兵庫県伊丹市に住む山田さん(仮名)。
去年12月、信託会社を名乗る男から相次いで電話がかかってきた。
「太陽光発電事業を行う会社の『社債』を代わりに購入して欲しい。購入してくれたら数倍の値段で買い取ります」(信託会社からの電話)
<山田さん・仮名>
「このパンフレットなんです。このパンフレットが届いた」
電話がかかる前に、ちょうどその会社のパンフレットが届いていた。
太陽光発電事業を行う、「日本環境開発」。
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「弊社の強みは、世界に誇る技術者が多数在籍している事。太陽光発電開発に携わる人脈の層が厚いことにあります」(パンフレットより)
この会社に電話をかけると、社長が伊丹市出身で地元の人だけに「社債」を販売するという。
しかも、購入できるのは無作為に選ばれた50人だけ。
それに山田さんが選ばれたというのだ。
<山田さん・仮名>
「私も運が向いてきたな、と最初は思いました。宝くじに当たったような感じ」
信託会社の男は、太陽光発電の分野では有名な中国人実業家が取締役に入っているため、将来有望な会社だと話したという。
実際に山田さんが調べてみると…。
<山田さん・仮名>
「この人です」
<マル調>
「この人ですか、この人実在するんですねえ」
<山田さん・仮名>
「中国では大手の社長さんで」
信託会社と日本環境開発の話が一致するため、すっかり信用した山田さん。
信託会社から8倍の値段で買い取ると言われ、3,750万円分の「社債」を購入した。
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その直後、信託会社と「日本環境開発」、いずれとも連絡が取れなくなって初めて詐欺の被害にあったと気づいた。
<山田さん・仮名>
「自分のお金よりも親の遺産を盗られたのがすごくくやしくて」
<マル調>
「その詐欺グループについてはどう思われますか?」
<山田さん・仮名>
「絶対に許せません」
だまし取られた金を取り返すべく、山田さんは弁護士に助けを求めた。
津久井進弁護士。
<津久井進弁護士>
「『劇場型詐欺』という典型的なパターン」
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津久井弁護士によると、「社債」の購入を依頼してきた複数の信託会社、それに山田さんが「社債」を購入した「日本環境開発」は同一グループで、口裏を合わせて詐欺を働いた可能性が高いという。
<津久井進弁護士>
「『日本環境開発』という会社は同じなんですが、設立は平成22年9月8日となっていますが、パンフレットは昭和35年となっています」
<マル調>
「これ、去年の9月に出来た会社?」
<津久井進弁護士>
「そうなんですよ。会社というのは形を演出する為だけに作るだけですから、作ってお金が回収すればすぐにツブして逃げてしまう」
パンフレットには5人の取締役の名前が書かれていたが、登記簿を確認すると実際は社長1人だけ。
あの中国人実業家は、勝手に名前を使われただけだった。
詐欺グループを追うべく、「マル調」は「日本環境開発」の本社を訪ねた。
東京都中央区の人形町。
<マル調>
「レンタルオフィスなんですね」
確かに「日本環境開発」は、このレンタルオフィスと契約していて、ここから郵便物を転送していたという。
ところが今年1月、突然、会社と連絡が取れなくなり、被害に遭ったという人たちが訪ねてくるようになったという。
<レンタルオフィスの人>
「(被害は)2,000万円と言っていた」
<マル調>
「2,000万円盗られたと?」
<レンタルオフィスの人>
「うん。だから『お宅のおじさんお金持ちね』と思わず言った」
次に向かったのは、登記簿に唯一名前があった社長の自宅。
そこは、茨城県鹿島市の雑居ビルだった。
このビルの3階に住んでいるはずなのだが…。
これ階段かな。これ階段かな。
<マル調>
「これ階段かな。3階につながっているのはここだけ。いませんね」
社長は実在しないのか。
ところが近所で聞き込みをしていると、この社長から電話がかかってきた。
<社長・電話>
「会ったげるからおいでよ」
<マル調・電話>
「会ってくれるんですか?」
<社長・電話>
「会ってあげるよ。逃げも隠れもしないから。この事件の深さは、あなたわからないから。俺は命狙われてるからよ。ある所に隠れてるの」
「日本環境開発」の「社債詐欺」を追う「マル調」。
ついに、この会社の社長に接触。
しかし会社の経営はもちろん、「社債」を使った詐欺にも関与していないと話し出した。
<マル調・電話>
「その会社で詐欺働いたんですか?」
<社長・電話>
「あほ。やられたんだよ、被害者」
社長は、「タチバナ」という男に騙されたという。
<社長・電話>
「最初は競馬の予想を、インターネットでやるから名義貸してくれへんかと、騙されたの。絶対、警察問題にならんと言われたのに」
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「競馬予想会社」と「タチバナ」。
もしや!
<ミリオンドリームの担当者・電話>
「どうもお世話になります。私、『ミリオンドリーム』の大宮司 誠と申します」
今年7月に「マル調」が追跡した競馬詐欺会社、「ミリオンドリーム」。
ありもしない八百長レースの情報を教えるといって金をだまし取る詐欺だ。
「マル調」がこの会社の社長を直撃すると・・・。
<マル調>
「この会社をやってることはご存知だと思いますが?」
<社長>
「いや知らない。『ミリオンドリーム』なんて初めてみるよ」
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社長になっていることはもちろん、会社の名前すら知らないという。
しかし、男は思い当たる出来事があると言い出した。
<社長>
「前に税金対策がどうのこうのと言うことで、通帳のコピーを渡したことある」
<マル調>
「それってどなたに渡されたか覚えてます?」
<社長>
「タチバナ」
「タチバナ」!!!
この男性が騙されたのも「タチバナ」だった。
さらに取材を進めていくと、数々の競馬詐欺に関係していることがわかった。
そんな競馬詐欺会社の1つに騙されたという東京都内の男性に話を聞くことができた。
男性は今年2月、およそ700万円の返金を求めて裁判を起した。
この裁判の中で、競馬詐欺会社の社長も「タチバナ」の名前を上げていた。
「立花という男に頼まれ、会社名義の口座を作るということで、私の印鑑と印鑑証明を預けました。私は被害者であります」(答弁書)
「何かあるんだったら『タチバナ』に言ってくれと3つほど連絡先を教えてもらいましたが、連絡を取ることはできませんでした」(競馬詐欺の被害者)
いくつもの詐欺被害で名前が出てくる「タチバナ」。
この男が黒幕なのか。
「マル調」は、裁判資料に書かれていた「タチバナ」の住所地を訪ねた。
東京都江戸川区。
<マル調>
「いないですね」
詐欺グループの手がかりは消えたかに見えた。
ところが、弁護士の調査で新たな手がかりが見つかった。
<津久井弁護士>
「口座が分かりました」
銀行から開示された「日本環境開発」の銀行口座の取引履歴。
被害者から騙し取った金を「ルーツジャパン」という別の会社に振り替えていることがわかったのだ。
<マル調>
「同じ詐欺グループの可能性は?」
<津久井弁護士>
「これは詐欺グループと見ていいと思います。少なくとも重要なお金をその日のうちにこちらに振り込んでるので、お金のつながりという意味では間違いなく関連はあると思います」
「マル調」は津久井弁護士と共に早速、東京に向かった。
<津久井弁護士>
「手がかりぐらいは見つけたい」
「ルーツジャパン」の社長の自宅。
<津久井弁護士>
「あった。これですね。ここの102号室」
出てきたのは20代くらいの若い男性。
<津久井弁護士>
「詐欺会社が関係するので、何か関係がないかと思ってきたんですよ。なにか心当たりはないですか?」
<男性>
「全然心あたり無い」
<津久井弁護士>
「ここは何の場所ですか?」
<男性>
「別に、引っ越してきたばっかり」
<津久井弁護士>
「投資取引の事務所になっていることは?」
<男性>
「ないです」
男性は、詐欺グループについて何も知らないと話した。
手がかりは潰えたが、津久井弁護士はあきらめるつもりはない。
<津久井弁護士>
「今いた人が本名かどうかも含めて調べてみたい。善良な人を悔いものにするのは許せない。こうやってコソコソと隠れ回って次の被害者を生み出している。何とか息の根を止めるために方法を考えて実行したい」
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山田さんは「日本環境開発」に対し損害賠償を求める裁判をおこし、会社側が出廷しなかったため今年8月、完全勝訴判決が確定しました。
しかし、民事裁判で勝訴してもお金は1円も戻ってきていません。
兵庫県警は山田さんの刑事告訴を受けて、詐欺容疑で捜査を進めています。
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