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沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題が、大きな転機にさしかかった。日米両政府が、在日米軍の再編計画のうち、普天間部分を見直すことで大筋合意したのだ。[記事全文]
ストーカー被害を食い止める手立てはないものだろうか。長崎県と東京都で痛ましい殺人事件が相次いだ。長崎県西海市では、27歳の男が元交際相手の実家を襲[記事全文]
沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題が、大きな転機にさしかかった。
日米両政府が、在日米軍の再編計画のうち、普天間部分を見直すことで大筋合意したのだ。
06年に決めた計画では、(1)名護市辺野古沖への代替滑走路の建設(2)海兵隊8千人とその家族9千人のグアム移転(3)嘉手納基地より南の六つの米軍施設の返還――を一体のものとして進めるとされた。
海兵隊を減らし、基地を返してもらいたかったら、辺野古移設を受け入れよ――。沖縄の側からすれば、そんな圧力であったに違いない。
ところが両政府は一転、辺野古移設と切り離して、海兵隊の移転を先行させることにした。グアムへ移す規模は4700人に縮小し、残りは豪州やフィリピンなどにローテーションで派遣するという。
詳細は未定だが、大規模な兵員の移転になれば、目に見える沖縄の負担軽減策になるだろう。これを機に両政府は、ほかの返還候補の施設についても、前倒しを検討すべきだ。
同時に、普天間が現状のまま放置されることは、断じて許されない。市街地の真ん中にある飛行場の危険性除去こそが、日米合意の原点であることを忘れてはいけない。
この考えに立ったうえで、私たちは日米両政府が辺野古移設を計画通りすすめることに異議を唱える。
それは、県内移設に反対する沖縄の民意は堅く、このままでは普天間の返還が実現しないのは明らかだと考えるからだ。知事が辺野古沖の埋め立てを許可する見通しもない。
ならばこそ、今回の見直しを辺野古案を白紙に戻す追い風ととらえ、新たな打開案を探る第一歩とすべきだ。
海兵隊の先行移転は、米国政府の事情によるものだ。
国防費の大幅な削減を迫られる一方で、今後のアジア太平洋戦略の拠点として、グアムの布陣は整えたい。海洋進出を強める中国をにらみ、南シナ海にも海兵隊の足場を築きたい。
こうした国内事情や戦略環境の変化に、米国はドライに柔軟に対応したのだ。
翻って日本政府は、どうか。「日米合意を踏襲する」と繰り返すばかりで、いつも受け身でしかなかった。
野田首相はきのうの国会で、普天間を固定化させない決意を語った。そのためには、米国の国内事情を勘案しながら、沖縄も納得させる、日本独自のしたたかな構想が要る。
ストーカー被害を食い止める手立てはないものだろうか。
長崎県と東京都で痛ましい殺人事件が相次いだ。
長崎県西海市では、27歳の男が元交際相手の実家を襲い、母親と祖母を刺殺したとして、昨年末に逮捕された。
女性は千葉県に住んでいた。実家は長崎県にある。男の実家は三重県にある。脅迫は女性の知人らにも及んだ。家族は3県の警察署に何度も相談したが、しばしば「脅迫を受けた人の地元警察署へ」などとたらい回しにあったと訴えている。
年明けには、東京都江東区で女性を殺害し放火したとして、女性の息子と一時同居していた名古屋市の男(46)らが逮捕された。男は一昨年秋に山形市で夫婦が死亡した火災も、「自分が火をつけた」と供述。夫婦の息子も男の元同居人だった。
まだ捜査の検証ややり直しが進んでいる段階だが、二つの事件から課題も見えてきた。
本人だけでなく、家族や知人にも危険が及ぶ。捜査や被害防止も広域にまたがる。そういうケースにどう対処するかだ。
被害相談の一元的な窓口を作れないか。ただでさえ身の危険を感じている人が、複数の警察署を回るのは難しい。
ストーカー被害の認知件数は全国で年間1万6千件に及ぶ。一つの窓口で一手に引き受けるのは難しいかもしれない。だが、たらい回しにあい、らちがあかないと感じたら訴え出られる場所が欲しい。各都道府県警を束ねる連絡組織でもいい。
なにより、被害者の身の安全を守らなければならない。
ストーカー規制法では、つきまといなどの行為を繰り返さないよう、警察が加害者に警告や禁止命令を出すことはできるが、被害者の安全を守るには十分とは言いがたい。
一方、DV(ドメスティック・バイオレンス)防止法は、シェルターへの一時保護や半年間の接近禁止命令など、被害者保護がより手厚い。ただ、対象は事実婚を含む配偶者や元配偶者で、交際相手は含まれない。
ストーカー被害にもこうした仕組みを導入できないか。制度の見直しを進めるべきだ。
2年前にも宮城県で、少年らが元交際相手の姉らを殺傷する事件があった。その際、警察庁はストーカーやDV相談について全国の警察に通達を出し、一時避難場所の確保や、加害者を積極的に検挙して被害者と引き離すことを求めた。にもかかわらず、教訓を生かせなかった。
今ある手立てを十分活用することも改めて徹底してほしい。