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新幹線の札幌延伸、函館素通りで泣く市民

東洋経済オンライン 2月7日(火)13時15分配信

新幹線の札幌延伸、函館素通りで泣く市民
新函館駅の工事が進むJR渡島大野駅周辺
 長い不況から抜け出せない北の大地にも建設のつち音が絶えない地域がある。2015年度の開業を目指す北海道新幹線。青函トンネルを抜け、木古内―新函館(仮称)間を結ぶ38キロメートルの建設区間である。

札幌までの延伸予定路線

 11年暮れには札幌までの延伸も決まった。新函館―札幌間(211キロメートル)の工事費は1兆6700億円。その大半は国庫によって賄われ、道の実質負担額は3000億円程度にすぎない。工事で落ちるカネがもたらす経済効果に加え、35年度の開業後は毎年1400億円の新規需要を生むと地元は期待を膨らませる。

 朝夕を除けばほとんど列車が停車することのないJR渡島大野駅。そんな無人駅が、新函館駅と名を新たに“北の玄関口”として生まれ変わる。駅周辺は工事が始まっており、ブルドーザーやタンクローリーがひっきりなしに行き交う。

■反故にされた新幹線 函館駅乗り入れ案

 が、新駅の登場に函館市民は複雑な感情を抱えている。理由の一つは新駅が函館駅から18キロメートルも離れているという点だ。新駅で降りた利用客は在来線に乗り換えて函館に行かなければならない。加えて、新駅が設置されるのは函館市ではなく隣の北斗市である。駅の観光案内所やバスターミナルの設置場所をどうするかなど、函館を訪れる客の利便性を高めるための駅周辺整備に函館市は口出しすることもできない。06年に北斗市長が「新駅は函館の行政区域外なのだから“新函館”という駅名は奇異に感じる。“北斗駅”にすべきだ」と発言したことも、函館市民の感情を逆なでした。

 整備新幹線の着工に際しては、財源確保などの諸要件を満たす必要があるほか、JRが並行在来線を経営分離する場合には沿線自治体の同意を得なければならない。今回、JR北海道は札幌延伸時に函館―小樽間を並行在来線として経営分離する方針(小樽―札幌間は存続)で、新函館―函館間も分離対象区間に含まれる。こうした中、分離に最後まで抵抗したのが函館市だ。

 最大の理由は、新函館駅が函館市街地から離れていることだ。新幹線が青函トンネルを抜け札幌に向かうには、函館駅に乗り入れると大きくう回する形になる。このため、道は札幌までの距離を短縮するため、函館市を通過しない現行ルート案を1994年に決定した。

 当初、道は函館市に対して在来線を3線化するなどの方法で新幹線車両を新駅から函館駅に乗り入れさせるという条件の下、市外への新駅設置を認めるという確認書を同市と交わした。函館市は03年の函館駅舎新築時、新幹線時代に対応する駅舎にするため、と50億円をJR北海道に補助している。

 ところが、函館駅への新幹線乗り入れ案が日の目を見ることはなかった。確認書が交わされたものの、「その後の協議もないまま反故にされた」と同市の関係者は話す。しかも、JR側は在来線は3線化どころか、札幌延伸後は経営分離によって運営から手を引くことになってしまった。

 これではまるで“捨て石”ではないか――。11年11月、整備新幹線着工に向けた国の動きに伴い、道は沿線自治体の経営分離同意取り付けを急ぐことになったものの、函館市民が猛烈に反発。工藤寿樹市長は期限の12月16日までに回答できない事態となった。

 18日には急きょ、高橋はるみ北海道知事が工藤市長を訪ね会談。分離後に設立される第三セクター鉄道には道が主体的に関与することを約束した。JR北海道の小池明夫社長も「全面的にバックアップする」と表明。新函館開業までに現在非電化の新函館―函館間を40億円かけて電化し高速化、三セク化された後も運行受託するなど同区間の運行を支援する方針を打ち出した。

 こうした譲歩案を持って工藤市長は各種団体に説明行脚を行ったが、経営分離反対を貫く函館市民を説得できず。結局21日、自らの判断によって同意に踏み切った。

 「函館を捨て石にするのではなく、札幌などと協力してJRに経営を継続させる取り組みがなぜできなかったのか」。混乱のさなか、函館商工会議所の松本栄一会頭はこう悔しさをにじませた。

■全国各地で見られる 新幹線開業の負の側面

 函館市にとって在来線の経営分離は観光業の死活問題などにつながりかねないが、同市のケースは決して珍しい話ではない。経済効果が高いとされる整備新幹線だが、日常的に新幹線を利用しない沿線住民は不便を強いられることも多分にある。

 東北新幹線・新青森駅開業では、新青森延伸に伴い在来線の八戸―青森間が経営分離された。「八戸への移動が不便になった」と、弘前市内の飲食店主はこぼす。以前は特急列車が弘前―八戸間を1時間30分で結んでいたが、今はJR在来線と三セク「青い森鉄道」を乗り継ぎ、最短でも2時間20分かかる。

 3月に廃止となる十和田観光電鉄線も新幹線の“犠牲者”だ。新幹線が三沢駅に止まらないため、同駅を起点とする同線の観光利用客が激減したのだ。観光客は今後、新幹線の七戸十和田駅から十和田観光が可能だが、同線を利用していた高校生は通学の足を奪われることになる。

 九州新幹線でも、八代―川内間が経営分離され、三セク化した肥薩おれんじ鉄道では、電化維持費用すら賄えず、わざわざディーゼル車で走るという事態に追い込まれている。

 整備新幹線をめぐっては、経済効果の極大化ばかりが議論されがちだったが、マイナス面をどう最小化するかもっと議論を深める必要がある。

(大坂直樹=週刊東洋経済2012年1月21日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。


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最終更新:2月7日(火)13時21分

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