中国成長7─8%に減速へ、日本経済にメリットも

2012年 02月 7日 12:57 JST
 
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[東京 7日 ロイター] 中国経済の成長が7─8%台に減速する見通しとなっていることに、専門家の間で安堵の声が広がっている。投資偏重経済がもたらす問題を回避する必要があるほか、高齢化や技術進歩に伴う生産性上昇率の鈍化に見合った減速が必要なためだ。

中国経済については悲観的な見通しも出てきているが、その可能性はまだ小さく、適度な減速による中国の成長持続や所得向上に伴う市場拡大が、今後も日本企業の商機を広げることになりそうだ。

<行き過ぎた投資の減速、前向きに評価>

国際通貨基金(IMF)は6日、中国経済見通しを発表し、欧州債務危機により世界経済が景気後退に陥った場合、中国の12年成長率は予想の半分の4%台に低下する恐れがあると警告した。1月公表の基本シナリオでは中国の2012年の成長率予想を従来の9.0%から8.2%に下方修正しているが、今回は追加的に悲観シナリオも示した。

確かに中国経済には、欧州債務危機による海外資金の引き揚げが影響している。中国の外貨準備は11年9月から年末にかけて206億ドル減少、資本流出の影響が色濃く反映された。11年10─12月の中国の成長率は前年比8.9%に鈍化、過去2年半で最低の伸びにとどまった。

もっとも、日本の当局や専門家は、悲観シナリオに陥る可能性は小さいとみている。欧州経済自体が金融面の環境悪化ほどに深刻化していないことや、米経済の持ち直し傾向など、先進国経済が総崩れになっているわけではなく、中国の内需もある程度しっかりしているためだ。むしろ、行き過ぎた投資などに調整が入ることを前向きにとらえる向きが多い。

アジア開発銀行研究所の河合正弘所長は「これまで海外からの投資は行き過ぎの面があった」とも指摘、ある程度の減速は必要とみている。「従来のような2桁成長は行き過ぎだった。減速は評価すべきことで、8%ないし7%台に低下する必要がある」との認識を示す。

行き過ぎた投資は、リーマンショック後の先進国の金融緩和がもたらした面もある。BNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏はこれを「需要の先食い」と呼び、今後2、3年はその反動が出るのは当然とみなす。

日銀は昨年秋の「日銀レビュー」で投資偏重のこれまでの中国経済構造について取り上げ、持続的でないと警戒している。高成長期の新興国の他国事例と比較しても「投資比率は世界でも突出している」とし、家計が成長の便益を十分に享受できていないこと、投資偏重の成長では雇用創出が十分に行われないこと、投資偏重が招いた「過剰生産能力」の問題が深刻化していると指摘した。

ある専門家は、中国では足元投資が減速する一方で、消費はインフレ鎮静化によりしっかりしており、内需の底堅さを維持できているとみている。むしろ、金融引き締めに伴う不動産や固定資本投資が狙い通り減速していることを前向きに捉えており、「欧州危機の割には内需への影響は限定的」というのが国内での中国専門家の認識のようだ。

<生産人口減少で目線は低下>

人口構造の変化にも注意が必要だ。高齢化が進み始めた中国社会では、15歳から64歳までの生産年齢人口の総人口に占める比率の低下が始まっているとみられ、供給力は頭打ちになっていく可能性がある。しかも、これまでの急速な資本の蓄積により、先進国にキャッチアップするほどの水準まで生産性が引き上げられた結果、今後の生産性上昇率は徐々に鈍化する。こうした面からも、従来のような2桁成長は難しくなりそうだ。

ニッセイ基礎研究所は、中国の潜在成長率は過去10年間の10.2%に対し、今後10年は9.1%に低下すると試算している。河野氏はさらに厳しい見方をとっており、「中国の潜在成長率は今後、9%程度から6%程度まで低下する」と見通している。

中国政府は、こうした事情も踏まえ、今後5年間における平均成長率の目標値を、従来の7.5%から7.0%に引き下げ、成長の質を改善させることに重点を置くスタンスを示している。

<それでも大きい所得向上の恩恵>

もっとも日本経済にとって、中国の成長力を取り込む戦略が崩れることはなさそうだ。成長鈍化といっても、7─8%という成長率は2%成長がやっとの日本経済からすれば、成長取り込みの源泉であることに変わりはない。

河野氏は「アジアでの中高所得層が増加し、日本経済をサポートする姿は変わらない」と指摘する。中国経済が8%強の成長率を続ける場合、中間所得層と高所得層の合計は2015年に8億人を突破、10年よりも3億人程度増加する見通しだ。これは日本の人口の3倍規模にあたる市場規模。従来の低付加価値品から付加価値の高い日本製品市場が誕生することになる。

河合所長は、潜在成長率という意味では従来よりやや低下しても「消費に関しては、所得水準向上がもたらす恩恵の方が大きく、日本企業の商機は大きい」と捉えている。

(ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)

*見出しを一部修正して再送します。

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