先日の台湾総統選で、現職の国民党・馬英九氏が再選を果たしました。
この結果は、まさに台湾の人々の“民意”そのものだと思います。
1月14日に行なわれた総統選の様子を見て、ぼくは台湾の人々に心から嫉妬しました。
日本人には理解できないかもしれませんが、台湾における選挙の焦点は何よりも「中国」。中国との関係の緊密化を進める現職の国民党・馬英九(ば・えいきゅう)氏と、逆に距離を置こうとする最大野党の民主進歩党・蔡英文(さい・えいぶん)氏との争いでした。
日本で選挙をする際、日本人はアメリカのことを気にしますか? ぼくが見る限り、しないようです。「外交」が最大のテーマになる選挙戦は、世界でも稀です。正確に言えば、韓国にとっての「北朝鮮」と同様、台湾にとって「中国」というテーマは半分内政、半分外交だと解釈できます。単純に「諸外国」と比較はできません。
昨年の夏、ぼくは『愛国奴』という本を台湾で出版し、発売時期に初めて台湾を訪れました。インフラを含め社会が安定し、治安が良く、秩序があり、人々はとても温かい。日本と中国のいいところを合わせた、桃源郷のような空間です。
当時、現地の大学生に総統選について聞いてみたところ、約6割が蔡氏を支持する“反中派”でした。また、友人である台湾の有名評論家は、選挙の1ヵ月前に「戦況は五分五分」と言い、さらに直前になると「蔡氏が勝つだろう」と予想していました。
結果はご存じのとおり国民党の馬氏の勝利。ぼくにとってはまったくもって“想定内”でした。なぜなら、現在の台湾の経済は「大陸」、つまり中国を抜きにして語れないからです。
2008年に馬政権が発足して以降、台湾と中国との経済交流は民間レベルで活発になり、多くの台湾人がその恩恵を受けています。彼らの本音を言葉にすれば、こんなところでしょう。
「言論統制などされてしまう統一はいやだけど、かといって独立して大陸と
の交流がなくなるのも困る」
“現状維持”。台湾の人々は政治よりも経済を見ており、生活がどれだけ豊かになるかという基準でリーダーを選んでいるということです。馬氏の再選は、民意を直接的に反映した結果だと思います。
興味深いのは、中国に200万人以上いるとされる台湾人が、一票を投じるために帰省したという事実です。中国市場のうまみを知っている彼らの多くは、馬氏に投票したとされています。
中国共産党にとっても、国民党と民進党どちらが勝つかは死活問題でした。共産党にしてみれば当然、統一の方向で話を進めていきたいからです。大量の台湾人が帰省した裏には、共産党の影がちらついていました。
果たして、馬氏が勝ったことは、多くの台湾人と中国共産党の“思惑”どおりでした。これが何を意味するのか? それは読者の皆さん自身で考えてみてください。
いずれにしても、政治のトップを直接選挙で選出でき、わざわざ中国から帰ってまで入れる自らの一票が未来につながる台湾人に、ぼくは心から嫉妬しています。
敗れた蔡氏は選挙の後、「私の負けです」と素直に認め、「台湾が良くなるよう馬氏を支持していく」と語りました。このような精神性を素晴らしいと思う一方、日本の政治家からは一向にこうした言葉が聞こえてこないことを心から恥じます。政治家だけでなく、国民ひとりひとりの問題です。なぜ日本の政治は、ビジョンと戦略を共有できぬまま与野党が分裂し、国民の民意を反映したコンセンサスを得られないのか……逆に教えて!!
今週のひと言
自らの一票が確実に未来につながる。そんな台湾に心から嫉妬します!
■加藤嘉一(かとう・よしかず)
1984年4月28日生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学。中国国内では年間300本以上の取材を受け、多くの著書を持つコラムニスト。日本語での完全書き下ろしとしては初の著作となる『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)が絶賛発売中!
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