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8/18 加筆及び修正いたしました
一章:護りたいもの
第1話:偽りの平和
 嘗てサムライが数多くいた日本。そんな日本の川神の地で毎日のように追いかけっこする男女の姿があった。


「諦めて私と戦え」


 そう発するのは追いかける側の人物。

 同年代の同姓と比べると身長も高く、発育が良い体つき。長く伸ばした黒髪を風になびかせる少女“川神百代かわかみももよ”は、行き止まりとなっている袋小路まで相手を追い詰めると、いい加減数えるのも面倒になったセリフを目の前にいる少年に投げかけた。


「いや『諦めて』って言われても……」


 絶体絶命と言っても可笑しくない追い詰められた状況でありながらも、どこか余裕の感じられる態度で百代に返答する。少年も慣れているのだろう。向こう側に見える平和という世界とこちら側の危険な世界を分かつように仁王立ちしている百代との関係に。


「というより勘違いですよ先輩。俺はどこにでもいる学生で、先輩みたいなバケ……超人じゃないんだ。それこそ戦えなんてお門違――」

「いや誤魔化されんぞ! この私が追いかけてなかなか捕まらない奴なんて、そうはいない」


 逃れようとする少年の言葉を遮るように百代は口を挟んだ。百代の言った『この私に』という発言には決して思い上がりで出た言葉ではなく、自信が現れていた。

 なぜなら川神百代は、綺麗やカッコいいと言われるモデルのような容姿からは想像することはできないが、武道を嗜む者なら一度は聞いたことのある存在“武道四天王”と呼ばれる人間の一人だったからだ。

 ようするに半端なく強いのだ。

 百代の言葉がどこから来るものなのか、そんなこと百も承知な少年。苦い表情をしながら『何を言っても無駄なんだろうなぁ……』と諦めつつも、どうにかしてこの場を乗り切ろうと口を動かした。


「それだけの理由で決めないでくれよ。たまたま足が速いだけだって」

「フフフ、理由はもう一つある」


 含みを持たせ笑いながら話す百代の言葉に驚いてしまったのか、一瞬だけではあるが少年の思考速度が停滞してしまう。

 百代は少年が何の反応を見せないのを気にした様子もなく、その発育の良い胸をドンと前に突き出すように張りながら自信満々にこう告げた。


「私にある女の勘が“お前は強い”と言っている」


 決まったと言わんばかりに、得意げな表情を浮かべる百代。


「………………」


 今度こそ完全に頭の回転がストップし、棒立ちになってしまう少年。


(よくわからんがチャンス!)


 放心状態になり、地に足が縫いつけられたかのように動かない少年に対し、百代はジリジリと距離を詰めていく。

 先程まで……いや、これまで戦闘を拒み逃げ続けていた少年は、今や格好の獲物に慣れ果ててしまっていた。

 尚も接近が続く。

 慎重にゆっくりと少年に近付いて行っていた百代だったが、最後の最後、ツメのところでミスを犯してしまう。


「もう無理だ」


 あと一息のところまで少年に近付いていた百代は、我慢できず飛びかかろうとしてしまい、少量であるが気を漏らしてしまったのだ。
 そんな極僅かな気を無意識なのか、はたまた動物的な本能なのかはわからないが感じ取った少年は、愚かにも手放してしまっていた意識を取り戻し我に返った。


「……うわっ!」


 手を伸ばせば簡単に触れる距離まで接近を許してしまっていたことに気付くと、自分を望まない戦いに誘おうとしている伸ばされた百代の腕を外側から受け流すように力の方向をコントロールし変える。


「なにっ!?」


 突如火がついたように動き出した少年に百代は驚いてさまい、一秒ほどだったが動きが止まる。その一秒とコンマ数秒、それで十分じゅうぶんだった。
 少年の起こした行動は功を演し、結果、絶望的状況だった壁に背を向けていた少年と、圧倒的有利に立っていた百代の位置は入れ替わることになった。


「いやぁ、よくわからないけど運がよかった」


 内心「しまった」と後悔の念に苛まれていた少年だったが、作為的にも思えるわざとらしい声を上げると、百代に背を向け自分を阻むものなど何もない自由な空間へと一目散に走り出した。


「……ま、待て!」


 百代が静止を求める言葉を言い終わる頃には少年の姿は遥か遠くにあった。

「逃がすか! と、いつもなら言うところだが今日はこれでおしまいにしよう」

 追いつこうと思えば追いつけるのだが諦めることにしたようだ。袋小路に一人残された百代は、どんどん小さくなっていく少年の背を見ながら不気味な笑みを浮かべていた。





◇◆◇◆◇






「危なかったぁ。ったく、あの脳き……先輩には困った」


 目を付けられてからというもの、ほぼ毎日追い回されている学園の先輩、川神百代の魔手から今日も逃げ延びた少年は、一人愚痴っていた。心なしか元気がないように感じる。


「失敗したなぁ。逃げるのに必死で…………あぁ」


 言い掛けていた言葉は後半で溜め息に変わる。後ろを気にしてか早歩き気味だった足取りは重くなり、顔は後悔の念で染まっている。
 ここまで少年が落ち込んでいる原因は、先程の自分が起こした行動のことだった。

 油断大敵とはいうが相手が“武の天才”とまで謳われている川上百代の手を受け流し、囚われることなく逃げるどころか背後にまで回り込んだ動きは、少年の言っていた“どこにでもいる学生”のものではなく、素人目に見ても武に心得のある者の体捌きだった。


「これ以上誤魔化すの無理っぽいし、これからどうすっかなぁ」


 武の心得があるからといって、戦闘を好む好まないは別の話。平和を望む少年は後者であり、様々な噂の絶えない川神百代との戦闘などもっての他だった。

 少年の頭の中では、ありとあらゆる逃げの口実や言い訳が飛び交っていたが、どれもイマイチで、戦闘を好む百代が納得のいくであろう言葉は見つかることはなかった。
 気分が落ちている時は、どれだけ考えてもマイナス思考なため、良いアイディアなど浮かぶはずもない。


「憂鬱だ……」


 こうして一人ボヤキながら、一秒毎に表情を変えながら歩いている少年のもとに近づいてくる影があった。


「ん? おう、迎えに来てくれたのか」


 少年は影に気付くと、解決策を探していた思考を手放し、しゃがみ込み寄り添ってくるものを両手で抱き上げた。

 ニャー。

「そうかそうか。ありがとな」


 少年の腕に抱かれているのは茶色い毛並みをした猫だった。話してはいるがモチロン猫の言葉がわかるわけではなく、少年自身が勝手に思い込んでいるだけで、本当に猫が少年を迎えに来たのかはわからない。
 ただ散歩していたところに、たまたま少年が歩いていただけかもしれない。それでも少年はよかった。

 自分が落ち込んでいる時に誰かが傍らに居てくれるのは心強い。たとえそれが人ではなく猫だとしても同じだった。


「そういえば最近見なかったけど、何してたんだ?」


 問いかける少年の言葉に答えるようにで猫は腕の中からスルリと抜け地面に降り立つと、まるで案内すると言わんばかりに歩き出す。

 「どこに行く」と言いかけた少年だったが、腕に巻いている時計に目をやると、頷き猫の後を追いかけだした。







 十数分後、先導していた猫と後をついて歩いていた少年が着いた場所は多馬川の土手だった。


「なにがあるんだよ」

 ニャー、ニャー。

「ここで待ってろ、ってか?」

 ニャー。

「わかったよ。でも、あんまり待たせるんじゃねーぞ」


 少年との会話?を終えた猫は、草の生え揃う茂みの方へと入っていく。しばらくして戻ってきた猫の後ろには小さな猫が二匹連れられていた。
 一匹は剣正をここまで案内してきた猫と同じ毛色の子猫で、もう一匹は白と茶色が入り混ざった毛並みだった。二匹の子猫は前を行く猫に寄り添うように歩いており、少年の目には、その姿が親子に映った。


「おぉ、言いかけたお前に家族が出来たのか! そうかそうか!」


 猫に家族が出来たことを自分の事に喜び笑顔になる少年。

 その場に座り込み胡座を掻くとトントンと足を叩き猫たちを呼ぶ。初めは寄ってこなかった子猫たちも親猫が少年の足の上に飛び乗るのを見ると、恐る恐るといった様子で歩み出した。


「怖がらなくてもいいぞー。俺はお前らの味方だ」


 そう言いながら優しい笑みを浮かべ手を差し伸べてくる少年の姿に、恐怖を感じなくなったのか子猫たちも足の上へと飛び乗った。

 猫たちを撫でていた少年はいつの間にか寝てしまっていたらしく、猫に顔を舐められてようやく目を覚ました。


「んあ? ……あっ! やっべ、完全に遅刻だぜ」


 眠気眼で見た腕時計の針は少年の用があった時間を三十分ほど過ぎており、今なお時間は進んでいる。

 少年は急いで立ち上がると親猫に話しかけた。

「起こしてくれてありがとな。あと、これからはお前がそいつらを守るんだぞ?じゃあな、お前らも元気でな」


 少年の言葉に答えるように三匹の猫は「にゃー」と鳴き、それを聞いた少年は全速力で、この場から走り去って行った

記念すべき第一話どうだったでしょうか?
不安いっぱいの作者のシノブです。

二つのミスと言うかなんと言いますか
書いていたら主人公の名前を言うタイミングを失った!?という事件発生……
次回の二話で名前は明かされるはず!
あと1つは『少年』という名詞?単語?を使いすぎた。ツッコまれる前に自分で言っておこうかなと……w

あとがきではその時のノリでやっていこうと思いますので、見てやろうと思う方はどうぞ!そんなの興味ねーよと思う方は次の話数へどうぞ!

ご感想、ご意見、ご指摘など随時お待ちしております。
誤字脱字があれば報告お願いします。
真剣で私に恋しなさいS!【みなとそふと】を全力で応援しています!


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