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【放送芸能】

辻井伸行魂のピアノ 『はやぶさ』メロディーに苦労

 バン・クライバーン国際ピアノコンクールでの優勝から三年。ピアニストの辻井伸行が、演奏家、作曲家の両面で注目を集めている。「初めて訪れた」トルコでの演奏や、映画「はやぶさ 遥かなる帰還」(滝本智行監督)で挑んだ作曲スタイルなど、さまざまなチャレンジについて語った。 (山崎美穂)

 トルコ人ピアニスト、ファジル・サイが主催する「アンタルヤ音楽祭」(昨年12月)に招かれた辻井。東洋と西洋が交差する街の空気を吸い、風を感じることで「トルコ行進曲」(モーツァルト)への理解が深まったという。

 「本場で弾いた演奏は、以前のものとは全く違うと思います。昨年トルコでも地震があり、今回は日本とトルコの被災者の方にささげようという気持ちを込めました」。辻井の入魂の演奏はトルコの聴衆の心をつかんだ。

 ファジル・サイとの十年ぶりの再会や日本人学校での子どもたちとの交流など、現地で貴重な経験を積んだ。このトルコ訪問の様子はBSフジで十二日午後九時から、ドキュメンタリー「ピアニスト辻井伸行×トルコ行進曲〜トルコ・アンタルヤに奇跡の音色が響く〜」として放送される。

 「番組として放送されることで、トルコの魅力が一人でも多くの方に伝わればうれしい。僕にとっても、必ずまた訪れたい場所です」

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 十一日からは映画「はやぶさ 遥かなる帰還」が公開される。映画やドラマなどへ楽曲の提供をすることはこれまでにもあったが、映画全編の音楽を担当したのは初めての経験だった。

 主演した渡辺謙の提案で、目が見えない辻井のために音声化された台本を聴いてイメージを膨らませたが、その作業は容易ではなかった。「こんなに作曲で苦労したのは初めてでした」と明かす。

 作曲家の加古隆さんからアドバイスを受けた。「僕は作曲する時は、いつもひらめいた時にピアノに向かって両手で弾くんです。でも、加古さんに『まず右手だけを使ってメロディーを考えて』と言われました。いつも和音に頼っていたので、最初はなかなかメロディーが出てこなくて。僕にとって相当難しい作業でした」

 探査機「はやぶさ」計画に携わった技術者たちの挫折、葛藤、達成を音楽で表現。困難を乗り越えたことで、今までに感じたことのない達成感を味わった。辻井の挑戦は「はやぶさ」のストーリーと重なる。「試写会で自分の音楽が流れてくるのを聴いて泣いてしまいました。参加させていただいて本当によかった」と充実感をにじませる。

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 昨年、辻井が涙を見せたシーンがもう一度あった。十一月、念願だった米国カーネギーホールでのコンサート。ムソルグスキーの「展覧会の絵」などのほか、アンコールで「金髪のジェニー」(フォスター)をモチーフに自作した「ジェニーへのオマージュ」を演奏した。耳の肥えたニューヨーカーの拍手は鳴りやまず、カーテンコールは五回にも及んだ。「涙が止まらなくなりました。あの時浴びた拍手は一生忘れられない。コンサートで涙したのは初めてでした」

 今年は海外で二十、国内で六十の公演がある。「ショパンだったら辻井、ベートーベンだったら辻井を聴きたいって思ってもらえるような、世界に羽ばたくピアニストになりたい」

 多くのファンが待つステージへ、二十三歳は世界を飛び回る。

 

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