2012年2月7日03時00分
東京電力福島第一原発2号機の原子炉の底の温度が上昇し高止まりしている。6日には一時73.3度に達した。原因は不明だ。80度を超えると炉の安定冷却とされる「冷温停止状態」の条件を満たさなくなる。東電は炉への注水量を増やしながら監視を続けている。
■注水量変更後に20度上昇
2号機は現在、給水系と炉心スプレー系という二つのルートから原子炉に注水して冷やしている。屋外の配管を丈夫な材質に交換する工事を進めるため、1月下旬から一時的に給水系の注水量を増やし、炉心スプレー系を減らしていた。
工事が終わり、工事前と同じ状態に戻そうと、給水系の注水量を減らし、炉心スプレー系を徐々に増やした。すると原子炉圧力容器の底の温度が上昇。1日午前5時に50.8度だったのが、6日午前7時には73.3度まで上昇した。
2号機は事故で放射線量が高く、原子炉のふたを開けて中を見る作業ができない。このため、中で溶けた燃料がどんな状態になっているのか、はっきりしていない。
温度計は給水系の下にある。流量の変化で燃料の状態が変化するなどして給水系の注水量が減ったことで温度が上がり始めた疑いもある。
上昇した温度計と同じ高さの位置にある別の場所の二つの温度計は44〜45度で上昇がみられない。溶けた燃料が散らばっている可能性があり、東電原子力・立地本部の黒田光課長も「給水系の流量を減らしたときに水の流れが変わって、燃料の一部に水がかからなくなり温度が上がったのかもしれない」と話す。
東電は5日と6日未明にそれぞれ、注水量を毎時1トンずつ増やし、10.6トンにした。その結果、6日午後5時には、69.2度になった。核分裂反応が連鎖する再臨界になるのを防ぐため、夜には核分裂の火だねとなる中性子を吸収するホウ酸を入れた。これに続いて、注水量をさらに3トン増やすという。
原子炉の温度計は金属内の電流の変化で温度を測っている。ただ、事故後、温度変化は分かるものの正確な値かを十分確かめることはできていない。そこで最大20度の誤差を見込んでおいて、80度を超えると、「冷温停止状態」の目安になる100度を上回っている可能性があるということにした。
■「再臨界の兆候ない」
東電は「(放射性物質の量が半分になる)半減期が短い放射性キセノンが検出下限以下だったので、現時点では、溶けた燃料が再臨界を起こしている兆候はない」としている。さらに、発電所周辺の放射線の監視装置では放射線量の上昇はなく、温度の上がり方も再臨界が予想されるほど急激ではないという。
ただし、経済産業省原子力安全・保安院は6日午前、東電に対し、ホウ酸水の炉内への注入を検討するよう口頭で指示した。
また、この日、保安院は第一原発での安全体制を調べる保安検査を始めた。保安検査は電力会社が保安規定を守っているかどうかなどを、国がチェックする制度。四半期に1度ずつと、原子炉の起動および停止時に保安検査官が立ち入り検査をする。東電は事故後に改めて冷温停止状態を維持するための保安規定をつくっており、今回はこの規定に基づく管理が適切にされているかを確かめるのが目的だ。検査は3週間ほどかけて実施される。
原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長は6日の会見で、今回の事態は予想範囲との見方を示した上で、「今後どんな事態が起こり得るのか、どう対処するか、国民が不安にならないよう、あらかじめ整理して示してほしい」と東電と保安院に注文した。(杉本崇、西川迅)
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〈冷温停止状態〉 冷温停止は通常の原発の運転管理で使う言葉で原子炉を停止し水温が100度未満になった状態を指す。政府は今回、(1)圧力容器底部の温度がおおむね100度以下(2)大気への放射能の漏れを大幅に抑える、の2条件を設けて「冷温停止状態」と呼ぶことにした。