20キロはある鉛板を背負いビル6階分の階段を一気に駆け上がる。首からぶら下がる線量計がけたたましく鳴り、白く曇る全面マスクが視界を遮る。気温30度以上。呼吸が乱れる。
「奴隷みたいな扱いが悔しかった」。長崎県の中山洋介さん(40代)=仮名=は昨年7月から約40日間、東京電力福島第1原発で働いた。鉛板は1号機の建屋内に放射線を(遮蔽、しゃ、へい)するために取り付ける。中山さんがその言葉を絞り出したのは、過酷な労働のせいではない。故郷に帰ってからのむごい仕打ちに対してだ。
中山さんによると、仕事を紹介されたF社から受け取った給料は日当1万1000円。約束では1万4000円のはず。そもそも事前の説明では、建屋には入らないと聞いていた。
食い下がる中山さんにF社は福岡県内の指定暴力団の名を挙げ、吐き捨てるように言った。「ヤクザが出てきても知らんばい」。F社が2社を通し労働者を送る2次下請けのC社は過去2回暴力団との親交を理由に指名除外の行政処分を受けていた。
F社は取材に労働者派遣事業の許可がない違法派遣であることを認めた上で、「一つ上のE社から支払われたのは1万3000円くらいで、経費を引かんと赤字になるけんですね」と語った。
九州電力玄海原発の周辺業者に話を聞くと、福島に派遣される労働者は意外にも多い。
昨年12月、九州一円から労働者を集め九州や四国の原発工事を請け負う佐賀県内の設備工事会社を訪ねた。ホワイトボードの「福島第1」の字の横には約20人の労働者の名前が並ぶ。役員の男性によると、これまで福島に人を送ることはなかったが、取引先から要請があるといい、「九州の人間はまじめだから人気がある。言われたらまた出すよ」と誇らしげに語った。
福島第1原発で中山さんと同じ作業に当たった佐賀県の30代男性は、F社のさらに下流のG社から派遣された。ハローワークに求人票があったG社に連絡し、福島の仕事を紹介された。約10ミリシーベルトの被ばくと引き換えに約40日間の派遣で手にした金額は約30万円。
「これでも、地元には仕事がないですから、しようがないですね」
男性は2度目の福島行きに向け、待機している。
2012年2月5日