<追跡>
政府・民主党は6日、公表を見送ってきた新年金制度の試算について一転、公表する方針を決めた。15年10月までに消費税率を10%に引き上げる税と社会保障の一体改革に加えて約7%の引き上げが必要となる試算の「数字の独り歩き」を警戒していたが、野党からの「隠蔽(いんぺい)」批判に耐えられなくなり、渋々、公表に転じた。しかし、公表しても野党側が消費増税の与野党協議に応じる見通しもなく、世論の批判を恐れての迷走だけが目立つ形になった。【田中成之、念佛明奈、高橋恵子】
試算は民主党の掲げる年金一元化と最低保障年金(満額月7万円)の導入を想定したもので、昨年3月、党の「社会保障と税の一体改革調査会」幹部が厚生労働省の協力を得てまとめた。
野田佳彦首相「調査会幹部の一部が発注したもので、党全体で共有したわけではない」
林芳正氏(自民)「試算も出さずに『対案を出せ、建設的に議論しろ』と言われてもできるわけがない」
6日午前の参院予算委員会で、首相は防戦に追われた。
政府・民主党は再試算したうえで、結果を公表すると説明してきたが、6日昼、国会内で開かれた政府・民主三役会議では、前原誠司政調会長が「今後、精緻な試算をするには数カ月かかる」と主張した。輿石東幹事長が「あまりに『隠蔽体質だ』と言われるから、『途中経過の数字だ』と言ってちゃんと説明すればいい」と引き取った。
政府・民主党としての正式な試算には位置づけないまま、党所属の全議員を対象に説明する機会を週内に設け、それをもって公表した形をとる運びだ。
自民、公明両党は野田政権の呼びかける消費増税の与野党協議に応じる条件として、新年金制度を含む社会保障制度の全体像を示すよう求めてきた。野田政権側は試算公表を機に協議の席に着くよう求めたい考えだが、自公側はさらにハードルを上げる。
「(最低保障年金の)旗を降ろせばいくらでも話はできるが、できっこないことのお先棒を担がそうとしているからダメ」
自民党の石原伸晃幹事長は6日のBS朝日の番組で、民主党が最低保障年金など新年金制度の導入を断念しない限り協議に応じない考えを示した。
つまり、全体像が示されても消費増税協議を進めるつもりはないということ。公明党も石井啓一政調会長が記者団に「直ちに与野党協議に応じられるものではない」。政権の迷走と野党の協議拒否により消費税論議は全く進まないまま、通常国会の開会から半月が過ぎようとしている。
毎日新聞 2012年2月7日 東京朝刊