「家電製品の無料回収、幾つでもお引き取りいたします」
近年増えているこうした家電無料回収のチラシ。
本来、リサイクル料が必要だが、業者はどうやって無料で処理しているのだろうか。
「マル調」は無料回収業者の1つを張り込むことにした。
10月21日。
大阪府和泉市内のとある駐車場。
看板には「家電無料回収」の文字が。
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<マル調>
「ここは何かのお店だったのでしょうか、駐車場には大量の家電が積まれています」
古いブラウン管のテレビや炊飯器、エアコン、家電が所狭しと並んでいる。
<マル調>
「軽自動車が1台入ってきました。あ、テレビですね。それとDVDプレーヤーでしょうか」
どうやら業者がこの場所を借りて、いらなくなった家電を回収しているようだ。
この辺りでは有名なのか、この日だけでも10人以上が様々な家電を持ち込んでいた。
通常、家電回収にはリサイクル料として、テレビなら2,000〜3,000円、冷蔵庫なら3,000円以上かかるため、無料であれば人気が出るのも当然だ。
ところが張り込みをしていると―
<マル調>
「また1台入ってきました」
「これは冷蔵庫ですね」
<マル調>
「あ、お金ですね、3,000円でしょうか、お金が今、渡されました」
なんと従業員は利用者から金を受け取った。
無料のハズではなかったのか。
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無料といいながら金を取るこの業者、「マル調」は話を聞くことにした。
<マル調>
「この家電、無料で回収?」
<アルバイト従業員>
「有料のものもあるけどね、テレビとか冷蔵庫とか。他は大体いけるけどね、無料で」
<マル調>
「全部が無料というわけではない?」
<従業員>
「うちでも商品価値のないようなものはお金をもらう」
<マル調>
「27インチのテレビは?」
<従業員>
「それやったら、2,000円ぐらい」
悪びれることなく、金を取っているという業者。
それでも正規のリサイクル料より少し安いため、持ち込む人は多いという。
しかし、実はこうした無料回収を謳いながら金を取る業者は後を絶たない。
国民生活センターによると、無料回収業者に対する相談件数は年々増えていて、この10年で10倍にも達していた。
無料とあるのに金を請求されたという苦情がほとんどだ。
こうした業者に違法性はないのだろうか。
業者の回収場所がある和泉市に聞いた。
<和泉市生活環境課 岸田精一課長補佐>
「市の許可を得ないで、廃棄物を収集・運搬をすることは法律上できない。廃棄物処理法でいう法違反になる」
市によると廃棄物処理法により、許可を得た業者しか家電などの廃棄物を処理することはできない。
違反すると5年以下の懲役、1,000万円以下の罰金となる。
今回の業者は市の許可を得ておらず、廃棄物の処理は違法行為になる。
しかし、行政が簡単には取り締まれない「からくり」があった。
<和泉市生活環境課 岸田精一課長補佐>
「排出する方に負担(処分料金)を強いる場合は廃棄物になるが、有価(買い取り)、無償(譲渡)の場合は有価物の取引になります」
廃棄物処理法では、何を廃棄物とするのかがハッキリ定義されていない。
つまり同じ家電でも消費者がお金を払って業者に回収してもらうとゴミの扱いとなるが、業者が無料で回収すると単なる譲り渡しで廃棄物にあたらない。
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このため、業者は無料回収を装うのだ。
しかし、業者は果たして廃棄家電を適正に処理しているのだろうか?
業者は集めた家電をどこに持っていくのか?
「マル調」は追跡を開始した。
無料回収を謳いながら金を取って家電を回収する業者。
果たしてどこでどのように処理をしているのだろうか?
「マル調」は業者のトラックを追跡することにした。
<マル調>
「トラックは別の家電回収場に入りました」
業者は大規模に事業展開しているのか。
トラックは同じような家電回収場2か所に立ち寄り、次々と家電を積み込んでいった。
そして夜6時半、トラックは業者の事務所とみられる敷地に入っていった。
そこでは暗闇の中、作業員らが荷物の積み卸し作業を行っていたが、この日は再びトラックが外に出ることはなかった。
兵庫県加東市。
ここは家電リサイクル法で認定された、正規のリサイクル工場の1つ。
法律で定められたテレビ、冷蔵庫などの家電4品目は消費者が支払ったリサイクル料を元に、こうした再資源化施設に集められる。
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まず手作業で、パーツに解体され…
さらに、そのパーツは機械を使って細かく素材ごとに分けられる。
ここでは、環境対策にも力を入れている。
冷蔵庫などには有害ガスのフロンが含まれているため、漏れないよう精密な機械でボンベに回収される。
<PETC(パナソニックエコテクノロジーセンター) 安東浩部長>
「このようなリアルタイム管理であったり、常温での保管状態とかかなり高いレベルでのフロン回収の管理を行っている」
では、あの回収業者は適正な処理をしているのか。
「マル調」は日を変えて、事務所の前を張り込むことにした。
駐車場には、冷蔵庫を積んだ1台のトラック。
<マル調>
「あ、向こう行きました。荷台に積まれた家電は、どこへ運ばれるのでしょうか」
トラックが業者の事務所を出て10分。
<マル調>
「あ、奥ですね」
行き着いた先は、和泉市内のスクラップ工場だった。
<マル調>
「すごいなこれ、これ全部鉄くずですかね」
「あ、冷蔵庫動かしていますね。あ、そのまま落とすんですね」
業者が持ち込んだ冷蔵庫などの家電は、積み上げられた鉄くずの山の中にそのまま投げ込まれた。
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外から見た限り、敷地内にきちんと分別できるような機械は見当たらない。
そこに―
<マル調>
「大量の金属を積んだ大型のトラックが出て行きます。ナンバーは北九州になっています。どこへ運ばれるんでしょうか」
どうやらこの場所では家電をスクラップにし、鉄などの金属だけをまとめて運び出すようだ。
そして、業者のドライバーが荷物を降ろし終え帰ろうとするのだが、手には1枚の封筒が―
<マル調>
「あ、お金受け取りましたね」
業者は家電を持ってきた消費者からもお金をとり、持ち込んだ先の工場からもお金を受け取っていた。
「マル調」は後日、このスクラップ工場の資料を入手した。
これによると、例えばエアコンは1キロ91円、テレビ・冷蔵庫は1キロ1円となっている。
どうやら、この場所に家電を持ち込めば、キロ単位で買い取ってくれるようだ。
スクラップ工場は、金を払いながらでも家電の適正な処理ができるのだろうか。
「マル調」は取材を申し込んだが、工場側は応じなかった。
では、もともと消費者から家電を回収していた、あの業者はどう応えるのか。
社長を直撃した。
<マル調>
「無料の家電回収業者の取材をしているのですが、お金をとって回収しているのでは?」
<社長>
「してへんよ」
<マル調>
「お金をとって、回収してないですか?」
<社長>
「してへんよ、なんで?」
<マル調>
「私たちの取材では、従業員の方がお金を受け取っていたのですが」
<社長>
「え、誰それ」
「それ、誰で、いつ、どこよ」
完全に否定をする社長。
だが「マル調」は、従業員が集めた金を封筒に入れて社長に報告する様子をカメラに収めてていた。
それでもシラをきる社長。
<社長>
「もしお金をとっているのであれば、そのお金がどこにいっているのか。取ってないと把握しているのが現状。それはちょっと指導かけないかんな、今のを聞くと」
あくまで部下が勝手にやったことで、自分は知らないと言い張る。
さらに集めた家電の処理ついては―
<マル調>
「冷蔵庫とかエアコンに入っているフロンガスはどうしてるんですか?」
<社長>
「フロンは抜いているよ」
<マル調>
「ここで?」
<社長:)
「いや、持ってくる時に抜いているはず」
<マル調>
「持ってくる時とは?」
<社長>
「そのお客さんが持ってくる時に」
<マル調>
「お客さんが抜いて持ってくるんですか?」
<社長>
「そう」
<マル調>
「本来、リサイクル法では『家電リサイクルに回して』となっているので」
<社長>
「俺らが持って行きました。銭もらいました。そこまでが俺らのやること、持って行った先でどうなっているのかは、申し訳ないけど僕らのあずかり知らないところ」
この業者については、和泉市は無許可営業の疑いで調査に乗り出す方針だ。
暗躍する正規ルート以外の家電回収業者。
リサイクル法から10年、資源の再利用を進めるには消費者の意識も問われている。
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