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ドコモ通信障害:アプリ「オープン性」裏目に

 昨年から相次ぐNTTドコモの通信障害は、スマートフォン(多機能携帯電話、スマホ)の普及で急増するデータ通信量に、インフラ整備が追いついていない通信業界の危うさを浮き彫りにした。携帯電話事業者は各社とも、データ通信の使用が多いヘビーユーザー向けの抑制対策や、通信をさばくための設備投資に腐心しているが、スマホ特有の事情から完全に問題を解決するのは難しそうだ。【種市房子】

 スマホの売り物は、携帯大手以外の事業者や個人が作ったアプリ(アプリケーションソフト)を利用して、機能を増やせることだ。しかし、1月25日にドコモで発生した通信障害では、このメリットが裏目に出た。

 通信障害の原因は、スマホの扱う情報量がドコモの想定を超えるほど多くなり、情報を処理する「パケット交換機」の能力をオーバーしたことだった。情報量を押し上げたのは、スマホと交換機との間で常時やりとりされる「制御信号」だ。

 ドコモの多くのスマホで採用している米グーグル社製の基本ソフト(OS)「アンドロイド」は28分に1回、接続状況などを知らせるために制御信号を発している。また、無料で通話やメールをやりとりできるアプリを組み込むと、使っていない時でも、端末がどこにあるかという位置情報や接続状況を知らせる制御信号を3~5分間隔で送受信するため、さらに情報量が増える。つまり、使っている人の知らないうちに一定のデータが流れているため、そこに電話やインターネット閲覧などの使用が一定時間に集中すると、交換機に負荷がかかり、異常が起きやすくなるわけだ。

 だが、この制御信号の量を事業者が把握するのは難しい。アンドロイドは、誰でも自由にアプリを開発できる「オープン性」が売り物のため、日々アプリは増えている。すべてのアプリについて、何分間隔でどのくらいの量の制御信号を出すのかをつかむのは至難の業だ。実際、「データ量をつかめなかった」とドコモの山田隆持社長は1月27日の会見で、アプリの情報をつかみ切れていなかった実態を認めた。

 ソフトバンクやKDDI(au)が販売している米アップル社製の「iPhone(アイフォーン)」ではアップルが対応アプリを審査しており、アプリの制御信号量も把握できる。それでも、端末の機能が向上してアプリの使用が増えれば、対応には限界がある。ソフトバンクの孫正義社長は「OSとアプリの製作者が一緒になって問題解決に取り組まなければ、みんなが困る」と述べ、業界全体で取り組む必要性を指摘する。ドコモは再発防止策として、グーグルやアプリ開発者に、制御信号を減らす改良や、制御信号量などの情報開示を呼びかける方針だ。

 ◇ヘビーユーザー対策急務

 携帯電話のデータ通信は、1%の利用者の通信量が全体の3分の1を占めるとされる。背景には、スマホ普及のため、各社ともデータ通信が5000円前後で使い放題となる定額料金制を導入していることがある。ヘビーユーザー対策は各社にとって重要な課題になっている。

 ドコモは、直近3日間の通信量が300万パケット(1パケット=128バイト)に達すると、通信速度を遅くする規制を09年10月から実施。KDDI(au)にも同様の規制がある。さらにドコモは、今年10月から、高速無線通信サービス「Xi(クロッシィ)」については、通信量が7ギガバイトまで定額で、それ以上は通信量に応じて追加料金を払う制度を導入する。メールだと730万通分に相当するため、「98%の利用者には影響しない」(ドコモ)という。

 ただ、スマホ利用者が増えると通信量は底上げされる。ドコモは通信設備を増強するため、11年度から4年間で1640億円の設備投資を計画。このうち500億円は、一連の通信障害を受けて積み増した分だ。

 これだけ巨額の投資をしてでもスマホに対応しなければならないのは、スマホ販売が市場の主戦場になっているからだ。調査会社、MM総研の推計では、今年3月末の携帯電話契約数は1億1239万件で、スマホは約2割の2598万件。しかし、15年3月末には従来型の携帯電話を上回り、全契約数1億2068万件のうち6137万件を占めると予測されている。

 収入の柱は音声通話からデータ通信に移っており、スマホ需要を取り込むことが各社の最重要課題になっている。通信料金などの値下げ競争で契約者獲得に走りながら、一方で急増する通信量をカバーするために巨額の投資が必要になるという構図になっており、「通信の質」を維持しながらどう契約者を増やしていくか、経営のかじ取りは難しさを増している。

毎日新聞 2012年2月6日 20時50分(最終更新 2月6日 20時57分)

 

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