拉致強制捜査に関する「読売新聞・社説」


3月23日、警視庁公安部が北朝鮮による拉致強制捜査に踏み切った。これを受けて、24日、読売新聞は社説で以下のように述べている。

 「『北』の国家テロ構造を究明せよ」

北朝鮮による国家テロの全容解明へ、日本人拉致の支援組織を追及しなければならない。
1980年の原敕晁(ただあき)さん拉致事件で、警視庁は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の在日本朝鮮大阪府商工会などを捜索した。国外移送目的拐取(かいしゅ)などの容疑だ。
元理事長と、故人となっている元会長の商工会幹部2人が、拉致に関与していた疑いが強まったためである。
一連の拉致事件で、警察当局が国内の協力者を特定して強制捜査に着手したのも、朝鮮総連関係者の名前が出たのも初めてのことだ。
日本人を拉致するには、工作員の活動を助ける国内支援者が不可欠だった。朝鮮総連は北朝鮮の指導下にある団体である。工作員の密入国事件や不正輸出事件では関係者の関与が判明している。拉致事件でも、総連関係者が重要な役割を果たしていたことがうかがえる。
原さんの事件では主犯格とみられる北朝鮮の元工作員・辛光洙容疑者が旅券法違反容疑などで国際手配されている。警視庁はさらに、韓国・済州島に居住する元工作員を共犯者として特定した。新たに辛容疑者とともに国外移送目的拐取などの疑いで国際手配する方針だ。
韓国とは犯罪人引き渡し条約が締結されている。韓国政府に共犯者の身柄の引き渡しを早急に求め、元理事長とともに取り調べる必要がある。
他の拉致事件も含め、朝鮮総連の関与の有無や国内の協力者を特定する作業を進めなければならない。
辛容疑者は85年、韓国に不法入国して逮捕され、北朝鮮スパイとして死刑判決を受けたが、南北首脳会談の合意で2000年9月、他の政治犯らとともに北朝鮮に引き渡された。その後、国家行事などに出席して喝采(かっさい)を浴びるなど、本国で英雄扱いされている。
地村保志さん夫妻と横田めぐみさんを拉致した疑いもある男だ。韓国当局の調べに対し「金正日総書記から直接指示された」と供述している。「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走った」との総書記の弁明は、白々しい限りだ。
辛容疑者が韓国で服役中の90年に、土井たか子・前社民党党首や菅直人・民主党元代表が辛容疑者を含む政治犯の無罪放免要求書に署名していた。当時の社会党など一部政党は北朝鮮に迎合し、拉致事件の存在すら認めてこなかった。政府の対北朝鮮外交も弱腰だった。
安否が不明の拉致被害者11人の消息についても、北朝鮮の対応は極めて不誠実だ。犯罪事実の徹底解明こそ、北朝鮮への圧力となる。

原さん拉致 国内協力者16人判明、アジト、資金提供 一斉聴取へ

 1980年6月に大阪市の原敕晁(ただあき)さん(当時43歳)が拉致された事件で、主犯格とされる辛光洙(シン・グァンス)容疑者(76)は日本に密入国を繰り返していた73〜85年、原さん拉致に協力した同市の中華料理店主の男(74)も含め、少なくとも16人の在日朝鮮人らから、アジトや資金の提供を受けるなどしていたことが23日、警察当局の調べなどで分かった。
 警視庁公安部は、こうした協力者についても一斉に事情聴取し、日本人拉致を支えた北朝鮮のスパイ網の解明を急ぎたいとしている。
 辛容疑者の韓国での公判調書や公安部の調べなどによると、辛容疑者は日本に密入国する前に工作機関の上司から、大阪市内の在日朝鮮人女性の名前を聞かされ、この女性を協力者に引き入れるよう指示された。
 73年7月に初めて日本に密入国すると、まずこの女性を訪ねて、女性宅の2階をアジトとして確保し、近所の在日朝鮮人などを介して在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者に接触。この関係者から、原さん拉致事件の共犯で現在は韓国・済州島に住む元服役囚(78)など4人を協力者として紹介された。
 朝鮮総連傘下の商工関係者3人も協力者として取り込み、このうち「在日本朝鮮大阪府商工会」の元会長(2001年、85歳で死去)からは、工作活動や協力者を獲得するための資金の提供も受けていた。また、原さんを拉致した後の81年1月には、佐賀県内の在日本大韓民国民団(韓国民団)所属の男性から、韓国内の「協力者候補」の身元情報を入手していた。ほかに本国からの指令を辛容疑者に伝える役割を果たした協力者が数人いたという。
(読売新聞) - 3月24日社会面

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