大阪・西成区、その北西部の一角に日本最大の日雇い労働者の街、「あいりん地区」はあります。
<生田武志さん>
「基本的に労働者は朝の4時、5時に起きて、ここの『あいりん総合センター』に仕事を探しに来るんですよ」
生田武志さん。
この街で26年間、日雇い労働者の支援を続けています。
長引く不況と急速な高齢化で今や、生活保護受給者が実に4人に1人となった西成区。
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その現状は年々、深刻さを増しているといいます。
<生田武志さん>
「ここ結核がものすごい多いところなんで、5年前の報道では南アフリカよりもカンボジアよりも2倍近く釜ヶ崎の結核患率が高くて、世界一って報道されたんですね」
多くの課題を抱えるこの街を改革しようと、この人も動き始めました。
<大阪市 橋下徹市長・今月13日>
「(市長)直轄でね、ある種の『えこひいき政策』をやろうかなと」
大阪市の橋下市長が『えこひいき』してでも、現状を変えたいと打ち出した「西成特区構想」。
その中味とは・・・
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それは、大阪府外から「子育て世帯」を「あいりん地区」周辺に呼び込もうというもので、
・固定資産税などの地方税を一定期間減免、
・私学通学者への補助金(所得制限あり)
・保育・学校施設の充実
・職員の集中配置で治安改善
など優遇政策を検討しています。
<大阪市長 橋下徹市長・今月18日>
「今の日雇い労働の形だけで仕事が増え続けるのはなかなか難しいので、子育て世帯を集めることで、そこから生まれる仕事に皆さんに就いていただきたい。そりゃいっぱい仕事が出てきますよ」
この街が"貧困の街"へと姿を変えていったのには、わけがありました。
そもそも、西成という地名が誕生したのは江戸時代。
上町台地を境にして「西に新しく生まれた集落」だったことが、その名の由来とされています。
中でも、「あいりん地区」が日雇い労働者の街となった転機は明治36年。
天王寺公園一帯で博覧会が開かれ、明治天皇の行幸に合わせて会場の北側にあったスラム街が新世界のすぐ南側、今のあいりん地区に移されたのです。
さらに大阪万博がきっかけで空前の求人ラッシュとなり、高度経済成長時代は全国から労働者が集まり活気に満ちていました。
しかし、街のイメージが一変したのが1990年。
警察と労働者が衝突した、あの「西成暴動」でした。
そしてバブル崩壊後、求人数は激減、関西経済の発展を支えた労働者はその後、高齢化していったのです。
路上生活者を支えてきた生田さん。
西成を再生させるために、一刻も早く手を打つ必要があると訴えます。
<生田武志さん>
「日雇い労働者の街が野宿者の街になり、いまは生活保護の街に変わっていった」
そんな中、街のイメージを変えていこうと地域住民らが立ち上がりました。
大阪市で、最多の生活保護受給者を抱えるようになった西成区。
その"再生"に向けた動きがありました。
ジャズの響きで、西成のイメージを変えるプロジェクトです。
企画したのは、ジャズドラマーの松田順司さん。
週2,3回、「あいりん地区」の飲食店でライブを開催しています。
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<お客さん>
「ジャズ屋でやってるメンバー、ジャズ屋とかやったらもっとお金かかるし・・・」
<お客さん>
「最初は(来るのに)勇気いったけど、いいんちゃうかな逆に。ダウンタウンのイメージがいいと思う、僕は・・・」
この日はおでん屋。
ライブでは、チャージ料金はいりません。
心に響けばお金を缶に入れてもらう、これが、西成流なのです。
今では「あいりん地区」の外からも、ライブを聴きに来る人が増えたといいます。
<ジャズドラマー 松田順司さん>
「お客さんに裸にされている感じ。うわべの演奏ではダメ、通用しない。命からわき出てくるようなサウンドでないと全然反応してくれない」
松田さんが見据えるのは、ジャズの本場・ニューオーリンズです。
国外からも西成に人を呼び込もうという動きもあります。
観光学が専門の松村教授。
ゼミの学生とともに、外国人旅行者のために観光案内をしています。
宿泊費が安く交通の便も良いこともあり外国人旅行者に人気のあった「あいりん地区」ですが、"外国人にやさしい街"という評判も広がりつつあるようです。
スロバキアから「あいりん地区」にやってきた男性。
<スロバキア人男性宿泊者>
「(訳)この部屋だよ」
来日すれば必ず利用するこのホテル、1泊1,500円が魅力だといいます。
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<スロバキア人男性宿泊者>
「(訳)日本の伝統的なスタイル、畳。まさに日本って感じだよ。狭い? そんなことないよ。たしかに小さい部屋だけど、他に何が必要? 完璧だよ」
貧困の街、「あいりん地区」を訪れた外国人はどのように見ているのでしょうか。
<マレーシア人男性宿泊者>
「僕は男だから安全だし、問題ないよ」
<インドネシア人女性宿泊者>
「静かよ。私は安全だと感じる。例えホームレスが歩いてても、何もしてこないし。私はよそ向いて歩くようにしているわ」
松村教授らが、これまで案内した人数はのべ6,300人。
旅行者が増えることで街のイメージが変わり、少しでも地元でお金を使ってもらえればと考えています。
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<日本人女子学生>
「まだまだこれから先、いろんな事に取り組んでいったら、外国人もっと増えるのでは。街おこしにやりがいのある街」
さらに、格安航空会社の関空就航が増えるこれからは宿の需要も拡大し、「あいりん地区」が変わるチャンスと見ています。
<阪南大学国際観光学部 松村嘉久教授>
「過去に刻み込まれてきた歴史があるので、これからのこと考える地いいイメージを塗り重ねて、塗り重ねていって、気がつけば良い街ができあがっているのが理想」
そして、橋下市長が掲げる子育て世代を呼び込む試みもすでに始まっています。
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公園の開放化プロジェクトです。
<西口宗宏さん>
「遊ぶところもない、ボール遊びするところもない、この近くの子どもたちは離れた公園にわざわざボール持って遊びに行く状況やったんでね。子どもの環境を整えようよと」
「あいりん地区」では多くの公園で路上生活者がいて、子どもの遊べる場所がほとんどありませんでした。
しかし西口さんらは去年の夏、35年間も使えなかった公園を市にかけあって開放にこぎ着けたのです。
こうした地道な取り組みが実を結び始めていますが、歴史の刻まれたこの町を変えていくには、その手法が何よりも大切だといいます。
<西口宗宏さん>
「この街の抱えている問題をどう克服していくのか?それを手荒くしていくのか、話し合いを進めながら穏やかな着地点を求めるかと思うんやけどね」
関西経済を支えた西成の街。
そこに、かつての活気を取り戻すことができるのか。
橋下改革の行方に、地元からも熱い視線が注がれています。
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