[ブログ]

ホームシックな夜に

「……何もしないで時間だけが過ぎていくわ」
 
その夜、私は自室でのんびりとくつろぎならつぶやいた。
 
この屋敷に来て5日が過ぎた。三鞭粒
 
ナギは相変わらずの態度。
 
『ホントにお嬢は常識って物を知らないんだな』
 
うっさい、余計なお世話だってば。
 
彼に怒られるのも、嫌な意味で慣れ始めてきた。
 
この5日間、私はほとんどこの屋敷から出ていない。
 
そろそろ、外にも行きたいとは思うけども。
 
「こんな田舎町に何を期待しろって言うのかしら」
 
部屋の片隅に飾られたカレンダー。
 
まだひと月以上も、ここにい続けなくちゃいけない。
 
この屋敷でひとりでいると、寂しく感じる。
 
マキはいるけども、お仕事があるからいつも一緒じゃないし。
 
ナギは遊び相手にもならないし。
 
他のメイド達は……まだよく分からないからどう接していいか分からない。
 
つまるところ、私は一人で本を読むくらいしかできなくて。
 
この5日間はつまらない日々をおくっていたの。
 
お姉様達もお母様もいないのはすごく寂しくなっていた。
 
私は携帯電話を取り出す。
 
お姉様達は着信拒否をお父様に命じられているらしくて、全然電話にも出てくれない。
 
「ひとりは寂しいよ。マキに相談しよ」
 
私は携帯電話で彼女を呼び出すけども、応答なし。
 
「あれ?電話にでない」
 
時計を見ると夜の9時過ぎ。
 
普段ならばメイドとしてのお仕事は終わりの時間だ。
 
プライベートな時間(お酒タイム)を過ごしているのかも。
 
ああ見えて、マキはお酒が大好きで、屋敷でもプライべートの時間はうちのお父様と一緒にお酒を飲んだりしていた。
 
マキはお酒に強いので、屋敷内でも彼女くらいしか酒豪のお父様に付き合ってお酒を飲めない。
 
お父様にとっては飲み友達的な感じで気にいられている。
 
こういう時のマキは邪魔しちゃ悪い。
 
「……気分転換に中庭にでも行こう」
 
部屋でジッとしていてもつまらない。
 
私は屋敷内を歩いていると、マキ以外のメイド達とすれ違う。
 
この屋敷にはマキを合わせて3人のメイドがいるの。
 
ふたりは私に気付くと近づいてくる。
 
「お嬢様?何か用ですか?」
 
「ううん。何でもない。ふたりともどうしたの?」
 
「牧先輩にお誘いを受けまして。お勧めのワインを飲まないかって言われたんです」
 
「あぁ、飲み会か。飲み過ぎないようにして。マキはホントにお酒が強いから」
 
彼女の誘いを受けて、翌日に酔いつぶれたメイドを私は何人も知っている。
 
こっちの屋敷はメイドの数も少ないので、潰れない程度に引き上げてくれたらいいのに。
 
「それでは、失礼しますね。おやすみなさい、お嬢様」
 
「えぇ、おやすみなさい」
 
メイド達がいなくなった廊下は再び静けさを取り戻す。
 
「彼女たちもマキの犠牲者か……」
 
彼女たちの明日はどうなるのか。
 
どうせ、マキは翌日に酒を残さず、ケロッとしているから不思議なんだよね。
 
私はメイドたちが心配になりながら、中庭にたどりついた。男根増長素
 
「……うげっ」
 
だけど、そこには既に先客がいたの。
 
中庭のテラスにはテーブルと椅子があって、お茶会を楽しめるようになっている。
 
そこには星を眺めながら、紅茶を飲むナギがいた。
 
爽やかな夏の夜風に揺れる金髪。
 
整った容姿だけにカップを傾けるのも様になる姿。
 
中身は置いといて、顔だけ限定で王子様属性の彼には似合う光景だった。
 
「……ハッ」
 
思わず自分が彼に見惚れていたのでハッとする。
 
いけない、ナギの顔に騙されちゃダメなのに。
 
初日に受けたショックから立ち直るのは苦労したもん。
 
見た目と同じく中身も王子様なら、私はきっと彼に初恋をしてたかもしれない。
 
中身がアレだから、意識しないで済んでいるけども。
 
「……誰だ?」
 
「私よ、ナギ。何をしているの?」
 
私に気付いたナギが声をかけてきた。
 
彼は視線をこちらに向けて、深いため息をつく。
 
「なんだ、理奈お嬢か。俺のプライベートタイムを邪魔しないでくれ」
 
「うるさい。私もここに用があったのよ」
 
「用ってなんだ?」
 
「……教えない」
 
私はナギのテーブルをはさみ、向かいあう形で椅子に座る。
 
「同席を許可した覚えはないが」
 
「ここは私のお屋敷なんだから自由なの。ふんっ」
 
「やれやれ。ゆっくりとした時間を過ごしたいのに」
 
迷惑そうに呟く彼だけど、追い出すことはせずにいる。
 
「紅茶?ナギが淹れているの?」
 
「俺が淹れたらおかしいのか。紅茶は趣味でもある」
 
「……ふーん。そうなんだ。マキからお誘いはなかったの?」
 
「牧さん?あぁ、さっきワインボトルを運んでいるのを見かけたが。誘われたが断った。俺は酒はそれほど飲めないし、女性ばかりの中に俺だけ入るのもな。酔った勢いで何かあるかもしれないし、からかわれるかもしれない」
 
意外と雰囲気を読むタイプらしい。
 
彼はひとり紅茶を飲んでいるのを楽しんでいるようだ。
 
「なんでここなの?自室で飲めばいいのに」
 
「質問ばかりだな。ちょっとは自分で考えてみろ、お子様」
 
「うぅ、またお子様って言ったし……」
 
ナギに文句を言い返すのもやめて、私は少し考える。
 
夏とはいえ、今日は涼しい風が吹いている。
 
そして、空には……。
 
「うわぁ、素敵な夜空。星がたくさん見える……あっ」
 
夜の空に輝く無数の星々。
 
月も綺麗に見える、いい夜だった。
 
彼がしているのは、月明かりを楽しながら飲むお茶会。
 
「月夜のお茶会?」
 
「そんな洒落たものじゃない。ただ、星を眺めているだけだ」
 
「それだけなの?」
 
「こうして、のんびりとした時間を過ごすのは都会じゃないからな」
 
ナギって執事はアルバイトって言ってたっけ。
 
普段は大学生で夏休みの間だけ、私の執事をしている。
 
彼はどれほどの家柄の人間かは知らないけど、アルバイトと言うことは普通の家の人間の可能性が高いからこういう屋敷は珍しいのかもしれない。
 
「……」
 
「……」
 
私たちは会話が途切れて、しばらくの間、沈黙する。
 
彼は黙りこんでお茶を飲むだけ。
 
私は星空を眺めていると、ふいに寂しさが胸に込み上げてくる。
 
どうして、こんな所に来てしまったんだろう。
 
お姉様たちに、お母様に会いたい……。
 
「……っ……」
 
その寂しさに胸がしめつけれられる。
 
私は……寂しいのは嫌いだ。
 
ひとりは嫌なの。
 
昔も今も、私には友達と呼べる人間はほとんどいない。
 
学園では五十鈴家のお嬢様と言うことで取り巻きの子たちはいる。
 
でも、彼女たちは友達じゃない。
 
だから、遊び相手はお姉様やお母様、マキやメイド達だった。
 
慣れない土地で、親しい相手がいないのは辛い。
 
「……お嬢?」
 
「な、なによ。ぐすっ」
 
「何だ、といいたのは俺の方なんだが。いきなり、半泣きになってどうした?」
 
ナギが驚いた顔をしていた。九鞭粒
 
私が彼のそんな表情を見るのは初めてだった。
 
「べ、別に……何でもないし」
 
「……家族や友人に会えなくて寂しいとか?あれか、ホームシックってやつか?」
 
彼に言い当てられて、私は気恥ずかしくなる。
 
誰にもこんな弱さを見せたくないのに。
 
しかも、それがナギなら余計に嫌だった。
 
私は今にも涙がこぼれそうな顔を両手で隠すしぐさをする。
 
「う、うるさい。子供で悪かったわね!どうせ、私は子供よ」
 
「……子供扱いされたら怒る癖に。自覚があるやら、ないのやら」
 
彼は少々呆れた感じで呟くと、ティーセットを片付け始めた。
 
「もう戻るの?」
 
「おぅ。俺は戻る、一人になりたいときもあるだろ」
 
「……ん」
 
彼は去り際にポンっと私の髪を撫でる。
 
「にゃ!?」
 
私が驚くと彼は、「適当な時間に戻れよ」と囁いた。
 
そして、彼は私の髪の上に何かをのせていった。
 
「もうっ。何の悪戯なわけ?あれ……これって?」
 
悪戯と思ったら、それは違った。
 
私の髪にのせられていたのは、白いハンカチだった。
 
「なによ……優しいところもあるんだ」
 
私はハンカチを見つめながら、ほんのりと胸が温かくなる。
 
普段は意地悪なナギのくせに……いいところもあるんだ。
 
「ナギのくせに……ずるい」
 
少しだけ泣きたい、ホームシックになった夜。蒼蝿水(FLY D5原液)
 
少しだけ優しい執事のハンカチで、私はその涙をぬぐったの。



http://blog.kamposlim.info/
http://blog.kampofood.info/

2011-05-11 19:08:35 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0) |

[ブログ]

約束

夏の訪れを感じる日差しに、ありかは眉根を寄せた。窓から見える太陽は燦々と輝いていて、青い空にその存在を刻みつけているかのようだ。
 しかしそれを見てもありかの気は晴れなかった。目の前の机に置かれた書類のことを思うと、どうにも沈みがちになる。だから彼女は外を眺めてはまた部屋の中を見回し、それでもやはり気になって書類に目を落とすということを、何度も何度も繰り返していた。無論そんなことをしても書類が消えてくれるわけではなく、ただ時間だけが過ぎ去っていく中絶薬
「断ることなんて無理よね」
 仕方なく諦めて紙を手に取り、彼女は嘆息した。文面を目で追っていけば予想通りの文言が表れる。リシヤの森への調査、五十日間。その日数を確認して彼女は再度ため息をついた。
 最近噂には聞いていた。消滅したリシヤ、その周囲の空間が安定してきたのを確かめるために誰かが派遣されるということを。そしてそれに彼女が選ばれるだろうということも、予感はしていた。
 町が消え去ったあとは森だけが広がっており、普通の人間が立ち寄れるような場所ではなかった。ただ技使いだけは別で、結界を体の回りに纏わせれば足を踏み入れることができた。ならばまたそろそろ様子を見に行かなければならない。どの程度空間が歪んでいるのか、一般人への規制はいつ緩めればいいのか。それを判断するのは宮殿の仕事で、つまり宮殿に住む者たちが見に行くということだ。調査に行くのは十中八九結界などの補助系が得意なものだろう。そして地道な仕事の時決まって駆り出されるのは、彼女のような下っ端の者だ。
「五十日は長すぎよ」
 彼女は簡素な紙をにらみつけた。五十日も乱雲と会えないのは辛いし、シイカを一人部屋へ残していくのも不安だった。
 ここ数年、シイカの体調は思わしくなかった。よくなる時期もあるが季節の変わり目には悪化してしまい、結局治りきるに至らないのだ。そのため乱雲と一緒になることもできず、彼女はシイカの看病と仕事で日々を追われていた。そのせいだろうか、誰も彼女と乱雲との関係に気づいた様子がない。からかわれることも、いつパートナー申請を出すのかと聞かれることもなかった。気楽と言えば気楽だが、少し寂しく思っている。
「でもお母様を放っておくわけにはいかないし」
 彼女は紙を机の上に戻すと、背を伸ばして瞳を細めた。最近切りにもいけず不揃いになった髪が、ゆるゆると肩を滑り落ちていく。
 噂のことは耳にしているのか、シイカは最近元気なことをことあるごとに主張していた。確かにここ数週間彼女の体調はいい。次第に暑くなる時期なので心配していたが、今回ばかりは風邪をひくこともなく乗り越えていた。相談してもおそらく行ってこいと言うだけだろう。もっとも仕事を断ることなど、ありかにはできないのだが。
「乱雲、また寂しそうな顔するわよね」
 けれどももう一つの問題が残っている、乱雲の方だ。シイカがいることで彼と満足な時を過ごすこともできていない。いつかしびれを切らすのではと思っていたが、彼はただ優しく笑って待ってるからと言うだけだった。その度にありかはすまないと感じている。
 彼ともっと一緒にいたい。もっと素直に笑っていて欲しい。
 悲しい顔を、寂しそうな顔をして欲しくないのに、今は彼女がその原因となっていた。矛盾だなと思うのだが、それを理由に彼と離れるのも嫌だった。
「これ、何て言おうかしら」
 だから紙を見るたびにため息がもれた。拒否することはできないが、できるなら断りたい。なかったことにしたい。けれどもそれは消え去ることなく、彼女の目の前に存在していた。
 上の命令は絶対、だろう?
 謝るたびに彼はそう言って苦笑するのだ。それを聞くと彼女は胸が苦しくなる。どうして二人はここにいるのかと、どうして全ては二人の邪魔をするのかと、いるのかどうかもわからない神に何度も問いかけたくなった。
「まあこうしてても仕方ないわよね。後でちゃんと言わなくちゃ。お母様にも、乱雲にも」
 彼女は諦めて立ち上がった。紙を折り畳むと懐にしまい込み、扉へと向かう。図書庫へ行って仕事でもして気を紛らわそう。そんなことを思いながら彼女は取っ手を手にした。



「五十日?」
 宮殿にある庭、静かなベンチの上に腰掛けた乱雲は、予想通り顔をしかめてそう言った。隣にいる彼女はうなずいてから手元を見下ろす。そこにあるプレートには食事が半分程残されていたが、もうこれ以上食べられる気がしなかった。空気が重くて喉を通らない。
「そうなの、長期の調査らしくて」
「今さら?」
「ええっと、たぶん安全確認のため、かしら。ほら、今は立ち入り禁止でしょう? 実際は技使いは入れるんだけど。だから一般人は入れそうかとか、技使いならどこまで許そうかとか、そういうこと確認するんだと思うの」
 乱雲の声にはやはり棘があって、彼が心底嫌がっているのがありありとわかった。彼女だってこんなこと受け入れたくはない。だが上の命令を無視するわけにもいかないのだ。そんな声音で言われるとさらに気持ちが重たくなってしまう。彼女は瞳を伏せた。
「ああ、そういうことか。にしても長いよな……」
「そうなのよね。お母様も一人にしなきゃいけないし、本当憂鬱で」MaxMan
 彼の言葉に相槌を打ってから、しまったと彼女は後悔した。乱雲の前でシイカのことを話題にするのは、ずっと避けてきたのだ。乱雲がシイカを疎ましく思っては困ると、今まではできる限り努力していたのに。
「シイカさん、最近調子いいんじゃなかったか?」
 おそるおそる彼の方を一瞥すると、訝しげな顔でそう尋ねられた。確かにその話はこの間彼にしたばかりだ。思わず嬉しくて言ってしまった。しかし今になって彼女はそれを後悔した。まるでまだ心配しているのかと、彼に問いつめられているような気分になる。
「ええ、そうなんだけど。でも暑くなる時期だからちょっと心配で」
 だから彼女は微苦笑を浮かべながら肩をすくめた。でも気にかかるのは仕方ない。夏本番はこれからなのだ。他の町と比べて宮殿のあるこの辺りは涼しいが、それでも用心するに越したことはない。
「ありかは心配性だなあ」
「そ、それは乱雲もでしょう? この間私がちょっと喉やられただけでも仕事早く切り上げてくるんだから」
「それは、まあ、そうだな。いや、ほら……そうだなオレもだな」
「でしょう?」
 しかしそう言い返せば、彼は視線をさまよわせつつも観念した。そして苦笑するとそっと右手を伸ばしてきた。肩を抱き寄せられた彼女は、驚いて彼を見上げる。
「悪い」
「え?」
「別に責めたいわけじゃないんだ。また会えなくなると思うと、ちょっと辛くて」
 そう言われると彼女も答える言葉がなくなる。仕方なくそのまま頭をあずけて、軽く瞼を閉じた。
 本当はずっとこうしていたい。できる限り傍にいたいし、寂しい顔をさせたくなかった。外回りの仕事はよくメンバーが入れ替わるため、彼には親しい友人が数人しかいない。だから彼が心を許せる場所は少なかった。
 いや、宮殿に住む者は誰でもそうだろう。誰もが競争相手になりうる中では、心を許すことは危険だった。彼女だって同年代ではあまり親しい者がいない。だから彼とともにいる時間が、何より大切だった。
「ごめんなさい」
「謝るなよ。仕方ないことだろう?」
「そうなんだけどね」
「オレ怒らないから、だから謝らないでくれ。お願いだから」
 頭上から降り注ぐ彼の声は甘くて、彼女は静かに首を縦に振った。目を閉じると感じるのは彼の体温、声、そして風の音と花の香りだけだ。静かな庭には人気がなく、それが彼女を安心させた。ここを管理しているのはもの好きな夫婦だから誰も近寄らないのだ。
 だが、ここは彼女にとっては憩いの場。急かされることなく昼食が取れる安らぎの場所だった。そして最近では、乱雲とゆっくり話すことのできる数少ない場所の一つ。
「なあ、ありか」
 彼の手が肩から腰へと下りてきた。そしてそのまま強く抱き寄せられて、彼女は目を開ける。すぐ傍にある彼の顔は不思議と神妙で、彼女は小首を傾げて瞬きをした。
「乱雲?」
「ありかが戻ってきて、それでもし、その時シイカさんが元気だったら」
「だったら?」
「一緒にならないか?」
 間近から聞こえた言葉は、ずっと欲しかったものだった。けれども聞いてはいけない言葉だった。二年程前に同じことを言われて、そしてその時は無理だと断ってしまった誘い。それからずっと待たせていたのは彼女だって理解していた。気に病んでいた。それを逃げられない状況で繰り返されて、彼女はどうしたらいいかわからなくなる。
「……うん」
 けれども数秒後には、彼女はそう答えていた。息を呑んだ彼はほんの少し笑顔を浮かべると、額へと口づけをしてくる。抱きしめられたままの状態で彼女はまた目を閉じた。
 これ以上彼を待たせるわけにはいかない。いや、彼女だってもう限界だった。
 この夏を乗り切られれば、シイカも大丈夫なはずだ。次第に仕事も減ってきており、体力だって回復してきているのだから。
 彼女は胸中でそう繰り返しながら、どこにいるともわからない神に祈った。威哥王
 全てが上手くいくように。誰もが悲しまないように。傷つくことなどないように。
 強い日差しの下で、彼女はそう願い続けた。



http://blog.hitaomall.info/
http://blog.kampolife.info/

2011-05-10 17:26:24 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0) |

[ブログ]

初夏の休日

「夏、山、田舎、電車、駅」
ダメよダメ。
「麦わら帽子、田んぼ、せみ、あぜ道、雲、ひまわり」
にこにこ笑いながら強引に続ける吟(uta)の声にあわせて懐かしいようななんとも言えない情景が頭に浮かんでくる。
麦わら帽子に白いワンピースを着て吟の手を引いている私。西班牙蒼蝿水
それを、手を引かれてる私に強引に変換する。おしとやかおしとやか。
気付いたらどこへ行こうかプランを練ってる自分が居て、
ダメったらダメなんだから!あわてて首を振る。
だいたいいつ行けるっていうのよ?
夏休みに入ってからと言うのは無理、吟はもう居ないんだから。
私の試験期間なんかはもちろん論外!
そうなると試験が始まる前と言うことになる。
なるけど、それは……
「無理って言ってんでしょ!」
「民宿、二人、夜……」
飲んでいたアイスティーを吹きかけてすんでのところで堪える。
「こらこらこらこらこら、笑いながら何を言ってんのかな!」
「蛍、花火、ゆかた……???」
先を続けながら私が怒っているのに気付き、不思議そうな顔をする。
「あ、そっちに行くのね」
中途半端な関係のまま十四年。
あんたはまだ十四だけど、私はもう十九なんだから……
別に私が悪いんじゃないぞ。
でも十四っていったらもう、ねえ?
それとも十四の子にとって十九と言えばもうおばさんなのかな、ちょっと怖くて聞けない。
じ、自信はあるんだからね自信は!
 なんて自分の中で堂々巡りに入りかけた私を見て何でもないと思ったのか吟は続ける。
「待望、夏休み、消失、残念、代替、必要」
まだ諦めてなかったのかこいつは。
私だって諦めたいわけじゃあないけど。
「私の試験がどうなっても良いってのね……」
そう、夏休みも駄目、試験期間も駄目となると代わりにその前でと言うことになるけれど。
うちの大学は多分にもれず通常授業のあと試験がありそれが終わり次第晴れて夏休みと言うことになっている。
つまり、試験前に出かけるなら私は試験勉強を犠牲にしなくてはならない。
ちなみに吟は吟で試験のようだけどこいつにそんな心配は無用。
スピーキングなんてのがあれば別だけれど、吟相手にそんなことする無謀な教師は今のところ居ない。
そんな吟だからこそ私に男っ気無く独りで居てもうちの親は豪華な保険があると何の心配もしないのだ。
吟の両親も私を好意的に迎えてくれてるという自信は有る。
だからこそ吟もあんな作戦を思いついたのだ。
でも分かってる。
そうさせたのは私が原因、それくらい。
 しんみりとそんなこと考えている私に吟は言葉を連ね続けていた。
「僕、不在、咲季(saki)、不憫、悲哀、死亡、悲惨」
頭の中では吟の居ない日常に疲れ果てた私が首を吊って死んでいた。
冗談じゃない。
「あんたが数年間居ないくらいで私は死にやせんっての!」
吟が私の顔を覗き込んでくる。
本当に心配そうに。
「あんたはただの幼馴染。
振った女の心配なんてしなくて良いの」
冷淡にそう言ってみせても、
「僕、咲季、両者、好感」
はっきり言いやがる。
なら振るな!って感じだけどね、吟が何考えてるかなんて分かるわけがない。
「関係、些細、気持、重要」
私はそうは思わない、繋ぎ止める関係だってあるはず。
だけど口じゃ吟に勝てるわけがない。
「記念、旅行、思い出」
とりあえず吟の口を塞がないと。
吟の顔は私の目の前、少しだけ上の方?、にあった。
そこまで考えてピーンと来た私は『黙らせるわよ』と言うと「それ」を実行に移す。
吟は最初驚いたような表情でいたけど、黙って「それ」を受け入れる。
……手まで回してきたよ。
たく、最近の子は。

何してるのかって?
こらこら、見てんじゃないわよ。






「まったく。
あんたの望みだからしょうがないけど、こっちはあと一週間で試験なんだぞ?」
電車に乗り続けること五時間、私の端末は珍しく沈黙を保ち続けている。
圏外とかそういう問題じゃない、出掛けにママへ『吟とちょっとお泊りしてくるね♪』とメールしてそのまま電源を切っているのだ。
帰ったらどうなるか? 知ったこっちゃ無い。
「僕、咲季、幸福、没問題」
横では吟が好機嫌でそう言っている。
そう、はなから勝てるわけがなかったのだ。
「だいじょぶ、だいじょぶ、没問題」
吟は何が嬉しいのかそんな言葉を繰り返している。

 ど田舎の駅を降りると目の前には田んぼとあぜ道が広がっていた。
商店街がないどころか駅兼売店と言う感じの古ぼけた店一つあるだけ。
どうやら、想像していた以上の所に来てしまったらしい。
民宿まではバスで30分、タクシーなら20分弱で着くらしい。が、
「タクシーなんて一台もないじゃない! どうやって宿まで行けっていうのよ」
タクシーの待合所はある、いつから使われてないかは知らない。
暑苦しく感じさせるほどにうるさいせみの声。
やつあたりを承知でうるさいっ!と叫ぼうかと思ったところで他の人の声がした。
「ハイヤーちゃよさがた以外にゃここちゃ来んちゃ。
番号教えちゃあから呼ぼっけ?」
駅に居たおばあちゃんが駅舎の日陰の中から暑そうにこちらを見てそう怒鳴っている。
どこから来るタクシーよ?
かなり待たされそう。
「バスは?」
余り期待してはいない。
「ほれ、しゃっちゃ」
タクシー待合所の近くの電柱が停留所だった、そこに時刻表が張ってある。
路線は三つ、どれに乗れば良いのかはわからないけれど11時から16時までの間は一台も出ちゃいない、思ったとおりだ。
「あんね先な民宿とか言うてたけ。
田原荘は行かさんけ。
次ちゃ4時んでんちゃ」
今は12時を少し回ったところ、冗談じゃない。
「ちゃっちゃとすんけ、ちんとして待つけ?」
「急いでるわけじゃあないけど、こんなとこでずっと待ってても時間の無駄よねえ。
どうせこの調子じゃ宿についても散歩以外することなさそうだし、ここから歩いて行こうかしら」
「しゃんけ、しゃっちゃ地図書いちゃるけちょっこ待たられ」
「地図?徒歩、距離、大変」
吟が露骨に嫌そうな顔をする。
「あんにゃなに言うてっがよ。
たんだの一時間半ちゃ。
若いんちゃあからだんないちゃ」
おばあちゃんは少しだけ驚いたような顔をしたけど、一瞬後にはそれすら無かったようにそう返した。
うん、やっぱり田舎は好き!


「せみ、田んぼ、道、雲、ひまわり」
吟の口調を真似ながら一つ一つを指差して声を出す、但しはっきりと。
気持ちの良い田舎道。procomil spray
二車線ギリギリの道路は税金の無駄使いという言葉を思い起こさせるほど新しく整備されており、かつ車はめったに通らない。
両側には水路が走り、それに沿ってひまわりやらまだつぼみのコスモスやら雑草やらが並んでいる。
周りには田んぼが狭い平地を埋め尽くすように広がり、
田んぼの中には森や小山が点在している。
四方を山に囲まれた盆地帯でどちらを向いても地平線は見えない。
今この瞬間吟と二人でここを歩いているということ、それだけのことでなんだか踊りたくなるほど嬉しくなってしまう。
……試験前日に死ぬほど後悔することも頭の隅でわかっちゃいるんだけどね。
「麦わら帽子!」
それでも今はこの時間を大切にしよう。
そう思い自分の頭をポンと叩いて吟の方を見る。

 恨めしそうな目がこちらを見ていた。

『ずるい』、その目はそう言っている。
吟とは体力が根本的に違う。
7月初旬のお昼間に延々続くアスファルト、ギラギラ輝く日差しを遮るものは何もない。
吟は電線の日陰に隠れてはかない抵抗をしているけれど、効果の程は言わずもがな。
私にとっては天国でも吟にとっては地獄そのもの。
そうそう都合よく心地良い風が吹いてくれるわけも無い。

 それでも助け舟を出さないのはこの位は歩けてほしいという私の我が侭。

 それでも助けを求めないのはこの程度も歩けないでどうするという吟の意地。

ほら、そうこうするうちに入り口に看板のあるさびれたコンクリート製の建物が見えてきた。
きっとあれがそう。
後は緩やかな下り坂。
きついことばかりが続くなんてのはそうそうない。

 ま、それでも終点はあそこ。
実はあと20分近く歩くんだけどね。



「すいませーん」
入り口から大声で叫ぶ。
「はいな、ちょっと待ってて頂戴ね」
中からなまりの残る標準語を擬した声がする、もちろん相手も大声。
しばらくして出てきたのは30過ぎくらいのきれいな人、女将さんだろうか、
「はいいらっしゃい。
と、ちょっと珍しい組み合わせだねえ。
姉弟じゃないようだし」
言いながら宿帳を確かめ、
「親戚か何かかい?」
二人して首を振る。
「それじゃあカップルさんだね?
羨ましいねえ、だけどその年頃でその年の差じゃ周囲も何かとうるさいんでないかい?」
耳元に吟と二人で居ては滅多に聞けない言葉が飛び込んできた。
「え、カップル?」
嬉しくなって聞き返す。
「私はそう思ってるんですけどねえ」
そして吟の方を見て
「この子がはっきりしてくれなくて」
女将さんも吟の方を見る。
「ン、どうなの?」
そういいながら両手を肩の上から回すと私は吟にしなだれ掛かる。
「僕、咲季、状態、良好、関係、些細」
吟はいつも通りの台詞を疲れきった様子で言う。
吟の返事に女将さんは変なモノを見る目で吟を見、それから話題を変えて私に話しかける。
「お御飯はお部屋のほうに直接出しちゃっても良いかい?」
私はちょっと不機嫌になる。
「はい?」
「今日のお客さんはあんた達だけだからお座敷明けるのも面倒でねぇ。
その分ご飯の方は頑張るつもりだからさ」
別に怒るつもりも無い、もう慣れた。
「私は別に構わないけど」
吟の方を見ると
「大丈夫」
吟も気にしていない。なら私も笑わないと。
一々気にしていたら暮らしていけないのだ。
「それじゃ、それでお願いします」





「きゃー、冷たいっ!」
「快適、快適」
近くの森、その脇を流れる膝より浅い小川。
川原に座って流れに足を浸して、ただ時間を二人で過ごす。
じっとしてないで散歩もしたいけれど、吟の体力を考えるとそれは無謀。

目の前には田んぼが広がりその先には小山が見える。

小山の周りには森が広がり、その前には鳥居が赤い。

鎮守の杜、鎮守の社、鎮守の神、いつからこの土地を見守っているのだろう。

ぽつぽつ見える人影は点でしかなく。

自分達の後ろに鬱蒼とした森が広がっているのが後ろを見ずとも分かる。
時々思い出したように他愛の無い話をし、それが終わるとまた静寂が二人を包む。

『吟君をうちで預かったらどうかしらね?』
ママがそう言ってきたのは海外赴任が分かってしばらくして。
色々問い詰めていくうちにわかった、これは吟の入れ知恵。
一人で残すのが心配なら吟が生まれる以前からの付き合いの私達家族の元へ。
もともと吟の両親は吟を連れて行くことには不安を感じていたようだから、国内に安心して預けられるならその方が、と思うかもしれない。
私だってその方が吟と今まで以上に一緒に居られる。
こっちに残るのを私に反対されて吟なりに色々考えたのだろう。
だけど、吟の両親は?
本当にそれで良いの?
吟を育てる苦労は並大抵じゃない。
その分、愛情もひとしおなのは私も知っている。
だからこそ、吟が望むのならそれが別離でもきっと無理は言わない。
それを吟も知っている。
また私が反対するしかなかった。
うちに来るには私の承認が絶対に必要だから……

 吟は反対する大人達をどうにか説得しようとして、大人達は全員簡単に説得されそうで。
結局、一番残って欲しいと思ってる私が吟を追い出さなくちゃいけないなんて。
それもこれも吟が汚いことするからだ。

 それでも互いの行動の理由は互いに痛いほど分かるから。
二人の間で何かが変わるわけでもなく。
だから、このままずっとこうして居られたら……


「積乱雲、夕方、気配、結論明快」
突然吟が変なことを言いながら空を指す。
なんだか湿った空気が辺りを包んでいる。
見上げた空はもくもくとした灰色な雲に覆われている。
気づいたら周りは薄暗くなっていた。
「これは、ひょっとして!」

ポツン、ポツン、ポツン。

吟をつかんで駆け出すとともに。WENICKMANペニス増大カプセル

……ザーッ!

ひどい雨、夕立。
だけどびしょ濡れになりながら走っても、気分はそう悪くない。
「雨、雨、フレ、フレ、母さん蛾」
ほら、吟もさっきから嬉しそうに歌ってる。
民宿目指して一直線、それでも吟のスピードに合わせて駆けて行き、そのまま民宿の入り口に走りこむ。
「おやおや、びしょ濡れだねえ心配してたんだよ、お帰り」
女将さんが入り口で迎えてくれる。
「そのままお風呂入るんだろう?
嬢ちゃん先入んなさい」
浴場は一つしかないらしい。
男は我慢、まあ当然の選択かな。
落ち着くと濡れた服が体にべとついて気持ち悪い。
私も先に入りたい。
だけど、ここで頷く訳にはいかないのよね。
「吟、先入んなさい。
早く温めないと身体冷えちゃうでしょ」
「お姉さんだねえ」
女将さんはあきれた顔でつぶやく。
「僕、風邪、渡航、延期?」
吟もふざけた調子で聞いてくる。だけど、

 風邪?

その言葉を頭が理解した瞬間、
「吟っ!」
本気で怒っていた。
今でこそ何でもなさそうだけど昔から吟の身体は……
夏とは言え風邪なんてひかせたらどうなるか分からない。
吟は一瞬何か言いたそうな顔をしたけれど結局何も言わず、そのまま女将さんに浴場へと連れられていった。






「ここって温泉だったのね、よかったわあ」
雨はもうすでにやんでいる。
「浴槽、家庭的、水、透明、落胆」
「なに贅沢言ってんのよ!
ほらっ、窓開けっ放しにして蚊取り線香点けてて、クーラー無くても全然暑くない」
「夕立、通過、涼風、当然」
「もうっ、ご飯だっておいしそうじゃない。
これであの料金なんて嘘みたいよね」
部屋の中で吟と二人、食事を前にして話しかける。
が、頭の中はそんなもんじゃない。
今の状態はまさに「民宿、二人、夜」なのだ。
あの時の吟は「蛍、浴衣、花火」と続けたけど、今の吟ならどう続けるのだろう。
そして、私ならどう続けるのだろう?
答えは、きっともうすぐ……





・・・数時間後・・・





「さすがは吟、自分のやりたいことに対してはそつがないわね」
「咲季、花火、綺麗」
「う〜ん、それじゃよくわからないなあ。
きれいなのは私?それとも花火?」
食事が終わって二人でぼんやりテレビを見ている時に吟が出してきたのは花火セットだった。

『蛍、花火、ゆかた』

吟は本気で全部やるつもりだったようで。
ど田舎で近くにせせらぎのある場所、というセッティングも蛍のためだったみたいだし。
けど、ここに蛍はもう居なかった。
気付いたら居なくなってたねえ、とは女将さんの言。
 ちなみに、ゆかたはさすがに持って来てなかったようで今の私はTシャツに短パン。
でも、この執着ぶりからして。
きっと家に帰った後で着せられる……

 民宿の駐車場、アスファルトの上。
少し位はしゃいでもそれは別れの前のはかない抵抗でしかない。
一つ終わるとまた新しいのに火を点ける、その繰り返し。
もう、半分以上が終わっていた。
辺りには花火の音だけが響く。

「吟は昔からこれ、上手よね」
最後に残った線香花火の束を二人で消化していく。
途端に周りは静かになるがこれと言った話題を思いつくわけでもない。
こうして吟と会えるのは残り一月もないって言うのに!
「線香花火、不動、不落、咲季、動作、不器用」
でも、吟はいつもどおり淡々と……
そう思って吟を見て凍りつく。
吟の目から、涙がにじんでいた。
「吟……」
「煙、目、涙腺、勝手」
吟が涙?

そんな訳、ない。

だけどそれを見た瞬間、私の中でも何かが切れてしまって。
私も、涙が……
止まらない。
吟が驚いたように私を見つめる。

 別れが決まってから、私は吟とのあやふやな関係を変えようとしてきた。
彼氏にしようとしてきた。
身体を重ねればあるいは、とも……
彼女という立場がこれまでと違う状況になっても私の地位を保証してくれると思ってた。
身体に刻まれた証が遠距離にある二人をつないでいてくれると思ってた。
けど、彼女でもない今でも吟の思いは確かに私のもので。
例え恋人になれても遠距離になれば今日みたいな時間はもう取れなくて。
それどころか、日常の生活でも私の隣から吟は居なくなってしまう。
会えないのなら証なんてなぐさめにもなりやしない。
もう、会えない。
それが今日楽しかっただけに余計思い知らされて……

あぁ、そうか。
吟は初めから分かってたのか。
だからあんなにまでして。
ダメだ、私は全然。

 静かな涙はいつしか嗚咽へと変わり、
私はもう花火どころじゃなくなっていて……
気付いたらいつ戻ったのか部屋の隅で泣いていて、
「ダイジョブ、ダイジョブ」
吟は眠るまでずっと抱きしめていてくれたXing霸・性霸2000

2011-05-06 18:05:02 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0) |

[ブログ]

い出

琴乃ちゃんの誘いを受けて訪れたのは教会だった。
 
いつもより人の数が多くてびっくりする。
 
「人がいっぱいいるけど、何かあるの?」福源春
 
「あのね。結婚式があるんだって」
 
「結婚式?へぇ、そうなんだ」
 
よく見れば中には花嫁姿の女の人がいた。
 
「キレイ〜っ。花嫁さん、可愛い」
 
「本当に綺麗だ。花もたくさん舞ってるね」
 
紙吹雪のように花が宙を舞う。
 
そして、花嫁と新郎が互いに見合ってキスを交わす。
 
「キスってあんなのなんだ?はじめて見た」
 
話では聞いたことがある。
 
キスっていうのは好きな人同士が唇を触れ合わせる行為だ、と。
 
「私も……見たのは初めて」
 
ほんのりと顔を赤める琴乃ちゃん。
 
「ああいうのって楽しそうだね」
 
「楽しい……?」
  
彼女は何か考えるような顔をしている。
 
そして、普段の彼女からは想像もできな一言を告げる。
 
「翔お兄ちゃん。あのね……私とキスしてみない?」
 
「え?き、キス?」
 
「ママが言っていたの。キスは特別な人とするものだって」
 
琴乃ちゃんの瞳が俺だけを見つめている。
 
「……ちゅっ」
 
俺は見よう見まねで彼女に唇を押しつけた。
 
小さな水音をたてる唇同士の接触。
 
「これがキス……?」
 
初めてのキスは何だかこそばゆい感じがした。
 
「お兄ちゃんとしたかった。すごく嬉しいよ?」
 
琴乃ちゃんが顔を真っ赤にさせている。
 
それが可愛いと素直に思った。
 
照れくさくなって俺は笑顔で誤魔化す。
 
「あのね、翔お兄ちゃん。いつもお姉ちゃんと仲いいよね?」
 
「そうだな。鈴音とはもう1ヶ月近く一緒にいるからな……」
 
「私もお兄ちゃんと仲良くしたい」蒼蝿水
 
いつも控えめな彼女が自己主張するのは珍しい。
 
「俺も琴乃ちゃんと仲良くしたいよ」
 
「ホント!?それじゃ、こっちに来てよ。もうひとつ、来て欲しい所があるの」
 
俺に繋がれたのは小さな手だった。
 
俺よりもずっと小さくて、でも、温かくて。
 
それが琴乃ちゃんの温もり何だと思いながら彼女の後をついて行く。
 
いつも遊んでいる森林公園の近く、そこには古い神社があった。
 
その境内の中にある一本の大木。
 
「ここは?」
 
「ここはね、“えんむすび”の木なんだってママが言ってたの」
 
「えんむすび?って何?」
 
「私もよく分からないけど、大切な人と一緒に来ると幸せになれるんだって」
 
琴乃ちゃんは俺に笑いかけながら、
 
「この紙をここに結ぶのっ」
 
「へぇ、そうなんだ」
 
神社には他の人もいない。
 
俺は琴乃ちゃんに言われるがままに一緒に紙きれを木の枝に結びつける。
 
「……これでいいの?」
 
「うん。そうだよ、あとは……大人になったらまた一緒にここに来てくれる?」
 
“えんむすび”のために、俺達は再会をする約束をする。
 
「大人になったらまた来よう」
 
「えへへっ。約束だよ、翔お兄ちゃんっ!」
 
それが琴乃ちゃんとの唯一の約束。
 
俺が彼女とした大事な約束なんだ。
 
 
 
……。
 
あの約束から数週間後、俺は母さんが戻って来たので再び家に戻ることになった。
 
たった1ヶ月程度、幼い頃に預けられてただけの関係。
 
それ以来、会う事もなく、俺達は10年以上も離れ離れになっていた。
 
鈴音との記憶ばかりが思い出されていて、俺は琴乃ちゃんの記憶を忘れていた。
 
これが俺と琴乃ちゃんの過去、大事な俺達だけの思い出――。
 
「思い出した、俺は……琴乃ちゃんと約束をしていたんだ」
 
過去を思い出した俺は小雨の降る中、あの神社へと向かう。
 
再会してからずっと行っていなかった場所。
 
だけど、キスをした教会よりも大事な場所があの場所だ。
 
「確か、この道をのぼった気がする」
 
何度か迷いながらも俺はその場所へとたどり着いた。
 
いつしか降り続いてた雨が大ぶりの雨へと変わっていた。
 
すっかりと濡れた服の気持ち悪さを我慢しながらも俺はゆっくりと階段を上る。
 
その先にある神社は管理者もいないような古い小さな神社だった。
 
実際、誰かが手入れをしているようには見えない。
 
鳥居をくぐった先、朽ち果てた建物だけがある。
 
夜に来るには少し雰囲気があって嫌だな。
 
だけど、この先に琴乃ちゃんがいるはずなんだ。
 
「約束したんだ。大人になったらもう一度ここにこようって」
 
彼女との約束は“えんむすび”、あの頃は意味が分からなかった。
 
だが、今なら理解できる。男宝(ナンパオ)
 
“縁結び”、琴乃ちゃんは俺とのつながりを求めていた。
 
人生の中でたった1ヶ月の間の出来事だったはずなのに。
 
彼女は10年間も俺の事を想い続け、約束を覚えてくれていた。
 
「俺って奴は琴乃ちゃんの存在を覚えていなくて、挙句の果てに鈴音を琴乃ちゃんだと勘違いしていたのか。最悪だな」
 
まったく麻由美の言うとおり、俺は薄情者以外の何物でもなかった。
 
「鈴音は確かに俺の淡い初恋ではあったが、ちゃんと琴乃ちゃんも妹みたいで可愛かった記憶があったはずなのに何で忘れてたんだろ。10年前の事なんて覚えてないのが普通だってのはただの言い訳だよな」
 
人の記憶はそれほど脆いものなのか。
 
長いと思える時間の積み重ねも、過ぎ去れば短かったと感じる時間の流れ。
 
あの頃、俺の中に琴乃ちゃんはただの鈴音の妹でしかなかった。
 
だが、10年の時を経て、俺達の関係は変わったんだ。
 
今の俺達は恋人なのだと強く意識する。
 
彼女は俺が思いだすのを待ち続けていたんだ。
 
嘘をついてまで俺の傍にようとしてくれていた。
 
その嘘は彼女にとってどれだけ辛い思いをさせたのか。
 
「俺は本当のバカだ。けれど、バカだけども、俺の気持ちは……」
 
鳥居を抜けた先、雨に打たれながらも木に背をもたれながら俺を待ち続けていた。
 
「……翔太、先輩?」
 
あの頃と変わらない、同じ瞳をして琴乃ちゃんはそこにいた。
 
「10年ぶりだ。やっと会えたね、琴乃ちゃん」
 
本当の意味で俺と琴乃ちゃんは再会を果たした――。SEX DROPS




http://blog.diet-slimming.info/
http://blog.52buybrand.info/
 

2011-05-05 17:01:42 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0) |

[ブログ]

過去

佳奈は、ふうっと息は吐きしゃべり出した。
「綾瀬と私は高校の部活。バスケ部で出合ったのよ。そして時が経つにつれて気づいたの、彼女はあなた・・・力也君が好きってことが・・・彼女も私が好意を抱いてるって分かってたみたいで一年生の冬休みに言ったの、『私、三学期になったら力也に告白する』私は中学の時から力也君を好きだったから、取られちゃうんじゃないかと焦ったわ。そこで彼女と喧嘩になっちゃったのよ。殴り合いの。すぐに先輩達に止められたんだけど、お互い部に居づらくなっちゃって。・・・今に至るってわけよ」
・・・・・・・・あれ・・・・・・・何まさかここでも俺が悪いって言うわけ?おかしいな・・・・あれ?強力催眠謎幻水
漫画とかでは普通にあるけど、普通、喧嘩まではしないもんじゃないの!?分からないけどさ!
「えー・・・・っと、うん。ごめん」
キョトンとした顔で言った。
「え?なんで謝るの?」
「だって、俺が原因っぽいからさ・・・」
「・・・・違うよ。力也君が好きっていう気持ちは綾瀬の本当の気持ち。そして喧嘩になったのは私の焦りから生まれた嫉妬。もし、告白したらどうなるんだろう?っていう。そこには力也君が謝る要素なんて一つもないよ。これは私と綾瀬だけの問題」
それは本当なのだろうか?これは佳奈の優しさなのではないだろうかと思った。だが、彼女の眼は決して揺るがない。これは俺を庇っているわけではない。真実なのだろうと悟った。

佳奈は立ち上がり言った。
「よいしょっと、力也君・・・今日は帰ろう。明日一緒に謝りにいこうよ」
「そうだな。・・・・・・・・佳奈・・・・座ってくれ。次は俺が言う番だ」
雰囲気が重くなったと感じたのは気のせいだろうか。
「・・・・・・聞いてもいいの?」
「・・・・・・佳奈の事を聞いたんだ。俺が言わないわけにはいかない」
「・・・うん、そうだね。」

俺は、深呼吸をしてしゃべり出した。
「俺は小学生の頃からサッカーをやっていて、全国大会でも名前が出てくるような選手だったんだ。中学にあがってからも先輩や顧問からも信頼があった。でも、俺は少しばかり才能があったがために人としては駄目になっていったんだろうな。先輩が引退し、二年生になり後輩が入ってきた。その頃から俺は他の奴のことを見下し、ひどいことたくさん言った。・・・ここまでは噂で聞いたことあるか?」
ここまで黙っていた佳奈は静かに言った。
「うん、聞いた噂と一緒だよ、でも私は力也君のことを好きでいられた。なんでだろ・・・たぶん根が優しいのを直感で気が付いてたのかもね」
嬉しいことを言ってくれる。でもここで終わりではない。続きがある。
「そして、三年生にあがった時に怒りが爆発した奴がいた・・・俺の一個下の弟だ。あいつは人一倍正義感が強くいつも止めに入ってた、それでも中々止めない俺に対して怒りが爆発したんだろう。そして練習中に殴りあった。ハタから見ればただの兄弟喧嘩だろう。だが違った。弟は俺は本気で止めにきていた。俺は結果として足の骨が折れ全治二ヶ月。最後の大会には間に合うが俺は出る気はなかった。足を怪我してベンチから試合する皆を見てたら・・・楽しそうにサッカーしてるんだ。皆試合だってのに自然に顔が笑ってるんだ。俺がピッチにいたときにはそんな顔はしていなかったと思う。それで俺はもうサッカーをしないと決めたんだ」



俺は過去を言い終え、思い出しあの時の孤独感を思い出した。
その時、佳奈は言った。
「あ・・・やっと分かった。私が力也君のことを好きでいられた理由。直感なんかじゃなかった」
不思議なことを言った。今の話しで分かることなんて・・・
「何言って−」

「力也君が気が付かなかっただけだよ、練習中は分からない・・・でも少なくても試合中は皆楽しそうだったよ。力也君自身も皆笑ってた。私はその時思ったんだよ。『明るくて楽しそうなチームメイトだな。』って」
・・・・・・・・・・・そんなわけが・・・・・・・でも佳奈の眼は・・・・嘘をついていない。
「でも、見下してきた連中がいたってのは本当だ。どちらにしても俺が悪いんだよ」
「それは私も否定はしないよ。でもね、ベンチも明るくて、力也君がゴールを決めると皆本当に喜んでた。まるで自分が点を決めたように」

涙が溢れたきた。・・・・・・はぁ・・・本当俺泣き虫になっちゃったなあ〜・・・・くそ。あの頃に戻れたら俺は何をするだろう?またあいつらとサッカーがしたいな。次は心の底から楽しめるサッカーがしたい。どこから道を間違えたんだろうな。ちくしょう・・・・・戻りてぇよ・・・・あの頃に・・・・。なぁ、頼むよ神様一回だけで良いんだ。あの頃に戻してくれ・・・無理ならもう一回・・・・もう一回あいつらとサッカーをやらせてくれよ。午夜妖姫
「もう一回だけで良い・・・サッカーやらせてくれよ・・・・」
自然に声に出てしまっていた。
「・・・大丈夫だよ。力也君本当に反省してるもん。次にチームメイトに会ったときにその気持ちを伝えればもう一回絶対にサッカーができるよ。絶対に」
なんで佳奈はそんなことが断言できるのだろうか・・・。
「ははっ、そうだな・・・・・・って佳奈には言われたくないなぁ〜・・・綾瀬さんとまだ喧嘩してるじゃないか」
「っう・・・力也君のいじわる・・・私は明日ちゃんと謝るよ。力也君も付いてくるんでしょ?」
「あぁ、俺も綾瀬に謝らないとな」
佳奈に過去の事を言って本当に良かった。問題は解決してないが、前に進んだ気がした。
「私緊張してきた。どうしよ、ちゃんと謝れるかな・・・」
「何今から緊張してんだよっ」
「へりゃっ!?」
俺は乱暴に佳奈を抱きしめた。はぁ〜・・・落ち着く。
「佳奈ありがと。俺少しだけ気持ちが軽くなったよ。今度会ったらなんとしてでも許させてもらうよ」
「・・・なんか日本語おかしいよ。それに私そんな褒められること言った覚えは・・・えへへ」
最後に照れ笑いをしながら言った。
「抱きしめてもらうのってこんなにも気持ち良いんだね。力也君の体温が伝わってきて心が落ち着くよ」
あぁ、と言い少しの間抱き合っていた。




佳奈を駅まで送って行き。帰宅した。

今日はもう寝るか。と思った時ケータイが鳴った。
大輔からだ。
『吉見大輔』
「明日の朝から俺一人で登校かー・・・寂しいな・・・なんてな!綾瀬の事は心配すんなよ。もうお前は悪くねーから」
バカ−ちが・・・大輔を友達にもって本当に良かったと今になって思った。
「でも、綾瀬さんには一回ちゃんと謝りたい」
と返信した。
『吉見大輔』
「分かった」
とだけの短い返事が返ったきた。

俺はケータイを閉じベッドにもぐりこんだ蔵秘雄精

白泉力也は、古城佳奈の言葉のおかげで少しだけ救われた。今後どんな事が起きようと佳奈といれば乗り切れると信じて目を閉じた。

2011-05-03 18:13:03 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0) |

[ブログ]

緋色の悪魔

小さな太陽の下、ひたひたと二人は洞窟内を進んでゆく。
 所々で土壁や天井から人らしき胴体が半分、または頭とか手とか足だけとかの石の人形がはみ出している。見覚えのある顔と制服。先発した学徒たちだった。初めは引き抜こうと試みたマリンだったが、サディスに止められた。男宝
「放っておけ、時間を無駄にするだけだ」
「う……仕方ないよね……この人たちみんな留年だろうけど、試験が終われば、ビオラ女史が解放してくれるだろうし」
「どうかな?」
「…どーゆう意味?」
「難易度を高くすると言っても誰もクリアできないような試験じゃ、意味がない」
「な……!?」
 サディスの挙げて見せた右手首が、無機質な灰色の石に変わっていた。
「おまえは何ともないのか?」
「わ、わたし?」
 恐る恐る両手を目の前に持ってくる。そして顔を触り、胸から足の先までを見た。
 何ともなってない。サディスは軽く目をみはった。
「何か薬でも飲んでいるのか?」
「え? ええ、時々は……自分で作った試作の薬を、いろいろ。でも、最近じゃ何を飲んでもいまいち効果が出なくて」
「幸運だったな。<薬の効きにくい>体質になってて」
 幸運? さっきも聞いたような……。
「手早く片づける。おまえはここから一歩も出るな。話かけられても答えるんじゃない」
「きゃ!」
 とんっと左手で強めにお腹を押された。立っていられず思わず後へ尻餅をつく。足元に円を描くように光が噴き出し、檻となって自分を囲んだ。

  ────結界だ。強い。

 自分の術では解けないと瞬時に悟った。


 サディスの頬にかかる銀髪がふわり風になびく。
 風? こんな奥まった洞窟の中で?
 マリンは風の吹いてくる方向を見た。むろん気にはなっていた。さっきの魔獣らしきサンショーオはマリンを本気で食べようとした。土壁にめり込んで石化した学徒たち。あれはほんとうに生きているのだろうか……? 死が近すぎる。サディスが疑問を抱いたように、これはほんとうに卒業試験なのだろうか……? そんなわけない。何かが違う。そう思えてならない。これだけ自分は漠然とした不安を抱えているのに、サディスはもう何らかの答えを見つけている─────?


「いるんだろう、用があるのは俺ひとりのはずじゃなかったのか」
 しんとする洞窟内に、サディスの澄んだ声がリンと鈴を打ち鳴らすように響く。
 サディスに用? それっていったい誰に向かって言って……
 思うよりも早くそれはやって来た。赤い、紅い……燃えるような緋色の……洞窟いっぱいに溢れる水! そんな馬鹿な、水脈なんてここにあるはずが……と思いかけて、その異様な色彩を放つ水が魔力の奔流と気づく。
 でもあれは水に違いないとマリンは思う。色は違えど自分と同じ属性だからだ。でもなんて禍々しいのだろう。水は水でもこれは毒水だ。こんな同属性に会ったのは初めてだった。胸がひどく息苦しく感じる。自分の<気>までが汚染されてる感じだ。結界がなければどうなっていただろう。────この毒水に蝕まれて発狂したかも知れない。
 あの子は? 結界の中にいないあの子は無事なんだろうか?
 サディスに目をやると平然としてる。さすが神童の異名は伊達ではない。

「レッドベリル」

 サディスがその名を口に乗せた。
 何故ここで彼の名が?
 緋色の奔流の中から緋色の頭髪が、瞳が現れた。彼は腕を軽く組み対峙する小さな少年を見下ろす。
「おまえが一番怪しいと思っていた」
 サディスがそう言うと、緋色の少年はおかしそうに首を少し傾けた。
「おやァ、どうして?」
「シャインフロウに入って以来、幾度となく命が危険に晒されることがあった。その度に必ず忌ま忌ましい緋色の痕跡が残っていたからな」
「えっ、マジで? 嫌だな〜完璧に消したと思っていたのに」
「クモの糸くずほどにな」
「フ、細かいよね、君って。拾ってくれたノアに忠義立ててクソ真面目でさ。人生つまんなそー。そんなだから敬遠されて友達の一人も出来ないんだよ」
「余計なお世話だ。最後にひとつだけ聞いておいてやる。この学園にいる真の目的は何なんだ?」
 レッドベリルはぽんと手を打ち鳴らした。勃動力三体牛鞭
「いい質問だよ。まさにそれ! ずっと君に聞いて欲しかったんだ」
 緋色の川を先ほどサディスが倒した魔獣が、どんぶら流れ通りすぎてゆく。マリンの目の前を通過したそれは半分骨が露になっていた。目を細めるとサディスを包む淡い光が見える。どうやらα霊たちらしいが……尋常でないほどその密度が濃い。わざわざ結界を作らなくても、彼は途方もない数のα霊たちに守護されているのだ。
「ところで魔獣はどこから来るか知ってるよね。そう地の底(地涯)さ。奴らははぐれてよくこの世界に出てくる。だけどここの理で魔力が使えなくなる。ダウンフォール……<魔力無効化現象>ってやつさ。まあ魔力が無くても、奴らには鋭い爪牙や毒の体液があるからね。自分で身を守ることが可能なワケだ。だけど元々の奴らの<飼い主>は違う。だからこっちへ来るのは、仮の器でもない限り相当イヤなんだ。はっきり云えば御免だね。だけどこちらにも事情ってものがある。勢力争いさ」
 この人は何を言ってるんだろう……?
 マリンは結界に守られつつも緋の川の中に沈む形で、レッドベリルを注視していた。
「僕ってあっちの世界じゃかなり有能でさ。妬む輩の多いこと多いコト。気をつけてはいたんだけど足元掬われちゃって、奸計にはまって追放の身さ。今じゃ人間と殆ど変わらないんだよ。忌ま忌ましいこの重い<肉体>が僕の魔力を封じ込めて自由に使えやしない」
「それで、魔力を解放する術を習いに学園へ来たのか?」
「そ。元通りとはいかないけどね。百分の一くらいならなんとか出せるようになったよ」
「それで?」
「嫌だなぁ、もう。ちゃんと話聞いてたならそろそろ察してくれなきゃ。神童君?」
 おちゃらけた物言いだが、目が全く笑ってない。むしろ、弟に毒を吐いたあの漆黒のはぐれ魔獣のように、悪意と敵意に満ちた剣呑な光を宿している。
「魔力を自由に使いたいんだよね。この地上で」
「……どんなふうに?」
 サディスが切り返した。もう右の上腕まで石化している。音もなく左手に光で象られた長剣が出現した。
 レッドベリルはのほほんと答えた。
「ここはいい処だよね。国間の戦争てものが殆どない。敵といえば、その昔、ララ・ギネという人間の女がばらまいたブラックサイン<悪魔の印>を受け継ぐ馬鹿どもを、魔法士や魔獣召喚士がよってたかって一掃するぐらいのものだし…………」
 ふっと無機質な笑みがこぼれた。
「でも、つまんないよね。それだけじゃ」
 緋色の刀身がその手の中に現れる。
「まったくもって刺激的じゃないだろう?」
 いつ切り結んだか分からなかった。
 二つの魔法の長剣が、銀と緋の軌跡をえがいて、激しくぶつかり合う。
 体力的に絶対差のあるサディスの方が、あきらかに分が悪い。彼もそう思ったのだろうすぐに戦法を変えた。相手の懐へ飛び込むと見せかけて、顔面に光の礫を叩きつけ大きく飛びのく。
 子供らしいめくらましだが、かなり強烈な一撃だったようだ。レッドベリルは二歩、三歩とあとずさるようによろめいた。
 げ、目が潰れてる……てゆうか、ないっ!?
 マリンは戦慄した。麗し緋色の瞳は焼き尽くされ、そこにはぽっかりふたつの黒い穴が残っていた。しかし、その両足はしっかり地に踏みとどまり、彼は唇を歪めて笑った。
「ああ、何て事してくれるんだよ。これでも美貌はそこそこ自慢だったのに……でも、ま、いいか」
 彼は紅い舌でペろりと自分の唇を舐めた。あまりに無残な姿で怖いが、マリンは硬直したままその異様な言動に目が離せない。
 彼らの会話の意味はいまだ把握しきれないが、ただ、分かるのはレッドベリルはおかしい……人として。
「そっちの器の方が<上等>だからね」
 彼は暗い眼窩でサディスを見る。
 サディスは長剣の柄を握りなおした。左手の甲がうっすら石化しつつある。右肩はもう完全に固まっていた。あれでは何かしら決着をつける前に、動けなくなるに違いない。
「できるなら君を傷つけたくないんだ。髪の毛一筋ほどにも」
 優しい声音で、だけど右手にはしっかり緋色の長剣を持ったままサディスに一歩、にじり寄った。サディスは一歩下がる。額に汗の粒が浮いている。顔色が真っ青だ。きっとあの石化が堪えているに違いない。
 レッドベリルが近づくほど、同じだけサディスはあとずさる。見れば下半身もうっすら灰色がかって来ている。


 レッドベリルって何者なの? 同じシャインフロウ魔法学園の学徒ではあるけど、絶対的に変! この石化はあの人の仕業じゃないの? いや、どう考えても流れ的にそうでしょ。本気でサディスを殺そうとしてる? 試験に乗じて? そもそもビオラ女史は知ってるの? 知るわけないわよね。誰も知らないんだわ、わたしが何とかしないと!
 慌ててスカートの内側に縫い込んだいくつものポケットを探る。
 何か役に立ちそうな薬は……!


 ふいにサディスが口を開いた。心を見透かしたように。
「自惚れるな。おまえ如きに何ができる」
 ちょっと、グサッと来た。何、その言い草。
「できるよ?」
 レッドベリルが即答した。
 あ、なんだ。そっちの話か。
 鼠を追い詰めたネコのごとく、レッドベリルは意気揚々とその幼く薄い肩を掴もうと手を伸ばした。そのときだった。長剣であったものが瞬時に光の塊となり、ボッと緋の頭に直撃したのは。
 いや−っ、頭飛んだっっ!
 思わずマリンは目をそむけた。なのに彼女の耳に含み笑いの楽しそうな声が響く。
「何だってできるさ。ねえ、マリン・プレシャズ」
 目のない生首が赤い川の流れに乗って、彼女の真ん前にたどり着いた。
「いやあああああっ!!」
 マリンを囲む結界が、ぱちんと切れた。
「え!?」
 ざぶと緋色の波をかぶる。もろにかぶった。何か良からぬものが意識の壁を食い破ってくる。それは幻影という名の─────

 目の前に弟のビスチェが倒れていた。
 何度も思い出しては責め苛まれていた。
 流れの民から魔獣寄せの呪文を聞きかじったの。遊び半分で真似てみたらそれはやってきて……厩舎で飼ってる魔獣はみなおとなしくて従順だったから、すべてそうなのだと思っていた。父が狩りで使うときの馬にもよく似ていたし、黒く艶やかであまりに綺麗だったので警戒心なんか持てなかった。狼1号
 それが………それがそれがそれが……わたしを蹄にかけようとした。
 わたしが悪いのだ。呪文なんか唱えなければ、知らなければ、ビスチェが助けようと飛び込んでくることもなかったのに…………。
 黒い獣は最期にわたしを空から見下ろした。まるでそれが代償だとでも言うかのように。
 弟の目。きれいな董色の……明るいはずの未来……わたしが奪った。

 すべてわたしのせい。わたしが……


<気づかないとでも思っていたのかい? 先に手を打っておいたんだよ。君はひとりだと隙が出来ない。だから足手纏いになるよう彼女をつけた。彼女の駄作の薬を拝借して二人ばかり退場願ってね>
 首のなくなった少年の手はそれでもなめらかに動き、すべて石化しかかっているサディスの頬を撫でた。
 魔力宿る思念の声は大気を震わせて洞窟中に響いていた。
 その憎らしい言葉を紡ぐ愛らしい唇ももう動かない。明るく透明な宝石のような翠緑の瞳も、輝く銀糸の髪も硬い灰色の石に閉ざされてしまった。
<知ってるんだよ。君が以前この女に助けられたこと。ごく些細なことだ。でも君はその見返りのない優しさに心動いた。常から他人を寄せつけない人間嫌いの君が!  だからこそ彼女に接近した僕に警戒し、彼女を守ろうとするあまり自身への注意を怠った……僕の石化の毒を浴びたことにも気づかないなんてね。……フフ、愉快だなぁ。でももう彼女は用済みだ。心弱い人間は僕の瘴気に触れただけで自滅するんだよ>
 石化したサディスの唇に指を這わせながら、歓喜に身を震わせた。
<さあ、そろそろ始めようか。これから僕は新しく生まれ変わる。君の輝かしい魂は僕が喰い尽くしてあげるよ。そのときこそこの体は僕のもの>

 喰い尽くす? 誰を?

 マリンは憎らしいほど青い、あの日の空を眺めていた。黒い魔獣が羽ばたきながら空に駆け登ってゆくのを、ただ呆然と見送っていた。
 どこからか悪意に満ちた声が降って来たけど、今はそれどころではない。心はやるせなさと罪悪感でいっぱいで何も考える余裕がない。自分はとんでもないことをしてしまったのだから。
 王位を、国を継ぐべき弟の目を奪った。父も母も臣下たちも声を荒らげて糾弾した。

 「おまえのせいで」「おまえの軽率さが」「おまえこそが失明すればよかったのに」と。

 逃げたかっただけかも知れない。たまたま魔力が他人より多くあった。人には見えないα霊も見えていた。シャインフロウ魔法学園なら行き場を失った自分を受け入れてくれる。弟の薬を作ってみせるだなんて都合のいい言い訳。
 無理よ、作れっこない。だって、父は世界中をさんざん探して、薬も薬師も錬金術師も集めたのに治らなかったんだもの。
 もういや、もういい。卒業したって国になんか帰れない。ここで死んだってかまわない。


 誰かがスカートを引っ張った。狼一号

「だいじょおぶ。ここでまってます。いつまでだってしんじて、まってます。マリンねえさま」

 目を閉じたまま微笑んで、彼はそう言った。

2011-05-01 18:51:23 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0) |





< | メイン | >