ご感想はこちらまで
|

注目の第3試合は、「メイン出場権争奪!我闘姑娘所属選手トーナメントBブロック1回戦」時間無制限1本勝負、さくらえみVS高橋李佳。中学1年生の高橋李佳デビュー戦である。
市井舞がデビューした日、僕は「堀越のりに似てるって言われない?」と声をかけた。由藍郁美を月島で撮った時は、デジカメのモニターを見ながら「顔のパーツが松尾永遠(はるか)そっくりだ」と感じた。この高橋李佳は、新木場の駅前で会った時から、なんとな〜く広田さくらに似ていると思っていた。それがこの子にとっていいイメージかどうかは分からないが…。
「ババァ!」
試合中、12歳の高橋李佳が28歳の師匠さくらえみに放った一言は、長与千種を「日直」と見下してチーム・エキセントリックの「班長」に君臨した、広田さくらを想起させた。さくら(えみのほう。紛らわしいなぁ)に逆エビ固めで乗られれば「重い〜」と叫び、隙あらば「バ・バ・ア! バ・バ・ア!」と観客にコールを要求する李佳は、お客さんを沸かせる術を心得ている。さすがはサムライTV(プロレス&格闘技専門チャンネル)漬けの毎日を送るプロレス少女だ。
言葉によるアピールだけではない。場外に蹴り落としたさくらに対し、エプロンで側転してから見舞ったムーンサルト・アタックには、誰もが腹の底から「うぉ〜っ!」と唸らされた。
リングに戻って「どうした、ババア〜」と挑発する李佳に、今度はさくらがお仕置きだ。花道に出て「お父さん、お母さん、お姉さん」と李佳の家族を指差し、その眼前でマットのない床に李佳をボディスラムだ! あわやリングアウト負けかというギリギリのカウントで、李佳は這いながらロープをくぐった。
我闘姑娘旗揚げ戦のノーカット映像がビデオとDVDで発売されるが、ステージに叩き付けられる瞬間の李佳に注目してほしい。絶妙なタイミングで両腕が床を叩いている。つまり受け身がしっかりしているのだ。
 |

李佳のダイビング・ヒップドロップ。彼女の全体重を、さくらえみが受ける。 |
 |
もう一つ、李佳の技で注目すべきはダイビング・ヒップドロップだ。通常、ヒップドロップを掛ける選手は、次の攻撃への移行を考えて自分の両足裏でマットに着地する。ところが李佳は両足を綺麗なV字に開き、全体重を預けた尻で相手の胸を潰すのだ。頑丈なさくらだからこそ耐えられた技で、線の細いなつみが食らえばアバラを折るかもしれない。
デビュー戦の中学生に負けるわけにはいかない。さくらは今トーナメント用の新技「シュークリーム」で李佳の両腕両足を固め、揺さぶってギブアップを奪った。
さくらがマイクを取った。
「起きろ、高橋。(子供をたしなめるように)りーちゃん。まあデビューおめでとう。あのね、今日はねぇ、デビュー戦だしねぇ、あんたまだ中学校1年生だからぁ、このくらいに相手してあげたけど、今度ねぇ、アタシのことババァとか言ったら、あんたこんなもんじゃ済まないからね」
李佳の返事は、大声で「うっせー! ババア〜ッ!!」だ。さくらが追いかけて李佳の頭を叩く。
すると李佳はさくらに向き直り、はにかみながら「えみさん、これからも、よろしくお願いします」とペコリと頭を下げた。さくらが“ヤラレタ!”という顔をする。師弟の絆が感じられる名シーンで、早くも僕の涙腺は緩んだ。
第4試合の零VS蒲原唯は、零の不戦勝。紅いマントを羽織った零が、郁美と同じくマスクの下の顔をしかめてレフェリーに手を上げられた。と、そこへ花道からリングサイドに姿を現したのが、郁美におんぶされた唯だ。欠場の挨拶をするため病院から戻ってきたのだ。宙に浮いた両足に包帯が巻かれた唯に、マイクが渡された。
「ごめんなさい! 今まで、体調を崩したり、学校が忙しくて試合も出れなくて、今日みなさんに会えるのを楽しみに来ました。練習の最中に、足を怪我してしまって…。みなさんに、元気な姿を見ていただくことができなくなってしまいました。悔しいです」
郁美の肩に、唯の大粒の涙がこぼれ落ちる。嗚咽をこらえて唯は言葉を続けた。
「ホントにどうもすみません! また、怪我を治して、試合ができる時には、応援をお願いします!」
ファンの温かい拍手と声援が寄せられる。それを聞けば聞くほど、唯の涙は止まらなかった…。
――次回、いよいよ完結編!(記:11月24日) |
|