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一章:護りたいもの
第2話:変わらないために
 川神学園に通う生徒の多くが通る多馬川に掛かる多馬大橋。年端もいかない少女に興奮する者や、突如謎の歌?を口ずさみながら車道へ飛び出す者、人力車に乗る金色に光る服を纏った者などの奇抜な人々が通行することから別名『変態の橋』とも呼ばれている。

 そんな多馬大橋の中間に位置する所に少年は鞄を地面に置き立ち止まっていた。


「今日もやってるねぇ」


 そう呟く少年の視線の先には、ガラの悪い男たち十数人が“たった一人の少女”を取り囲んでいる光景があった。それを見ているのは少年以外にも数多くいたが少年同様、誰一人として焦っている者や心配している者はいない。まるで見世物を今か今かと楽しみにする観客のようだった。


「ホントにご苦労さん」


 少年が見つめる先にいる男たちに囲まれている少女は、ここ1ヶ月ほど追いかけ回し自分を悩ませる張本人である川神百代だった。視線は百代に向けられているが、先ほど零した言葉は百代を取り囲む男たちへと掛けられていた。もちろん距離が離れているため相手には聞こえていない。

 時間が経過するにつれ結構な数の見物人が集まり出す。ほとんどの人間が川神学園指定の制服を着ており登校途中だったことがわかる。

 少年を含めた見物客たちからの多くの視線が送られるなか、百代が男たちに話しかた。なにやら一人の男が持つ携帯ストラップに興味を示したようだった。

 大勢の男に囲まれている状況の中、落ち着いた様子の百代。そんな百代の余裕の感じられるナメた態度がかんに触れたらしく男たちのイライラが募り出す。男たちの様子を気にするでもなく百代は話し続けた。そんな百代に対し、ついに男たちの中の一人が怒りのピークに達しブチ切れていまう。怒声を上げ、腕を振りかぶりながら百代へと接近していく。

 結果から言えば、男の行動は無意味に終わった。なぜなら男の腕がありえない方向へと向いていたからだ。辺り一帯に響き渡る男の悲鳴。

 百代に腕の関節をねじ曲げられた痛みに声を上げながら地面を転げ回る男の姿を見て、周囲にいた仲間たちが怒りの表情を浮かべ次々へと襲いかかる。

 百代は1人、対して男たちは十数人。
 世の中には『数の暴力には勝てない』という言葉がある。だが、百代には当てはまらない。
 たとえ数が多くとも男たちは所詮素人。そんな素人軍団に、武道四天王である川神百代が負けるはずがない。百代からすれば数だけの男たちなど、赤子の手を捻るように容易いことだった。

 一瞬で男たちは吹っ飛ばされ、瞬く間に積み上げられていく。重ねられた男たちの上に仁王立ちしている百代。

 そんな姿を見て、周囲の観客から歓声が巻き起こる。男女問わずキャーキャーと騒いでいた。若干、女性の声の方が多く同姓からも人気があることがわかる。

 まだこれで終わってはいなかった。すでに醜態を晒している男たちに待ち受けるのは、さらなる地獄。

 百代は倒れている男を一人、また一人と持ち上げ関節を外していったのだ。一分もしないうちに再度積み上げられる男たち。先ほど興味を示した、携帯ストラップのテトリスに見立てているらしい。今、最後の一人が積まれ終わった。



 異様な光景。



 人間で出来た塔が完成する。

 残念ながらこれで終わりではなかった。本来テトリスというものは様々な形のブロックを綺麗に並べ消していくゲーム。百代はテトリスに見立て男たちを積み上げた。そのため並べ積み上げられた男たちは消えないといけない。そうでなければゲームとして成立しないのだ。

 だが、人間がひとりでに消えるわけもなく、百代が破壊力抜群の回し蹴りで吹っ飛ばす。


「ご愁傷さまぁー。さぁて」


 紙くずのように一斉に吹き飛ばされ宙を舞う哀れな男たちに向け言葉を送る少年。地面に置いてあった鞄に手を伸ばし学園へと向かおうとしたその時、一連の出来事を見ていた百代ファンの女子生徒がぶつかってきた。


「うおっ!?」


 衝撃で少しぐらついた少年に目を向けることなく、女子生徒は百代へと声援を送り続けている。文句の一つでも言ってやろうと思った少年だったが、ふと視界の端にあるものが入ってきた。百代に吹き飛ばされた男が空中で仲間同士ぶつかり合い、女子生徒のいる場所へと飛んできたのだ。

 少年に次いで女子生徒も気付くが時既に遅し。これから来るであろう衝撃への恐怖に体が強張り目を瞑ることしかできなかった。


「…………あれ?」


 いつまでたっても衝撃を感じないことをおかしく思い恐る恐る目を見開く女子生徒。目に映ったのは少年の背中だった。


「ふぅ。大丈夫か?」

「え、えぇ……ありがとう……」


 誰よりも早く男が飛来してくるのに気付いた少年は、男が降って来るであろう場所と女子生徒の間に立ち塞がっていたのだ。少年の足元には気を失っている男が一人転がっていた。


「どういたしまして。怪我はないか?」

「大丈夫だけど」

「よかった。う……じゃ、じゃあ俺は先に行くわ」


 無事を確認したのもつかの間、少年は取り乱した様子で、この場から立ち去ろうとする。明らかに何かに怯えている少年。


「どうしたの?」

「怖い人が見てる。だから逃げる」


 少年の言う【怖い人】というのは百代のことで、生徒を助けるために動いた少年の姿を百代は一部始終しっかりと見ていたのだった。自分が見られていることに気付いた少年は、望まない事態に陥る前にエスケープしたいのだ。


(やはりアイツは……これで、また1つ楽しみが増えた)


 百代はファンに囲まれながら、逃げるように走り去っていく少年の背を見えなくなるまで見つめていた。






 ◇◆◇◆◇





 川神学園の生徒の中から問題児ばかりが集められるクラスF組。その教室内に少年の姿はあった。一年生の頃は違う組に在籍していた少年だったが、進級するのと同時にF組入りを果たしていた。

 教室に着くなり自分の席に突っ伏する少年。


(あー……何も起きませんように何も起きませんように何も起きませんように何も起きませんように)


 呪文のように何度も繰り返し心の中で唱える小さな願い。


「おはよう浅井くん」

「何も起きませんように……あぁ、おはよう師岡」


 そんな少年に話しかけてきた人物の名前は師岡卓也。一年を終えてすぐにある春休みの間に行われるオリエンテーション箱根旅行で話すよになったクラスメイトの一人だった。仲の良い友人たちからは『モロ』の愛称で呼ばれるオタク系の男子生徒。


「どうかしたの?」

「俺が川神先輩に目を付けられているのは知ってるだろ?」

「うん、まぁね。いつも放課後追い掛け回されてるって聞いたことあるよ」

「それだけだ……」

「って、しっかり説明してよ!」


 話し半ばで止められた卓也はもう一度聞こうとしたが、すでに昼寝の相棒である机と顔を擦り合せるようにして倒れている浅井の様子を見ると諦めることにした。

 浅井は静かに眠っていたが、今日は休み明けということもあり、ワイワイと話す生徒が多く教室内は活気に溢れていた。


「皆さん先生が!」


 が、F組の委員長を務めている甘粕真予の一声で私語はピタッと止み静かになる。静まり返るのとほぼ同時に教室の前のドアが音を立てて開かれた。


「朝のHRを始める」


 入ってきたのは、黒を基調としたスーツに身を包んだ女性の教師。何故か手には教師に似つかわしくない鞭が携帯さている。


「起立! れ」

「待て甘粕」


 委員長である甘粕の号令を止めた教師は、手に持っている鞭を一人の生徒へ向け容赦なく振るった。直後、乾いた音が静かな教室内に響き渡り、それと同時に悲鳴が上がる。


「ぎゃーーーーーー!!!!」



 突如襲った痛みにビックリした生徒は勢いよく立ちあがった。だがそれは結果として机にすねをぶつけさらなる痛みを生んだのだった。二つの痛みに耐えかねた生徒は床を転げ回っていた。

 自業自得とは間抜けな姿で地をのたうち回る姿は可哀そうな人に見える。


「立たんか浅井!」


 鞭で叩かれた生徒は浅井だった。担任の女性は一切容赦をせず、鞭を器用に扱い未だに転がっている浅井の動きを封じ立たせようとしている。


「痛たいって梅先生。わかった! 今立つからキツく縛るの止めてくれ」

「ならば早く立たんか」

「わかってますよぉ……」


 浅井が立つのを確認した後、教室を見渡した。少々だらけ気味だった生徒たちの背筋はピシッと正される。


「では甘粕、号令を」

「起立! 礼!」

「おはよう! 着席して良し。出欠を確認する。浅井剣正あざいけんせい

「はーい」

「ム、朝から気の抜けた声を出すな」

「勘弁してくれ……」


 その後は何事もなく出席を取られ、最後に担任である小島梅が伝達事項を告げると教室から出て行った。





 ……ふーっ


 誰となく教室内全体が溜息をついたかのように緊張が緩んだ。


「大丈夫か浅井? 結構強めに叩かれてたけど」

「あ、あぁ大丈夫だ直江。というか福本テメェ! 俺が梅先生にやられている間に、こっそりと教室入ったろ?」


 剣正の言葉にビクッと体を揺らすカメラを手に持っている生徒。


「助かったぜ。お礼にコレをやる」

「ん? なんだ……」


 手にあるもの確認した剣正は顔を歪ませた。福本と呼ばれた生徒が手渡したのは写真だった。それも体育の授業中に被写体に許可なく撮ったであろう盗撮写真。


「この前の授業で撮った」

「おーい小笠原コレやるよ」

「お、おい!」


 福本の制止も聞かず女子生徒を呼ぶ剣正。何も知らない女子生徒はいい物を貰えると思いウキウキした様子で近づいてくる。


「ちょっと! 何よこれー」

「福本が撮った。ネガもあいつが持ってる」

「おいエロザル!」


 写真を勝手に撮られたことへの怒りを露わにする女子生徒は盗撮した張本人である福本を問い詰め出していた。


「平和だねぇ」


 ドタバタと騒ぐ二人をよそにもう一度眠ろうとする剣正がいた。

お待たせしましたぁ~
この回は原作沿いで書いたのであまり面白くなかったと思いますがご勘弁を…orz
前回書けなかった名前と所属クラスを出したかったのです。
次回からはオリジナルの話の戻りますのでどうかお楽しみに!

没にした名前→きずな
特に理由はなかったけどなんとなく剣正を選んだ。

ご感想、ご意見、ご指摘など随時お待ちしております。
誤字脱字があれば報告お願いします。
真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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