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第1回 「日本で唯一の“女子プロレス・ライター”参上!」
第2回 「きっかけは『週プロ』への投稿だった」
第3回 「涙が止まらなかった府川唯未引退試合」
第4回 「スペシャル・インタビュー with ライオネス飛鳥」
第5回 「若きスター選手・浜田文子退団に関する、僕の見解」
第6回 「スペシャル・インタビュー with 井上貴子(前編)」
第7回 「スペシャル・インタビュー with 井上貴子(後編)」
第8回 「『レディゴン』休刊!? どうなる女子プロレス・ライター」
第9回 「祝!『格闘はまり道』スタート 〜5・2ドーム極私的観戦記〜」
第10回 「『ガイア・ガールズ』のパンフに原稿を書いた」
第11回 「北条志乃×田中正明 〜数少ない「同業者」対談〜(前編)」
第12回 「北条志乃×田中正明 〜数少ない「同業者」対談〜(後編)」
第13回 「GAEA事務所に“軟禁”されちゃった(笑)」
第14回 「堀田祐美子がGAEAを襲った“一部始終”」
第15回 「『アイドル』と『女優の卵』が女子プロレスを救う!?(前編)〜HJPGの巻〜」
第16回 「『アイドル』と『女優の卵』が女子プロレスを救う!?(後編)〜アストレスの巻〜」
第17回 「10・20『興行戦争』を総括する、はずが…」
第18回 「『レディゴン』vol.74、出ました、売りました」
第19回 「『ガレージ』には女子プロの醍醐味が詰まってる!」
第20回 「同業者対談シリーズ第2弾・伊藤雅奈子編(前)」
第21回 「同業者対談シリーズ第2弾・伊藤雅奈子編(後)」
第22回 「7・5『Brat Pack Match』に行ってみた」
第23回 「スペシャル・インタビュー with AKINO 〜女子プロレスには“少年”がいる〜」
第24回 「ダリアンガールズを観た」
第25回 「女子プロレス・ライター、存続危機?」
第26回 「映画『ワイルド・フラワーズ』を楽しむ」
第27回 「女子プロレスの良いレフェリー、悪いレフェリー」
第28回 「デンカメ 〜デンチューのデジカメWORKS〜(前編)」
第29回 「デンカメ 〜デンチューのデジカメWORKS〜(後編)」
第30回 「「我闘姑娘」旗揚げ戦の感動をもう一度〜(前編)」



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(前頁からの続き→)

中学1年生、12歳の高橋李佳がデビュー戦に臨む。
 注目の第3試合は、「メイン出場権争奪!我闘姑娘所属選手トーナメントBブロック1回戦」時間無制限1本勝負、さくらえみVS高橋李佳。中学1年生の高橋李佳デビュー戦である。

 市井舞がデビューした日、僕は「堀越のりに似てるって言われない?」と声をかけた。由藍郁美を月島で撮った時は、デジカメのモニターを見ながら「顔のパーツが松尾永遠(はるか)そっくりだ」と感じた。この高橋李佳は、新木場の駅前で会った時から、なんとな〜く広田さくらに似ていると思っていた。それがこの子にとっていいイメージかどうかは分からないが…。

「ババァ!」

 試合中、12歳の高橋李佳が28歳の師匠さくらえみに放った一言は、長与千種を「日直」と見下してチーム・エキセントリックの「班長」に君臨した、広田さくらを想起させた。さくら(えみのほう。紛らわしいなぁ)に逆エビ固めで乗られれば「重い〜」と叫び、隙あらば「バ・バ・ア! バ・バ・ア!」と観客にコールを要求する李佳は、お客さんを沸かせる術を心得ている。さすがはサムライTV(プロレス&格闘技専門チャンネル)漬けの毎日を送るプロレス少女だ。

 言葉によるアピールだけではない。場外に蹴り落としたさくらに対し、エプロンで側転してから見舞ったムーンサルト・アタックには、誰もが腹の底から「うぉ〜っ!」と唸らされた。

 リングに戻って「どうした、ババア〜」と挑発する李佳に、今度はさくらがお仕置きだ。花道に出て「お父さん、お母さん、お姉さん」と李佳の家族を指差し、その眼前でマットのない床に李佳をボディスラムだ! あわやリングアウト負けかというギリギリのカウントで、李佳は這いながらロープをくぐった。

 我闘姑娘旗揚げ戦のノーカット映像がビデオとDVDで発売されるが、ステージに叩き付けられる瞬間の李佳に注目してほしい。絶妙なタイミングで両腕が床を叩いている。つまり受け身がしっかりしているのだ。


李佳のダイビング・ヒップドロップ。彼女の全体重を、さくらえみが受ける。
 もう一つ、李佳の技で注目すべきはダイビング・ヒップドロップだ。通常、ヒップドロップを掛ける選手は、次の攻撃への移行を考えて自分の両足裏でマットに着地する。ところが李佳は両足を綺麗なV字に開き、全体重を預けた尻で相手の胸を潰すのだ。頑丈なさくらだからこそ耐えられた技で、線の細いなつみが食らえばアバラを折るかもしれない。

 デビュー戦の中学生に負けるわけにはいかない。さくらは今トーナメント用の新技「シュークリーム」で李佳の両腕両足を固め、揺さぶってギブアップを奪った。

 さくらがマイクを取った。

「起きろ、高橋。(子供をたしなめるように)りーちゃん。まあデビューおめでとう。あのね、今日はねぇ、デビュー戦だしねぇ、あんたまだ中学校1年生だからぁ、このくらいに相手してあげたけど、今度ねぇ、アタシのことババァとか言ったら、あんたこんなもんじゃ済まないからね」

 李佳の返事は、大声で「うっせー! ババア〜ッ!!」だ。さくらが追いかけて李佳の頭を叩く。

 すると李佳はさくらに向き直り、はにかみながら「えみさん、これからも、よろしくお願いします」とペコリと頭を下げた。さくらが“ヤラレタ!”という顔をする。師弟の絆が感じられる名シーンで、早くも僕の涙腺は緩んだ。


蒲原唯の負傷欠場で、零も嬉しくない勝利を拾った。
 第4試合の零VS蒲原唯は、零の不戦勝。紅いマントを羽織った零が、郁美と同じくマスクの下の顔をしかめてレフェリーに手を上げられた。と、そこへ花道からリングサイドに姿を現したのが、郁美におんぶされた唯だ。欠場の挨拶をするため病院から戻ってきたのだ。宙に浮いた両足に包帯が巻かれた唯に、マイクが渡された。

「ごめんなさい! 今まで、体調を崩したり、学校が忙しくて試合も出れなくて、今日みなさんに会えるのを楽しみに来ました。練習の最中に、足を怪我してしまって…。みなさんに、元気な姿を見ていただくことができなくなってしまいました。悔しいです」


唯が郁美に背負われて欠場の挨拶。悔し涙にむせぶ。
 郁美の肩に、唯の大粒の涙がこぼれ落ちる。嗚咽をこらえて唯は言葉を続けた。

「ホントにどうもすみません! また、怪我を治して、試合ができる時には、応援をお願いします!」

 ファンの温かい拍手と声援が寄せられる。それを聞けば聞くほど、唯の涙は止まらなかった…。

 ――次回、いよいよ完結編!(記:11月24日)

HP 我闘姑娘(がとうくーにゃん)公式HP
http://www.gtkn.com/




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