東京電力福島第1原発事故に伴う空間放射線量を巡り、県内では昨年4月、二つの象徴的な出来事があった。
一つは、群馬大教育学部の早川由紀夫教授(火山学)による「放射能汚染地図」の作成だ。火山灰の飛散に関する専門知識を生かし、4月21日に地図の「初版」が「早川由紀夫の火山ブログ」で公表された。放射性物質が福島県から栃木県北部を経て、県内では「逆コの字形」に拡散している様子が映し出され、県民に衝撃を与えた。国が大気中の放射性物質の拡散を予測する約5000枚のシミュレーション(試算)結果を公表したのは5月3日と遅れた。
もう一つは空間放射線量を測定していた県の対応だ。大型連休を前に県は4月28日、「担当職員が休日出勤しないで済むように」と日曜祝日の発表中止を決めた。この時点では、原発が冷温停止状態になるなど事故収束にほど遠かったが、県は「放射線による被害の心配はない」。県民から苦情が多数寄せられ、5月2日から再開に追い込まれた。
似たような行政の対応は、その後も続く。
県教委は5月下旬から県内5カ所の小学校校庭で空間放射線量の定点調査を開始した。結果公表は毎週水曜日。「県民の不安を払拭(ふっしょく)する」のが目的だった。しかし、6月中旬に何の予告もなく測定を「休止」。保護者から抗議の声が相次ぐと測定を再開した。
桐生市では「情報隠し」が発覚した。市教委が10月の学校給食食材の検査で県産白菜から1キロ当たり18ベクレル(暫定規制値=同500ベクレル)の放射性セシウムを検出しても非公表とした。茂木暁至教育部長は「配慮に欠けていた」と釈明する。
このような対応について、県内で独自に放射線量を測定している前橋市の自営業、横須賀直樹さん(38)は「行政は『安全だ』を繰り返すばかりだが、事故以来、安全を実感できたことはない。学校給食の全食材の放射性物質濃度や、自宅近くの側溝の放射線量など、一番知りたい情報が欠けている」と話す。
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早川教授については後日談がある。群馬大は12月、早川教授が短文投稿サイト「ツイッター」で「セシウムまみれの水田で稲を育てて毒米つくる行為も、サリンつくったオウム信者がしたことと同じ」など不適切な書き込みを繰り返したとして訓告処分にした。記者会見した早川教授は語った。「過激な発言で注目を集めることは必須だった。放射能の危険性を伝えることは、それを上回るメリットがある」。情報発信のあり方が今後も問われる。【鳥井真平、喜屋武真之介】=つづく
毎日新聞 2012年1月10日 地方版