100人いれば100の物語がある。昨年3月11日の東日本大震災を風化させないために、北茨城市の有志5人が、きたいばらき編集委員会を立ち上げ、「きたいばらき震災記」をこのほど発行した。およそ100人の人々の被害状況や、その時の行動、震災直後の生活、その思いをつづった震災記は、後世に伝える記録としてはもちろん、原発事故の緊急時避難準備区域に一部が指定されていた福島県いわき市と隣接する同市に住む人たちの、放射能汚染への不安と憤りなども含めた生の声が記されている。
「地震と津波による被害状況や復旧の道程を記録に残したい」。震災直後、凄まじい被害の状況を見聞きした内藤洋子さん(60)、大塚淳子さん(59)、畠山その枝さん(57)、荒川真吾さん(42)、及川仁美さん(37)は「何かしないと」「何か出来ないか」と焦燥感を募らせていた。
震災時の光景を思い出すたび恐怖に震えていた人、津波に遭い逃げた人、炊き出しをしていた人、校舎が被災し授業も間々ならなかった子供たち。会えば震災の話になり、自然と涙がこぼれることもあった。
「それなのに、いつの間にか『いつ通電したんだっけ』『水はいつから出たんだっけ』『原発はいつ爆発したのか』って、自分たちが忘れ始めている現実。記録を残すことの必要性を感じた」と内藤さん。
5人は編集委員会を立ち上げ、記録誌の製作を決めた。そこには地震と津波の被害に加え、事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所から県内で最も近くに位置し、放射能汚染に強い不安を抱いているのに社会から忘れられているのではないかという痛切な思いもあった。
発行に向けて取り組み始めたのは昨年7月。当事者しか分からない微妙な感情を表したいと、本人に執筆してもらい、それを編集することに決めた。市長へのインタビューや、救助や復旧に活躍した消防団の分団長の座談会も収録。メーンとなる100人の物語は、被災、支援、復旧などのテーマごとに、地域や年代などを考慮しながら原稿を依頼した。
編集に携わった全員が、果たして被災者に原稿を依頼していいものかどうか悩みつつスタートしたが、まさに九死に一生を得た人や詩を書き添えた小学生など、一人ひとりの思いが込められた原稿が次々に寄せられ、涙を流しながら編集作業を続けたという。
編集委員たちは、この1冊で北茨城の震災の状況が全て分かるというものではないとしながらも、「万が一同じような震災が起きた時に、被害を最小限に食い止めることが出来るような、震災のその時を正確に伝えられる記録誌をとの思いがありました。震災によって市内各地で何が起き、どのように乗り越えていったのか、その時の様子や人々の思いが詰まっています」と話す。
「きたいばらき震災記」は、6日から同市内で行われるイベント「第5回北茨城ひなあかり」会場で1冊500円で販売。売上金は全て北茨城市に寄付される。
郵送での購入も出来る(送料別途80円)。TEL.0293(46)0417 ぎゃらりーさらま・ぽ 地元有志が「きたいばらき震災記」を発行