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大間原発の工事は東日本大震災以降、進捗(しんちょく)率37・6%のまま中断している。昨年12月27日の記者会見で再開について問われた枝野幸男経済産業相は「国には権限がない。事業者(Jパワー=電源開発)として最終的に判断されると思う」と述べた。
だが実際は大間原発の建設は国の強い関与の下に進んできた。源流は旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が建設した新型転換原型炉(ATR)「ふげん」(福井県敦賀市、廃炉作業中)にある。「ふげん」は使用済み核燃料から回収したプルトニウムなどの再利用が主目的で、79年に本格運転を始めた。高速増殖炉が実用化されるまでのつなぎとして期待されていた。国の原子力委員会は82年、ATR実用化に向けて、Jパワーを事業主体として60万6000キロワットの「実証炉」建設を決定。翌年には青森県大間町を予定地とし、発電した電気は電力9社が買い取る約束だった。
ところが95年7月、電気事業連合会が国とJパワーに、ATR実証炉を断念しフルMOX軽水炉に変更するよう申し入れる。発電コストが軽水炉の3倍との試算が理由だった。「高い電気は買えない。国のいいなりだった9電力が初めて『NO』を突きつけた」。コスト計算にかかわった東京電力元役員は話す。
Jパワーの杉山和男社長(当時)=元通産事務次官=は田中真紀子・科学技術庁長官(同)を訪ねてフルMOX軽水炉への転換を要請した。「真っ先に地元の反応を心配した。中止など考えられなかった」(Jパワー元役員)。電力会社の抵抗で原発を保有できなかったJパワーにとっても、建設は悲願だった。
結局、原子力委も追認。電力業界の希望通り、大間原発が造られることになった。大間原発の総工費は4700億円。商業炉といいながら、うち296億3000万円は研究開発費名目で国の補助金がつぎ込まれている。
建設決定から30年、原発への疑問の声は大間町からほとんど消えていた。だが、福島第1原発事故で住民の空気は微妙に変わった。
反対運動を続けてきた奥本征雄さんは昨年11月、町内で25年ぶりに学習会を開いた。漁師の奥さんから「何か動いて」と電話があったからだ。福島県双葉地区原発反対同盟の石丸小四郎代表に、子供や妊婦を放射能から守る方法を講義してもらった。集まったのは12人だが、皆熱心だった。5人は30~40代の女性。漁師も5人いた。
「一緒には動けないけど、何かあったら教えてけろ」。そんな声も寄せられるようになった。ただ、「みんな親兄弟、身内がどっかで原発と関わっているので、目立って動けない」と奥本さんは言う。小さな町の中にも「脱原発」を阻む構造がある。
原発推進派の町議も「議会の中にも反対の声はある。ただ、全員が推進派という立場上、愚痴をこぼすだけ」と明かす。そしてこう嘆いた。「町職員給与の2~3割は(電源3法)交付金。Jパワーからの借金もある。自立できない町になってしまった。政策を間違えた」
10年末時点のプルトニウム保有量が約45トンに上る日本。核兵器に転用可能なプルトニウムの大量保有は国際的な疑念を招きかねず、大間原発には各原発の使用済み核燃料から出るプルトニウムを消費することが期待されている。だがそれは、核燃料サイクル実現のめどが立たないのに、使用済み核燃料の再処理を続けてきた政策の矛盾の象徴でもある。
そもそも、炉心全てにMOX燃料を使うことは、フランスの研究炉で実験が行われた例があるだけ。MOX燃料は、ウラン燃料より原子炉を停止する際の余裕が低下する傾向がある。このため、原子炉の製造を担当する日立GEニュークリア・エナジーによると、緊急時に原子炉内の圧力を下げる安全弁の容量を総計5%増やし、高性能の制御棒を開発するなど、既存の改良型沸騰水型軽水炉に新たな改良を加えたという。
同社は「試験などをして規格を満たさなければ使えず、それなりに開発費はかかる」と説明する。
実は、炉心の一部にMOX燃料を使うプルサーマルですら、多くの国が撤退した。今も積極的に続けているのはフランスと日本くらいだ。
小林圭二・元京都大原子炉実験所講師は「プルサーマルに資源的なメリットはほとんどない」と話す。
さらに、使用済みMOX燃料は、再処理に使用する硝酸に溶けにくい成分が多い。処理にはコストがかさみ、実用的な処理法は開発されていない。
プルトニウムを埋め立てる直接処分が国内で実現する可能性はほぼゼロで、フルMOXを始めなければ、プルトニウム消費は進まない。一方で始めれば、処理のめどが立たない使用済みMOX燃料が増えていく。注目される「もんじゅ」の存廃議論の裏側で、国策・核燃料サイクルは深刻な袋小路に入り込んでいる。=おわり
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この連載は日下部聡、青島顕、北村和巳、袴田貴行、池田知広、永山悦子、西川拓、江口一、関東晋慈、久野華代、青木純、念佛明奈、野原大輔が担当しました。
毎日新聞 2012年1月28日 東京朝刊