキャップの愛称で呼ばれている。


「おい二人とも行くぞ!」

「姉さんにも言ったけど、しっかりと説明してほしい」

「バスケのゴールがあるとこ見つけた。やりたくなった。それだけだ!」

「キャップらしいね。他の皆は?」

「先に行ってるって。さぁ行くぞ風の如く!」


 そう言い放った翔一は、凄まじい速度で今いる場所から遠ざかって行った。


「俺たちも行こうか姉さん」

「…………」

「姉さん?」

「あ、あぁ行こうか」


 何かを考えていた百代は大和の二度目の呼びかけでようやく気付くと、立ち上がり大和を連れて屋上からファミリーの待つ場所へと文字通り跳んで行った。 
短い!そして主人公不在!
書いていたらここが一番キリの良いところだったので終わらせてしまいました。次回は同時刻の剣正のお話ですのでお楽しみに!……していただけると嬉しい作者ですw

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